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zoom RSS オスカー短編アニメ映画部門がハイレベル―Paperman, Head Over Heels..etc

<<   作成日時 : 2013/02/20 12:28   >>

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現地時間にして2月24日、いよいよ第85回アカデミー賞の授賞式が行われるわけですが、私が特に注目している短編映画部門(Short Film)にノミネートされている作品は、既にYou Tube上で先行公開されました。先ほど確認しましたらば、日本でも劇場公開されることが決まっているディズニーのショート・アニメーション「Paperman 紙ひこうき」、クレイのストップモーション・アニメが情緒豊かな「Head Over Heels」、その美麗なる映像が評判になった「Adam and Dog」などなど、事前の評価が高かったオスカー・ノミネート作品は既に非公開状態に戻されていましたね。あらまあ、残念。


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「Adan and Dog」のポスター。


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先述の「Paperman 紙ひこうき」は、セル画とCGを巧みに組み合わせて制作された不思議な感慨のモノクロ・アニメでありまして、多くの方が絶賛されるのも頷ける美しいアニメーション映画でした。駅で一瞬すれ違っただけの男女の縁を、彼が彼女に向けて飛ばした紙ひこうきが取り持つというファンタジックなお話。その爽やかな後味は、モノクロ・サイレント映画の佳作「アーティスト」にも通じる感覚かもしれませんね。古きよき50年代の恋愛映画を髣髴とさせる懐かしさと、3次元的に表現される紙ひこうきの今風な演出が合わさった面白さ。伝統的なディズニーアニメの良さと、今流行のデジタル技術を結びつけて完成した良作だと思いますよ。

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ただ、多くの方が絶賛されているように、この作品の素晴らしいところは、古きよき時代のストーリーを最新テクノロジーで甦らせた点にあることは確かです。しかしもう一つ、タイトルの“Paperman”には、“紙ひこうきを飛ばす男”という意味のほかに、別の意味も込められているのではないかと思いました。毎日毎日、書類の山に埋もれて判で押したような変わり映えのしない日常に甘んじていた男が、オフィスを飛び出して恋した女性を追いかけることで、そんなルーチンワークに埋没することをやめ、小さな冒険に一歩足を踏み出したというね。その清々しさが観た人の共感を呼んだのではないでしょうか。


しかし私自身は、実はその「紙ひこうき」よりも、スペイン発のショートアニメ「Head Over Heels」の方に強く惹かれてしまいました。私がストップモーション作品全般に目がないというのもあるのですが(笑)、この作品は発想も絵作りも大変ユニークだと思いますよ。

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なにやら異空間の中を飛んでいる家の中では、なんと、床と天井の両方に重力が働いています。床の側には、床からの重力に引っ張られて夫が生活しており、夫から見て天井にあたる側では、妻が天井の重力に引っ張られて普通に生活しているのですね。彼らは既に老齢に達しており、いつから、はたまたどんな事情があって、そのような特殊な家庭内別居状態に置かれているのかは一切謎のままですが、この素っ頓狂な設定からして面白さ満点。
床と天井という二つの生活空間に分断されているとはいえ、お互いにちょっと上を見上げればお互いの顔を見ることもできるし、もちろん会話だって交わすことは可能です。天上の世界から掃除機をかける妻が、ひょいと背伸びして“床側”でテレビの前に居座る夫を邪魔そうに扱うなど(笑)、その暮らし振りはごく普通の老夫妻のそれとほぼ同じです。上下に分かれた生活は不便だとはいえ、それぞれに役割分担がなされ、お互いの生活空間を侵食しないようにスムーズに行われているように見えます。…少なくとも表向きは。
夫婦も老齢に至れば、お互いに話をすることも少なくなってくるだろうし、若い頃のような刺激とは無縁になり、ついにはお互いがお互いの存在にすら無頓着になってしまうもの。夫婦の間で会話すらなくなってしまう、なんて話はよく聞きますよね。まあこの老夫婦の場合、お互いに異なる重力に引っ張られているという障害が重なり、いろいろな面で意思がすれ違っているのではありますが。

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しかし夫の方は、まだ2人が新婚の頃に撮った写真を眺め、既に妻が長いこと放置していたバレエシューズを修理することを思いたちます。妻は若い頃バレエ・ダンサーだったのですね。夫は元靴職人であったのでしょうか、大変に手先が器用です。夫は妻にプレゼントしようと、古いバレエシューズを綺麗に修繕し箱に収めます。ところが、2つに分かれた重力のせいで、箱が天井にいる妻の手元にうまく届きません。その気もないのに箱を妻の顔に命中させたりして、夫の好意を誤解した妻は怒り心頭。天井と床で夫婦喧嘩が勃発してしまいました。
2人の住む家がとある惑星に不時着し、今度は妻の重力世界の方が地面側になったことで、夫は家の外に出てもひっくり返った向きのまま。久しぶりの地面の感触を楽しむ妻の傍らで、空中に逆さまにぷかぷか浮きながらしょげ返る夫。妻は、夫が重力の壁と闘ってまでも(結局、この壁には歯が立たなかったのですが)自分に届けたかった箱の中味を覗いてびっくりします。そこで一計を案じました。
彼女は、自分が持っている靴を全て出し、夫が生きる重力世界の側に釘で打ちつけて固定し始めました。夫が待つ場所まで靴を一つ一つ丁寧に固定し、それを足がかりにして夫のすぐ傍までやってきたのです。夫と妻は、逆向きに作用する重力に邪魔されながらも、久しぶりにひっしと抱き合いました。言葉はなくとも繋がっている絆は、たとえ重力の壁に阻まれようとも切れないものかもしれません。と同時に、年月の経過と共に次第に鎮火していくと思われがちな夫婦間の愛情も、種火が消えてなくなってしまうわけではなく、ただ炎が派手に上がらなくなるだけなのでしょう。
現に、その日以降、家の外を散歩する妻の傍らには、その妻にロープで引っ張ってもらいながら、逆さまにぷかぷか浮く夫が常に控えるようになったということです。

肝心の映像がないので、強引に全て言葉で説明してみました。ざっと、こんな風変わりな寓話になります。“夫婦の絆”などという使い古された言い回しが、こんなに不思議で愛おしいストーリーになって生まれ変わるとはね。これだからショートフィルムはやめられない(笑)。これを長尺の映画にしちゃったら、間を持たせるために別の要素を放り込まなくてはいけなくなるでしょう。そうすると、夫婦が別の重力世界に分かれて暮らさなくてはならないジレンマ…すなわち、毎日お互いの姿を目の前に見ていながら、心だけが遠く離れ、すれ違い続ける熟年夫婦の憂鬱のメタファーであるというテーマが、薄れてしまうのではないかとも危惧します。ショートフィルムだからこそ、“倦怠期熟年夫婦による、愛情の再確認”という筋道がすっきり通ったわけでね。

ああそれにしても。今週末に開催されるアカデミー賞授賞式の結果はどうなるのでしょうね。ショートフィルム(アニメ)部門は、ディズニーが満を持してお届けする(笑)「紙ひこうき Paperman」が1人勝ちするのでしょうか。それとも地味だけど滋味深いアニメ「Head Over Heels」が高齢者社会に勇気を与えるのか。あるいは、アダムとイヴという人類の祖がエデンの園を追われ、はじめて心を通い合わせたわんことの交流を描く感動編「Adam and Dog」が、涙ながらにオスカー像を掻っ攫っていくのか。

今年のオスカーは、ショートフィルム部門にも大いに注目して観てみたいですねえ。


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