亡くした愛のおとしまえ-「007/慰めの報酬」

結論から言うと、監督はマーク・フォースターでない方が良かったかも…。内容的には、今回はちいとばか辛い点ですな。

「007/慰めの報酬」(2008年)
監督:マーク・フォースター
製作:マイケル・G・ウィルソン&バーバラ・ブロッコリ
原作:イアン・フレミング
脚本:ジョシュア・ゼトゥマー&ポール・ハギス&ニール・パーヴィス&ロバート・ウェイド
撮影:ロベルト・シェイファー
音楽:デヴィッド・アーノルド
主題歌:「Another way to die」アリシア・キーズ&ジャック・ホワイト
出演:ダニエル・クレイグ(ジェームズ・ボンド)
オルガ・キュリレンコ(カミーユ)
マチュー・アマルリック(ドミニク・グリーン)
ジュディ・デンチ(M)
ジェマ・アータートン(ストロベリー・フィールズ)
ホアキン・コシオ(メドラーノ将軍)
ジェフリー・ライト(フェリックス・ライター)
ジャンカルロ・ジャンニーニ(レネ・マティス)
イェスパー・クリステンセン(ミスター・ホワイト)
ローリー・キニア(ビル・タナー)他。

殺しのライセンスを手に入れたものの、MI6からは相変わらず十分なサポートを得られず、おまけに、将来を誓うほど愛した英国財務省のヴェスパーをヴェネツィアで喪ったボンド。ヴェスパーを影から操っていた組織に復讐を誓った彼は、ある男を追っていた。イタリアの古都シエーナでその男の消息を見つけたが、謎の組織から放たれた暗殺者の乗るアルファロメオと壮絶なカーチェイスを繰り広げる羽目に。アストンマーチンをスクラップにしかけた頃、ようやく追跡を振り切り、ボンドはヴェスパーを操っていた男“ミスター・ホワイト”を尋問する。しかし、突如仲間の裏切りが発覚し、ミスター・ホワイトを取り逃がしてしまった。ボンドは裏切り者を追い詰めたが、本当ならば証人としてMI6に突き出さねばならぬところを、激情にかられて殺害する。裏切り者の残した手がかりから、ミスター・ホワイトの背後には、黒幕として世界を股にかける巨大組織が暗躍することを知った彼はハイチに飛んだ。
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ボンドはカミーユという正体不明の美女と出会い、彼女を通じてドミニク・グリーンという怪しげな男を突き止めた。グリーンは表向き、環境保護を目的に破壊される危険性のある土地を買収するNPO団体“グリーン・プラネット”のCEOであった。だがその実体は、ボリビアの土地にある天然資源の採掘権独占を餌に、CIAや英国の政治家、さらには元ボリビア軍事政権のメドラーノ将軍にまで接近する政商である。彼の目的は、メドラーノ将軍を傀儡に、中南米とヨーロッパを巻き込んだ世界征服。ヴェスパーはその手先に使われたのだった。ボンドにとっては、味方のはずの組織や英国政府にもグリーンに加担する者が潜伏している有様で、卑劣な妨害工作に悩まされる。誰も信用できない四面楚歌の状況ではあったが、ボンドの暴走を諌めつつも唯一の理解者たるMI6の上司Mの助力、かつてメドラーノ将軍に家族を惨殺され、復讐に燃えるカミーユという仲間を得、ボンドはグリーンの野望を阻止すべく立ち上がる。

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「カジノ・ロワイヤル」の1時間後から始まる今作は、おそらく前作を観ておけばさらに楽しめる仕上がりになっていると思われます。前作で愛する女ヴェスパー・リンドを裏切りの果てに喪ったボンドの、個人的な復讐劇の要素が濃厚だからですね。映画を観ていても、製作側は観客が前作を観ているものと仮定した上で、物語を構成しているように感じました。ですから、「カジノ・ロワイヤル」未見の方は、途中の話の流れが若干わかりにくかったかもしれません。演出も、プロットを必要以上に複雑にしようと、頑張って伏線を張ったにもかかわらず、その全てをきちんと回収できないまま慌ててラストになだれ込んだ感が無きにしも非ず。
また、70年代に流行ったスパイ映画のように、クセのある多彩なキャラクターを登場させ、ストーリーの背後をリアルにしようとの試みもあったかもしれません。主役ボンドの人物コンセプトは、どんな不条理な局面に立たされても決して言い訳せず、がむしゃらにひたむきに悪に立ち向かうという路線で既に固まっております。その分、彼を取り巻く周囲の人間にバラエティを持たせ、ストーリーを力強く、リアルにする狙いもあったでしょうし。

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しかし今回の場合、敵役のマチュー・アマルリックもホアキン・コシオも、立ち位置が明確に説明されず、おまけに微妙に漂う小者感のせいで、精彩がなかったような気もします。マチューは小動物みたいで、むしろ可愛いという表現も可能であったかと(笑)。ボンドの存在の対比として登場するMの役割が、デイム・デンチのネーム・パワーのお陰でいや増す結果になっているのは許容範囲としても、昔のように謎めいた雰囲気が懐かしく感じられる瞬間もありました。前作から引き続いて現れるレネやフェリックスといった脇キャラを、もっと効果的に動かす方法もあったのではないかなあ。せっかくジェフリー・ライトやジャンカルロ・ジャンニーニという個性的な俳優を配してあるのですからね。もったいない扱いです。
今作の監督を務めたマーク・フォースターは、「チョコレート」や「ネバーランド」で明らかなように、キャラクターの行動と微妙な動作を丁寧に拾い上げることで、その心情をも暗喩する作風をお持ちです。巷でよく言われているように、“人間ドラマに長けた”、あるいは“人物描写が得意な”作家という認識とは若干ズレがあるのではないかと思っています。ですから、多くの方が今作に期待したような、重厚な人間ドラマのカタルシスなどは、ありようがなかったのでは…。今作は基本的にアクション映画です。せわしなく移り変わる舞台(オーストリアやシエーナ、ボリビアなど)や、絶え間ない格闘シーンの連打に気を取られているうちに、キャラクターたちの些細な動作や微妙な台詞の間などといった繊細な演出は、簡単に見過ごされてしまうでしょう。実はそれこそが、フォースター監督がキャラクターの掘り下げに用いる手段であるにもかかわらず。今作において、最も掘り下げ甲斐のありそうなキャラクターであるカミーユにしても、その心情を吐露するチャンスをほとんど与えられていません。埃まみれになって銃を構えるのに忙しすぎるせいですね。
確かに、今作と前作を観る限りにおいては、新ボンド・シリーズは、もはや“ボンド”という冠詞も必要ないではないかというファンの嘆きも、じゅうぶんに理解できます。特に今作は、目玉となっていたドラマティックな側面も成功したとは言い難く、 “英国版ボーン・シリーズ”のような趣もありましたしね。次の作品では、凡百のスパイ・アクション映画との差別化をどう図っていくか、その上で“ボンド・シリーズならでは”の特色をどのように打ち出していくか、案外難しい課題が宿題となったかもしれません。

まあしかし、ボンド・シリーズというのは基本的に、ガジェット満載のご機嫌アクション・ムービーであり、やや荒唐無稽ながらもファンに夢を与えてくれるエンターテイメントであります。従来のシリーズが、時代に沿って多少のアレンジを加えながらも、全てその路線を大きく逸脱することがなかったのは、“ボンド・マニュアル”とでも呼ぶべきシリーズのコンセプトがはっきりしているから。しかし、新しくダニエル・クレイグをボンドに選出した製作陣は、その基本コンセプトを破棄しようという強い意志を持っていたものと思われます。21世紀に入り、時代の空気も変わりつつある今、老舗シリーズの007も抜本的なてこ入れをしなければならない事態に陥っているのは、誰よりも当の製作陣が一番痛感していたことでしょうからね。だからこそ、従来のファン層の期待を裏切ってまで、ダニエルを抜擢したのでしょうし、彼がボンドに就任してからの作風は、物語の背景がボンド誕生時代であることを差し引いても、今の時代に即した“リアル&ハード”路線で統一されています。

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今作でも、陸・海・空において、ボンド自ら身体を張った豪快アクションのつるべ打ちが披露されています。基本的にCGにはあまり頼らず、火薬が惜しげもなく使用されている(ように見える)爆破シーン、とにかくよく走るボンドの身体のキレ、感情を剥き出しにして暴走する若ボンドの一途さ等、世間ではスマートさに欠けるといった批判もされがちな表現は、私自身は現代版ボンドのありようを説明するものとしてむしろ気に入っている次第です。汗水流し、硝煙まみれ、泥まみれになりながらワルサーPPK(懐)を片手に担ぐボンドは、ややもすると孤高のギャングのようにも見えてしまいますが、それは演じているダニエルの陰のある個性のゆえでしょうね。

ただ、ひとつ不満なのは、アクション・シーンの見せ方。監督がこの分野は未体験だったせいなのか、老練なスタッフがいなかったせいなのか、事情はわかりませんが、一定の長さを保って見せて欲しいアクションの連なりを、やたら短いコマでブチブチ切ってしまっているのですよ。忙しくクルクルと切り替わるカメラ、かと思えば、激しい追跡シーンや格闘シーンのさなかに、突如アクションとは直接関係ないフラッシュバックが挿入されてみたり。背景の説明とアクションに新機軸を打ち出そうという意図なのでしょうが、正直なところ、これは観客の混乱を招きかねないと思いましたね。今の流行なのか、本当はシンプルなアクションを、姑息な演出で複雑に見せようとしている印象も受けます。
今作のアクションを観ていて、これと似たようなものをどこかで観たようなデジャブにかられましたが(笑)、思い出しました。ジミーちゃん…もとい…マット・デイモン君のヒット・シリーズ、ジェイソン・ボーンの一連の作品ですよ。あの「ボーン・なんちゃら」「ボーン・かんちゃら」「ボーン・うんちゃら」でも、アクション・シーンが細切れショットの連続でした。これね、目がすごく疲れるんですよ。以前、観賞中に気分が悪くなったら映画代を払い戻してくれるとかいう、“はったりも休み休み言いやがれ”な映画がありましたが、今作とボーン・シリーズのアクション・シーンこそ、根を詰めて見ていると気持ちが悪くなってきますね。

さて、ボンド・シリーズのお約束、ボンド・ガールはどうでしょうか。

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子供の頃に目の前で両親を殺されて以来、その黒幕であるメドラーノ将軍への復讐に燃える女カミーユ。訳ありの謎めいた美女としてボンドの前に現れるも、これまたお約束のラブ・シーンは一切なし。私自身は、スクリーンに向かって“兄貴!!”と叫びたくなるほど、実に男前なキャラだと思いました(笑)。役柄上、あんまりセクシーだとも感じませんでしたし。彼女の「ヒットマン」での妖艶さを知らないのでなんとも言えませんが、本来の野性味あふれるセックス・アピールは封印した、というところでしょうかね。今作におけるボンドが“野獣1号”だとしたらば、カミーユはさしずめ“野獣2号”(笑)。マッチョ振りといい、暴走特急振りといい、ボンドとカミーユが並び立つと、野郎が2人で立っているような漢臭い絵が出来上がっておりました(笑)。

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カミーユとは対照的に、“あたしぃ~、ホントはOLだしぃ~”丸出しのボンド・ガールが、こちらフィールズ嬢。英国女性特有のガタイの良さが災いしてますが、服さえ脱げばなかなかのモンです(酷)。ボンドだって健全な成人男性なのですから、そりゃ必要があれば(笑)頭の悪そうな女子を速攻でいただいてしまうことにも、やぶさかではないでしょう。つまり、今回のお色気担当は彼女だということですね。名前も、かの「ワールド・イズ・ノット・イナフ」に登場したボンド・ガール“クリスマス・ジョーンズ”並みにふざけた、“ストロベリー”ちゃんですしね。

うーん。お2人とも、今回はちょっと地味でしたかねえ。尤も、ダニエル自身がお色気方面でも充分活躍されていましたから(笑)、必然的にボンド・ガールは目立たなくなってしまうのですけどね。あれですよ、これからのボンド・ガールの方向性は、ずばり“兄貴”!これしかないでしょう。

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「ああ~ん?誰が兄貴だってんだよ、このヤロ」


今回のテーマソングは、R&Bの歌姫アリシア・キーズと、ザ・ホワイト・ストライプスで知られるジャック・ホワイトが担当。毛色の異なる2人のシンガーがデュエットするのも、ボンド映画では珍しい趣向かな。

007/慰めの報酬~オリジナル・サウンドトラック
BMG JAPAN Inc.(BMG)(M)
2008-11-26
サントラ

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…あれ?そういえば、今回ボンドは、キメ台詞“My name is Bond. James Bond”を言ってましたっけ?…