Don’t steal my posts. All posts on this blog are written by me.

House of M

アクセスカウンタ

zoom RSS 館長家漫画まんだら その3―「帽子男」(comic book)

<<   作成日時 : 2015/04/07 19:49   >>

面白い ブログ気持玉 4 / トラックバック 0 / コメント 0

全身全霊を込めた、ゆるゆる不条理ナンセンスギャグ・ハードボイルド・ノワール漫画(笑)。


帽子男 (BEAM COMIX)
エンターブレイン
上野 顕太郎

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 帽子男 (BEAM COMIX) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


実は、この上野顕太郎氏については不勉強でほとんど何も知らない。講談社から出されていた「帽子男は眠れない」「帽子男の子守唄」の両作品を編集し、さらに特別書き下ろし作品も収めた“完全版”として復刊された今作も、父豆がかつて同作品の大ファンだったことから知った。後付けの知識からご紹介すると、この上野氏(愛称:うえけん)、とにかく寡作な作家らしく、モーニングで連載していたこの“帽子男”シリーズも、不定期掲載という形だったそうだ。
うえけん氏が寡作だった本当の理由はわからないが、作風を見ると、とにかく緻密な背景画でコマを濃密に埋め尽くすタイプで、ひとつのコマを完成させるのにかなりの時間がかかったせいかもしれないとお察しする。この「帽子男」でも、主人公の帽子とトレンチコートの“男”の背後には、物語とは直接関係ないポスターやらルネ・マグリッド、ヒエロニムス・ボス等の不条理世界を表現する暗黒絵画、あるいは、魔夜峰夫もビビるような緻密な妖怪画がびっしりと描きつくされているのだ。それだけでも鑑賞に充分堪えうるのではなかろうか。

しかし、この帽子男の本領はそこにはないというのが、別の意味で凄いと思う(笑)。実はこの作品、“90年代ギャグ漫画の最重要作品”(榎本俊二談)と位置づけられているのだから。父豆が今作を私に勧めてくれた理由も、“とにかくくだらねえギャグが全力を込めて描かれている”点に尽きる。

一応基本のストーリーは、トレンチコートに帽子を目深に被ったハンフリーボガード気取りの粋な“男”(名前はない)が、執拗に追ってくる謎の組織から逃亡を続ける、というもの。ただそれだけだ。その組織が何なのか、また男が何をやっていて組織に追われる羽目になったのかという、ストーリーラインを深めるような説明は一切ない(笑)。ただただ、組織から放たれたと思しき殺し屋と、帽子男(時折、一緒に逃げている風情の女も)の仁義なき死闘(落ち葉の数や、死に際に何が欲しいかでいちいち揉めたりはするが・笑)が至極リアルに描かれているだけなのだ。

しかし、組織から命を狙われているらしいのに、また彼の周囲では追手が死んだりもしているのに、帽子男の世界観には“悲壮感”というものがさっぱり感じられない(再笑)。今作の面白さのポイントは、帽子男が独自のハードボイルド世界を大真面目に生きつつ、周囲ではごく普通の生活情景がみられるというギャップにある。非現実(帽子男の逃亡劇)と現実(帽子男の背後にある日常世界)の間に起こる著しいギャップも笑えるのだが、また、それをものともしない帽子男の超マイペースっぷりも、充分に可笑しい。

彼は、独自の非現実世界観を保持したまま、何の疑問も持たずに普通の現実世界と接触し、そしてなんとなく上手く折り合いをつけてしまうのだ。ギャップの可笑しさと、それに動じない主人公の言動の可笑しさという、二段構えのお笑い構成である。それが、異様に迫力のある、そして更に本筋とは無関係な世界観を構成する(笑)背景の中で展開されると、なんともいえない不条理で奇妙な味わいの笑いが、腹の底からクスクス湧き上がってくる。そう、一目見てすぐ大笑いできるような類の笑いではないが、何度でも読み返して、そのあまりのくだらなさ故に、ついクスクスッと含み笑できる作品なのだ。蛇足ながら、唐突にコマ内に放り込まれる笑いのツボがいちいち細かく、子供っぽいのもいい。

今作を称して、“笑いの基礎と応用そして実験の果ての大爆発”とするそうだが、これは言い得て妙だ。シリーズ当初こそ、組織からの追手との真剣かつお間抜けな戦いがあったり、情婦らしき女(こちらもトレンチコートを制服のように纏っている)と雰囲気だけ“カサブランカ”ちっくな世界(アイスコーヒーを飲んだか飲まないか、あるいは、お子様ランチが食べたいか否か、遊園地に行きたいか否かで壮絶な腹の探りあいをするのだが・爆)を作ったりして、基本のストーリーにそれなりに沿った展開がある。しかしお話が進んでいくにつれ、帽子男が何から何のために逃げているのか、もはやどうでもよくなってくるのだ(笑)。帽子男は、ただ単にカサブランカ的なハードボイルド世界観を象徴する、日常生活からは著しく浮いた人物として設置されるだけであり、彼が周囲にいる普通の人々と繰り広げる頓珍漢なやり取りが、むしろクローズアップされることになる。それはあたかも、帽子男という触媒を通じ、様々なお笑いのメソッドを組み合わせた挙句、最後は“メソッド”に収まりきらない不条理なお笑い世界が生まれてしまったという、実験結果を見るようだ。お笑い実験の大爆発の後、帽子男はどこを彷徨うことになるのだろうか。飲み屋で呑んだくれ、意識を失っているうちに酒場のお姉ちゃんに頬をひっぱたかれ、腹にイタズラ描きまでされた帽子男、真相を解明しても彼に帰る場所はない。もはやその意義もわからない逃亡劇に、安息の日は来ないようだ。

帽子男が読者の胸に産み付けていくこの不条理さと、何となく物悲しい余韻こそ、うえけん氏が普段から切実に感じている“自分自身と日常世界とのギャップ”ではなかろうか。小林多喜二の「蟹工船」を“蟹光線”と空耳したり、壺井栄の「二十四の瞳」を“二十四の瞳を持つ怪物”と空耳する、渾身の脱力系ギャグとは裏腹に、帽子男を取り巻く世界がウェットかつブラッディな男のロマンに彩られているのは、うえけん氏の創作者としてのパーソナリティーの所以だと思う。

ま、どこかで見かけたら手にとってみてくれ、どうせヒマだからなっ!!


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 4
面白い 面白い 面白い
ナイス
館長家漫画まんだら その3―「帽子男」(comic book) House of M/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる