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zoom RSS 「ダーリング Darling」−ジョン・シュレシンジャー監督

<<   作成日時 : 2014/11/17 22:06   >>

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女優サラ・ポーリーの初監督作品「アウェイ・フロム・ハー Away From Her」で、アルツハイマーに侵される初老の人妻に扮し、気品溢れる美貌と確かな演技力を見せ付けたジュリー・クリスティー。殊更時代の流れに逆らうことなく、ごく自然体で年齢を重ね続けた彼女のしなやかな生き様が、スクリーンいっぱいに映し出されたようでしたね。彼女だけにしかできないやりかたで培われた、“ジュリー・クリスティー伝説”が始まったのは、この作品からでした。

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マテリアル・ガールは愛の夢を見るか。

「ダーリング Darling」(1965年製作)
監督:ジョン・シュレシンジャー John Schlesinger
製作:ジョゼフ・ジャニ&ビクター・リンドン
脚本:フレデリック・ラファエル
撮影:ケネス・ヒギンズ
音楽:ジョン・ダンクワース
衣装:ジュリー・ハリス
出演:ジュリー・クリスティ Julie Christie(ダイアナ・スコット“ダーリング”)
ダーク・ボガード Dirk Bogarde(ロバート・ゴールド)
ローレンス・ハーヴェイ Laurence Harvey(マイルス・ブランド)
ホセ・ルイス・デ・ヴィラロンガ(チェーザレ・ロミタ公爵)
ローランド・カラム(マルコム)
トレヴァー・ボウエン(トニー)
バジル・ヘンソン(アレック)
ヘレン・リンゼイ(フェリシティ)他。

「マイ・ストーリー」…ダイアナ・スコットは、英国郊外から始まった平凡な一生を、ロミタ公爵夫人として完結させようとしていた。このほど、その華麗なる半生を綴った自伝を発表するにあたり、雑誌のロング・インタビューに答えることになった。

ダイアナは英国郊外に生まれた。幼い頃から、その可愛らしい容姿で両親から溺愛されていた。20歳になるころには、華やかなブロンドにセクシーな美貌を誇るようになり、道行く人を振り返らせるほど。街中で若者への街頭インタビューを行っていたテレビ局スタッフの目に留まったのも、その容姿のおかげであった。そのインタビュアーの名前はロバート・ゴールド。彼は自身の番組のディレクターも兼ねている。街中でたまたま捕まえたダイアナをいたく気に入り、番組収録後もプライベートで会うようになった。徐々に会う回数が増え、2人は自然に深い関係に。お互いに一緒に暮らすことを夢見るが、それには障害があった。2人とも結婚していたのである。ロバートには妻エステルと2人の子供が、ダイアナには若くして伴侶となった夫トニーが。
ロバートは番組のために、孤高の作家サウスゲートへのインタビューを行った。ダイアナも同行している。ロバートは英国を代表する大作家を前にしても臆せず、彼から興味深い談話をどんどん引き出していく。ダイアナはそれまで知らなかった知的世界に触れ、急速に引き込まれていく。ただロバートと一緒にいられることに幸福を感じていた。ダイアナとロバートは人目を忍ぶ不倫の恋を続けるため、伴侶に電話を入れる際にも交換手の声色をまねるなどの細工を行った。互いに罪悪感がなかったわけではないが、せめて誰も傷つけないように配慮することで神様に許しを請うていたのだった。だが2人の情熱はどうにもならないところまで追い込まれていた。

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彼らは互いの伴侶を捨て、ついにロンドンのアパートメントで同棲を始めた。離婚しないままではあったが、愛する相手と共に暮らし2人は幸せだった。ダイアナのたっての希望で、ロバートは子供達と会う時間を必ず作った。しかし彼女は、主婦として家の中に閉じこもっていることに次第に苛立ちを募らせ始め、忙しく不在がちのロバートの愛情を確信できなくなっていた。

ダイアナは気を紛らわせるために、パーティーで知り合った大企業グラス社の若社長マイルスの招待を受け、彼主催のチャリティーのコンパニオンを務めた。ダイアナはそこで上流階級に属する様々な人と出会う。グラス社のCMを監督しているショーン、ゲイのグラウゴジュ卿、奔放な曾祖母を持つ有力議員の妻、政治世界にも有力なコネを持つマイルス自身…。庶民には計り知れない豪奢で退廃的な社会に酔いしれる。好奇心旺盛なダイアナは、女の武器を最大限に活用して自信たっぷりでキザなマイルスを虜にする。マイルスと“お付き合い”する見返りは、モデルとしての仕事の斡旋であった。彼の人脈のおかげで、ダイアナはモデル業界に広く顔を売ることが出来たのだ。もちろんマイルスとのことはロバートにも包み隠さず告白した。仕事のため、金持ちのお遊びに付き合ってはいるが、身体の関係はない。ダイアナはそれでロバートへの貞操を守っていると思い込んでいた。

例のショーンが映画を撮ることになった。低予算のスリラー「ジャクリーヌ」である。マイルスの手引きでダイアナも役にありつけることに。彼女の役は映画冒頭で早々に殺されるジャクリーヌだ。映画は最悪の出来であった。ダイアナが無意識のうちにマイルスの富に夢中になっているのを敏感に感じ取ったロバートは、徐々に彼女への愛情が冷めていく。しかし彼女はロバートの子供を妊娠していた。ロバートはダイアナ自身が本当に出産を望んでいるのか確信が持てない。子供を産み、母親になることの意味を彼女が理解しているとは思えなかったからだ。

ダイアナは、当初赤ちゃんができたことを純粋に喜んでいたが、一時の興奮が過ぎると、不義の子を育てる自信をたちまちなくしてしまう。そしてロバートに相談もせずに堕胎した。身体も心も傷ついたダイアナは、病室に見舞いに来たロバートを拒絶して姉の元へ行くことを選ぶ。休息するため、典型的な英国郊外に今も住む姉フェリシティ宅に帰ったが、ダイアナはすぐ飽きてしまう。相も変らぬ田舎で、庭自慢しか能がない男や真面目一方の男などに心底辟易してしまったのだ。結局彼女は着のみ着のままでロバートの所に舞い戻ってくる。

ダイアナとロバートの生活が再び始まった。しかし忙しく仕事をするロバートのそばで、暇なダイアナは会話もなく仏頂面だ。見かねたロバートは彼女にオーディションを受けるよう勧める。渋々舞台のオーディション会場に向かったものの、候補者のあまりの多さに気後れしたダイアナは会場を逃げ出し、その足でマイルスに会いに行ってしまう。魔がさした彼女はついに彼とベッドイン。遅くに帰宅したダイアナは、マイルスとの情事を隠すため、パリでモデルの仕事が入ったとロバートに報告。ダイアナの嘘を薄々感じてはいたが、ロバートは彼女をパリに行かせてやる。パリ行きの実態はマイルスとの不倫旅行である。ダイアナは、パリでもマイルスの手引きで様々な人々と出会う。大概がアート関係の人脈だ。夜ごと彼らの退廃的なパーティーに身を委ねるうち、女たらしのマイルスの欺瞞に挑戦的な気持ちになるダイアナであった。

マイルスと大胆な不倫をするようになったダイアナだが、ロバートを傷つけたくないという思いだけは変わらない。かつてのように交換手のトリックを使ったのも、罪悪感の裏返しだ。自分は誰も傷つけていないと思い込みつつ、周囲の人々を―マイルスさえも人生の踏み台にしていることにすら気づいていないのだった。

刑務所帰りという胡乱な噂のある新進芸術家ラルフの個展で、ダイアナは2日振りにロバートと再会した。聞きかじりの芸術用語を連発して、パリでの出来事を追及するロバートをはぐらかそうとする。彼女の嘘はお見通しのロバートは、彼女を誰とでも寝る娼婦のようだとののしった。マイルスとの浮気がばれて逆ギレのダイアナは、大勢の客が行き来する駅の構内で、殊更下品な大声でロバートを恐妻家と罵倒する。売り言葉に買い言葉で2人は大喧嘩を始めた。ダイアナは、仕事ばかりでちっともを構ってくれないロバートにやつあたりし、結婚もしないくせに自分の行動にいちいち干渉するなとヒステリーを爆発させる。アパートに閉じ込められる囚人のような生活はまっぴらだと、ロバートの大事な書物を床にぶちまける。それを見たロバートは、黙ってアパートを出て行った。状況を解しないダイアナは、なぜロバートがそこまで腹を立てるかが分からない。傷ついたのは自分の方だと思い込み、破局を忘れるためモデルの仕事に没頭するのであった。

馴染みのカメラマン、マルコムと組んだポートレートが、マイルスの会社のドイツ支社上層部の目に留まる。ダイアナは新しいキャンペーンガール“ハッピー・ガール”に決定した。
大役決定のお祝いに、ダイアナとマルコムはパーティーを企画。花を買い、高級雑貨店に乗り込んでいく。ところがロバートとの破局でやけっぱちになっているダイアナは、店の人間の目を盗んで大胆にも品物を万引きしていく。呆れるマルコムとアパートに戻ったダイアナは、トニーからの離婚届けを見つけた。後は彼女が同意しさえすれば離婚はめでたく成立だ!箍が外れた2人は大酒をくらって大騒ぎする。全て自ら招いたこととはいえ、ダイアナはなぜ自分の人生が泥沼続きなのか思い悩む。答えの出ない問いかけを投げ出し、彼女は滅茶苦茶に酔っ払う。

翌朝。ダイアナの金魚達が死んでいた。マルコムと共にその死骸を川に流し黙祷を捧げる。彼女はイタリアでのチョコレートのCM撮りの仕事を得て、ローマに向かう。CM撮影のロケ場所を提供している地元の名士、ロミタ公爵も姿を見せた。ダイアナは撮影の合間に公爵の城を見学する。気品に満ち紳士的な公爵に促され、同じく妻を亡くした彼に、愛を失って苦しむ心のうちを明かした。誰にも、家族にすら理解してもらえない苦しみを、ここイタリアの美しい自然が癒してくれるような気がしたのだ。

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撮影終了後、寂しいダイアナはマルコムをカプリ島に呼び寄せて休暇を取った。マルコムはゲイでダイアナとは仲の良い兄妹のようなものだ。一緒に休暇を楽しむには最適の相手。ただし、キュートなイタリア男を見つけても抜け駆けはしない約束を交わし、明るい日差しに輝くカプリで2人は思い切り羽根を伸ばすのだった。

ロバートをいまだ忘れられないダイアナは、睡眠薬を手放せない。ある日、なんとロミタ公爵が自家用クルーザーでダイアナの休暇先にやってきた。マルコムと共に招待されたダイアナは、公爵から思いがけないプロポーズを受ける。一晩考える時間をもらった彼女は、地元のハンサム・ボーイと夜遊びして歩く。そして翌朝、済ました顔で公爵と対峙し、生き方を変えることは不可能だと求婚を断る。帰っていく公爵のクルーザーを見送りながら、彼女はハンサム・ボーイズと一緒に日焼けに精を出すのであった。

ロンドン。作家サウスゲートが死去した。一方そんなことは露知らず、ロンドンに舞い戻ったダイアナは相変わらずマイルスと仲間を招いてパーティー三昧だった。彼らは三々五々、気に入った相手と部屋に消えていく。ダイアナもマイルスとベッドインする直前、ロバートが訪ねてきた。思い出深いサウスゲートの死を知らせにきたのだ。だがマイルスの存在を認めたロバートは、黙ったまま再びその場を立ち去る。今度こそ言い訳の出来ない状況で愛する人の心を失ってしまったダイアナは、マイルスに当り散らし、客も全て叩き出してしまう。ダイアナとの仲はあくまでビジネスだと割り切る冷ややかなマイルスの本性をあげつらい、ひどい侮蔑の言葉を投げつける。女から侮辱を受けたマイルスは、今後モデル業界で仕事できなくしてやるという言葉を置き土産に、ダイアナの元を去って行った。

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なんとかロバートに会って弁明したいと願う彼女は、サウスゲートの埋葬に出かけた。そこで新聞社の人間から声をかけられた彼女は、サウスゲートの著作の映画化の話を聞き出した。だが、肝心のロバートには会えず、新しい映画出演の話も水に流れたダイアナは絶望の淵にいた。心の支えを求めて親切なチャップマン神父にすがり、今更ながら神の存在を信じようとする。そして彼女はついにロミタ公爵との結婚に踏み切ったのである。

美しい公爵夫人の誕生に沸き立つイタリアと英国。田舎育ちの気さくなダイアナの人柄を伝えるニュースが連日報道され、彼女は一躍英国の誇りとなった。結婚してすぐ公爵の7人の子供の母親となったダイアナ。しかし子供達には乳母が24時間ついているし、公務に忙しい夫は自宅にいる暇はほとんどない。しかも城には、各所に使用人が厳かに控えていて、ダイアナは自分で自由に扉を開ける事すら叶わない。もちろん城内には電話もない。壮麗な部屋の中で、使用人に監視されながらたった一人で食事をとり、時間を持て余す味気ない毎日が続く。話し相手1人いない生活は、次第にダイアナの精神を追い詰めていく。ついにストレスを爆発させた彼女は、ロンドン宛に電報を出し、飛行機に飛び乗るのだった。

ロンドン、ヒースロー空港で、ダイアナはロバートと久しぶりに再会する。モーテルで愛を確かめ合う2人。なにもかも以前の幸せな頃と同じだと錯覚した彼女は、もう一度やり直せると彼に宣言する。今度は静かな田舎で暮らそう。きっとうまくいく、大丈夫。…だがロバートの態度はつれない。再会したのは昔のよしみだと冷ややかに切り捨てた。せめて1週間やり直すチャンスをくれとすがりつくダイアナに、もう嘘はたくさんだと言い置き、彼女を空港へと送っていく。ロバートの腹は決まっていた。妻と離婚しロンドンを離れ、アメリカに行くのだと。公爵の元には帰らない、自殺してやると泣き喚くダイアナを無理やり車から放り出したロバートは、しかし独りきりになると、こっそり頭を抱えて涙を流した。彼とて断腸の思いで、彼女と永遠の別れを告げたのだ。

飛行機に向かうダイアナをたちまちマスコミが取り囲む。彼女の非公式のコメントをとろうと皆必死だ。ダイアナの周りで無数のカメラのフラッシュが焚かれる中、遠い所で彼女の乗る飛行機を見送るロバートの姿があった。彼女の視線に気づいたかのように、彼はゆっくりとその場を去っていく。ダイアナは真に愛する男性をついに完全に失ったのである。

“夢の女性”―ダイアナの自伝出版を告げる広告が風に吹かれて舞う中、街角で大道芸の女性が歌う“サンタ・ルチア”の歌声がいつまでも響いている。

マテリアル・ガールは、今夜も幻の愛の夢を見るのだろうか…。




ゴシップ的な見方をするならば、この作品の主人公ダイアナのモデルは、映画スターからモナコ公妃となったグレース・ケリーでしょうね。グレースはヒッチコック監督の作品でヒロインを演じ、豪奢なブロンド、気品にあふれた美貌で、一躍“クール・ビューティー”とあだ名されるようになりました。ところが実生活での彼女は、“クール”ではなくむしろ恋愛に関して“ホット”な女性であったようです。あまり表ざたにはなっていないものの、数々の男性と恋の噂があり、夫となったモナコ大公レーニエ3世との間でも、かなりの恋の駆け引きがあったとか。

即物的、エゴイスティック、未成熟で脆弱な精神、己の目に見えているのは他でもない自分自身のみ…。皮肉にも、ダイアナは現在の若者を象徴するような人間です。
この作品は、幼い頃から甘やかされ、なんの苦労も経験せずに身体だけ成熟した女性の人生を、非常に意地悪く描いたものです。一見“本当の愛情”を求めてさまよう1人の女性の人生を感傷的に描くような体裁をとりながら、その実、監督の彼女への共感の目線は一切感じられません。ダイアナは、ただかわいいだけのごく平凡な少女から、テレビ局のディレクターとの不倫を通じておしゃれなモデルに、更には大企業の若社長に身体を提供することによって映画女優にまでのし上がっていきます。そして休暇先の異国の地で、嘘のように偶然に本物の貴族の後妻の地位を射止める。世間の基準に照らしてみれば、彼女の一生は、とんとん拍子にレベルアップしていく、典型的な成功者でしょう。

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しかし監督は、ダイアナが華やかな世界での成功を手に入れる代償に、自身に寄せられる好意や愛情をいかに躊躇なく踏みにじっていったかを冷酷に描写していきます。彼女にとっては愛情もゲームの一種であり、単に寂しさを紛らわせるための道具に過ぎないのですね。幼い頃から周囲からあふれんばかりの愛情を注がれ続けた結果、彼女は自分から他人に愛情や思いやりを示すことができなくなってしまいます。自分が愛されるのは当然で、男たちは自分に傅き無償の愛情を差し出すのが当然。彼女は、うやうやしく差し出された愛情を損得勘定で量った結果、最も条件の良いものを手にするだけ。
しかしなにもかも与えられるばかりの人生に慣れきった人間が、たった一つの愛情に満足するはずがありません。マイルスとの恋愛ゲームも、チェーザレとの愛も、初めはものめずらしさから夢中になりますが、飽きてしまえば子供がおもちゃを投げ捨てるように放り出す。そのたびに、無償の愛情を注いでくれていたロバートの元に帰ろうとしますが、すぐにそれにも飽きてしまう。彼女がロバートの愛情の重要さに気づくのは、実はチェーザレと結婚した後でした。豪奢なお城の中で御伽噺のお姫様のように暮らす何不自由ない贅沢な生活は、しかし扉一つ自分で開けることも許されない囚人と同様でした。物質的な富と名声を得る代わりに、“自由”を失ってしまったことに今更ながら気づいたダイアナは、慌ててロバートに助けを求めようとしますが、後の祭りです。ロバートはダイアナを愛しながらも、2人でやり直すことは既に許されない事態になっているとわかっていました。公爵夫人という分不相応な地位を手に入れた時点で、ダイアナの人生は“あがり”を迎えていたのですね。本人がどんなに失われた愛情に悶絶し、名声の空虚さに絶望したところで、彼女の人生に“その先”はないのです。カメラのフラッシュの中でお人形のようににっこり微笑むことしか、その人生の価値も意義もなくなってしまったのですね。それが1人の女性が実現した“夢の人生”の全てです。

グレース・ケリーにも、モナコ公妃となってからも映画に復帰する噂が絶えませんでした。存命中はレーニエ大公との不仲を勘ぐるゴシップもありましたし。しかし結局彼女はその後映画産業の表舞台に立つことなく、アルベール王子やカロリーヌ王女、ステファニー王女の養育に人生を捧げ、自動車事故で52年の生涯を閉じました。その華やかな人生の内実がどうであったのか、ついに誰にもわからずじまいになってしまったのですね。

感情の起伏の激しいダイアナを表情豊かに演じたのはジュリー・クリスティーです。その目の覚めるような美貌と陰影に富んだ官能性、ダイナミックな演技が鮮烈な印象を放ち、彼女は1965年度のオスカーを受賞しました。「ダーリング」は、彼女が英国のみならず世界的な大女優に飛躍する礎となったのですね。作品自体も監督賞はじめ5部門でノミネートを受け、脚本賞、主演女優賞、衣装デザイン賞で見事受賞の栄誉を勝ち取っています。知的職業に従事するロバートの機知に富んだセリフ、人生を理解したつもりでいるダイアナのセリフに込められた、若者への痛烈なアイロニーは特に印象に残ります。60年代当時の享楽的な風俗描写も大層魅力的なのですが、ダイアナが着こなす様々なファッションは、白黒映画とは思えないほどのカラフルさにあふれていて素敵です。シーンの雰囲気に合わせて、時に気だるげなジャズや60年代ポップソングが流れるサウンドトラックも素晴らしく、スムーズな演出に一役買っていました。

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ロバートを演じたダーク・ボガードは、60年代から70年代にかけてデカダンスあふれる演技と存在感で一世を風靡しましたが、この作品では、一貫して1人の女性に純粋な愛情を捧げる役どころでした。当時の彼には珍しく、情熱的な女性に振り回される真面目で平凡な中年男性を、時にくたびれた風情を漂わせながら好演しています。他の作品で見られるような、暗鬱に屈折した感情やぎらつくような性的魅力ではなく、影からそっとクリスティーを支えるような演技で、さらにその懐の深いところをみせてくれます。

もう1人のキーパーソンであるマイルズを演じたのは、ローレンス・ハーヴェイ。キーラ・ナイトレイが映画「ドミノ」で演じたドミノ・ハーヴェイのお父さんに当たる方です。彼も、スマートでハンサムな外見に隠された金持ちの傲慢さと孤独感を冷ややかに演じていました。この頃の彼は、今をときめくヒュー・ジャックマンにも似ていますね。

ダーク・ボガードとローレンス・ハーヴェイのおかげで、この作品にはさらに深い陰影が加えられました。彼らをはじめとする脇の役者の達者な演技に支えられ、監督自身の、豊かな時代に生きる現代人の抱える飢餓感への皮肉な視線が明確に浮き彫りにされたのです。ダイアナが、ロバートの子供を身ごもっても、結局育てる自信がないからという理由で簡単に堕胎する描写。ロバートを失って心の拠り所をなくしたダイアナが、むしゃくしゃする気分を発散するためだけに万引きする描写。マルコムとダイアナが、万引きした戦利品でやけっぱちパーティーをやったせいで、あっさり死んでしまうペットの金魚。あるいは、なにか壁にぶち当たるたびに生まれ育った田舎に逃げ込もうとするダイアナの成長のなさ。監督はこれらを通じて、幼稚で耐えることを知らない今時の若者の精神が、どんどん荒廃していくことを憂えているのでしょう。単なる華やかな女性の一代記ではなく、そこになんともいえない苦々しい余韻が感じられるのはそのためです。ともあれこの作品で、シュレシンジャー監督は現代人の抱える孤独の病巣をえぐる独特の作風を確立、世界的な名声を得ました。そして次作からは、いよいよ母国を離れてアメリカのマーケットに向かうことになります。


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