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zoom RSS He's lost “Control”―「コントロール Control」(2007年)

<<   作成日時 : 2017/11/17 22:16   >>

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存在?それがなんだというんだ。僕は精一杯存在している。

「コントロール Control」(2007年)
監督:アントン・コービン Anton Corbijn
製作:オライアン・ウィリアムズ&アントン・コービン
原作:デボラ・カーティス Deborah Curtis「タッチング・フロム・ア・ディスタンス イアン・カーティスとジョイ・ディヴィジョン Toching From a Distance」(蒼氷社刊)
脚本:マット・グリーンハルシュ
撮影:マーティン・ルーエ
音楽監修:イアン・ニール
スペシャルサンクス:ニュー・オーダー New Order
出演:サム・ライリー(イアン・カーティス)
サマンサ・モートン(デボラ・カーティス)
アレクサンドラ・マリア・ラーラ(アニーク・オノレ)
ジョー・アンダーソン(ピーター・フック、フッキー)
ジェームズ・アンソニー・ピアソン(バーナード・サムナー)
トビー・ケベル(ロブ・グレットン)
クレイグ・パーキンソン(トニー・ウィルソン)
ハリー・トレッダウェイ(スティーヴン・モリス)他。

英国マンチェスターの片田舎。イアン・カーティスは、この代わり映えしない退屈な田舎町で生まれ育った。彼は詩や小説に長じ、自らも詩をたしなむ夢見がちな少年であった。もう1つ、彼の渇望を満たしてくれるのは、ボウイやイギー・ポップといったミュージシャンたちの音楽であった。そしていずれは自分もロック・スターになることを淡く夢見るようになる。

彼は学校を卒業すると、友人から奪ってステディになった女の子デボラと結婚した。ある夜、セックス・ピストルズのライブ会場に赴いたイアンは、バーナード・サムナー、フッキーことピーター・フック、スティーヴン・モリスに出会う。彼らはバンドをよりよくするため、フロントマンとなるボーカリストを探していた。こうして運命的な出会いを果たした彼らは、“ワルシャワ”なるバンドを結成する。

イアンは生活のため、昼間は職業安定所で働き、夜はデビューを夢見つつバンドで演奏するロック三昧の、二重生活を送っていた。自主制作でレコードも作り、マネージャーに志願したロブ・グレットンの働きもあって、当時グラナダ・テレビで大人気の音楽番組の司会を務めていたトニー・ウィルソンに、テレビ出演を認めさせることに成功する。テレビで“トランスミッション”を生演奏するや、たちまち次世代のロック・バンドとしてカリスマ的な人気を博した彼らは、トニーがマンチェスターに設立したファクトリー・レコーズ社と契約を交わす。

トニーの後押しを受けて完成したデビュー・アルバム「アンノウン・プレジャーズ」(1979年)は、孤立感や絶望を題材にした陰鬱な歌詞、イアンの特徴的な低音ボーカル、重いビートで疾走するかのようなメロディで、英国ロック・シーンにセンセーションを与えた。ライブでは、イアンの鬼気迫るパフォーマンスに若者は夢中になり、連日ライブは大盛況となる。順調にレコード・デビューも果たし、バンドの未来は順風満帆に思われたが、イアンがある晩突然てんかんの発作を起こす。明確な治療法もなく重症ならば死に至る病に、繊細なイアンは打ちのめされた。職業安定所での仕事も辞さずをえなくなり、娘も授かったが、バンド活動だけでは到底生活していくことができない過酷な経済状況がカーティス家を襲う。

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死の病と音楽と家庭の両立に悩むイアンは、ある日出会った熱心なファン、アニーク・オノレとの不倫の恋にのめりこむようになる。ツアー三昧で家に寄り付くこともまれになったイアンは、妻デボラへの関心をどんどんなくしていく。冷え切った家庭生活を支えるため、クラブでバーテンとして働くデボラの苦労をよそに、イアンはアニークと逢瀬を重ねる。しかし、ファンからの崇拝のまなざしは過度のプレッシャーともなり、イアンの神経を責め苛む。また、いつ起こるかわからないてんかんの発作にもおびえながら逃げ惑うイアンを、さらなるショックが襲った。ついに、アニークとの不倫がデボラの知るところとなったのである。既に夫の気持ちが自分にないことを知ったデボラは怒り悲しむ。彼女の苦しみを受け、いったんは反省したイアンであったが、赤ん坊と田舎臭い妻との暮らしにすぐ耐えられなくなる。

イアンの私生活が崩壊するのをあざ笑うかのように、バンドの人気はうなぎ昇り。追い詰められたイアンは、デボラにアニークを憎まぬよう書き置きを残して睡眠薬自殺を図る。デボラの機転で辛くも死は免れたイアンであったが、バンドに熱狂する聴衆は更なる興奮を彼に求め、その個人的事情など待ってはくれない。退院した足で向かったライヴ会場で、イアンは初めてパフォーマンスを途中放棄してしまう。暴徒と化す聴衆。彼らの怒号を背中に受けながら、イアンはどんどん膨れ上がるバンドの名声におびえるようになった。1980年、2枚目のアルバム「クローサー」をリリースするも、バンドの名声が海を越えてアメリカにまで届こうかという事態に、彼自身が疑問を抱く。

アニークと離れられないイアンは、デボラの待つ家には帰れない。だがアニークは、あまりに繊細で複雑すぎるイアンについていけないものを感じ始め、彼を拒絶する。イアンはロブの家やバーナードの家などを転々とし、最後に生まれ育った実家に戻ってきた。自分の部屋は、かつて夢と希望に満ちていた頃のままであり、イギーやボウイのアルバムもそのまま残されていた。イアンはそこで昔の自分の思い出に浸りつつ、アニークへ手紙をしたためた。明日の朝にはバンドと共にアメリカ・ツアーへ旅立たねばならない。悩んだ末、彼はその夜遅くデボラの家に行くことを決意するのだった。もう一度デボラと話し合い、心から詫びねばならない。しかし、人気のない自宅に戻ったイアンは泥酔してしまう…。すぐそこに、取り返しのつかない運命が待っているとも知らずに。

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U2 やディペッシュ・モード、そしてこの映画で取り上げられるジョイ・ディヴィジョンなど、ロック・スターたちのポートレイトで一躍有名写真家となったアントン・コービン。ミュージック・ビデオやアルバムのジャケット・デザインなども手がける多才な彼が、いよいよ映画の世界に進出した。本人曰く、 “ロック写真家”と呼ばれる事に嫌気が差していたそうで、自殺したイアン・カーティスの伝記映画企画であるこの作品にも、当初は気乗りしていなかったとか。しかしながら、ジョイ・ディヴィジョンは、コービンが故郷オランダを離れてロンドンに移住するきっかけとなったバンドでもある。彼にとって、やはりこれは特別な意味を持つ作品であろう。

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ジョイ・ディヴィジョンの精神的リーダーであり、バンドの全ての楽曲の作詞を担当していた詩人イアン・カーティスは、1976年から自殺する1980年までのたった数年の間だけ、若者からカリスマと崇められた伝説的なミュージシャンだった。この映画は、てんかんという不治の病に苦しみ、アートとビジネスの軋轢に苛まれ、妻と愛人との間をふらふらと彷徨う、大人になりきれない男の苦い青春の記録だ。イアンは亡くなったとき、わずか23歳。人生これからという年齢である。若くして自ら命を断ったミュージシャンというと、かのカート・コバーンなどを思い出すが、この映画からはさらなる精神破綻、幼さゆえの痛々しさが濃厚に感じられる。映画が、イアンという男の実像に迫ろうとしているからだろう。憂鬱な田舎町で結婚を急ぎ、家庭生活に幻滅しながらも夢を諦めきれず、しかしいざその夢が現実のものとなるとプレッシャーの恐怖に慄くイアンの焦燥は、劇中克明に描かれていく。
そこには、彼を偶像化するのではなく、ごく普通の男として捉え直そうとする意識が明確に働いている。映画であぶりだされる彼の実像は、客観的に観れば己の行動に責任も持てない意気地なしと感じられるだろう。いくらアーティスティックな才能に恵まれていても、社会的には全く“存在できない”自堕落な男。しかしながらその青臭い情けなさは、私たちの誰しもが若かりし頃に共有していたはずのものだ。私たちがいつしか、イアンに自身の青春時代の翳りを重ね合わせてしまうのは、皆等しくほろ苦い青春時代を経験しているせいだろう。私たちは、スクリーン上のイアンという媒介を介して、自らの過去の思い出を象徴的になぞるようになる。

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また映画は、イアンの妻デボラが書き綴った手記に則っているが、実は彼女以外のイアンの関係者にもスポットを当てている。つまり、妻から見たイアン像だけではなく、バンド仲間から見たイアン像、マネージャーやレコード会社社長、はたまた愛人から見たイアン像までも織り込み、かなり多角的に彼の人物造形を試みているのだ。そのおかげで、イアンの苦悩を主体とする物語ながら、映画にメランコリックな心情が横溢するのを防いでいるともいえよう。

よって、イアンやジョイ・ディヴィジョンの純粋なファンが期待するような、ライブ・パフォーマンスやレコーディング風景など、バンドの成功物語にはあまり触れられていない。あくまでも焦点はイアンの人間像に結ばれ、最期に至る彼の心理の軌跡を追うことに精力が傾けられているのだ。ひょっとしたら、そこが作品の評価の分かれ目になるかもしれないが、心配は要らない。音楽とそれがもたらす効果を熟知するコービンのこと、要所要所でイアンの陥る心理状況とオーバーラップさせる形で、バンドの楽曲や演奏風景が流される。劇中のパフォーマンスは全て、実在の人物を演じる俳優によって実演され、イアンの歌も演じるサム・ライリーが実際に歌っている。声の質や顔の造作など、外見的な特徴の差異はいかんともしがたいものの、その存在感や身のこなしは気味が悪いほど似ている。バーナードやフッキー、スティーヴンも、私が知る限り本人の特徴が実に良く捉えられていて、思わず吹き出してしまったほどだ。しかし、本格的な音楽映画として、吹き替えではない実演のポテンシャルの高さは見事であったと、ここに強調しておきたい。

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この作品は、デボラの、ジョイ・ディヴィジョンのメンバーの、マネージャーのロブの、アニークの、…引いては監督アントン・コービンの、イアン・カーティスという男の思い出を映像化したものだと考えられる。思い出というものは、たとえそれがクソの山であろうが、時が過ぎれば黄金色の山に変わり得る。イアンが周囲の人々にどれだけ大きな禍根と痛みを残したかにせよ、イアンの思い出は美しいモノクロ世界で綴られるべきなのだろう。
この作品が、全編どのシーンを切り取っても見事なスチール作品になるような、美しいフィルムに仕上げられたのは、この物語が映画に関わった人々全ての“思い出”であるからだ。そのためにこそ、ひとつひとつのシーンの構図が計算され尽くしているとも言えるのだが、どこか突き放すような冷ややかさが支配するトーンは、観る者の感情移入を容易に許さない一面も持つ。例えば、ジョイ・ディヴィジョンの音楽を崇拝し、イアンを神格化したい向きには、戸惑う雰囲気もあるのではないか。
だが、イアンの死によって結果的に純化されてしまった青春時代の焦燥は、私たちの胸に覚えのある痛みを呼び起こすだろう。ラストに映し出される煙突からの黒い煙は、イアンの肉体だけではなく、きっと私たちの思い出も残らず焼き尽くしたのだ。

なお、残されたメンバーは、新たにボーカルを加入させることなく、バンド名をニュー・オーダーと改め再出発を図った。イアンが亡くなった日のことを歌った “Blue Moday”は、歌詞の内容が物議を醸すも大ヒットを記録する。イアンの死後は、バンドは過激なまでにエレクトリック・サウンドの傾向を強め、英国のみならずアメリカのダンス・チャートも席巻した。メンバーたちは、90年代の中盤からは個々のソロ活動が目立っていたが、もちろん現在も健在だ。ジョイ・ディヴィジョンのポートレイトを撮影した縁のあるコービン監督に、音楽面も含め全面的な協力を約束したという。

アンノウン・プレジャーズ【コレクターズ・エディション】
Warner Music Japan =music=
2008-03-05
ジョイ・ディヴィジョン

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ポスト・パンク・ムーヴメントが英国のロック・シーンを席巻していたとき、ジョイ・ディヴィジョンという新しいバンドが産声を上げました。陰鬱な歌詞と、突如爆発するような激しさを内に秘めた重いビートが疾走するメロディは、まさに彼らにしか表現できない音楽世界。シンプルながら稲妻のごときギター・リフ、ひたすら内面の闇を見据えるかのような歌詞、大きな話題を呼んだライヴでの異様なパフォーマンスと共に、既に完成された音楽世界を垣間見ることができます。美しくも重々しい幻想的なアートワークは、ピーター・サヴィルの手になるデザインですね。彼らはデビュー作にして、唯一無二の音楽性を確立してしまいました。その独特のスタイルは、世界中のミュージシャンに大きな影響を与えることになります。Amazonによると、この特別盤のDISC1には、「アンノウン・プレジャーズ」の初リマスター音源が収録され、DISC2には、1979年7月13日にマンチェスターのファクトリーで行われたライヴ音源が収められているそうです。映画でも熱狂的なライブの模様が再現されていましたが、音を聴くだけでも、イアンの鬼気迫るパフォーマンス が目に浮かぶようです。
私が初めてこのアルバムを聴いたのはローティーンの頃でしたが、救いのないイアンの歌詞は、なぜか情緒不安定な思春期の娘の心情にぴったりと寄り添うものでした。今にして思うに、イアンという人は若者の代弁者であったのでしょうね。若者の魂の核になる要素―不安、絶望、孤立―を自らの人生で体感していたからこそ、彼は彼らの代弁者になり得たのです。彼が音楽に行き詰まりを感じ始めたときと、若者の代弁者であることに疲れ始めたときが一致するのは偶然ではありません。彼の中では、自身の葛藤と音楽は別ちがたく結びついていたのですね。
人は永遠に純粋なままでいることは不可能ですし、いつか痛みを乗り越えて清濁併せ呑むようにならねばなりません。従って、イアンが“大人”になるのを拒否した結果、彼の居場所は永遠にこの世からなくなってしまったわけです。

クローサー【コレクターズ・エディション】
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「アンノウン・プレジャーズ」の成功の後、大きなプレッシャーの下で制作されたセカンド・アルバム。重苦しいながら突発的に狂乱する不可思議な世界観を、改めて内外に示した作品ですね。このアルバムのレコーディング後、イアン・カーティスは自らの命を絶ってしまいます。アルバムは彼の死後に発表されました。 Amazonによると、DISC1にはオリジナル・アルバム「クローサー」の初リマスター音源が収録され、DISC2には1980年2月8日にロンドン・ユニオン大学で行われたライヴ音源が収められているそうです。

スティル【コレクターズ・エディション】
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イアンを失ったバンドが、ニュー・オーダーとして新たに生まれ変わる直前に発表した、ジョイ・ディヴィジョンの未発表音源集です。Amazonによると、 DISC1には未発表スタジオ録音曲とライブ録音曲で構成された全20曲が収録され、DISC2には、イアンが亡くなる直前の1980年2月20日にハイ・ワイコム・タウン・ホールで行われたライヴ音源が収められているそうです。

コントロール デラックス版 [DVD]
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