さよなら、ポスルス。―頑固者の名優Pete Postlethwaite逝く。

私がフラフラしている間にも、なんとも悲しいニュースが飛び込んでまいりました。…追記しています。

ショーン主演のテレビシリーズ「炎の英雄シャープ」はじめ、映画「父の祈りを」や「ブラス!」等数多くの作品で印象深い演技を披露してきた名バイプレイヤー、ピート・ポスルスウェイトが、2日に享年64歳で亡くなっておりました。ガンとの闘いに倒れた模様。

突然のことで、私も驚いています。後ほど追記しますね。心からご冥福をお祈りします。


“結局、演技ってのは、まことしやかに嘘八百を並べ立てるということなんだ。我々役者はプロの詐欺師。騙す相手は観客だ。役者は観客に偽物の真実を語る。でもそこには紛れもない真実が、ほんの一握りだけ含まれているんだよ。それに気づいたなら良し、気づかなければ役者の仕掛ける罠にとまどうだけだろう”


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ピート・ポスルスウェイト Pete Postlethwaite

1946年2月16日生まれ
2011年1月2日没(英国シュロップシャー州ミントン)
英国チェシャー州ウォリントン出身

本名はPeter William Postlethwaite。英国はチェシャー州にて、ごく普通の家庭に生まれ育った。大学での学業を終えるまでにはすっかり演技の虜になっており、もっと安定した職業に就いて欲しいという父親の願いもむなしく、俳優の道を目指すことになる。70年代からテレビドラマの端役をこなしつつ、Bristol Old Vic Drama Schoolを手始めにLiverpool Everyman、Machester Royal Exchange、Royal Shakespeare Companyを渡り歩き、まずは演劇の世界で腕を磨いた。Royal Shakespeare Companyを1988年に退団後は、膨大な数のテレビドラマや映画への出演に本腰を入れる。まだまだ無名だったこの頃、エージェントからは“ポスルスウェイト”なる舌を噛みそうな長い名前を変えるよう、再三せっつかれていた。しかし頑固者の彼は、親から授かった名前に手を加えることを良しとせず、ありのままで俳優として認められることを誓った。努力の甲斐あって、1992年の「ラスト・オブ・モヒカン」や「エイリアン3」といったメジャーな作品でも役を得、一度見たら容易に忘れらない個性的な風貌で徐々に知名度をあげてゆく。

ポスルスにとって転機となったのは、前述の「ラスト・オブ・モヒカン」の主役でもあったダニエル・デイ=ルイスの父親役を演じた「父の祈りを」(1993年)だろう。IRAのテロリストの汚名を着せられて投獄された男を熱演した結果、アカデミー賞助演男優賞ノミネーションを勝ちとる。ハリウッドへの足がかりを得た彼は、癖のあるメンツのそろった「ユージュアル・サスペクツ」(1995年)でも、謎に包まれた麻薬王“カイザー・ソゼ”の手下コバヤシを一際胡散臭く演じている。炭鉱閉鎖の危機に揺れる町で、炭鉱夫たちで結成されたブラス・バンドを全英大会の決勝まで導く指揮者に扮した「ブラス!」、スピルバーグ監督の「アミスタッド」、同監督が製作した「ロスト・ワールド」、ラッセ・ハルストレム監督がE・アニー・プルー原作のベストセラー小説を映画化した人間ドラマ「シッピング・ニュース」(2001年)、フェルナンド・メイレレス監督がジョン・ル・カレの作品世界に挑戦したサスペンス「ナイロビの蜂」(2005年)など、出番が多かろうと少なかろうと強烈な印象を残す作品が続く。近年ではその活動は英国内に留まらず、むしろ国外で製作される作品への出演数が勝るほどであったが、ポスルス自身は、1987年に結婚した妻ジャクリーンとの平穏な暮らしを頑固に守っていた。彼らの間にはウィリアムとリリーという2人の子供がいる。
2011年1月2日、英国シュロップシャー州の病院で癌により逝去した。享年64歳。死の直前まで、執念で映画出演を続けたポスルス。俳優として、頑固一徹な生涯を全うしたといえるだろう。

●フィルモグラフィー

2011年『Killing Bono』
2010年「インセプション」モーリス・フィッシャー
2010年「タイタンの戦い」
2010年「ザ・タウン」ファーガス
2007年「あの日の指輪を待つきみへ」クィンラン
2006年「オーメン」ブレナン神父
2005年「ナイロビの蜂」ロービア
2005年「イーオン・フラックス」 キーパー
2004年「ダーク・ウォーター」
2002年「微笑みに出逢う街角」ジョン
2001年「シッピング・ニュース」タート・X・カード
2000年「ラット・ゲーム」(未)ヒューバート
1999年「アリス・イン・ワンダーランド/不思議の国のアリス」(TVムービー)大工
1999年「アニマルファーム」(TVムービー)声の出演:ベンジャミン
1998年「マイ・スウィート・シェフィールド」レイ
1998年「ブルート」
1997年「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」ローランド・テンボ
1997年「アミスタッド」
1997年「悪魔のくちづけ」トーマス
1996年「ドラゴンハート」ギルバート
1996年「ジャイアント・ピーチ」声の出演:老人
1996年「ロミオ&ジュリエット」
1996年「ブラス!」ダニー
1996年「クライムタイム」
1995年「ユージュアル・サスペクツ」コバヤシ
1995年「ドリームゴール」(未)
1994年「調教師」(未)
1994年「マーティン・チャズルウィッツ」(TV)
1994年「炎の英雄 シャープ3 怒りの突撃」(TVムービー)ヘイクスウェル
1994年「炎の英雄 シャープ4 死闘の果て」(TVムービー)ヘイクスウェル
1993年「父の祈りを」ジュゼッペ・コンロン
1992年「エイリアン3」デヴィッド
1992年「スプリット・セカンド」
1992年「ラスト・オブ・モヒカン」ビームス
1992年「秘密」(未)
1990年「ハムレット」
1988年「遠い声、静かな暮し」
1988年「ワルシャワの悲劇/神父暗殺」(未)
1984年「最強最後の晩餐」(未)

遅咲きの名バイプレイヤーだったポスルス。この人の役者としての信条は、彼自身が語っている通りのシンプルなものだったと思います。役柄の大小に関わりなく、いかにして演じる対象にリアリティを持ち込むか、演じる自分を観る観客をいかにして上手く騙すか、それに尽きるわけですね。そして、実際彼は、どの作品においても観客をものの見事に“騙して”くれました。

彼はショーン・ビーンとも何度か共演しており、ショーン好きにはお馴染みの俳優さんです。ショーンが当たり役を演じる「炎の英雄シャープ」シリーズでは、ことごとくシャープの邪魔立てをするヘイクスウェルに扮しました。その憎たらしさ、陰湿さたるや、思わずコックローチを吹きかけたくなるぐらい(笑)。しかし、シェフィールドPR映画(爆)である「ドリームゴール」では、頑固者だけど実直でなにより善良なコーチを名演。こいつは一体全体、いい奴なのか悪者なのかさっぱりわからんという、観客を煙に巻くポスルスの真骨頂でありましたねえ。煙に巻くといえば、その最たるキャラクターは、やはり「ユージュアル・サスペクツ」の“コバヤシ”でしょう。私ら日本人が、なぜポスルスに妙な親近感を覚えるのか、この作品で理解できる気すらしますよ(笑)。

彼の容貌からは、英国の厳しい雨風に長年晒されてできた岩の表面のような、ゴツゴツと固いけれど非常に力強い印象を受けます。大地にしっかり根を張った身体と、汗と埃と煤の匂いを連想させる顔。実直かつ単純な労働者のような雰囲気を纏いつつ、その実、人間の持つ複雑な感情の機微を的確に体現する柔軟さを、彼は持っていました。私たち観客が彼の掴みどころのない印象に戸惑っている間に、善良なキャラクターにも卑小で悪辣なキャラクターにも、変幻自在に化けてみせたのです。大変個性的な容貌で、演じる役柄が逆に制限されるのではないかと勘繰りたくなるポスルスですが、彼の演技の本質はといえば、それは極めて無色透明に近いのですね。

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画面に登場するや主役をすっかり喰ってしまう得難いオーラと同時に、有無を言わせず虚構世界にリアリティをもたらすパワーの持ち主。ポスルスのように、短い出番で物語を引き締めることのできる役者さんが、最近めっきり減りましたね。…新年早々の訃報は、そろそろ己の老後を考えねばならない身にとっては、やはり堪えるものがあります。


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