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zoom RSS 死せる魂との対話―「Solus」(short film animated)

<<   作成日時 : 2013/07/22 22:26   >>

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フランス生まれの哀感漂うショートアニメーション映画です。細部まで緻密に作りこまれた、非常に完成度の高い美麗なCGで綴られる近未来の物語は、しかしあまりに根源的な悲しみを揺さぶります。

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“Solus”

Solus from Solus LeFilm on Vimeo.



「SOLUS」
監督:Robin Bersot&Camille Dellerie&Mickaël Larue&Thomas Rodriguez
音楽:Vincent Gros,&Julien Denamur,&Laurent Faessel
声の出演:Vincent Grass,&Thomas Sagols
Mixing :Jose Vicente

カール老人は今日も定刻通りに目を覚ました。既に日は高くなっており、すっかり肉の削げ落ちた老人の頬や、いつの間にか真っ白になってしまった短い髪を眩しく照らしていた。

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カールはそのまま食事の支度をする。豆の缶詰を温めるだけのつましい料理。自分の分と、姿の見えないもう一人の友人“エディー”のためにもう一皿。これもいつもの習慣だ。エディーは自室に引きこもって出てこようとしない。これもいつものことだ。カールはだんまりを決め込むj友人のために、日当たりの良い場所に置いているピアノで軽やかなジャズ・ナンバーを弾く。このひと時だけは、彼は孤独であることを忘れられた。単調な日常生活を、何事もなかったかのようにやり過ごすたびに起こる心の軋みを感じずに済む。指に馴染む古いピアノの鍵盤からは、懐かしい昔と同じジャズの甘いメロディーが流れてくる。ピアノと音楽だけは、昔も今も彼の傍に寄り添ってくれ、時を刻むたびに輝きを増す昔の情景を心に写してくれるのだ。
一時の安寧を得たカールは、頑丈なブーツをしっかと履くと、まだ起きてこないエディーに一声かけて外に出た。昔のスタイルをそのまま保っているカールの古い家の中にいると、まるで時間が止まったかのような錯覚を覚えるが、外界は違う。廃墟と化した街には、およそ生きとし生けるものの姿は見えず、あちこちに草木が生い茂っている有様だ。まるでジャングルの中に打ち捨てられた古代の遺跡のように、かつて隆盛を誇っていた人間の文明社会は滅び、生い茂る緑の中で風化し、外観のみをところどころ残すのみとなっていた。

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人気のない廃墟の中をカール老人はさまよう。どこを見渡しても、人の形をしたものには出会わない。これが、今彼が置かれている現実だった。なぜこんなことになったのか彼には見当もつかなかったが、この異常な状況下で来る日も来る日も食べ物を探して歩くうちに、“生き物の気配”を捉える感覚だけは野生動物並みに研ぎ澄まされるようになった。今日はいつもと違い、別の何かが彼を待っている気配があった。道を折れ曲がると果たして、大木の下に人の足が2本突き出しているのが見えた。カールは慌ててそこに倒れていた少年の傍に駆け寄る。信じられないことに、彼にはまだ息があった。老人は急ぎ少年を家に連れて帰り、介抱する。

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やがて意識を取り戻した少年はサムと名乗った。だが、カールが一番知りたがっていたこと…サム少年の家族がどこかにいるのか、また、サムの他に生きた人間がいるかどうか…については、サムは何も答えることができなかった。記憶を失ってしまったようだ。それは仕方がない。カールにしたって、なぜ今まで自分だけが無事に生き残ってきたのかが、まるで分からないのだから。気がついたら、自分はたった一人でこの広い世界の中に置いてけぼりをくっていて、自分のほかに生きた人間を見つけることができないまま今に至っている。

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サムはカールの家の中を興味深げに見回していたが、老人のもう一人の同居人“エディー”のことを聞かされると、いぶかしげな表情になった。開かずの間となっている部屋の向こう側にエディーがいるとカールは主張するが、サムがここに来てからも、エディーは一度も顔を見せることがなく、ドアの向こうは不気味なほどの静けさを保っている。子供ならではの直感でエディーの存在を疑うサム。“カール、エディーとは誰なの?”上手く答えることができずにしどろもどろになるカール。サムに問い詰められ、ついに自分でエディーの部屋の扉を開けて中を確かめることにしたカールだが、躊躇が彼の手を止めてしまう。なぜ?その理由はすぐ明らかとなる。

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エディーが寝ているとカールが思い込んでいた部屋の中は空っぽであった。ベッドも家具の上にも埃が降り積もっていて、そこはもう随分前から誰にも使われていなかったことを物語っていた。カールはそれを認めるのが怖かっただけなのだ。自分にはエディーという名前の同居人がいて、彼はこの部屋でいつもグズグズ寝てばかりいるのだと信じていたかったのだ。孤独から逃れるため、無意識のうちに作り上げていた“エディー”という幻想を打ち砕かれたカールは、恐ろしい予感に襲われて急ぎ居間を振り返った。そう、認めたくはないが、“エディー”なる人間は存在しない。

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では、今しがた自分が連れて帰って来たサム少年は?木の下で倒れていたが、確かに生きていることを確認したはずの黒人の少年は?彼は存在するのか?それとも、恐ろしいほどの長い長い孤独に耐え切れず、老人が生み出した幻であったのか?それを確かめるために、カールはもう一度サムが気絶していた大木の元へ駆け出していった。


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スモーキーな熱気を孕んだ、甘く熱いジャズの音色はどこまでも艶やかです。それをピアノの音に乗せて演奏するカール老人は、一体どんな人生を送ってきたのでしょうか。具体的な描写は割愛されていますが、彼がうっとりと夢心地で鍵盤に指を走らせる様子から見て、まだ仲間が大勢いた頃の昔の彼は、きっとジャズ・ミュージシャンであっただろうと想像できますね。
仲間と音楽と活気に満ち溢れていた時代が終わり、彼自身もわけが分からぬまま、たった一人きりで夢の残骸の中で生き続ける凄まじき孤独。半ば諦めの境地に陥っているのでしょうが、それでもまだ、万が一にもどこかで仲間が生きているかもしれないと一縷の希望を捨てきれない彼の胸中を思うと、彼が毎日ピアノを弾く意味合いが大変重くなってきます。
人は死ぬ直前、これまで生きてきた道程を一瞬で思い返すそうですが、カール老人の場合は、毎日ピアノの音色に寄り添うことで、自身の人生の走馬灯を再確認しているのではないかと思います。過去の思い出を反芻してその先にある死と対峙し、恐ろしいほどの孤独に耐えて生きねばならない苦悩を、心の中で鎮めているのかもしれません。
あるいは、“エディー”という実際には存在しない同居人、また道端で発見した少年(“サム”という名前はカール老人が彼につけた名前でしょう)のように、カール老人が現実世界で辛うじて出会うことができた人間の死せる魂への、鎮魂歌であるともいえるでしょうか。

この作品に描かれるように、たった一人で広い広い世界を漂うように頼りなく生きていくということは、必ずしも荒唐無稽な話ではないようにも思います。今作が暗示するように、例えば何らかの大きな事件が勃発して人類が滅亡してしまったといった背景がなくとも、今の現実世界でも、カール老人と同じような立場に立たされた人間はいるのではないでしょうかね。家族の形態も変化し、生き方も多様化する中で、古きよき家族神話から孤立して老後を生きざるを得ない人が現にいますし、また今後もいっそう増えるでしょうから。
それに、老いていくということはすなわち、身近な人間を順番に見送っていった分だけ背負う思い出が増え、周囲から人が消えていき、最後に残された自分が死者との対話を続けることを意味します。取り残された孤独を癒すのではなく、孤独をも自分の生に取り込んでその一部としてしまうことを意味するのではないでしょうか。

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おそらく“エディー”も“サム”同様、カールがかつて発見した人間の屍だったと思われます。カールは、現実と過去の思い出と幻想が混沌とする意識世界の狭間で人間の亡骸を見つけ、そのむくろに残された思い出を汲み取って吸収し、まるで彼らが自分の傍で生きているように振舞っているのです。それはとてもやりきれないようにも見えますが、考えようによっては、道端に打ち捨てられた哀れな死せる魂への最高の供養であるかもしれません。なにより、エディーもサムも、今やカールの思い出の中に取り込まれ、彼の魂にしっかりと寄り添っています。おそらく、カールが天に召される日まで、3人は共にあるのでしょう。

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フランスでも、日本に負けずアニメーションの製作が盛んで、優れた作品が数多く生み出されています。この作品は、細部の緻密な表現が可能なCG映像の特性を生かし、光の淡い輝きとその儚げな影の対比、人物や建物、植物などの質感を生き生きと表現して出色であると思います。

そんな、美しいことこの上ないCGアニメが描き出すのが、映画「ザ・ロード」のような、どこまでもやるせない終末の物語であるとは。この世界観がなんであれ、洋の東西を問わず普遍的な生と死の悲しみを滲み出していることこそ、今作のもっともシニカルな部分であるといえましょう。


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