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zoom RSS 睥睨する子宮―ノートルダム大聖堂Cathedrale Notre-Dame de Paris

<<   作成日時 : 2017/03/04 21:04   >>

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考えてみれば、このノートル・ダム大聖堂という建物は、一種の異形であるでしょう。

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1163年から建築が始まった本聖堂は、当時隆盛したゴシック建築様式を大胆に取り入れつつ、最終的に1345年に完成を見るまで実に200年近くの歳月がかけられています。

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ヨーロッパ社会、ヨーロッパ史における“宗教”の占める位置は、私たち日本人には計り知れないほど大きなものがあるといわれます。門外漢である私が、今ここでそのことについて気軽に何かを書けるほど、単純な話でもありません。しかし、こうして間近に大聖堂を見ていると、宗教の持つ多大なパワーに圧倒されてしまうのは確かですね。

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正門。

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門の周囲を取り囲むように施された繊細な彫刻。

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私がこの建物を異様だと思う一番の要因は、切り立った崖のように上へ上へと聳え立つ構造ですね。そして建物の周りに、無数の人間や人外の生き物の、リアル極まる彫刻があることです。これらの彫刻の一つ一つに、宗教的な意味合いが込められているのでしょうが、私にはどうしても“人柱”のように見えて仕方がないんですよね。

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世界の歴史を紐解いてみても、宗教が血なまぐさい抗争と無縁ではないことは明らか。この美しい建物を舞台に、名もない多くの市民の尊い命が奪われていったこともあるでしょう。どこか哀しげな表情をしたこれらの彫刻が、ここで流されたたくさんの血を吸っているかもしれないと思うと、やはり背筋にヒンヤリしたものが走ります。

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大聖堂の周囲をぐるりと一周してみるとよくわかるのですが、外壁に面した場所にある細かい彫刻は、ところどころ欠けている部分があったり、磨耗によって既に元の形を留めていなかったりしました。パリの歴史の光と影をつぶさに見つめてきたこの威容なる大聖堂も、さすがに老朽化には勝てないようですね。


しかし、ひとたびこの大聖堂の中に入りますと、先ほど書いたような“異形”という表現とはまた違った感慨が湧いてきます。

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この建物は、やはり訪れる者にとっての還るべき胎内、言い換えれば“子宮”であると実感できるのです。

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単純に建物内の広さが半端ではないということ以上に、天とのつながりを暗示する高い天井と、丸みを帯びた意匠の内装に、私たちは無意識のうちに安心感を覚えるのでしょうね。

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ノートル・ダム(私たちの貴婦人)という名前をいただくこの大聖堂はまた、フランス史に名を残す数々の聖人像が奉られています。

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聖堂の中には、他にも宗教的イコンが多数納められています。

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教会、聖堂といえばステンドグラスが欠かせません。パリ市内だけでも、目にも鮮やかなステンドグラスが多数存在しますが、やはりここノートル・ダム大聖堂のそれは別格。

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これが大聖堂のバラ窓。

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各建造物によって、ステンドグラスの色合いは微妙に異なっているものです。それぞれの建物に特徴的な“カラー”があるといいましょうか。

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ノートル・ダム大聖堂が、フランス中にある宗教的建築物の総本山のひとつであるならば、ステンドグラスにおいても同様だと言えますね。ここでは、あらゆるカラーパターンのガラスが使用されていながら、それらが不協和音を奏でることなく、絶妙なバランスを保って太陽光線を中に導きいれているのです。


大聖堂の中には、有料の展示スペースもあります。大人1名あたり3ユーロを払えば、大聖堂の所有する至宝を見学することが出来ます。

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実際に、様々な儀式の際に用いられた貴重な品々。

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今更ながら、“キリスト”というシンボルの影響力の大きさを思い知らされるばかりですね。

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歴代の大司教、法王の肖像。

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やはりここには、キリスト教の魂が眠っているような気がしてなりません。



ノートル=ダム・ド・パリ (ヴィクトル・ユゴー文学館)
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「レ・ミゼラブル」などの傑作を多く世に問うた作家ヴィクトル・ユゴーの、これまた著名な作品ですね。15世紀のノートルダム大聖堂を軸に、様々な階層の人民でカオス状態であったパリに住まう人々の織り成すドラマを描いた群像劇。ユゴーらしいエネルギッシュな筆致で、この長大な物語を一気に読ませてしまう迫力に満ちています。

当時教会は、宗教の人民への影響力を背景に、パリ市民を暗然と支配していました。物語の中心となるのは、大聖堂で副司教を務め、神に魂を捧げたはずのクロード・フロローです。彼はある日、大聖堂の前に捨てられていた醜い赤ん坊を拾い、カジモドと名づけて聖堂内で育てます。長じたカジモドは自らの恐ろしい外見を恥じ、聖堂内に身を潜めるようにして暮らしながら、決まった刻限に鐘をつく仕事につきました。彼にとって、育ての親であり、命の恩人でもあるフロローは絶対的な存在。
ために、聖職にありながら、パリにやってきたジプシーの踊り子エスメラルダに恋したフロローに、娘を攫ってくるよう命じられれば、例えそれが間違いであってもカジモドに反論の術はありません。カジモドはエスメラルダを誘拐しますが、すんでのところで衛兵フェビュスに捕縛され、公衆の面前で鞭打ちの刑に処された挙句さらし者になってしまいました。民衆がカジモドを唾棄する中、彼を哀れに思ったエスメラルダは、ただ1人彼に手ずから水を与えて癒します。初めて他人から情けをかけられたカジモドは、その瞬間エスメラルダに純粋な愛情を抱いたのでした。ところが、肝心のエスメラルダの心は、既にハンサムなフェビュスのものになっていたのです。エスメラルダには幼馴染の恋人がおり、フェビュスの方にも婚約者がいましたが、障害があればあるほど燃え立つのが恋というものでしょう。
一方、想いを果たすことが出来なかったフロローは、エスメラルダへの捩れた劣情の虜となり、彼女とフェビュスの後を付回すようになります。森の中で逢引する2人を見てかっとなったフロローは、フェビュスを剣で刺して逃げ出しました。恐怖と驚愕の中、現場に取り残されたエスメラルダは、フェビュス刺殺の犯人として捕らえられて死刑を言い渡されました。最終的にエスメラルダを救ったのはカジモドでしたが、この事件をきっかけに、圧政に苦しむ民衆の不満が爆発寸前まで膨れ上がります。フロローは、パリに不穏な空気が充満するのを察知し、副司教の権限を駆使して密かに聖堂内に匿ったエスメラルダを、混乱に乗じて連れ出そうとします。しかし、彼女は恋人を殺したフロローを許さず、拒否。ついに狂ったフロローは、彼女を衛兵に引渡してしまいました…。

何度も映画化され、テレビドラマやらミュージカル、果てはバレエ化されたものまで含めれば、翻案作品はおそらく無数にあるであろう名作ですね。そうそう、ディズニーが「ノートルダムの鐘」のタイトルでアニメ化もしていました。「ノートルダムのせむし男」のタイトルを思い出す方もおられると思います。
それほど様々な映像の題材になったこの小説は、しかし翻案作品がストーリーやキャラクター設定を若干改変しているのに対し、あくまでも当時のヨーロッパ社会のリアリティを追求しております。
なにより、今作の大きなテーマが、王政や教会の支配に苦しんでいたパリ市民の側に立って、その生態をつぶさに見つめることであり、彼らのパワフルな社会の中で育まれる様々な形の愛情を、共感を持って描くことにあるのです。確かに、この群像劇の中心になり、物語を進める牽引力になるのが、聖職にありながら美女エスメラルダを狂おしく欲するフロローです。従って、彼とエスメラルダ、そして哀れなカジモドの関係性に焦点が当てられがちなのですが、実は彼らの物語は小説の中では綴れ織りの一部。この壮大な作品は、当時のパリ社会を、人間と人間の織り成す最も強い感情である“愛情”の側面から解読し、それをノートルダム大聖堂にシンボライズしたものだと思います。男女間の愛情のみならず、親子や兄弟間の愛情の複雑さ、捩れた肉欲に対する純粋な愛情を見つめ、またそれが別の諍いを誘発する様子を、大聖堂の塔の上から俯瞰するように描出するのです。
映画化された作品のラストと、原作のそれはかなり異なっています。まあ、映画にする以上、それにふさわしいラストにしなければ観客の納得を得られない事情はわかりますが、私自身は、張り巡らされた伏線が最後に一気に収束し、美しいとさえ言えるクライマックスを迎える原作の方が好きです。ハッピーエンディングではないんですけどもね。しかし形あるものは、いずれ全て無に帰するものなのです。

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