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zoom RSS Love or Hate?ー善悪の彼岸。

<<   作成日時 : 2017/04/10 17:30   >>

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“自分がどんなひどいことを行うかわかっていても、怒りは抑えられない。人間に最大の禍をもたらすのが怒りである。 I know indeed what evil I intend to do, but stronger than all my afterthoughts is my fury, fury that brings upon mortals the greatest evils. I understand too well the dreadful act I'm going to commit, but my judgement can't check my anger, and that incites the greatest evils human beings do.” ―「王女メディア Medea」(エウリピデス Euripides著)より


“正義の為の殺人”なんて存在しない。人殺しは、ただの人殺しだ。そこに何の意味もない。


アメリカを始め世界中で放映されている長寿テレビ・ドラマ「クリミナル・マインド(“犯罪心理”の意) Criminal Minds」には、その番組タイトル通り、様々なタイプのシリアルキラーが登場する。同番組の興味深い点として、起こった連続殺人事件の捜査と平行して、当事者たる犯罪者自身のドラマも進行していくことが挙げられるのだが、そのため、全てのエピソードにある一定の感覚が付加されているといえる。

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視聴者は、卑劣な犯罪の全貌が白日の下に晒されていくカタルシスを味わうと同時に、その犯罪を引き起こした犯人が、元はといえば自分達同様、社会を構成する一市民であったというまぎれもない事実を突きつけられるのだ。私やあなたと同じように生きていたはずの人間が、あることをきっかけに、坂を転げ落ちるように社会から脱落し、人間としての矜持も捨て去った犯罪に堕ちてゆく。私たちは、何も犯罪の被害者側になるばかりではない。加害者側に立ってしまうのも、私たちと全く同じ人間であるのだ。その差といえば、ほんのちょっとしたボタンの掛け違え程に過ぎない。
ドラマや映画に出てくるような殺人事件なんて、人生の中でそうそう出くわすことのない特殊な出来事だ。どこか別の次元の絵空事だと割り切っているからこそ、私たちは毎週のように恐ろしい犯罪を扱った陰惨なドラマを“娯楽”として楽しんでいる。しかし、そんな“絵空事”の映像の中で、ふとした拍子に日常生活の中に埋没する真理が明らかになる瞬間も、確かにあるのだ。それは、古今東西の映画やドラマで繰り返し用いられているモチーフでもある、“善悪の境界線の曖昧さ”だろう。

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第4シーズン後半から第5シーズン前半にかけて、「クリミナル・マインド」というドラマそのものと、主人公ホッチナー捜査官の人生をも大きく揺さぶった、連続殺人鬼“リーパー”とホッチナーの闘い。彼らのストーリーには、映画「セブン」や「羊たちの沈黙」、はたまた「ヒッチャー」と共通する匂いを感じる。すなわち、善と悪の間に横たわる境界線の危ういまでの曖昧さである。

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名優チャールズ・ロートンがただ1作だけこの世に残した監督作品「狩人の夜 The Night of the Hunter」の頃は、犯罪にとって古き良き時代だったといえるかもしれない。イエス・キリストの教えはまだ大きな力を保持しており、従って善と悪の間には明瞭なる境界線が敷かれていた。だからこそ、この作品の中の悪漢、インチキ伝道師パウエルは、“Love”あるいは“Hate”の厳粛な二律背反で完全に解明されたのだ。夫をパウエルに殺された未亡人は、パウエルの魔の手から子供たちを守るため、正義の銃を掲げる。“正義のための暴力”が“暴力のための暴力”を駆逐することが、拍手喝采でもって称えられた。そこに、何の疑問も欺瞞の余地もない。
しかし、今の状況はどうだ。善良な市民が、ある日を境に世にも醜悪な殺人者に変じている。ためしに新聞を広げてみれば、毎日のようにそれを痛感させられる事件に出くわす。普段見慣れている風景の中に、ひっそりとごくつつましく息を潜めている“悪”の誘惑。人間が、完全なる理性を以ってそれを退けることは、残念ながら不可能に近い。

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「セブン Seven」では、神に成り代わって被害者達に7つの大罪を贖わせようとした殺人鬼ジョン・ドゥが登場する。彼の深層心理は興味深い。彼は、彼という人間の犯罪心理を完璧に分析してみせたサマセット刑事ではなく、その相棒である野心満々な新人刑事ミルズをターゲットにした。ミルズを殺すためのターゲットにしたのではない。“完全なる悪は、善や正義を屈服させることができるのか”という究極の問題に解答するため、ミルズをいわば実験台にしたのである。悪が善を凌駕する。それは、善と悪の境界線が果てしなく混濁していき、やがては悪の色一色に世界が塗りつぶされることを意味する。悪の圧倒的なパワーの前に善が跪くことこそが、ジョン・ドゥ、あるいは「羊たちの沈黙 The Silence of the Lambs」でおなじみの殺人鬼ハンニバルや、「ヒッチャー Hitcher」の死の天使ジョン・ライダーの最終目標だろう。

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だからこそ彼ら絶対悪は、死をも恐れないのかもしれない。“悪の勝利”という崇高な目的が達成されるためなら、自らの肉体が滅ぶことなど些細な犠牲に過ぎない。それが証拠に、ジョン・ドゥもジョン・ライダーも、至福の表情すら浮かべて死に臨んだ。

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「クリミナル・マインド」のリーパーもまた、最後の最後までホッチナーに執着した。それは、善と悪が実はコインの表裏という関係だからだ。善悪の彼岸は、今やその輪郭すら見定められないほど曖昧模糊としているが、そうなってしまった主な要因といえば、それらが切っても切れない関係にあることだろう。
警察機構の人間として、日夜悪と戦うホッチナーには、もちろんそのことが充分すぎるほどわかっていた。リーパーとホッチナーを隔てるのは、絶対悪と戦うにはあまりに頼りない武器… 例えば“他者への愛情”であるとか、“自らの信じる正義”といったような感情だけなのだ。だからこそリーパーは―あるいはジョン・ドゥ、ハンニバル、ジョン・ライダーでもいい―、善と悪の境界線を侵そうと執拗に攻撃を仕掛けてくる。彼ら絶対悪が一様に望むように、“悪”が“善”を屈服させねばならないのはなぜか。“善”にとって“悪”が禁忌であるように、“悪”にとっても“善”とは、すぐ傍にいながら手に入らぬ禁断の果実と同義であるからだ。

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「羊たちの沈黙 The Silence of the Lambs」で、殺人鬼ハンニバルは執着するクラリス・スターリング捜査官の中に、自らと同じ世界を見出した。続編「ハンニバル Hannibal」では、ハンニバルはクラリスを服従せしめるだけに飽き足らず、さらに一歩進んだ未知の領域に足を踏み入れた。彼女と同化しようとしたのだ。“悪と善の融合”である。
今の今まで、善もしくは正義であったものが、悪を倒すために同じ殺人の大罪を犯したとしよう。この瞬間、“悪”と“善”の境界線は完全に見えなくなる。そして、正義のためという大義名分にも拘らず、“善”であったものは限りなく“悪”と同化してしまう。映画のお話の中では、表向き、“善が悪を倒した”カタルシスの瞬間であろう。お定まりのシークェンスだ。だが真実はそうだろうか。

「セブン Seven」や「羊たちの沈黙 The Silence of the Lambs」、「ヒッチャー Hitcher」などの作品には、この、“善と悪が完全に重なり合う瞬間”が存在する。前述したリーパーとホッチナーの死闘の最中にも、それは確かに存在する。卑劣な悪が倒された興奮で忘れられているが、実はそのとき同時に、観客は善が敗北した悲劇に直面しているのだ。いや、私たちが“カタルシス”と呼ぶこの瞬間こそ、実は悪の勝利を喜ぶ背徳への抗いがたい誘惑であるのかもしれない。


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