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zoom RSS 妄想と現実の綱渡り―ビル・コンドン監督 と「The Fifth Estate」

<<   作成日時 : 2013/07/17 22:19   >>

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今や、“「ドリームガールズ」のビル・コンドン監督”と称した方が、通りが良くなってしまったのかしら。あるいは、ラジー賞に輝いてしまった「トワイライト」シリーズ最終章の監督としての記憶の方が強烈か。ビル・コンドン監督は大好きな映画作家の1人ではありますが、今後の彼の方向性に一抹の不安を抱かずにはおれませんでした…(苦笑)。

ところが、捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったもの。コンドン監督の迷走は、第1段トレーラーがお目見えしたばかりの新作「The Fifth Estate」で軌道修正できる可能性も出てきました。今日は、そんなビル・コンドン監督のおさらいをしてみましょう。


私が知りたいのは、妄想が現実を凌駕するとき人はどう行動するのか、なんだ。

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ビル・コンドン Bill Condon

1955年10月22日生まれ
アメリカ、ニューヨーク州ニューヨーク出身

Regis高校を卒業後、マンハッタンにあるジュズイット派の神学校で学び、コロンビア大学で哲学を修める。大学在学中に映画製作に興味を持ち、卒業後は映画評論家となった。アブコ・エンバシーで、1年間広報を担当した経験もある。脚本家として、数本のテレビ番組や低予算映画の製作に関わった後、1987年の「地獄のシスター」で監督デビューを飾った。第81回アカデミー賞授賞式のプロデュースを務めた。

●フィルモグラフィー

2013年『The Fifth Estate』監督
2012年「トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part2」監督
2011年「トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part1」監督
2011年『Tilda』監督/脚本
2010年『The Big C』(TVシリーズ)監督
2006年「ドリームガールズ」監督/脚本
2004年「愛についてのキンゼイ・レポート」監督/脚本
2002年「シカゴ」脚本のみ
1998年「ゴッド・アンド・モンスター」監督/脚本
1995年「キャンディマン2」監督
1993年『不死身の男』(TVムービー)監督
1992年『デッドリー・ファーザー』(TVムービー)監督
1991年「F/X2 イリュージョンの逆転」脚本のみ
1991年『殺人調書101』(TVムービー)監督
1991年『デッド・イン・ザ・ウォーター』(TVムービー)監督
1991年『ホワイト・ライ』(TVムービー)監督
1987年「地獄のシスター」監督/脚本
1983年「ストレンジ・インベーダーズ」(未)脚本のみ

愛についてのキンゼイ・レポート」をご覧になった方は多いと思います。みなさんどういう感想をお持ちになったでしょうかね。この作品に対する映画評に目を通しましたが、評価は割れているようです。…いい映画なんだろうけど、何が言いたいのかようわからん。今ひとつ、作品のテーマがどこを向いているのか理解できなかった方が多いように感じましたね。
コンドンはまず脚本家としてキャリアをスタートさせたようです。それも、サスペンスやホラー、スリラーなどのジャンルを主に手がけています。これは、そういったジャンルものが得意ということを意味するわけではなく、下積み時代の映画人なら皆等しく経験するものでありますよね。ですが、いやにミュージカルづいている最近のコンドン監督を見ていると(苦笑)、決して本意ではなかったであろう、そんな下積み時代の諸作品にこそ、実はコンドン監督の作家としての本質が鋭く屹立しているのではないかとも思えます。
実際、映画監督としてデビューした1987年の「地獄のシスター」では脚本も自ら手がけ、サスペンスフルな演出を手堅く行っていますね。

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「地獄のシスター」(1987年製作)
監督:ビル・コンドン
製作:ウォルター・コブレンツ
脚本:ビル・コンドン
撮影:スティーブン・M・カッツ
音楽:リチャード・エインホーン
出演:エリック・ストルツ(マット)
ジェニファー・ジェイソン・リー(ルーシー)
ジュディス・アイヴィー(シャーロット)
ベンジャミン・モートン(エティエンヌ)他。

ルーシーは、ルイジアナで姉のシャーロットと共同でホテルを経営していた。彼女は、ホテルの近くにある沼地に男性の幽霊が出没するのを目撃するようになる。おびえ、精神が不安定になっていく。
ある日姉妹のホテルに、一人の男がやってきた。男の名はマット。ルーシーは徐々にマットに惹かれていく。そんな彼女を姉は不安げに見守っている。ルーシーには幼馴染のエティエンヌがいたが、彼はマットを毛嫌いし、ルーシーとマットの中を邪魔立てするのだった。
やがてルーシーはマットと愛し合うようになる。シャーロットは姉妹にまつわる陰惨な過去におびえる。昔、ジャドという若者にレイプされかけたシャーロットを助けるべく、ルーシーがジャドを殺害し、死体を沼地に埋めたのだ。ルーシーの見る幽霊はジャドだったのか。
そして、その事件の目撃者でもあったエティエンヌが、ある日殺害される。犯人はマットであった。マットはジャドの弟で、復讐のために姉妹のもとへやってきたのだ。ルーシーは、正体を現し殺人鬼と化したマットと死闘を繰り広げ、倒すことに成功する。

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出演陣が、実に懐かしい80年代を思わせる顔ぶれで(笑)、なかなか興味深かったのですが、この作品はサスペンスものとしてはまあ及第点でしょう。ジェニファー・ジェイソン・リーの情緒不安定演技は、そのほかの作品でも明らかなように、まるで地かと思わせるほどでしたしね。
コンドンは、このデビュー作からすでに、妄想と現実の間をたゆたうような人物(ルーシー)を執拗に描いております。ルーシーに見える幽霊は、かつて殺人を犯したという彼女の罪の意識が妄想となって彼女自身に迫っているものと解釈できます。ルーシーは、マットという男の姿をした「妄想」の具現化と戦うことによって、ついに自らの妄想に打ち勝ち、現実世界の混乱を収めることができたのですね。

実は、この“妄想”と“現実”、そしてそれらが渾然一体となる陶酔の一瞬こそが、コンドン作品のキーワードだといえるのです。その後の彼の作品―「ゴッド・アンド・モンスター」でも舞台の脚色を担当した「シカゴ」でも、妄想と現実の狭間で揺れているような、エキセントリックな人間の生態を克明に追っています。「ゴッド・アンド・モンスター」では引退したホラー映画監督ホエール、「シカゴ」ではスターを夢見て殺人を犯すロキシーがこれに相当しますね。
そんな彼らが、自らの妄想に現実世界を凌駕されそうになったとき、一体どういう行動をとるのか。映画作家としてのコンドンの関心は、そこにあるのではないでしょうか。その流れで見れば、「愛についてのキンゼイ・レポート」でのキンゼイ博士の描かれ方も納得できる部分があるのですね。



…そして、紆余曲折を経た今。


国家あるいは大企業によって巧妙に隠蔽された“真実”を白日の下に晒す(内部告発を発表したり、漏洩した情報を晒す)ウィキリークスで、世界を変えられると信じた1人の男ジュリアン・アサンジ。妄想と現実の間で危うく惑う人間を描いてきたコンドン監督にとって、彼の半生を描く「The Fifth Estate」でメガホンを取ることは、半ば運命的であったのかもしれませんね。

「The Fifth Estate」(2013年)
監督:ビル・コンドン
製作:Steve Golin&Jonathan King他。
原作:[『Inside WikiLeaks: My Time with Julian Assange at the World's Most Dangerous Website』 by Daniel Domscheit-Berg
『WikiLeaks: Inside Julian Assange's War on Secrecy』 by Luke Harding
脚色:David Leigh&Josh Singer
撮影:Tobias A. Schliessler
音楽:カーター・バーウェル
出演:ベネディクト・カンバーバッチ(ジュリアン・アサンジ)
アリシア・ヴィキャンデル(Anke)
カリス・ヴァン・ホーテン(Birgitta Jónsdóttir)
スタンリー・トゥッチ(ジェームズ・ボズウェル)
ローラ・リニー(サラ・ショー)
アンソニー・マッキー(サム・コールソン)
ダニエル・ブリュール(Daniel Domscheit-Berg)
ダン・スティーヴンス(イアン・カッツ)
デヴィッド・シューリス(ニック・デイヴィス)他。

“The Fifth Estate”Trailer


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4人の女性に対する暴行容疑のため、2012年6月にイギリス最高裁が決定したスウェーデンへの移送から逃れるため、アサンジ氏はエクアドル大使館に避難。以降、事実上大使館内に軟禁状態となっています。一歩大使館の外に出れば、彼は直ちにスウェーデンに連行され、本人が強く否認している暴行事件の裁判にかけられてしまいます。そうすれば、いずれは“アメリカ外交公電ウィキリークス流出事件”の責任を問うため、彼の身柄はアメリカに送られることになるでしょう。魑魅魍魎跋扈する国際政治の世界で、1人の民間人が歴史の闇の狭間に消えてしまうことなんぞ、ものの数分もかかりゃしません。

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一般市民の“正義”を守るため、アンタッチャブルな情報にもアクセスして公開してきた彼には、報道の自由を信じ、政治、企業の腐敗を嫌う多くの人々から賛辞が寄せられています。

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しかしその一方で、アサンジ本人に関しては、ウィキリークスで広報活動を行うようになる以前の履歴が曖昧で、謎の多い人物であることから、信用できないとする意見もありますね。

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しかし、彼個人の人柄がどうであろうと、彼とウィキリークスが明らかにした史実の中には、ケニアでの大量虐殺(この事件の調査“The Cry of Blood: Extra Judicial Killings and Disappearances”で2009年アムネスティ・インターナショナル国際メディア賞ニュー・メディア部門を受賞)、サイエントロジー教会やグァンタナモ米軍基地、イラク戦争への米軍の関与に関する機密情報(これでアサンジは政府に追われる身の上となった)などがあり、政府や大企業がいかにして民衆を欺いてきたかを、私たちに知らしめてくれました。これだけは確かな真実です。

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“真実こそが正義”。アメリカ人が大好きな言葉ですね。まあそれは確かにその通りでありましょう。しかしながら、このトレーラーを見ていて感じるのは、何が真実で何が嘘なのか、一体どこの誰に正しく判断できるのか?ということです。

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仮に本物の“真実”をつかみ、それに従って悪を退治することができたとしても、悪との闘いはそれで終わりではありません。むしろ、社会秩序の中に真実という劇薬を一滴落としたことによって、混沌と、さらなる巨悪を呼び覚ましてしまうだけだという可能性のほうが高いでしょう。

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彼は、パンドラの箱を開けただけなのかも。彼が行ったことの是非を判断し、そこから派生して起こる様々な問題に対処し、パンドラの箱の一番底に眠るはずの“希望”を取り出すのは、私たち一般市民の役目でしょう。

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さて、この「The Fifth Estate」は、ダニエル・ブリュール扮する“ダニエル”(Daniel Domscheit-Berg)の著した回顧録を主に参考にしています。アサンジ氏の右腕だった男から見た、客観的なアサンジ像が展開されるだろう今作に対し、エクアドル大使館内でいまだ健在のアサンジ氏本人は、あまりいい気分ではなかったと察せられます。だって、一緒に働いていた人物とはいえ、赤の他人から見た自画像を見せられるのは(しかも、それに対して具体的な抗議もできない身の上では)、誰にとっても居心地の悪い経験であるはず。

奇しくも同時期、アレックス・ギブニー監督の手になるウィキリークスのドキュメンタリー映画「We Steal Secrets: The Story of WikiLeaks」(2013年)も公開され、“正義の人”なのかただの“秘密泥棒”なのか、見る人によって全く異なる人物アサンジ氏の内面に、否応なく迫ることになります。アサンジ氏本人がどのように考えようと、「The Fifth Estate」の方には、コンドン監督自身のアサンジ像解釈や、アサンジ氏を演じる俳優ベネディクト・カンバーバッチのアイデアが織り込まれることになるので、アサンジ氏や彼のかかわってきた出来事の描き方は、議論を呼ぶだろうと予想します。まあでも、本人が主観によって真実だと信じていたことが、必ずしも世間一般の真実とは合致しないことは、アサンジ氏自身がよく知っておいでのはず。本人だからこそ理解できる真実があるならば、本人ゆえに見えない真実もあります。この作品(客観によるアサンジ像)とドキュメンタリー作品(主観によるアサンジ像)の双方で、“真実こそが正義”というアメリカ式旗印が如何に虚しいものであるか、思い知らされることになるのかもしれませんね。その意味では、この作品は先の「ゼロ・ダーク・サーティ」の回答になっていそうです。

2分半ほどしかないトレーラーを見ただけでも、主演のカンバーバッチ氏の存在感、研ぎ澄ました刃物のごとき演技の鋭利さに圧倒されました。彼の脇をダニエル・ブリュール、スタンリー・トゥッチ、ローラ・リニー、デヴィッド・シューリスといった実力派が固めているにもかかわらず、彼のオーラが飛びぬけていることが窺えます。

また、コンドン監督本来の持ち味がかなり復活しているようにも感じられ、本当に本当に嬉しいです。期待するなと言うほうが無理。そう、これなんですよ!この、描く対象に執着しながらも一歩引いた冷ややかな視線こそが、この愛憎入り混じる複雑な屈折こそが、コンドン監督の個性だったんです。いやいや、過去形で書いちゃだめですね(笑)。歴史の大きな波に否応なく飲み込まれていく人間の孤高と、己の理想と現実の軋轢の間で苦しむ人間の内面に迫らせたらピカ一のビル・コンドン監督。彼の新作である、サスペンスフルな人間ドラマ「The Fifth Estate」の公開はアメリカで10月11日から。日本でも早く公開日が決定して欲しいですね。


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