House of M

アクセスカウンタ

zoom RSS 暗闇を照らす詩の心―ジャック・オディアールと「預言者 A Prophet」

<<   作成日時 : 2017/07/12 12:52   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

ジャック・オディアール Jacques Audiard監督の「預言者 UN PROPHÈTE (A PROPHET)」が日本で公開されたのは2012年の1月21日から。作品完成時から実に3年越しの、待ちくたびれて諦めかけていた末の、ようやくのランデブでありましたね。数年前、この「預言者」がハリウッドでリメイクされるというニュースを耳にしましたが、その後企画は頓挫した模様。

この作品は確かに、ハリウッドが比較的手をつけやすい題材、物語、作品世界であるとは思います。でも、オディアール監督ならではの傑作に仕上がったこの作品の持つ絶妙なる香り、独特の余韻といったものは、ハリウッドで再現することは不可能だったでしょう。

「預言者 A Prophet」についてご紹介した記事を再アップします。


・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


〜第62回カンヌ国際映画祭にて、パルム・ドールに次ぐグランプリを受賞したジャック・オディアール監督〜

画像

オディアール兄貴!!アンタの新作をどれだけ待ってたと思うてるの(号泣)!!

わたくし豆酢の苦手とする映画作家(苦笑)ミヒャエル・ハネケ氏が、実に5度目のノミネートの末にようやくパルム・ドールに輝いた第62回カンヌ国際映画祭。そのハネケ監督の新作『DAS WEISSE BAND (THE WHITE RIBBON)』と、審査の最後の瞬間までパルム・ドールを競り合ったとされるのが、我らがジャック・オディアール監督の待望の新作『UN PROPHÈTE (A PROPHET)』です。結局、カンヌ最高峰の栄華はハネケ監督に譲ることになったオディアール兄貴ですが、どうやら各国の評論家筋には兄貴の新作の方が受けが良かった模様ですね。今作は150分という長尺にもかかわらず、カンヌで上映後は客席から“Bravo!”という喝采が沸き起こったそうです。
『預言者 UN PROPHÈTE (A PROPHET)』は、フランスの刑務所に収監されたアラブ系の青年が、コルシカ系マフィアやアラブ系の集団らに手荒い洗礼を受けつつ、タフに生き抜いていく模様を綴った、緊迫感溢れるスリラー。トレーラーを見る限り、かなり痛々しい描写や、激しい暴力シーンも含まれているようなのですが、オディアール監督らしい陰影深い映像と、突出した人物描写のキレに大いに期待したい作品です。というかね、もう、“フィルム・ノワールの天才オディアール+刑務所ものにハズレなし=傑作に違いなかろうぜ!”と、作品を観てもいない今から傑作の法則を立てさせていただきますよ(笑)。


…そして、夏のある暑い日のこと。パリの映画館で、館長はオディアール兄貴の新作と対決してきたのであります…。

画像

「預言者 UN PROPHÈTE (A PROPHET)」(2009年製作)
監督:Jacques Audiard
オリジナル脚本:Abdel Raouf Dafri&Nicolas Peufaillit
脚色:Jacques Audiard&Thomas Bidegain
製作:Martine Cassinelli&Antonin Dedet
撮影:Stéphane Fontaine
音楽:Alexandre Desplat
出演:Tahar Rahim(Malik)
Niels Arestrup(César Luciani)
Alaa Oumouzoune(Rebelled prisoner)
Farid Elouardi(The arab)
Gilles Cohen
Adel Bencherif(Ryad)他。

アラブ系フランス人マリクは18歳。身寄りはない。学校にも行った経験はなく、従って読み書きも出来ない。彼は傷害罪により、6年の刑に服することを命じられた。彼にとっては初めてのムショ暮らしである。悪名高きその刑務所には、入ったが最後、生きて再びお天道様を拝むことはできない…という恐ろしい噂があった。屈辱的な身体検査を終え、受刑服を与えられたマリクは、どこかで受刑者が断末魔の悲鳴を上げている声を聞きつつ、独房の硬いベッドの上でまんじりともできなかった。その日から、彼の6年間に渡る刑務所内での果てしない戦いが始まったのである。
決してプロフェッショナルな犯罪者というわけではなく、格別腕っぷしが強いわけでもないマリクにとって、頼りになるのは“今この場所で最も強い者は誰か”を見抜く直感と、生まれ持った頭の回転の速さだけだ。入所したばかりの頃、マリクはコルシカ系マフィア一派を束ねるドン、セザールの庇護を受けることに成功する。だが、それには条件があった。同じ刑務所で受刑中の証人レイェブを殺害することだ。
マリクは苦悩する。刑務所の中には他にもアラブ系一派の荒くれ集団がいるし、法の側にいるはずの看守たちも、マフィア同様腐敗に堕ちてしまっている。敵は幾重にも存在し、絶えず勢力図が塗り替えられている状態だ。今日の味方が明日は敵に寝返っていることなど日常茶飯事。マリクに“殺し”を拒否する選択はできなかった。無学なマリクにとっては、別の次元の存在のような不思議な男レイェブ。彼を苦悩の末に手にかけたマリクに、それから不可解な予兆が訪れるようになった。
マリクは生き延びるため、まずは刑務所内の学校でフランス語を徹底的に学ぶ。コルシカ語も独学でものにし、刑務所内でのマフィア間の取引、果ては刑務所内から外の世界へ向けて“ビジネス”を展開しようとするセザールの下で、直接交渉に携わるまでに成り上がっていくのだ。しかしその間も油断なく周囲の状況を探り、セザールに頼り切ることなくマリクは裏でムスリム系一派と手を組み、独自の人脈を築き上げていった。正義に頼ることの出来ない世界で最も安全に生きるには、自分もセザールのようにドンの座に納まるしかない。マリクはやがて、自らが“預言者”となる日を迎えるのだが…。


画像

〜カンヌ映画祭における記者会見の模様〜

昨今の映画界の風潮として、異なる人種間に厳然としてある軋轢を無視するわけにはいきません。映画も、実世界に存在する異人種、異文化間の諸問題に真摯に取り組むことが望まれています。また、そのような軋轢があるところにこそ、ドラマも生まれる可能性があるため、先のアカデミー賞で異例の主要部門独占を果たした「スラムドッグ・ミリオネア」同様、今後もこういった要素をテーマにした作品が多く製作されていくでしょうね。今作『UN PROPHÈTE (A PROPHET)』も、この流れに即した作品と考えていいかもしれません。
それに、刑務所の中というのは、ある意味、異人種、異文化のカオスであります。現実世界にある諸問題が、しがらみを解き放たれてより生々しく剥き出しになっているといった意味で、この物語は、“塀の外”にいる私たちにも普遍性をもって迫ってくるに違いないと思います。そして、主人公マリク青年の生き様は、混沌の中で正義の行方を見失いつつある私たちに、“今を如何に生きるのか”と言う難しい大命題を突きつけてきますね。しかしおそらくは、今作を観た私を含む多くの観客には、それに対する解答は持ち得ないものだと思います。

主役のマリク青年を演じたTahar Rahim(タハール・ラヒム)君は、今作に出演する以前はテレビドラマに登場したぐらいで、まったくの新人といっても差し支えありません。映画デビュー作がオディアール兄貴の新作でしかも主演とは、ラッキーにも程がありますね(笑)。線の細い面差しながら、繊細な外見を裏切る強い意志を秘めた目が非常に印象的です。後に“預言者”となるマリク青年の資質を十二分に発揮できていたと思います。オディアール監督のこれまでの作品群で主役に起用されてきた俳優たちに共通する魅力を、彼もまた兼ね備えているのでしょう。オディアール作品常連のニール・アレストラップ親父(コルシカン・マフィアのドン、セザール役)も登場して画面を引き締める、この『UN PROPHÈTE (A PROPHET)』のいち早い日本公開と、Rahim君の今後の映画界での活躍にも期待したいところです。

画像


預言者 [DVD]
ビデオメーカー
2012-07-06

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 預言者 [DVD] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

フランスでは2009年夏の目玉作品として公開されていたこの『UN PROPHÈTE (A PROPHET)』。あらかじめ注意申し上げますが、今作はオディアール全作品中、最大級のへヴィーさと、ヴァイオレンスとブラッディさ、かつ後味の悪さを誇る作品となりました。今までタブー視されてきたらしいフランスの刑務所内の実情を、ここまで赤裸々にリアルに描き切ったオディアールの精神力に敬意を表したくなるほど(涙笑)。加えて、従来の作品群にあった、クライマックスへ向けて加速するサスペンスも最上級。150分の長尺を、最後の最後まで一瞬もだれることなく突っ走っていきます。
世界が直面する“今”を、刑務所という特異な設定を借りて、1人の人間の変遷に託して描いたとも言える今作、オディアール監督は続編の構想も練っているそうで、おそらくは彼のライフワークになる可能性が高いですね。オディアール版“ゴッド・ファーザー”というべきか。しかし、肝心の興行成績の方がどうだったのか、いささか気になります。彼のこれまでの作品を愛してきた人たちの中には、今作のあまりのハードさに恐れをなした向きもあるのでは…と心配している次第です。
しかしながら、暴力、暗殺、強姦、裏切り、命がけの腹の探り合い…といった、胃が痛くなるような描写が続く中に、刑務所の鉄格子越しにわずかに見える外の景色や、6年間の受刑中に許される特別外出日でマリクが目にする海岸の景色が差し込まれると、そこには、唐突に涙が出るほどリリカルな情景が広がるわけです。単なるハードのごり押しに終わらない、オディアール独特の緩急の演出はここでも冴えを見せていると思いました。そう、彼はこの地獄絵図のごとき作品の中でも、詩情を醸し出すことを忘れてはいなかったのですね。



生まれるべくして生まれたフィルム・ノワールの申し子は、映像で詩を語る詩人でもありました。

画像

ジャック・オディアール Jacques Audiard

1952年4月30日生まれ
フランス、パリ出身

ジャック・オディアールは、ショービジネスに従事する家族に囲まれて育った。父ミシェル・オディアールは、映画界でも有名な脚本家であり、とくにフィルムノワールのジャンルにおいて数々のヒット作を手がけた。また、伯父はプロデューサーである。
そのような環境にありながら、彼は子供の頃から教職に就くことを志し、ソルボンヌ大学で文学と哲学を専攻した。しかし学位をとるには至らず、ガールフレンドの勧めで、大学の休暇中に映画編集の見習いとして働くことになった。編集助手として関わった作品には、「テナント」(1976年製作、ロマン・ポランスキー監督)などがある。
彼はまた、舞台での裏方作業にも従事し、特に劇作の脚色に力を発揮した。1980年代は映画脚本も数多く手がけ、主にフランスの映画作家たちと組んだ。得意としたジャンルはやはりスリラーで、父ミシェルと共作でコメディ作品の脚本もある。そしてこの時期、監督として短編映画を何本か製作している。
脚本家としての成功が後押しし、彼はついに1994年に初の長編映画「天使が隣で眠る夜」を製作することになる。この作品では、フランス映画界の重鎮ジャン・ルイ・トランティニャンと、ブレイク寸前の新進俳優マチュー・カソヴィッツを起用し、テリー・ホワイトの小説「真夜中の相棒」をベースに、独自のノワール世界を構築した。1994年度のセザール賞では、最優秀新人監督賞、最優秀編集賞、最優秀新人俳優賞を獲得した。
「誰も私を愛さない!」(1993年製作)、「Love etc.」(1996年製作)の監督として知られるマリオン・ヴェルヌーと結婚、1999年製作の「エステサロン ビーナス・ビューティー」では、共同で脚本を手がけた。

●フィルモグラフィー Filmography as Director

・監督作
2015年「ディーパンの闘い Dheepan」監督&脚本
2012年「君と歩く世界 Rust And Bone」監督&脚本
2009年「預言者 UN PROPHÈTE」監督&脚本(日本では2012年に劇場公開)
2005年「真夜中のピアニスト」監督&脚本
2001年「リード・マイ・リップス」監督&脚本
1996年「つつましき詐欺師」監督&脚本
1994年「天使が隣で眠る夜」監督&脚本

・脚本のみ Filmography as Writer
「エステサロン ビーナス・ビューティー」(1999)
「他人のそら似」(1994)
「バルジョーでいこう!」(1992)
『Swing troubadour 』(1991)
『Australia」』(1989)
「バクステール/ぼくを可愛がってください。さもないと何かが起こります。」(1988)
【父ミシェル・オディアール脚本による1973年製作の映画、「バクスター!」(ライオネル・ジェフリーズ監督、パトリシア・ニール主演)のリメイク版】
『Frequence meurtre 』(1988)
「キリング・タイム」(1987)
『Saxo』 (1987)
「ウエディングベル/Mr.レディMr.マダム3」(1986)
【父ミシェル・オディアールと共同脚本】
『Sac de noeuds 』(1985)
『Reveillon chez Bob』(1984)
「死への逃避行」(1983)
【父ミシェル・オディアールと共同脚本】
プロフェッショナル(1981)
【父ミシェル・オディアールと共同脚本】

長編デビュー作「天使が隣で眠る夜」の成功により、計算されたプロットと美意識の高い映像、ノワールというジャンルに収まりきらない詩情あふれる作品を生み出すフィルム・メイカー、ジャック・オディアールが誕生したのです。そして2005年製作の長編第4作目「真夜中のピアニスト」では、2005年度セザール賞を計8部門制覇するなど、今やフランスを代表する映画作家となりました。



にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
暗闇を照らす詩の心―ジャック・オディアールと「預言者 A Prophet」 House of M/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる