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zoom RSS ジョゼフ・ハンセン Joseph Hansenと「闇に消える Fade Out」

<<   作成日時 : 2014/10/31 23:11   >>

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ジョゼフ・ハンセン Joseph Hansen

1923年7月19日生まれ
2004年11月24日没(心臓疾患)

アメリカはサウス・ダコタ州アバディーン出身

高校卒業後ジェーン夫人と結婚、1943年以降ロスアンジェルスに在住。様々な職業を転々としたあと、ローズ・ブロックやジェイムズ・コルトンといたペンネームを使い分け、主に普通小説を書いていた。しかし、自身バイセクシュアルであることを認識していた彼は、1970年にデイヴ・ブランドステッターというゲイの保険調査員を主人公とするミステリ・シリーズの第1作目を発表する。このシリーズはゲイ・ミステリという分野の草分けとなり、以後多くの愛読者を生むことになった。また、1977年から1986年までカリフォルニア大学のエクステンション・プログラムでミステリと小説の講座をもっていたこともある。
ハンセンは2004年11月24日にラグナ・ビーチで死去した。アーティストであり、1994年に死別したジェーン夫人との間には一女を授かっていた。


●デイヴ・ブランドステッターシリーズ

「闇に消える」Fade Out(1970)
「死はつぐないを求める」Death Clains(1973)
「トラブルメイカー」Trouble Maker(1975)
「誰もが怖れた男」The Man Everybody Was Afraid Of(1978)
「ブルー・ムービー」Skinflick(1980)
「砂漠の天使」Gravedigger(1982)
「真夜中のトラッカー」Nightwork(1984)
「放浪のリトル・ドッグ」The Little Dog Laughed(1986)
「早すぎる埋葬」Early Graves(1987)
「服従の絆」Obedience(1988)
「弔いの森」The Boy Who Was Buried This Morning(1990)
「終焉の地」The Country of Old Men(1991)

以上すべて早川書房の、ハヤカワポケットミステリより刊行。

ジョゼフ・ハンセンが1970年に「闇に消える」を発表した際、ハードボイルドミステリ小説の主人公がゲイの男であるとはなにごとかといった、轟々たる非難を浴びたそうです。
しかし、主人公デイヴの設定を、同性を愛する人物であると同時に、立派な一市民であり、育ちの良いハンサムで良識ある魅力あふれる男性にしたのには、確固とした理由がありました。
それまでのミステリ小説にでてくるゲイの人たちの描写は、いずれも犯罪者だの美容師だのダンサーだのといったステレオタイプに終始しており、そういった偏見を正したかったのだそうです。当時こういったタイプのミステリを書くこと自体が大変な冒険であったことは想像に難くなく、ハンセンも様々な批判と戦わねばなりませんでした。曰く、デイヴがいつもホモセクシュアルが絡む事件に巻き込まれるのは不自然ではないか…等々。
しかし、そういった批判を受けてもなお、彼の創造したブランドステッターシリーズは、プロットの素晴らしさ、人物描写の見事さ、深刻化する社会問題をテーマに織り込むなどの効果によって、一般のミステリファンの支持を広く得ることに成功しました。そして、“ゲイ・ミステリ”という新しいジャンルを切り開いていったのです。

ハンセンのブランドステッターシリーズは、「闇に消える」以降実に20年以上の長きに渡ってファンに愛され続けました。ご本人は当初シリーズ化するつもりはなかったようですが、第1作「闇に消える」が3年間あちこちの出版社をたらいまわしにされた後、ようやく陽の目を見たとき、彼はデイヴの物語を書き続けようと決心しました。そのストーリーの中に、社会の中であらゆる立場にあるゲイの人々を登場させようと目論んだのです。そして、1991年に発表された「終焉の地」でついにシリーズが終了すると、その後には“ハンセン・フォロワー”と呼ばれる新しい書き手たちによる、ゲイを主人公にしたミステリ小説が次々と刊行されていきました。この“ハンセン以降”の作家たちの中で、日本で最も有名なのはマイケル・ナーヴァでしょう。彼の手になる弁護士ヘンリー・リオスシリーズは、第4作まで邦訳が出版されております。このヘンリー・リオスのシリーズについては、こちらでご紹介しております。


「闇に消える」

それは単純な事件のはずだった。

ある嵐の夜、フォックス・オルソンの運転する白のサンダーバードは、断壁から30フィート下の川へ真っ逆さまに転落していった。5日後濁流の中から車は引き上げられたが、オルソンの死体はついに発見されなかった。警察は酔った上での事故と断定したが、デイヴ・ブランドステッターは事件を確信していた。彼は、オルソンが保険契約を結んでいたメダリオン保険会社の調査員として、現場にやってきたのだ。

闇に消える (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1415)
早川書房
ジョゼフ・ハンセン

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カリフォルニアの片田舎、ピーマ。ここでオルソンは、絵に描いたようなサクセス・ストーリーを実現した。
ロスアンジェルスで20年の長きに渡って、作家として成功する夢を追い続けていた彼。しかし現実は厳しく、書く原稿すべてが出版社からつき返される日々であった。結局家族のためにすべてをあきらめ、妻ソーンの故郷であるピーマに帰った。ところが、パーティでギターを手に歌ったのが、地元のラジオ局の社長マクニールの目に留まり、彼のラジオ局で「フォックス・オルソン・ショー」という番組を持つことになった。ラジオで自作のカントリーソングを歌い、自作のコメディタッチの小話を朗読する。瞬く間にショーは人気を博し、ピーマではオルソンの名を知らぬ者はいないほどになってしまった。
ようやく長年の苦労が報われた。妻とともに夢見たとおりの美しい家に暮らし、スケジュールはびっしり埋まり、あまりの人気に、市長選挙にまで打って出ようかという勢いだ。彼の輝かしい成功は今まさに始まったばかり。未来には一点の曇りも見えないはずだった。
しかし、デイヴがオルソンの周囲の人たちに執拗に投げかける疑問は、次第に彼の過去を暴いていく。そして、ひとつの結論を導き出した。オルソンはあの嵐の夜に死んだのではない。失踪したのであると。
オルソンは20数年のソーンとの結婚生活の間に娘を一人もうけたが、彼が妻とともにピーマに帰ってきたのは、ひとえに妻と娘のためであった。そして、作家になるという自らの夢はとうの昔にあきらめており、ラジオのショーの仕事を引き受けることにしたのも、「成功」に彼以上に執着していた妻ソーンのためだった。実はマクニールがオルソンにラジオショーの仕事を依頼したのも、幼馴染であるソーンに近づきたい下心があってのことだったのだ。それを知りつつ、オルソンは意に沿わないラジオのショーを演じ続けていた。
ところがオルソンには、妻にも秘密にしていた痛ましい思い出があった。彼の幼馴染だったダグ・ソーヤとのことだ。ダグとは一緒に美術学校に通った仲であったが、密かに愛し合う間柄でもあった。カリフォルニアのベル・ビーチで二人きりの夏のバカンスを過ごす。思い出に、二人の写真を撮った。そして、第2次世界大戦が若い二人を引き裂いてしまった。ダグは空軍へ入隊することになり、一方のオルソンは兵器工場で働くことに。
戦争が終わって、オルソンはダグが戦地で死亡したことを知る。絶望したオルソンは、ダグへの愛を胸に秘めたまま、工場で知り合った美しい娘ソーンと結婚する。以来、彼は家族のために働きながら、作家になるべく身を粉にして出版されるあてのない原稿を書き続けたのだった。
ピーマでの成功は、思わぬ事態を巻き起こした。戦死したと思われていたダグが、カントリー・シンガーとして有名になったオルソンを発見し、ヨーロッパから戻ってきたのだ。運命のいたずらで20年もの月日を離れ離れで過ごした二人。オルソンは秘密裏にダグと再会した。折りしも、現ピーマ市長チャーマズは、人気者のオルソンを市長選挙から引き摺り下ろすため、卑怯な工作を始めた。若い頃に二人がベル・ビーチで撮影した写真を手に入れ、市長選挙を辞退しなければ公表すると二人を脅したのだ。結局、これが引き金となり、オルソンは生涯ただ一人愛したダグと再び一緒に暮らすべく、先の事故を演出したのである。
二人が思い出のベル・ビーチに潜伏していることをつかんだデイヴは、オルソンをつかまえるべく自身もベル・ビーチへ向かう。しかし一歩間に合わず、オルソンは拳銃で撃たれて死んだ後であった。誰が犯人か。オルソンの失踪事件は、やにわに殺人事件へと変貌する。直後になんとピーマ市長チャーマズまでが、銃殺されてしまった。事件は一挙に混迷を深めていく。ベル・ビーチ地元警察は、オルソンと共にいたダグを犯人として逮捕する。しかし彼からオルソンの話を聴いたデイヴは、他に真犯人がいることを確信していた。
オルソンとダグはベル・ビーチにいた間に喧嘩してしまい、気性の激しいダグは滞在していたホテルを出て行ってしまっていたのだ。オルソンは絶望し、大切な人たちへ3通の手紙をしたためていた。それらは妻ソーン、ソーンの父ハップ・ルーミス、娘のグレッチェンへのもの。手紙には、なぜ自分が失踪事件を引き起こしたのか、事の顛末がくわしく書かれていたらしい。手紙を受け取った者のなかにオルソンを殺した犯人がいるのか。手紙の存在をつきとめたデイヴは、彼らの身辺を徹底的に洗う。そして、意外な真犯人に行き当たるのだった…。


このあと、デイヴは、チャーマズ市長を殺害したのが、ソーンの父ハップ・ルーミスであったことを突き止めます。彼は娘の結婚にもともと反対しており、義理の息子オルソンを毛嫌いしていましたが、実は本当のところ好漢のオルソンを好ましく思っていました。それで、娘ソーンをオルソンのスキャンダルから守るためにも(当時のアメリカの田舎では、同性愛は大変なスキャンダルでした)、秘密を握っているチャーマズを亡き者にしたというわけです。彼は、オルソンがいるところまで出向き、生活していくための金を渡して、残された家族のためにも姿を消すようオルソンを諭します。自分の反対を押し切って結婚した娘と始終いがみ合う頑固者に見えるハップが、実際は娘と娘婿のことを心から心配していたとわかるくだりは、個人的に胸が痛むシーンでもありましたね。親って、どんなに子供と仲が悪くても、最後には子供のために命も張るのを惜しまないものなんです。
また、気の毒に思ったのは、オルソンの妻ソーン。ソーンは何年もの間オルソンを支え続けましたが、誰にも認められない、苦しい生活の中で、いつしかオルソンを夫として愛する気力をなくしてしまったんですね。ピーマに帰ってきたとき、夫婦の仲は冷え切っていたわけです。でもオルソンは長い間満足な生活をさせてやれなかった負い目もあり、妻とマクニールが浮気しているのを承知の上で、本当は気乗りのしないカントリー・ソングを歌ったのです。彼が本当に愛していたのは優れた小説であり、戯曲であり、詩でした。このあたりのオルソンの設定は、おそらく著者ハンセンの半生と重なるのでしょう。ハンセン自身、長い間作家として芽が出ず、本屋で働いたり、時には小さな出版社でポルノ小説を書いたりして、不遇をかこったそうですから。
ソーンは、夫オルソンが生涯かけて愛していたのが自分ではなく、同性の男だと知らされたときには衝撃だったでしょう。だって自分はずっとオルソンのために…たとえ夫としての愛情がなくなっても、尽くしてきたのですからね。
夫婦がお互いを大事に想いあっても、結局円満な解決は得られないのでしょうか。片方が同性を愛する限り、そして『セックス』の問題が常にある限り、もう片方は究極の選択を迫られるのです。別れてしまうか。あるいは、肉体を封印して、『伴侶』としてではなく、保護者的な存在となって彼(あるいは彼女)に接するか。今でもなかなか答えの出ない問題だと思います。
そして、オルソンとダグの関係。二人は離れ離れになっていた間の愛情を取り戻そうと、思い出の地で再び愛し合おうとします。が、後にダグが告白したように、20年もの空白は簡単に元通りにはならなかったのです。20年の間には、一言では言い表せないほどの歴史をそれぞれが作ってしまっているのですからね。その間に二人が失ったものもたくさんあるわけです。結局ダグの方が、思い通りにならない愛情に飽きてしまった。若い頃のような激しい愛情を持ち続けるには、二人とも年をとってしまったということです。ちなみに、デイヴとオルソン、ダグの年齢設定は40台半ば。3人とも第2次世界大戦中に青春時代を過ごし、ストーリー中では時代は60年代後半になっています。ちょうどヒッピー旋風がアメリカに吹き荒れていた時代ですね。
そのヒッピーに対する描写もさりげなくストーリーに織り込まれていて、なかなか興味深いです。作家は、彼らに対してはかなり冷徹な見方をしていたようですね。
オルソンとダグは結局20年の間に失ってしまった気持ちに気づかされますが、思い直したダグがもう一度彼とやり直そうとベル・ビーチに舞い戻ってきたときには、すでにオルソンは何者かによって殺されてしまっていたのでした。ダグは、失くした愛情を永遠に取り戻すことができなくなったのです。喪失の嘆き。実はデイヴがダグを救うために真犯人を探すのも、このダグの『喪失の痛み』を彼も持っていたからです。
デイヴはオルソン事件を調査する前に、20年以上をともに暮らした伴侶ロッドを癌で亡くしていました。永遠に一緒だと思っていた伴侶に突然去られる痛み。遺された者は、あのときどうしてもっと優しく接しなかったのかという後悔を山のように味わいます。デイヴも事件の調査をする途中、誰もいない我が家に戻ってきたときに、ロッドとの数々の思い出に苦しめられます。
初めて出会ったときの胸の高鳴り、一緒に暮らし始めて知ったお互いの欠点。お互いに相容れない趣味を持っていたけれど、ロッドは文句一つ言わず自分についてきてくれたこと…。そんなロッドを時にはひどい言葉でなじっていた自分。失ってはじめてわかるその大きさに、デイヴは煩悶します。そして、ロッドに対してしてやれなかったこと―いつも『愛している』と告げること―を埋め合わせるために、逮捕されたダグを救うという行動に出たわけです。

真犯人が捕まり、ダグが刑務所からデイヴの元へやってきます。ダグとロッドはよく似た外見です。事件を解決し、ダグを救ったことで、ロッドの亡霊はデイヴの心の中から消えていったのでしょう。そして、ダグの心の中からもオルソンという存在は消えていきます。お互いに喪失の痛手を乗り越えたダグとデイヴが、新たな関係を始めようとするところで、小説は終わります。

このミステリが素晴らしいのは、オルソンが失踪した後の周囲の人間たちの行動をデイヴが追っていく裏で、彼らがどんな動機で動いていたのかが、それぞれ伏線となって存在しているプロットの見事さにつきます。それを、デイヴの4日間の調査のなかで無理なく浮かび上がらせる、ハンセンの手腕。
でも、もっと大事なのは、そういうプロットを陰から支えるエピソードの数々―オルソンとダグの人生、デイヴ自身の人生―が普遍的な共感を持って、読者に迫ってくることだと思います。大事なものを失くす痛みというのは、誰しも味わう苦い経験ですから。

最後に、もしこの作品が映画化されるとして、デイヴ役を演じてもらいたいのは、私なら断然この方を押したいです。

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年齢を経てもなお、独特の暗い美貌にますます磨きがかかる、ジェレミー・アイアンズ氏ですね。

真実を求めるデイヴの静かなる情熱、しかし喪失の哀しみを抱えてその容貌には多少の疲労が見えるところ。それでいて周囲の男性を惹きつけずにはおかない、気品あるハンサム振り。アイアンズ氏ならば、デイヴの複雑な魅力を正確に伝えてくれるのではないかと思うのです。

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