Roseraie du Val-de-Marne薔薇の映画 Les Films de la Rose

「こんな田舎町でも何か起こるのかい」
「ああ」
「何が?」
「バラが咲く」 ―映画「乱暴者」より

現在私たちが暮らすPort d'Italieからバスに揺られること数十分、空気の澄んだ閑静な町Val-de-Marneにバラ園があると聞き、先日遊びに行ってまいりました。

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入園するには料金がかかりますが、大人1人で3ユーロ。バラ園の前にある料金所でチケットを購入すれば、園内に一日中いようがどうしようが自由。中にはバラ園のほかにも子供のための遊具が多数設置されており、とにかく広々とした芝生が延々と続く別天地でありまして、のんびりゆったり過ごすにはもってこいの場所ですね。今回もまた、例によってYさんちのお子様ズと一緒に行きましたので、うちのチビ共を入れたちっこいの4人は、入場料金をタダにしてくれましたよ(笑)。

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バラ園に一歩足を踏み入れると、馥郁としたバラの香りが立ち込めます。香水などでなじみのある“バラの香り”とは全く異なる野性味溢れる香り。目にも鮮やか、様々な形のバラがあちこちで花を開き、ミツバチや蝶を誘っておりました。しかしながら、バラの香りに惑わされるのは私たち人間も同様。迷路のごときバラ園内でいつのまにやら立ち尽くし、すっかりバラの虜になって途方に暮れる自分に気づくのですね。

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日本庭園のように、虚飾を極限までそぎ落としたストイシズムも美しいのですが、いっそ色濃い緑と艶やかな花びらに埋もれてしまう快感には、抗いがたい魅力があります。

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バラ園の地図には、全ての品種の名前と由来が説明されていましたが、驚いたのが日本原産のものが園内の広い一角を占めていたこと。私自身、バラの知識に不案内なのが悔やまれます。園にはバラの愛好家と思しき方々もたくさんいらしたので、この園のコレクションはかなりのものなのでしょうね。

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バラの濃厚な香りと、視覚を狂わされる鮮やかな色彩にとまどっていると、一心にバラのスケッチをしている人に遭遇。通路に座り込んで、脇目も振らずに筆を振るっておられました。

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幾何学模様と西洋式庭園は切っても切れない関係にありますが、ヨーロッパの街並みとそこに住まう人たちの暮らし振りを見ていると、なぜそうなのかが自然と納得できます。庭園もその地の風土に合った形に発展していったのですねえ。

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実は私自身は、バラは白か淡い色合いのものが好きです。のんびり眺めていても安心していられるというのか(笑)、ついつい彼女たちに鋭い棘があることを忘れてしまうからでしょうね。


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映画にも、“薔薇”と冠された作品はいくつかあります。真っ先に思いつくのは、「サボテン・ブラザース」に俳優として出演した経験もあるメキシコ出身の映画監督アルフォンソ・アラウ Alfonso Arauの幻想的なラブ・ストーリー「赤い薔薇ソースの伝説 Como agua para chocolate / Like Water for Chocolate」。所謂マジック・リアリズムの美を世界に知らしめた作品ですね。しかしながら、今作の元々のタイトルは全く異なるもの。映像に香るラテンアメリカ映画特有のエロティシズムや、激しくも哀れな悲恋の顛末が、ヒロインの運命を思わぬ方向へ押し進めるイメージが、“薔薇”というキーワードと強烈に結びついたということでしょうか。確かに、古い因習の犠牲となって愛する男性と結婚する道を絶たれたヒロイン、ティタのこしらえる料理は、それを食す人々を大いに惑わせました。ティタが涙と共に作ったウエディング・ケーキは、婚礼に出席した人たちに涙を流させ、彼女が官能的な気分と共に用意した手料理は、食べた者を官能で包みます。文字通り、料理に己の気持ちを込めることのできるティタは、薔薇のように他人を幻惑する力の持ち主であったというわけです。


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他にも、ショーン・コネリーが中世の時代の僧侶探偵を演じた「薔薇の名前 Le Nom de la Rose」(1986年)(ジャン・ジャック・アノー Jean Jacques Annaud監督)なども有名な作品ですよね。この作品の“薔薇”も、北イタリア山中の修道院で起こる奇怪な殺人事件のキーワードとして登場するものであり、劇中に具体的な説明がなされるわけではありません。あくまでもその実態と真意は謎のままながら、事件の当事者のみならず、それを捜査する側のウィリアムと助手のアドソをも翻弄するのですね。つまり“薔薇”とは、彼ら全員が畏怖すべき大いなる力の象徴なのではなかったか。神の名のもとに民衆を意のままに支配する宗教の世界にあっても、決して手に触れられぬ遠い遠い存在。それは、時に人間の弱みに付け込む悪しき誘惑の形を成して人の前に現れ、またある時には、善なる者の魂を救済する存在として地に降り立ち、その都度人の心を試すのです。善悪が表裏一体であるように、神と悪魔もまた分かちがたく結びついているため、私たちは度々神の姿を別のものに見間違えてしまうのでしょう。そんなやるせない真実を、血のように赤い薔薇が艶然と咲く様に例えていると解釈するのも一興かもしれません。


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「カイロの紫のバラ The Purple Rose of Cairo」(1985年製作)
監督:ウディ・アレン Woody Allen
製作:ロバート・グリーンハット&マイケル・ペイサー&ゲイル・シシリア
製作総指揮:チャールズ・H・ジョフィ
脚本:ウディ・アレン Woody Allen
撮影:ゴードン・ウィリス
音楽:ディック・ハイマン
出演:ミア・ファロー
ジェフ・ダニエルズ
ダニー・アイエロ
エド・ハーマン
ダイアン・ウィースト
ヴァン・ジョンソン他。

1930年代、不況が続くアメリカのニュージャージー。失業中の夫に代わり、ウェイトレスとして働くセシリアは、陰鬱な毎日をやり過ごすために大好きな映画「カイロの紫のバラ」に通いつめます。彼女は、この映画の主役トムの大ファンであったのですが、ある日、そのトムがスクリーンの中から彼女に向かって話しかけてきました。驚く周囲をよそに、映画の中のトムはついにスクリーンを飛び出し、素朴なセシリアに恋をしてしまいます。もちろん、主役を欠いた映画はストーリーが中断したままで、劇中の役者たちはおろおろするばかり。この驚くべき珍現象に、劇場は一躍観光名所になりました。しまいには映画会社の重役まで押しかけてきて、現場は大混乱。そこに、トムを演じた役者のギルも現れ、セシリアに恋してしまったからさあ大変。事態はますます混迷を極めていくうち、セシリアはある決断をするのですが…。

ウッディ・アレン監督作品の中でも特にお気に入りに入るもの。また、“薔薇”と聞いておそらく最も好きな映画も今作ですね。憧れのスターが映画の世界から飛び出した!映画を愛し、繰り返しお気に入りの映画を観た経験のある者なら、誰しも一度は夢見るファンタジーではないでしょうか。ただの奇想天外な現実逃避物語というわけではなく、よくある日常の場面の一角が非現実世界と溶け合うことによって起こるドタバタは、適度に抑制が効いていて気持ち良いです。ほんのり程よい可笑しみを醸しだしてくれますよね。
現実を直視せず、夢見ることから抜け出せなかったヒロインが、一連の騒動を通じて人間的な成長を見せるのも魅力。垢抜けず冴えなかったヒロイン役のミア・ファローが、降って湧いたような恋物語によって自分に自信を得、徐々に美しく輝いてくる過程も好ましいですね。いかようにも解釈できるほろ苦いラスト・シーンは、その後のヒロインの行く末を観客の想像にゆだねているようで、ほのかに明るい未来を暗示しています。と同時に、全ての映画狂たちと古きよき時代の映画へ、さりげなくリスペクトを捧げている演出が心憎くもありました。
“幻の紫色のバラ”とは、セシリアの身の上に起こったファンタジーを指すのでしょう。バラには人を惑わせる力があります。ですが、こんな風に幻惑されるのならば、一度ぐらい夢を見てみたいとも思ってしまいますね。



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