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zoom RSS Let's make a movie!!―「アルゴ Argo」

<<   作成日時 : 2017/06/05 19:00   >>

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映画界では、相も変わらず“真実の物語を基にした”作品の製作が盛んでありますね。しかし、史実に基づいた映画を作る際には、必ずといっていい程事実と脚色の間に格差が生まれ、それが作品そのものへの評価を左右してしまうジレンマに悩まされることになります。

実は、俳優ベン・アフレックがメガホンをとった「アルゴ Argo」も、史実との違いを指摘され、議論を巻き起こした作品でした。しかしやっぱり私個人は、この作品は映画への愛憎入り乱れる思いを抱えた映画人たちの、映画人たちによる、映画への尽きせぬ愛情を描いた映画なのだと理解しております。

日本で「アルゴ Argo」が劇場公開されたのは、2012年11月、オスカーを代表とする映画賞レースを意識した、大人向けの作品が封切られる頃でした。真夏のブロックバスター旋風がひと段落し、内容の充実した良作がお目見えする、秋口から冬にかけての時期ですね。

「アルゴ Argo」は、俳優ベン・アフレックの3本目の監督作品(他に「ゴーン・ベイビー・ゴーン」「ザ・タウン」)ですが、長らく低迷を続けていた彼の、事実上ハリウッドにおけるキャリア復活作にもなりました。オスカー戦線にも名乗りを上げ、第85回アカデミー賞で見事作品賞を獲得。しかし何よりこの作品は、私にとっては、良質の政治サスペンス映画でありました。


Argo?! F*ck Yourself!!

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「アルゴ Argo」(2012年)
監督:ベン・アフレック Ben Affleck
製作:グラント・ヘスロヴ Grant Heslov &ベン・アフレック Ben Affleck &ジョージ・クルーニー George Clooney
製作総指揮:デヴィッド・クローワンズ他。
原作:「アルゴ The Master of Disguise」 アントニオ・J・メンデス Antonio J. Mendez著
脚本:クリス・テリオ Chris Terrio
撮影:ロドリゴ・プリエト Rodrigo Prieto
プロダクションデザイン:シャロン・シーモア Sharon Seymour
衣装デザイン:ジャクリーン・ウェスト Jacqueline West
編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ William Goldenberg
音楽:アレクサンドル・デスプラ Alexandre Desplat
出演:ベン・アフレック(トニー・メンデス)
ブライアン・クランストン(ジャック・オドネル)
アラン・アーキン (レスター・シーゲル)
ジョン・グッドマン(ジョン・チェンバース)
ヴィクター・ガーバー(ケン・テイラー)
テイト・ドノヴァン(ボブ・アンダース)
クレア・デュヴァル(コーラ・ライジェク)
クリストファー・デナム(マーク・ライジェク)
スクート・マクネイリー (ジョー・スタッフォード)
ケリー・ビシェ(キャシー・スタッフォード)
カイル・チャンドラー(ハミルトン・ジョーダン)
クリス・メッシーナ(マリノフ)
タイタス・ウェリヴァー (ジョン・ベイツ)
シェイラ・ヴァンド(サハル)
マイケル・パークス(ジャック・カービー)
ロリー・コクレイン(リー・シャッツ)他。

1979年11月、イラン。民衆は、国家を破綻させたパーレビ元国王の身柄を保護するアメリカへの不満と、そんなアメリカに強硬な姿勢をとらないホメイニ師の外交政策の生ぬるさに不満を募らせていた。この月、アメリカの諜報機関CIAの“イランに武力革命の起こる可能性はなし”という判断を覆し、民衆は手に手に銃を持ち、アメリカ大使館に突入を試みた。イランとの戦争回避を最優先したアメリカ側の対応が遅れ、大使館は瞬く間に反政府勢力に占拠される。館内に残っていた52人の職員を人質にとった反政府勢力は、アメリカ政府にパーレビ元国王の返還要求を突きつけた。元国王をイラン国内で軍事裁判にかけ、処刑するためである。しかしこの混乱の際、裏口から密かに外に脱出した6名の職員がいた。

彼ら6名の脱走者たちは、カナダ大使の私邸にようようかくまわれたが、武力勢力に彼らの逃亡が発覚するのは時間の問題だった。当時のアメリカ大統領カーターは世界情勢を鑑み、強行解決を選択せず、武力勢力との交渉は遅々として進展を見なかった。それなのに、武力勢力は街中の外交官邸をしらみつぶしに調査しており、“裏切り者”がいないか目を光らせていたのだ。イランのアメリカ大使館内では、シュレッダーにかけられたはずの職員名簿の切れ端を繋ぎ合わせ、職員の頭数が合致しているかどうかの検証も急ピッチで進められていた。

6名の職員の逃亡が明らかになれば、彼らは即拘束され、残虐な公開処刑に処せられるだろうし、大使館内で人質になっている職員も見せしめのために処刑される。かくなるうえは、武力勢力に知られることなく、密かに6名を安全なイラン国外に脱出させるしか道はないのだが、大使館占拠事件が起こってから既に数ヶ月が経過し、6名全員をカナダ大使邸から外に出す方策は全く見つからなかった。

今回のミッションを厳重な国家機密事項とするため、国務省が6名の救出に乗り出した。しかし、最悪の状況にすぐ万策尽き、国務省はやむなくCIAに協力を求め、人質奪還のプロであるトニー・メンデスが召還された。メンデスは、6名を同時に、しかも武力勢力がたてこもっている危険な空港から脱出させることを主張、それを成功させるために一つの計画を練り上げた。

それは、架空のハリウッド映画撮影企画をでっち上げ、6人をイランにロケハンにやって来たスタッフに仕立て上げるというもの。そういう設定ならば、6人一緒に行動したとしても、少なくとも変な話ではない。彼らを迎えにプロデューサー役に扮したメンデスがイランに入国し、一緒に出国するという筋書きだ。前代未聞のアイデアであり、メンデス自身も今まで手がけたことのない方法だったが、カナダ大使に帰国命令が出された今、選択の余地は他になかった。一刻も早くイランから6名を救い出さねば、彼らをかくまっているカナダ大使の身にも危険が及ぶ。

メンデスは、旧知の仲で、特殊メイクアップ・アーティストのジョン・チェンバース(「猿の惑星」の特殊メイクでアカデミー賞受賞)にコンタクトをとった。彼らは、ハリウッドの大物プロデューサーで機密事項を守ることのできる、信頼に値する人物レスター・シーゲルの協力を仰ぎ、SFファンタジー大作「アルゴ」の製作を大々的にぶちあげた。脚本に基づいてポスター、絵コンテも制作、キャスティングも行い、役者全員をそろえてハリウッドで派手な製作発表記者会見も敢行。架空の映画製作ではあるが、こうした手続きは本物の映画製作さながらに踏まれ、シーゲルの尽力でバラエティ誌にも記事と広告が掲載された。イランから出国する際には、こうした確かな“証拠”が必要になってくるからだ。

ハリウッドの一角に設けられた仮の“映画製作事務所”では、万が一のために備えてチェンバースとシーゲルが常時待機する。メンデスがいよいよイランに入国する日がやってきた。この奇想天外な救出劇が成功するかどうかは、神のみぞ知る。メンデスを含めた3名は、仮事務所で酒を酌み交わした。合言葉は“Argo?! F*ck Yourself!!”だ。たかが大衆の娯楽の慰みものに過ぎない映画が、実際に人の命を救うことができるのか。このミッションは、メンデスのみならず、チェンバースとシーゲルが映画にかける深い愛情が試されるものでもあった。彼らの思いと共に、メンデスはイランに入国した。


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“OK, let's make a movie!”

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この作品が取り上げている題材は、異国間での摩擦に基づく、非常にデリケートな問題を孕んだポリティカルな内容なので、主義主張によっては様々な意見も飛び交うことになるとは思います。しかし、純粋に“サスペンス映画”として観れば、これはなかなかの快作だといえるでしょう。宗教や歴史、信条に振り回される人間の哀れさ、あるいは、虚実入り混じる心理合戦、命の危機に瀕した人間達による思いがけない行動といったものを、間に合うのか?ダメなのか?!という胃が痛くなるようなサスペンスにくるんで力強く描いています。作品全体から立ち昇るのは、奇々怪々な“人間”という生き物の生態を、この信じがたい史実を通じて紐解く真摯な姿勢。一人のアメリカ人として、彼らの国家が関与してきた歴史上の事柄に対し、アフレック監督は最大限誠実に意見を述べようともしていると感じました。

そして映画を観終わった後には、この作品全体が、実は“映画”という愛すべき芸術形態へのオマージュになっていたことがわかります。映画が大好きなゆえに、ハリウッドへの愛憎入り乱れる正直な思いが所々で噴出している様子も、また同じく映画が大好きな我々観客にもよく伝わってくる語り口でした。

そう、この「アルゴ」という作品のテーマとは、今まで繰り返されてきたアメリカの外交政策の過ちを糾弾するようなものではないのです。映画で政治を語ってはいけないし、政治を語りたいなら別の場所で別のツールでやるべき。映画を政治の道具にしてはいけません。この作品はあくまでも、例え国や信条が異なっていても、利害を超えたところで団結・協力し、奇跡を生み出した人達への純粋な賛辞を描いているのですね。国家としてのアメリカが犯してきた間違いをあげつらったり、それらを懺悔したりする内容を期待すべきではないと思っています。

ともあれ、監督としてのベン・アフレックの語り口の巧みさに、今更ながら感心させられているところ。「ザ・タウン」では、その肝心な演出の冴えがあまり見られなかったようにも思いますが、「アルゴ」は会心の出来栄えではなかったでしょうか。絵自体に70年代風のレトロチックな雰囲気が付加されていることもあり、70年代に量産された社会派サスペンス映画群のような、奇を衒わない、しかし確実に観客の心拍数を跳ね上げる、視座と時間軸の自在なる交錯演出が強く印象に残ることになりました。何度見返してみても、その流れるような演出の手練れ、時間軸と視座が交錯しても観客を惑わせない視点の力強さに感動します。この作品は、政治的イデオロギー云々ではなく、“ストーリーを語る”醍醐味を感じる映画だと思っていますよ。そして、まさしく映画にしかできない方法で、普段は眠っている人間の本質の素晴らしさを語り、称える作品でもありますね。

「アルゴ」には魅力的なキャラクターがたくさん登場します。彼らの織り成す人間ドラマも、その一つ一つが愛おしいエピソードでありました。主人公は、人質救出を専門とするCIAエージェント、トニー・メンデス(今も健在)ですが、彼の周りに配された人々がどれも生き生きと描かれていて飽きませんね。脱出した6名のキャラクターが鮮やかに描出されているのはもちろんのこと、ハリウッドでメンデスを援護したチェンバースとシーゲルの凸凹コンビも印象深い。また、政府の勝手なやり口に憤然と反旗を翻して男気を見せたメンデスの上司も、出番は少ないながら存在はピカ一。自らも危険を犯して、6名の脱出者とメンデスを支えたカナダ大使夫妻の威厳ある佇まい、イラン人としての忠節よりも大使夫妻への恩義を優先した少女サハル(彼女はその後カナダ大使の尽力でイラクへ脱出しています)の勇気…。例を挙げていけばきりがありません。群像劇としての面白さもまた格別なのです。

イランの複雑な歴史背景を、映画の絵コンテ風のイラストで解説するオープニング、一見するとアーカイヴ映像と見間違える程、実際の映像を踏襲したアメリカ大使館占拠シーン、実在の人物を演じる役者と本物との驚異的な類似、ハリウッドで一から映画を作っていく手順のリアリティ、“…そして皆は平和に暮らしましたとさ”という絵コンテで締めくくられる、牧歌的ともいえるラストシーン。リアリティを求められるところは徹底してリアルを追求し、現実離れすることが必要なシーンでは意図的に“映画”であることを強調する、緩急自在の演出。現実と夢の世界を自由に往復できる映画ならではの表現方法に酔ううち、作り手の映画へのあふれんばかりの愛情が、今作を構成する全ての要素を飲み込んでエンドロールに突入していきます。カーター元大統領のこの“アルゴ作戦”へのコメントを聞いていると、私までもが満更でもなく幸せな気持ちになってくるのですから、不思議なもんですね。

やはりこの作品は、社会派ポリティカル・サスペンスというカテゴリに納める以前に、“映画”そのものへの愛情に溢れた映画なのだと認識する必要がありそうです。劇中で、メンデスが6名の脱出者にハッパをかけたように、“Let's make a movie!”という言葉が、実は今作の本質を物語っていると後から気づいた次第です。

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事実は小説よりも奇なり。


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たかが映画、されど映画。大衆の慰みものだといえばそれまでだけど、こうして実際に映画が人の命を救ってしまった史実を目の当たりにすると、チェンバースとシーゲルじゃありませんが、抱き合って肩を叩き合って涙流しながら大笑いしたい衝動に駆られますね。

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