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zoom RSS 「マレフィセント Maleficent」と悪役考。

<<   作成日時 : 2014/08/09 00:45   >>

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昔から、物語の中で主人公たるヒーロー/ヒロインが輝くためには、それに対抗する悪役(ヴィラン)が同じぐらい、あるいは彼らを凌駕するほど魅力的でなければならないと言われています。

これは、私たち物語の受け手の側に、“悪い奴だと分かっていても悪役に惹かれてしまう”心理が働いているせいなのですが、このある意味屈折した心理状況は非常に興味深いところ。悪が強ければ強いほど、つまり、観客が逆説的に悪に魅入られれば魅入られるほど、善が悪を滅ぼしたときのカタルシスが大きくなるのですからね。


“許しは請わないわ。私がやったことは到底許されることではないもの…”

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「マレフィセント Maleficent」
監督:ロバート・ストロンバーグ
脚本:ポール・ディニ&リンダ・ウールヴァートン
製作:ドン・ハーン&ジョー・ロス
製作総指揮:サラ・ブラッドショウ&アンジェリーナ・ジョリー他
出演:アンジェリーナ・ジョリー(マレフィセント)
シャールト・コプリー(ステファン王)
エル・ファニング(オーロラ)
サム・ライリー(ディアヴァル)
ジュノー・テンプル(妖精シスルウィット)
イメルダ・スタウントン(妖精ノットグラス)
レスリー・マンヴィル(妖精フリットル)
ブレントン・スウェイツ(フィリップ王子)
ジャネット・マクティア(ナレーター)
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
主題歌:ラナ・デル・レイ“ONCE UPON A DREAM”
撮影:ディーン・セムラー
編集:リチャード・ピアソン&クリス・レベンゾン


かつて人間の住まう王国の隣には、人ならざる者たちの国があった。その国は“ムーア国”と呼ばれ、夢のように美しく、恵み豊かな自然の中で、妖精たちが互いに助け合って恙無く暮らしていた。しかし、隣接する人間の国は愚鈍で強欲な国王を戴いたために、民は搾取されて飢え、どん底の生活の中で国王に不満を募らせていた。歴代の国王は、国民の不満の矛先を変える目的も兼ね、妖精の国の豊かな資源を奪わんと数度にわたって攻め入ったが、ムーア国の守護者である妖精マレフィセントによってその都度撃退されていた。この2つの国を統一するのは永遠に不可能か、もしくは抜きん出た英雄、あるいは底知れぬ邪悪な存在にしか果たせないことだろう。

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大きな翼と大きな角を持つ妖精マレフィセントはムーア国に生まれ、長じる従って強大な魔法の力を持つようになった。彼女はその揺ぎ無く力強い翼で大空を自由自在に飛び、ムーア国の自然とそこに住む妖精たちを守っていたのだ。彼女がまだ幼かった頃、人間の国の貧しい少年ステファンがムーア国に迷い込み、宝石を盗もうとしてムーアの番人に捕まった。マレフィセントは宝石を元あった場所に返すよう少年に語りかけ、人間がこの国に足を踏み入れてはいけないと諭す。しかし、それがきっかけでマレフィセントはステファンと友達になり、幾度も逢瀬を重ね、いつしか2人は恋に落ちていった。ある日、美しいムーアの夕陽を背にして2人は“真実の愛”を誓うキスを交わす。人間を信じて疑わないマレフィセントは、ステファンとの愛はこれから永遠に続くものだと思っていた。

しかし、人間は心変わりをする生き物だ。特にステファンは野心に満ちた若者になり、最下層の貧民の暮らしから抜け出て、ライバルを蹴落とし、国王の城に住まう身分に成り上がることに血道をあげていた。そして、多くの人間が大人になるにつれて子供時代の思い出を忘れていくように、ステファンもまた、いつの間にか不思議な妖精マレフィセントのことを忘れてしまった。一方マレフィセントの方は、人間が忘却と呼ぶ現象に傷つきながらも、ステファンのことを想い続けるのだった。

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ヘンリー王が軍隊を率いてムーア国に攻め入ろうとしていた。人間の王は妖精の国を征服することを諦めてはいなかったのだ。マレフィセントは大勢の人間の兵士の前に舞い降り、魔法の力によってムーアの番人を目覚めさせ、地鳴りと共に人間の軍隊に襲い掛かった。愚鈍なヘンリー王にムーアの平安を明け渡すわけにはいかない。激しい戦闘の中、マレフィセントは唯一の弱点である鉄製の武具に触れやけどを負う。しかし、マレフィセントに守られたムーアの番人たちは、程なく人間の兵士達を追い払うことに成功した。

重傷を負ってほうほうの態で城に戻ってきたヘンリー王は、女エルフにしてやられた屈辱から、憎っくきマレフィセントを討った者に娘の王女を娶らせ、次期国王の座も譲ると宣言した。一平民から兵士として成り上がり、いまや国王の側近にまで上りつめていたステファンもその場にいた。マレフィセント!長らく忘却の彼方にあったその名前と、彼女との思い出が突如脳裏に甦る。初めて彼女と対峙したとき、鉄製の指輪をしていた自分と握手した際に彼女は手にやけどを負ったではないか?あの時彼女は、鉄は自分にとっては禁忌なのだと告白した。つまり、強大な妖精マレフィセントの唯一の弱点を知っているのは自分しかいないわけだ。その夜、ステファンは数十年ぶりにムーアに向かった。

数十年ぶりに聞くステファンの呼びかけに応じ、姿を現したマレフィセント。疎遠であったことをなじるものの、ステファンの謝罪を受け入れたマレフィセントは彼を許す。再び子供の頃のように長い間語らい、すっかり夜も更けた頃、ステファンはマレフィセントに眠り薬を飲ませた。鉄製のナイフを手にとり、いよいよチャンス到来という段になって、ステファンは逡巡する。いかな出世欲に目が眩んでいるとはいえ、目の前で無防備に眠る相手を刺し殺す勇気はさすがに出ない。結局ステファンは、マレフィセントの象徴であり最大の武器でもある大きな翼をこっそり切り取り、それを城に持って帰った。

ステファンがヘンリー王にその勇気を褒め称えられ、次期国王に決定した頃、マレフィセントはようやく目覚め、自分の身体の異変に気付いた。眠っている間に2枚の翼が無残にも根元から切り取られていた。身体に走る激痛と、信じていた恋人に手酷く裏切られた心の痛みに絶叫するマレフィセント。小枝を杖に変えてようよう立ち上がったときには、既にその目は怒りと哀しみで暗く淀み、顔からは血の気と共に一切の表情が失われていた。彼女の角はさらに鋭くとがり、彼女が歩いた後は草木が黒く萎れ、代わりに骨のような枯れ枝が不気味に生え揃った。ムーアの住人達はマレフィセントの変化を恐れ、森の真ん中に枯れ枝の玉座を誂えて座った彼女に黙って膝を折るのだった。

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翼を失ったマレフィセントは、猟師に捕まったカラスを青年の姿に変えて助け、ディアヴァルと名づける。命を救った礼として、マレフィセントはディアヴァルを自分の翼代わりに使役することになった。ディアヴァルの働きで、新しい城主となったステファンが王座と引き換えに自分の翼を奪ったことを知った彼女は、ステファンへの復讐を心に誓う。そのチャンスは意外に早く訪れた。

ステファン王は王妃と結婚し、玉のように美しく健やかな赤ん坊を授かった。王国は可愛らしい次期女王候補の誕生に沸き返る。近隣諸国から、ステファン王と王女オーロラへ祝福の貢物が届き、王家から洗礼式に招待されたムーア国の3人の妖精たち―シスルウィット、ノットグラス、フリットル―もオーロラ姫を祝福するために城を訪れていた。3人の妖精は愛らしいオーロラに美しさと尽きることのない愛情、心根の優しさを贈るが、そこへ招かれざる客が現れた。マレフィセントである。

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ディアヴァルを連れ、禍々しい空気を纏ったマレフィセントは、ステファン王に招待されなかったことをこれみよがしに嘆き、3人の妖精たちの贈り物が吹き飛ぶほどの負の力を込め、オーロラに恐ろしい呪いをかけた。彼女が16歳になる日の没する刻限までに、糸車の針に指先を刺して永遠の眠りにつくであろうと。ステファンは、この呪いがマレフィセントの自分に向けての復讐であることを悟り、満場の客人と家来達の冷ややかな視線に晒されつつも、必死に彼女に情けを乞うた。衆人環視の中で魔女に膝を折った哀れな国王の姿を見たマレフィセントは満足し、オーロラにかけられた呪いを解く方法を一つだけ授ける。彼女に“真実の愛”を誓う者からのキスによってのみ、姫は永遠の眠りから目覚めることができる、としたのだ。…しかし、かつてステファンがマレフィセントに真実の愛を誓ったにも拘らず、その誓いをあっさり反故にした過去を鑑みるに、真実の愛などこの世に存在しないと考えるのが現実的であろう。つまり、このオーロラへの呪いは、どうあがいても結局解除できないものなのだ。

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マレフィセントの思惑通り、ステファンも同じことを考えた。“真実の愛”など存在しないことは、他ならぬステファン自身がそれを証明していた。そして、オーロラを呪いから遠ざけておくためにできる限りのことをしたのだ。国中の糸車を集めさせて全て焼却し、念を入れて残骸を城の地下深くに隠した。オーロラはあの3人の妖精たちに預け、国の外れの森の中にある王家の隠れ家で、身分を隠して養育してくれるように手配した。

ところが、オーロラの養育係を承った妖精たちは、人間の子供なんぞ育てたことがなかった。子育ては激務だ。特に赤ん坊は、数時間おきに乳を与え、おしめも頻繁にとり替えねばならない。だがムーア国の妖精が、そんな子育ての知識を持っているとも思えない。案の定、オーロラがおっぱいを欲しがって泣き喚いても、裏の畑でとれた野菜を差し出したり、挙句、赤ん坊を放ったらかしにして遊び始めたりと、危なっかしいことこのうえない。ムーアの森中にまで響き渡る腹を空かせた赤ん坊の泣き声は、当然マレフィセントの鼓膜をも直撃した。止むに止まれず、マレフィセントはディアヴァルに魔法の乳を運ばせ、乳母妖精たちに気取られないようオーロラに与える。口では憎まれ口を叩きながらも、結局マレフィセントは乳母妖精たちのデタラメ子育てが心配で、その後も少し離れたところからオーロラの成長を見守ることにした。

マレフィセントの影からの支えもあり、オーロラはすくすくと成長した。勝手に歩いて家を出て、ムーアの森の中に迷い込んでくることもあった。森を見回っていたマレフィセントとばったり鉢合わせしても、マレフィセントが大きな角で威嚇しても、オーロラは怖がるどころか大喜びする始末。邪気のない子供の笑顔は愛しいものだ。目にする人間を癒す。ステファンとの確執で冷え切っていたマレフィセントの心にも徐々に血が通うようになっていった。

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一方ステファンの方は、マレフィセントからの反撃を恐れるあまり、彼女を迎え撃つための戦闘準備にのめり込むようになる。オーロラが16歳になる日には、必ずやあの魔女が自分を襲いに来ると信じ込み、家臣の進言にも耳を貸さず、王妃の懇願も聞き入れず、ひたすら鉄製の鎧と武具をきたえることに没頭。同時に、ムーア国へ再度の侵略戦争を仕掛けマレフィセントを討とうとするが、マレフィセントは、ムーア国と人間の国の境界線上に人間には決して破れない砦を築いて兵士達を撃退した。ステファンは、強大なマレフィセントの魔力の前に敗北を重ね、ますますうたぐり深く、陰湿なパラノイアになってしまった。

すっかり大きくなったオーロラは、3人の乳母達と暮らす森の外に、マレフィセントの砦を見つける。幼い頃から、たびたびこの恐ろしげな砦の向こう側にある世界を垣間見ていたような気がする。また向こう側の世界に行ってみたい。乳母達は災いをもたらす場所だから行ってはだめだと引き止めるが、自分はそうは思わない。赤ん坊の頃から、片時も離れずひっそりと自分を見守ってきてくれた“誰か”が、この向こう側の世界にいるような気がするからだ。その誰かは、きっと両親のいない自分にとっては母親代わりとなる人物だろう。

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砦をかいくぐってムーア国に入ってきたオーロラに、マレフィセントが気付いた。幼い頃ならいざ知らず、オーロラが十分分別のつく年頃になってからは、用心のため、マレフィセントは不用意にオーロラに近づくのをやめていた。しかし人間は、未知なるものへの好奇心を抑えることができない生き物だ。オーロラの父親もそうだった。オーロラはムーア国の美しい森の光景に心を奪われながら、マレフィセントが様子を窺っている木陰に近づいてきた。そして、もしそこにいるのなら姿を見せて欲しいと懇願する。マレフィセントは、自分の姿を見たら最後、オーロラは怖がって逃げ出すだろうと思っていたが、さにあらず。赤ん坊の頃と同じように、邪険にしても冷ややかに突き放しても、やはり自分に懐き、屈託なく笑いかけてくるオーロラに、マレフィセントはついに根負けしてしまった。

マレフィセントは、ムーア国の美しい森の中で度々オーロラと語らい、その心根の素直さ純粋さに絆されていく。オーロラはマレフィセントを“フェアリー・ゴッドマザー”と呼び、母親同様の愛情と信頼を傾ける。それは、マレフィセントの心の奥深くに巣食っていた、愛を失う哀しみを打ち砕いた。ある日、いつものようにオーロラを魔法で眠らせてから妖精たちの家まで送り届けた時、マレフィセントは16年前に自分でかけた呪いを解除しようと満身の力を込めた。しかし、怒りと絶望で暴走していた昔の呪いのパワーはあまりに強大で、マレフィセント自身にも解くことができない程だったのだ。今更ながらマレフィセントは後悔する。子供の成長を見守る喜びは、彼女に昔のような強い愛情と正義の心、勇気をも取り戻させた。だが、オーロラの16歳の誕生日はすぐそこまで迫っている。オーロラが母と慕うマレフィセントの秘密と、オーロラ自身にかけられた呪いについて真相を知る時も近づいている。マレフィセントは、果たしてオーロラを守り抜くことができるのか。



子供心にも、マレフィセントがなぜオーロラにこんな恐ろしい呪いをかけたのか、その理由がはっきり分からなくて当惑したものです。たかが赤ん坊の洗礼式に招待されなかっただけで、そんな些細なことを根に持ち、大掛かりな復讐をしようと思うものだろうか、と。親が買い与えてくれたディズニーの絵本は、残念ながらその理由を一切説明してくれませんでした。

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アンジェリーナ・ジョリーが、このディズニーで最も有名なヴィランを演じたことで、公開前から大きな話題を集めていた、「マレフィセント Maleficent」。実際に本編を観に行く前に私が見た限りでは、今作への評価は賛否両論といったところ。従って、過大な期待はせずに作品に臨んだ訳ですが、なかなかどうして面白かったですよ。ただまあ、「アナと雪の女王 Frozen」の前に観ていたら、もっと大きな驚きがあったのだろうなとは感じました。それでも、元々ダーク・ファンタジー作品が大好きな私にとっては、舞台となるムーア国の幻想的なビジュアルや、個性豊かな妖精達の造形を含め、昔から言い伝えられる民話をアレンジしたストーリー、登場人物を演じる俳優達の浮世離れした雰囲気等、世界観がかのジム・ヘンソン・スタジオの傑作「ダーク・クリスタル」を想起させ、大変興味深く観賞できたことは事実です。

どんな種族だろうが生きとし生けるものにはすべからく、善悪両方の顔があります。たとえ魂が悪に屈して道を踏み外したとしても、それを償うチャンスは与えられるべきだし、また、再び這い上がろうと努力をする者を否定する権利は誰にもありません。それに、憎悪や対立を乗り越えて、異なる世界同士が手を取り合って融合することこそが理想だと謳いあげる今作の展開は、私は心から共感するし、素直に良いと思いますよ。

元が勧善懲悪の物語なんだから、悪いことをする悪人は正義の味方がやっつけてハイ終了でいいじゃねえか、めんどくせー言い訳をグダグダ抜かすなという論理は乱暴だし、現実世界の善悪の境界線がこれだけ複雑怪奇になってしまった今では虚しい空論にすら聞こえます。ならば、これまで絶対悪だと信じられていた存在に別の方向から光を当ててみて、新しい解釈を考えた方がよっぽど面白いんじゃないでしょうかね。

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私が今作を気に入ったのは、魔女という、誰も近づこうとしない孤高の存在だったマレフィセントの精神の中に入り込み、別の視点からその解析を試みようとした点に尽きます。ある者にとって正義である事柄が、その反対の立場にある者にとっては当然害悪となるように、どんな物事にも異なる側面が複数あるはず。ならば、マレフィセントを終始一貫して絶対悪とする解釈は、ある一方向からのみ当てられた光に従っただけの考え方だとも言え、私にとっては違和感を覚えるものなのですね。

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マレフィセントを無理矢理善人に仕立て上げるために、彼女と対比されるステファン(後の国王、オーロラの父親)のキャラクターを殊更貶めたのではないかと考える向きもあるかもしれません。しかし私自身は、ステファンというキャラクターの解釈の仕方にも興味をそそられましたし、なにより、彼の物語は彼の物語でドラマティックかつリアルであったと考えています。映画全体のバランスからみても、あまりこじつけた印象は受けませんでしたね。
豊かで平和な国の繁栄をすぐ隣に見ながら、自分自身は貧しく苦しい生活環境に耐えねばならなかったステファンという男が鬱屈から野心を抱き、そのために幼い頃の淡い思い出や純真さ、元々あったであろう良心すらもかなぐり捨て、修羅の道を自ら突き進んでいく…という物語は、まるでシェイクスピアの悲劇の主人公を思わせるもの。ただ惜しむらくは、大人になったマレフィセントと再会するまでに、ステファンが潜り抜けてきたとおぼしき幾多の葛藤について、踏み込んだ描写が省略されてしまっていたことですね。それがあれば、マレフィセントの悲劇と同時にステファン自身の悲劇も浮き彫りになり、その後のドラマの展開に更なる説得力と重厚感が加わったでしょう。多少上映時間が長くなってもいいから、マレフィセントとステファンの恋と別れの前半部分を、ステファンの側の心理描写を加えてきちんと描いて欲しかった無念は残りますね。

…そこで、最初に掲げた疑問に戻るわけです。私達観客が悪役に惹かれるのはなぜか。正義のヒーロー/ヒロインが私達の頭上から照りつける太陽の光なのだとしたら、さしずめ悪役は、その隙と矛盾を突く存在であり、同時に私達の足元から長く伸びる影法師のようなものだと思っています。私達は悪役の中に、無意識のうちに“ヒーロー/ヒロインには到底なれない自分自身”を見つけようとします。悪役の中には、私達と共通する負の精神構造―挫折感であるとか卑屈さなど、またそれらに負けてしまう弱さ―があるはずだと考えているわけですね。それが逆説的に悪役という存在を身近にしているような気がします。誰だって生きてりゃ何をやっても上手くいかないこともあるわけで、一点の曇りもない理想通りの完璧な人間などいないでしょうよ。

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尤も、悪役が最後まで悪い奴のままで滅ぼされる方がよいのか、あるいは途中で良心に目覚める方がよいのかについては、意見が分かれるところでしょうね。私達は、決して完璧ではない存在の悪役に一定の同情と共感を抱きつつも、同時に彼らがどこかで彼ら自身の負の感情にケリをつけ、彼らなりの解決策を見出して欲しいとも願っています。ヒーロー/ヒロインの掲げる正義の対極に居ることで、その大義名分の矛盾を示唆する役割としての悪役に魅力を感じる一方で、ヒーロー/ヒロインの光の影に甘んじず、いつかそこから抜け出して欲しいと、身勝手なのは百も承知で願うわけですよ。私たちが無意識のうちに悪役に望んでいる相反する役割こそ、大いに矛盾しているというのにね。私ら凡人は、我が身の幸せを、彼ら悪役達の救済に重ねあわさずにはいられんのですよ(笑)。

古今東西、この世に生まれた数多の物語の中で、私達が密かに願ってきたにも拘らず叶うことのなかった“悪役の救済”を、特に“魔女”のレッテルを貼られたまま放置されていた女性のヴィランに関して試みたのが、この「マレフィセント」と以前当館でも触れた「アナと雪の女王」だったのだと思います。実際問題、徹頭徹尾女性の主人公の視点から揺るがない作品は珍しいし、それがジェンダーのモラルに関して超保守的なディズニーから生まれたことに、時代の経過を痛感させられますね。

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…尤も今作では、真の意味でのヴィランはむしろステファンの方でしょう。おそらくは葛藤と逡巡の末にマレフィセントを裏切り、しかし彼女の息の根を止めてしまうまでの悪人にはなりきれなかった小心さの哀れ。ずるがしこい立ち回りで権力の座を手に入れたはいいが、その後、自分のしでかしたことへの自己嫌悪も手伝って、王座を奪われる妄想の虜になってしまう哀れ。彼自身が常に抱いていた、自分より大きな存在への漠とした恐怖が、強大なマレフィセントの呪いと復讐という実体を伴ってしまったがゆえに、自滅へのカウントダウンを早める結果になった哀れ。ステファンという御仁、まあ共感できるような人柄ではないのですが、よく考えれば私達凡人のエッセンスを凝縮したような肖像でもあり、彼の辿る皮肉な運命も、とても他人事とは思えません(笑)。彼の魂は、ああいう形でなければもはや救われることは永遠になかったのだろうと思うと、本当に哀れでありますね。

マレフィセントとステファンは、双方共に善悪2つの側面を持つ複雑な存在であることが対比され、暗示されています。そして人間は誰しも、人ならざる未知の力を恐れ敬いますが、結局のところ最も恐ろしいのは、私達人間の持つ負の感情ではないのかという結論に達せざるを得ませんね。

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アンジェリーナ・ジョリーは、容姿、存在感共々、マレフィセントを演じるために生まれてきたような方ですし、クライマックスで、SM女王様風の黒のジャンプスーツで戦うお姿はひたすら格好いいとしか。エル・ファニングは、純朴なオーロラの屈託のなさを、本当に厭味なく上手く表現できていました。オーロラを養育する3人の妖精たちを、「ヴェラ・ドレイク」などの名女優イメルダ・スタウントン、レスリー・マンヴィル、ジュノー・テンプルという個性派女優たちがキョーレツに演じており、悪夢にうなされそうな程シュールなドタバタを見せてくれました(笑)。画面に登場するだけで神経を逆なでされるキャラクター造形です(再笑)。
映画上映後、何人かの若いお嬢さん方が『あのカラスの男の子、可愛かったよねー♪♪』とときめいていらっしゃいました(笑)。童顔が可愛いサム・ライリーも、これから日本で人気が出るといいですね。当館では彼の初主演作「コントロール Control」(2008年)をご紹介しています。彼に興味を持たれた方はぜひ!ぜひご覧になってくださいまし。写真家アントン・コービンの初監督作品でもあります。モノクロの美しい作品ですよ。

さて、「第9地区 District 9」で惚れて以来、「特攻野郎Aチーム The A-Team」「エリジウム」と出演作品を観てきたシャールト・コプリー。南アフリカ出身の彼があれよあれよという間にハリウッドで売れっ子俳優になっていくのを、ちょっぴり寂しい思いで見守っていたわたくしですが、リメイク版「オールド・ボーイ」然り、ここ最近“悪役専門”になってきつつあるのが心配です。一時期のショーン・ビーンもそうでしたが、ハリウッドで一度“悪役俳優”というレッテルがついてしまうと、色々な映画で安く使われることにもなり、そこから脱却するのは並大抵のことではなくなるんですよね。

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今作では、野心だけは一人前にあるものの、持って生まれた卑しい性格、恐怖にすくみあがる小心っぷり、権力にすがりつくあまり妄執にとらわれる男に扮し、見ているのが辛くなるほどの熱演でした。訛りが抜けない英語の発音が、却ってステファンの卑しい出自と屈折を匂わせることになり、役柄にはぴったりハマッていました。でも次は、「特攻野郎Aチーム」のマードックみたいな可愛い役に復帰して欲しいなあ(笑)。黙って立っていれば、翳のある男前なのは分かってるけどねー(笑)。


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