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zoom RSS お前の“正義”とは何だ―「The Flying Man」(short film)

<<   作成日時 : 2013/10/02 22:59   >>

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“飛ぶ男へ。―もう俺達を放っておいてくれないか…Leave Us Alone...”

The Flying Man

The Flying Man from Marcus Alqueres on Vimeo.


「The Flying Man」(2013年)
Directed, produced, financed, edited and story: Marcus Alqueres
Screenplay: Marcus Alqueres and Henry Grazinoli
Sound and score: Roger Lima (whitenoiselab.com)
Manager: Scott Glassgold / IAM Entertainment
DOP: Anthony Scott Burns
Production Manager: Christopher Yurkovich
Visual Effects: João Sita & Marcus Alqueres
Cast:Mike(Nick Smyth)
Rob(Rick Cordeiro)
Voices(Justin T. Lee)
Colorist: Marco Polsinelli from Topix Fx
A/B Camera: Julian Van Mill & Anthony Scott Burns & Marcus Alqueres
Script Revision: Moss Badran
Sound Recordist: David Guerra & Randy Resh
Production Assistant: Nick Bechard
Additional DOP: Marcus Alqueres (opening and hospital scenes)
Makeup: Helen Johns & Carly Sellen

その奇妙な“男”は突如街の上空に現れた。

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身に着けているものといえば、灰色っぽい身体にぴったりフィットしたスーツのみ。顔も分からないし、もちろんどこの誰なのかも全くもって不明だ。空を飛ぶための装置らしきものも一切持っていない。


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恐ろしいことだが、この男(おそらく男)は自力で空を飛べる能力を持った男なのだ。…あの、スーパーマンのように。


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やがてこの“飛ぶ男”は、独自の捜査で割り出したと思われる“悪人”たちを、彼にしかできない方法で制裁し始めた。


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“飛ぶ男”の正義の法廷では、悪人として突き出された連中に弁解の余地は一切与えられない。少しでも法に触れる行いをした者は、その罪の大小に関わらず、みな等しく“飛ぶ男”によって償いを強いられる。己の“死”をもって。


彼の残忍きわまる処刑は、悪への見せしめの意味も込められ、衆人環視の中でも昼夜を問わず行われる。警察はこの“飛ぶ男”をきわめて危険な人物(彼が人間だと仮定して)だとし、彼の独自の自警活動を抑えようと日夜ヘリコプターを飛ばしていた。しかし“飛ぶ男”は、一体どこから警察内の秘密情報を掴むのか、事前に彼らの行動を把握して自らに迫る追っ手をかいくぐりつつ、警察も見過ごしているような悪人達を片っ端から探し出しては制裁しているのだ。

法律を侵した者にも、最低限の人権は認められねばならない。弁解も更正もする間もなく直ちにあの世送りにしていい権利は誰にもない。“飛ぶ男”が厳格なる法の番人を自認しているというのなら、彼の極端な制裁方法こそ罪に問わねばならないだろう。…だが皮肉なことに、街の治安は結果的に、この男への恐怖のために守られている。今やこの街で悪事を働こうという肝の据わった悪人は、あまりいないだろう。


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マイクは、今回の仕事を引き受けた過去の自分を呪いたかった。今日組んでいる相方ロブは、例の“飛ぶ男”のことなんぞ何一つ知らず、気にも留めちゃいない。先月、奴が空を飛びながらあの世に送った連中の総数は、一体何人になるのか分かっているのか?!35人だ!一ヶ月で35人!自警団でなかったら、単なる連続大量殺人鬼だ。しかも、奴はどうやって街の中で悪事に手を染める人間を見分けてるんだ。警察に内通している仲間でもいるのか?


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だが、マイクが今夜のブツの取引きは中止しようと何度直訴しても、ロブは相手にしなかった。空飛ぶ男だかなんだか知らないが、こんなでかい街の片隅でささやかな“商売”を営んでいるオレ達のことなぞ知るわきゃないだろ?…“飛ぶ男”がどこで見張っているかもわからないのに、あろうことか、ロブは車から出て立ちションまで始める始末。


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先程からマイクの耳には、空中の低い位置で何かが滑空するような、嫌な音と気配がこだましている。付かず離れず…という距離を保ちながら、何者かが空からマイクとロブが車で移動する後をゆっくり尾行しているようだ。その薄気味悪い感覚は、先程から徐々に鋭く、確かなものになっている。


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“今日の取引はちょろい”とか言わなかったか。ロブは“念のため”と拳銃を身に着けた。奴が今も上空から俺たちのやり取りを窺っているかもしれないのに…。銃が必要なほどヤバい仕事なら、最初から引き受けなかった。自分はあくまでも車の運転だけの役目のはずだ。だがロブに幼い息子ジミーのことを持ち出され、マイクは言葉に詰まった。そう、ジミーのために金が要るのだ。


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車のライトを点けて取引相手と合図を交わす。こうなったら“飛ぶ男”に見つからないように祈るしかない。


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取引相手も同じことを考えたのかどうか、落ち合い場所の公園を出た相手の車は、見晴らしの良いハイウェイを走り始めた。マイクとロブもその後を付いて行く。マイクは気が気ではない。こんな見通しの良い場所に出てきてしまったら、奴の格好の餌食になってしまう。…と、すぐ前を走っていた取引相手の車の運転手が、突然窓から手を突き出してこちらに合図を送り始めた。奴さんは何をやってるんだ?気でもおかしくなっちまったか。


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その理由はすぐ分かった。“飛ぶ男”が空から飛び降りてきたのだ。マイクたちの目の前で信じられない光景が展開する。取引相手の車が、飛ぶ男の襲撃を受けて一瞬のうちにへしゃげたのだ。


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マイクもロブも金切り声を張り上げ、慌ててその場から離れようとするが、飛ぶ男のスピードは尋常ではない。すぐに地響きと共に彼らの車の目の前に飛び降りた男は、マイクとロブめがけて猛然と突っ込んできた。


…ここでマイクの記憶は途切れた。


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意識が戻ったとき、マイクは病室に寝かされた状態だった。目の前で“飛ぶ男”を見て以来の記憶がない。ロブの姿も見えなかった。…飛ぶ男にやられてしまったのかもしれない。チンケな犯罪でも逐一見逃さず、法に触れた者はいかなる例外も認めずあの世に送る“飛ぶ男”は、もはや街にとっての恐怖の死刑執行人だった。


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ニュース番組に出演したどこかの議員が、一人自警団を即刻捕らえるべきだと熱弁を奮っている声が、遠くの方から聞こえている。だが、ショックのあまり呆然としたままのマイクの耳にはその声も届かない。


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…なぜなら、その、一刻も早く捕縛されるべき死刑執行人が、今マイクの目の前に姿を現したからだ。


痛烈かつ皮肉に満ちた“ヒーロー”映画。それがこの「The Flying Man」です。初見時には、マーベルやらDCやら、現在の映画界のドル箱ジャンルとなっているスーパー・ヒーロー映画の製作者全員に、黄金熨斗をつけて送り付けたいと思ったもんです(笑)。あなた達が観客に見せようとしている幻想の本当の姿は、こんなに恐ろしいことなんですよってね。

…夢をみることは必要ですよ。厳しい現実の憂いを忘れ、ほんの一時だけでも夢の世界で羽を伸ばせば、私達の疲弊した身体に再び活力が漲ることでしょう。映画は現実を忘れるために観るものです、本来はね。超人的なパワーを持ったヒーローが、一般市民の手には負えない悪をバッタバッタとやっつけていく、その爽快感。悪と戦う劇中のヒーローと共に拳を突き上げ、必ず勝利する正義を手に入れた気になって自分も胸を張る、その満足感。映画の中の世界だからこそ許される憂さ晴らしです。

ただ、恐ろしいことに、映画のように人間の視覚と聴覚に強く訴えかける刺激を受け続けると、それによって深層心理に蓄積されていく暗示の効果は案外大きいものなんですね。大抵のヒーロー映画は、正しきものを助けよ、悪しきものをくじけよと、実際には正体不明の“正義”を声高に叫びつつ、正義の対極にあるものを悪と断定して倒してゆくのが当然だという理論の上に成り立っています。
こういった、映画におけるヒーローの行動と正義の概念って、実は現実世界に根付いている大勢と連動しているものなのです。社会の中で、マイノリティを排したマジョリティの意思が皆の意思に挿げ替えられるなら、大衆の好みを取り入れ、大衆の意向を汲んだ娯楽である映画が、マジョリティ正義の論理に沿っているのは当然のこと。盛んに製作されるヒーロー映画を観ていると、大衆と映画がお互いに影響を与えあって、確固とした“マジョリティのための正義”が出来上がっていく過程を見せられているようで、時折恐ろしく感じることもありますね。

そもそも“正義”の概念だって、いい加減なもの。時と場合によっては、全く正反対の意味になってしまうこともあるでしょう。誰かにとっての正義が、他の全ての人たちにとっての正義でもあるとは、必ずしもいえませんもの。でも、己のエゴを通すために正義を大義名分にしてしまう現象は、今も変わりなく世界中で見られます。そして、正義という抽象的な概念に拘泥すればするほど、極論と安易に結びついてしまうことは、過去の歴史が既に証明していますし、今もなお各地で紛争が絶えないことでもうかがえます。

この「The Flying Man」に登場する飛ぶ男は、彼自身の正義の尺度でもって他人の善悪の度合いを計っています。そして往々にして、己の正義を振りかざす者は、自分以外の人間の正義を決して許容しません。だからこそ人間社会には争いの火種が消えないのですがね。
犯罪を根絶するために、法律に抵触した者を片っ端から粛清していくというのは、悪を根絶やしにするという正義に照らし合わせれば、きわめて正しい行動になります。しかし、ちょっとだけ見方を変えれば、殺人を犯した者もチョコレートを万引きした者も一様に同罪だと断じてしまう危険も孕みますよね。まあ、どちらも“悪いこと”には違いないですから。しかも、自分の正義の尺度にそぐわない者を排除していくやり方は、独裁者の理論そのもの。正義を徹底する極端な清廉潔白さは、結局、狂気に変じてしまうわけです。今作の“飛ぶ男”の正義の行動を冷静に見ると、そう結論付けられますね。そして、大抵のヒーロー映画の“正義のヒーロー”達は、少し見る方向を変えれば、“飛ぶ男”と同じような存在になっているのです。

メインストリームのハリウッド映画で、数々のヴィジュアル・エフェクトやアニメーションを手がけてきたヴィジュアル・アーティスト、マーカス・アルケレス。「The Flying Man」は彼の監督第2作目にあたる短編ですが、昨今のヒーロー礼賛主義、引いては“正義”を大上段に掲げておけば何をしても許されるという、誤った正義の解釈に一石を投じるシニカルな命題といい、“飛ぶ男”がいつどこから襲ってくるか分からない、実に心臓に悪いスリルとサスペンスを盛り上げる演出手腕といい、大変に切れ味良い作品に仕上がりました。
特に、“飛ぶ男”のビジュアルに掴みどころのない不気味さを加味して“異形の者”という意味合いを強めたこと、普段と変わりない日常の光景に、ふっとよぎっていく“飛ぶ男”の恐怖の影を、視点を細かに切り替えながら緩急をつけて表現した点はクレバーだと思いますね。“飛ぶ男”の動きのリアルさときたら、さすがの本職の手練れ。私なんぞ、飛ぶ男がいきなり主人公の車の前にドカーンと降りてくるシーンで、いつも飛び上がってしまいますよ(苦笑)。

こりゃあ、今年中にお披露目されるかもしれない次のオリジナル作品に、大いに期待してしまいますねえ。


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Marcus Alqueres

マーカス・アルケレスは、カナダ、トロント在住のヴィジュアル・エフェクト・アーティスト、アニメーターだ。2002年にコマーシャルの特殊効果を担当してキャリアをスタートさせ、2005年からは商業映画での仕事をコンスタントに続けている。「300 <スリーハンドレッド>」や「ミッション:8ミニッツ」「猿の惑星:創世記」等の著名な作品や、WETAなどの有名なVFX制作会社と共に「タンタンの冒険」でアニメーターとして働いた。2012年には、他の監督のプロジェクトにアニメーター、VFXマンとして参加する傍ら、自身の短編アニメーション映画「Monkey City」を監督・製作。続いて2013年には、昨今の映画界で一つのジャンルとして確立した“スーパーヒーロー映画”をモチーフにした野心作「The Flying Man」(実写短編)を監督した。アニメーター、あるいはVFXマンとして多数の作品に関わったことで培われた経験は、彼自身の監督作品でも大いに生かされている。

Marcus Alqueres 公式サイトはこちら。ここで上記の「The Flying Man」も視聴できます。
「The Flying man」 Facebook 公式ページはこちら

●フィルモグラフィー as Visual effects

2013年「The Flying Man (Short)」 兼監督・脚本
2012年「The Last Will and Testament of Rosalind Leigh」(creature supervisor)
2012年「Monkey City (Short)」兼監督・脚本
2011年「インモータルズ」(animation supervisor: Modus FX)
2011年「タンタンの冒険」(animator: Weta Digital)
2011年「猿の惑星:創世記」(animator: Weta Digital)
2011年「F.E.A.R. 3 (Video Game)」(animation supervisor: Modus FX)
2011年「March of the Dinosaurs (TV Movie documentary)」(animation supervisor: Modus FX)
2011年「ミッション:8ミニッツ」(animation supervisor: Modus FX) / (previsualization supervisor: Modus FX - uncredited)
2010年「Barney's Version」(lead animation: Modus FX)
2010年「スーパー!」(animation supervisor: Modus FX)
2010年「ラスト・ターゲット」(animation supervisor: Modus FX)
2010年「ジョナ・ヘックス」(animation supervisor: Modus FX - uncredited)
2010年「Arctic Blast」(lead animator)
2010年「America: The Story of Us (TV Series)」(animation supervisor - 4 episodes)
- Heartland (2010) ... (animation supervisor: Modus Fx)
- Westward (2010) ... (animation supervisor)
- Rebels (2010) ... (animation supervisor)
- Revolution (2010) ... (animation supervisor)
2009年「ミスター・ノーボディ」(visual effects: Modus FX)
2009年「Les corbeaux (TV Movie)」(animation supervisor - uncredited)
2009年「Screamers: The Hunting (Video)」(animation supervisor)
2008年「センター・オブ・ジ・アース」(animator: Hybride)
2006年「300 <スリーハンドレッド>」(animator)
2006年「スネーク・フライト」(animator)


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