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zoom RSS 最も美しい“最悪の”夜―「マラノーチェ Mala Noche」

<<   作成日時 : 2016/03/26 20:16   >>

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映画や小説、音楽など、どんな芸術形態であっても、私は“処女作”を観るのが大好きだ。処女作にはその作家のあらゆる要素の萌芽を感じることが出来るし、なにより、初々しい緊迫感と瑞々しさの絶妙な均衡があるから。相反する要素が、反発しあいながらもこれ以上ない配分で危うくバランスを保っている部分に、大抵その作品の魅力が潜んでいる。

僕が恋したのは不法移民の少年ジョニーだった。彼はまだ17歳だった…。

「マラノーチェ Mala Noche / Bad Night」(1985年製作)
監督:ガス・ヴァン・サント Gus Van Sant
製作:ガス・ヴァン・サント Gus Van Sant
原作:ウォルト・カーティス『Mala Noche: And Other “Illegal” Adventures』written by Walt Curtis
脚本:ガス・ヴァン・サント&ウォルト・カーティス Gus Van Sant & Walt Curtis
撮影:ジョン・J・キャンベル
編集:ガス・ヴァン・サント
音楽:ピーター・ダマン&カレン・キッチン&クレイトン・リンゼイ
出演:ティム・ストリーター(ウォルト)
ダグ・クーヤティ(ジョニー)
サム・ダウニー(ホテル従業員)
ナイラ・マッカーシー(ベティー)
レイ・モンジュ(ロベルト・ペッパー)
ロバート・リー・ピッチリン(ボブ・ピッチリン)

作品の質を問うならば、ガス・ヴァン・サント監督の手になる一連の映画群は、確かにそれぞれアップダウンはある。しかしながら、2007年に公開された「パラノイド・パーク」、2008年に公開されたハーヴェイ・ミルクの伝記映画「ミルク」の2作で、その変わらぬ瑞々しい映像表現に再び高い評価が集まっている。映画監督の肩書きの他にも小説家やミュージシャンとしての顔も持つそんな彼の、これは記念すべき処女作である。カンヌ国際映画祭でも高い評価を受け、彼独特のキャリアがここから始まったといっても過言ではない。「ドラッグストア・カウボーイ」「マイ・プライベート・アイダホ」と続く“ポートランド三部作”の出発点でもあるそうだ。

思うに、ヴァン・サント監督の魅力とは、その自然体な語り口と、台詞ではなく背景描写によって登場人物の心的状況を連想させる点だろう。ある意味、非常に文学的であり、観る側に詩的なイメージを膨らませる余地を与えるのだ。最近の映画の悪い傾向である、なにもかもをきっちりと説明しきってしまう無粋な演出は、彼に限ってはありえないと言っていい。尤も、リメイク「サイコ」だけは別だが(笑)。

モノクロで撮影されているために、この作品はタイトル通り“夜”のイメージに支配されている。モノクロは夜の象徴であると同時に、どこか現実的ではない夢幻の世界を髣髴とさせる。カーティスの一人称で語られるこの物語も、彼の主観で観察された周囲の世界に帰結してゆくために、どこか現実離れした雰囲気もあるのだ。ところが、劇中数箇所だけカラーになる映像がある。カーティスが、一目惚れした不法移民の少年ジョニーと、その親友で成り行き上カーティスが面倒を見る羽目になるロベルトを撮影したホームビデオがそれである。カーティスの見る現実はモノクロで表現され、彼ら3人―決して人生が交錯しあうことのない者達―が無邪気にじゃれあっている非現実的なシーンはカラーで表現されるのだ。その裏からは、とても皮肉な監督の思いが透けて見えるようで興味深い。

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このモノクロの中篇は、監督の愛して止まぬ故郷ポートランドを代表する、詩人で作家のウォルト・カーティスの自伝的小説を原作に頂いている。ポートランドは、監督が自らの作品のインスピレーションを求め続ける街であるが、調べれば調べるほどさもありなんと思わされる、なんとも不思議な魅力に満ちた土地柄だ。低所得者層の吹き溜まりのような一角(スキッド・ロウ)も擁せば、この作品でも印象的であった“覆い尽くす空の風景”に象徴されるように、のんびりした田舎の表情も併せ持つ。カーティスのような同性愛の人々が暮らしやすい街としても有名だ。レズビアンの大きなコミュニティもある。

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カーティスは、自らの性的嗜好を周囲におおっぴらにカムアウトしている。保守的なアメリカではそのこと自体が敬遠されるものだが、カーティスは通り一遍の偏見や差別など、軽やかにすり抜けている。彼は自分の感情に正直に生きることを第一に考え、瑣末な雑音など気にも留めないのだ。
しかし、愛する対象… 特にストレートの男性…にそれを伝える術がないとすると、一方通行の恋は彼を痛めつけることになる。それでも彼は、恋する相手を束縛したりせず、ひたすらその幸福を願う。結局相手が自分のもとから去っていくだろうことが、明白だからだ。わかりやすく言えば、見返りを期待しない無償の愛情を注ぐのだが、それはなぜだろう。

なんとなく、恋の対象も全てひっくるめた上での“ポートランド”という街の全てを、カーティスが愛しているからだという気がしている。彼が突き動かされる行動の理由は、劇中では全く説明されない。スキッド・ロウの片隅にあるシケた雑貨屋で、日々社会の底辺に住まう人々の相手をするカーティス。彼は、娼婦や不法滞在者、流れ者といった社会のはみ出し者たちと、同じ空気を共有している。彼らを優しく包むのがポートランドという不思議な街であり、それを彼は心から愛しているのだろう。

“マラノーチェ Mala Noche”は、スペイン語で“最悪の夜”という意味である。大切な友人を失い、おまけに運命を感じた恋人にも去られた夜は、確かに“最悪の夜”ではあったろう。だがカーティスにとって、それは淡い恋の思い出を永遠に封じ込めることが出来た、いわば最高に美しい夜であったのかもしれない。

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ウォルト・カーティス Walt Curtis (画像は、1974年のオレゴン・タイムスに掲載されたもの)

ウォルト・カーティスは、オレゴン州ポートランド出身の伝説的な詩人、作家である。彼の創作活動は常にストリートに根ざしており、商業的な成功とは無縁ながら、今も地元に根ざした活動を続けている。『The Erotic Flying Machine』『The Roses of Portland』『Rhymes For Alice Blue Light』『Mala Noche』といった作品を上梓し、ポートランドの文化を支える小規模出版社から発売している。カーティスが重視する活動に、ポートランドの中でも特に貧しい地区での詩の朗読会がある。ホームレスや流れ者、娼婦、ジャンキー…。社会の底辺に生きる人々の吹き溜まりのような場所で、多感な青春時代をすごした彼は、その頃の思い出を自伝的小説『Mala Noche』にまとめた。
これは後年、同じポートランドにルーツを持つガス・ヴァン・サント監督によって映画化されている。またカーティスは、30年の長きに渡り、ポートランドのラジオ放送局KBOO-FMで、Barbara LaMorticellaと共に詩の朗読番組“The Talking Earth”を放送していた。オレゴン州文化活動支援委員会の創設者の1人にも名を連ね、“Out of the Ashes Press”という独立系の出版社をNorman Solomonと共に立ち上げている。
そんな彼を敬愛するアーティストは多く、1978年のインディペンデント映画『Property』に彼を主役で起用したPenny Allen監督もその1人であった。なおこの作品には、録音担当としてガス・ヴァン・サント監督の名前もクレジットされている。両者の交流は、この頃から育まれていたのであろう。1995年には、カーティスの多岐に渡る文化活動に敬意を表し、Bill Plympton監督のメガホンになるドキュメンタリー映画『Walt Curtis: The Peckerneck Poet』が製作されている。

●関連映像作品
『Property』(1979年製作)
監督:Penny Allen
撮影:Eric Alan Edwards
録音:Gus Van Sant
出演:Walt Curtis
Lola Desmond
Nathaniel Haynes他。

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『Walt Curtis: The Peckerneck Poet』(1997年製作)
監督:Bill Plympton
製作:Bill Plympton
出演:Ruben Bansie-Snellman
Natascha Snellman

ゲイ・コミュニティーの活発な街に根付き、自らもゲイであることを公にする詩人ウォルト・カーティス。このドキュメンタリーは、一貫して“マイノリティ”であることにこだわり続ける彼の創作と、精力的な文化活動の源泉を探っていく。


自作の詩『The Teeth of the Dead』を、文字通り路上で朗読するウォルト・カーティス。


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