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zoom RSS NY映画祭リバイバルラインナップ NYFF54 Revival Lineup

<<   作成日時 : 2016/08/23 17:36   >>

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クラシック映画ファンにはとっては、このリバイバル企画は殊の外楽しみなものです。世界中のラボと協力しながら、時の経過とともに劣化してしまったフィルムを修復し、保存する作業が続けられていますが、今年のニューヨーク映画祭では、リマスタリングを施された過去の名作が長編9本、そして長らく所在の分からなかった故ジャック・リヴェット Jacques Rivette監督の最初の短編映画3本が蘇ります。貴重な作品が上映される、例年以上に重要な意味を持つ企画になるでしょう。


第54回ニューヨーク映画祭リバイバル作品のラインナップ The Lineup for the Revivals Section of the 54th New York Film Festival



「ラルジャン L’argent」(1983年)
監督:ロベール・ブレッソン Robert Bresson

作品の詳しい解説については当ブログ内のこちらの記事をご覧ください。

ロベール・ブレッソン監督は、いわゆる一般的な意味での映画監督とは明らかに違う場所に立つ人でした。孤高の映画作家として、独自の映像美学、様式美を確立し、同時代の映画監督達からは恐れられ、観客からは常に敬意の念を表される存在。1983年に製作されたこの作品は、今に至るまでも、他の追随を許さないユニークな現代社会の寓話として輝き続けます。今回、MK2によってオリジナル・ネガからレストアされたバージョンが、ヤヌス・フィルムズ Janus Filmsの配給で公開されるそうです。


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「アルジェの戦い The Battle of Algiers」(1966年)
監督:ジッロ・ポンテコルヴォ Gillo Pontecorvo

“苦しみは戦争が終った後から始まるんだ”

「アルジェの戦い The Battle of Algiers」(1966年)は、戦時中には反ナチスのレジスタンスとして闘った経験をもつジッロ・ポンテコルヴォ監督の代表作品であり、また、アルジェリア独立戦争の内情を脚色なくリアルに徹して描いた戦争映画としても、歴史に残る重要な作品であります。この作品は1967年度のニューヨーク映画祭の開幕上映作品に選ばれましたが、それから今年で50年が経過したことを記念して、イタリアの複数の映像ラボと製作会社が協力して4Kでレストアしたバージョンが、リヴァイヴァル上映されることになりました。なお、日本でも10月に劇場公開予定だそうですが、どうか地方でも上映されますように。元々今作にはフランス資本は一切関係しておらず、イタリアとアルジェリアの共同製作でした。リヴァイヴァルされるデジタル・リマスター版はオリジナル言語での上映になるそうです。

今作は1966年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲得しましたが、当時のフランス大使館は反仏映画として上映禁止を強硬に主張していました。今作への金獅子賞授与に抗議して、フランソワ・トリュフォー監督以外の全てのフランス映画関係者が授賞式会場から退場したのは、今や語り草となっている逸話です。アルジェリア独立戦争の最中には、フランスではこの戦争はフランス史の汚点と位置づけられ、宗主国としての立場から、アルジェリアのフランスからの独立を一切認めない空気が国中を覆っていました。そんな中、サルトルやサガンらごく少数のインテリ層が、右翼による爆弾テロと戦いながら、アルジェリアの独立を支持する運動を展開していたのです。

そういった歴史的背景を知ると、まだ独立戦争が終結して間もなかった1966年に、この作品がフランス側とアルジェ側双方の内情をできる限り忠実に再現したことには、非常に大きな意味があったでしょう。それに、この作品が示唆する、大義のために膨大な同胞の血が流される虚しさ、長く戦っているうちに大義そのものを見失ってしまう絶望は、今もなお世界中で続いている内紛やテロと根本を同じくするもの。つまり、戦争の内情はいつの時代も変わらないのだという結論に到達せざるを得ないわけです。その意味でも、今作は今もなお普遍性と力強い存在意義を失ってはいません。今作が、その後世界各地で起こった“抵抗運動”に大きな影響を及ぼし、アメリカのペンタゴンが2003年のイラク侵攻の際に参考にした事実からも、この作品の重要性は明らかですね。折角日本でも今年10月に劇場公開されることですし、この作品のレビュー自体は後ほど別の記事で書くことにします。


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"Harlan County USA" (1976年)
監督:バーバラ・コップル Barbara Kopple

アメリカでは限定上映で公開されているドキュメンタリー"Miss Sharon Jones!"は、グラミー賞にノミネートされた経験を持つ歌手シャロン・ジョーンズ Sharon Jonesの、ガンとの闘病と表舞台への復帰を克明に記録した感動的な作品です。その監督を務めたのが、ドキュメンタリー映画でオスカーを獲得した伝説的女流映画監督バーバラ・コップル女史(他のドキュメンタリー作品に「ワイルドマン・ブルース Wild Man Blues」(1997年)、「MY GENERATION My Generation: Woodstock 1969,1994,1999」(2000年)がある)。彼女にオスカーをもたらした、これまた伝説的なドキュメンタリー映画"Harlan County USA"が公開されてから今年でちょうど40周年を迎えるため、それを記念して、2004年にレストアされた版を今年のニューヨーク映画祭のリヴァイヴァル企画内で上映するそうです。

"Harlan County USA"は、ケンタッキー州ハーラン郡にあるブルックサイド炭鉱 Brookside Mineを所有していた企業Duke Power Companyを相手取り、鉱山で働いていた180名の労働者とその妻たちが1972年から1973年にかけて起こした大規模なストライキの模様を記録したものです。コップル監督と撮影クルーたちは、ストライキを敢行する労働者たちの家族と一年以上に渡って共に過ごし、彼らがなぜストライキに踏み切ったのか、生活を圧迫するスト中に何を考えているかを、克明に記録していきました。

鉱員たちは、より安全な職場環境と危険な作業に見合った賃金の支払いという、労働者に与えられるべき当然の権利を企業に求めていただけ。ところが、企業側は、鉱員たちの雇用条件の中に、“ストライキを起こさない”という項目があるとして鉱員たちの要求を退け、ストライキは泥沼化していったわけです。コップル監督は、長年不衛生な環境で働いてきたために炭塵による黒肺塵症を患った鉱員や、ピケをはっていた最中に撃たれた鉱員などとの生々しいインタビューも本編に盛り込みました。

“労働者vs.企業”という、永遠に解決しないであろう対立図式は、富裕層(企業側)と貧困層(労働者側)の二極化が進む現在の社会においても、深刻な問題です。この作品が作られてから40年の月日が経過したとは到底信じられませんが、今この作品を振り返ることには私たちが考えるよりもっと大きな意義があると思いますよ。 A Cabin Crek Filmsの配給。


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ジャック・リヴェット監督初期短編集 Jacques Rivette shorts

"Aux quatre coins" (1949年) 20分
監督:ジャック・リヴェット Jacques Rivette

"Le quadrille" (1950年) 40分
監督:ジャック・リヴェット Jacques Rivette

"Le divertissement" (1952年) 45分
監督:ジャック・リヴェット Jacques Rivette

今年初めに亡くなったジャック・リヴェット監督ですが、未亡人ヴェロニク・リヴェットによって監督が最初に撮った短編映画3本が無事発見され、 Les Films du Veilleurとシネマテーク・フランセーズ Cinematheque francaiseによってフィルムは直ちにデジタル処理を施されました。そして、今年のニューヨークでリヴァイヴァルされるチャンスを得たというわけです。この3本の習作短編には、初期のリヴェット監督の映画に対する芸術的姿勢や信念の兆しが見られるそうです。カイエ・デュ・シネマ創設、そして同誌の編集長を務めるようになった時期以前の、初期のリヴェット監督の作品傾向を決定づける、重要な作品であることは間違いないようです。


"The Living Idol" (1957年)
監督:アルバート・リューイン(ルーウィン) Albert Lewin

さて、私自身は、アルバート・リューイン(ルーウィン)氏の映画監督としての作品は「ドリアン・グレイの肖像 The Picture of Dorian Gray」(1954年)と「パンドラ Pandora and the Flying Dutchman」(1950年)ぐらいしか知りません。リューイン氏は映画批評家として映画界で働き始め、1920年代にはサミュエル・ゴールドウィンの元で脚本家として働き、1930年代には、若き天才映画プロデューサーだったアーヴィング・タルバーグの右腕となりました。映画監督としてデビューする前にいくつかの傑作にプロデューサーとして関わった経験がありましたが、映画監督としては、彼自身のヨーロッパ映画界の人脈からの影響が強く感じられる、幻想的でユニークな表現を駆使した、繊細かつロマンチックな作風で知られています。今回ニューヨーク映画祭で発掘される"The Living Idol"なる作品、私は全く見たことがないので何とも言いようがありませんが、Film Society of Lincoln Centerのブログの解説によると、作品自体の出来は大したことはないけれど(笑)、表現方法が個性的で面白いとのこと。ニューヨーク映画祭にはアバンギャルド作品企画もあることですし、ここはひとつ柔軟な姿勢で作品を迎えることにしましょうかね。


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「低開発の記憶−メモリアス− Memories of Underdevelopment」 (1968年)(キューバ Cuba)
監督:トマス・グティエレス・アレア Tomas Gutierrez Alea

昔からそうなのですが、私は全く異なる生活環境や思想、異文化背景を持った2人(あるいは2グループでも良いですが)の人間が、衝突し、軋轢を起こし、反発しあっても尚、時間をかけてお互いを理解しあうようになる物語を愛しています。それは、私自身の人生においても、そのような“異質のもの同士の軋轢を克服した末の融合”という出来事が起こってほしいと願うからです。実際には、異質のもの同士の相互理解といったことは、なかなか起こり得ません。あくまでもそれは理想論ですからね。まあですが、叶わぬ夢だからこそ、“異分子同士の相互理解”というテーマが、様々な形態を借りて語られていくわけです。

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トマス・グティエレス・アレア Tomas Gutierrez Alea (1928年12月11日生まれ、1996年4月17日死没)は、キューバ、ハバナ出身の映画監督です。ガンのため既に鬼籍の人になっていますが、キューバ革命前後の激動期のキューバ社会を生き抜き、優れたドキュメンタリー作品と劇映画を遺しました。キューバ映画界で最も世界的に知られた映画作家であり、またラテン・アメリカ映画界を代表する偉人でもありました。
映画に魅了されたのは幼い頃。1951年にハバナ大学を卒業すると同時に、憧れのネオ・レアリスモ発祥の地、イタリアはローマの映画実験センターに留学を果たしました。同校を1953年に卒業し、1959年に起こったフィデル・カストロによるキューバ革命を経て、自身の作品を多数発表しました。
彼のもっとも有名な代表作は、キューバ危機の最中にあって、激変する周囲の環境に見て見ぬ振りを続け、何事もなかったかのようにふるまおうとして心が壊れていく男を描いた「低開発の記憶−メモリアス− Memories of Underdevelopment」、政治的にも文化的にも宗教的な意味でも自由主義者で芸術家のゲイの青年と、頭の固い共産主義者の大学生の友情を描いた「苺とチョコレート Fresa y Chocolate / Strawberry and Chocolate」(1994年)。これらをみても分かるように、異なる価値観がぶつかり合って闘い、最後には一定の相互理解を勝ち得るか、あるいは一方が他方を強制的に呑み込んでいく結果に終わるかといったテーマが、繰り返し取り上げられました。

私自身は、最後のほろ苦い結末も含め、若い頃に見た「苺とチョコレート Fresa y Chocolate / Strawberry and Chocolate」(1994年)が本当に大好きなのですが、9年前にやっと日本で劇場公開された「低開発の記憶−メモリアス− Memories of Underdevelopment」を見た時も、昨今の日本社会と不気味なほど酷似した状況を描いた寓話に、背筋が寒くなるような感慨を抱きました。

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1961年、ハバナ。キューバ軍の総帥であるフィデル・カストロ将軍が、国家の社会主義化を宣言。多くのキューバ人資産家が、次々とアメリカに逃れていきました。ブルジョア階級に属するセルヒオ(38歳)は、友人たちや妻や両親がキューバを後にするなか、ハバナに1人残る決断をします。念願の小説執筆に集中するという建前ですが、その実は鬱陶しい家族関係から離れるため。高層マンションに住み、家賃収入のあるセルヒオは、汗水たらして働く必要もないわけで呑気な身分です。それでも、革命によってキューバ社会が変わるだろうということには漠然とした不安を抱いており、何がどのように変わっていくのか確認する意味で、毎日マンションの窓から望遠鏡で街中の様子やホテルのプールサイドに寝そべる女性たちを“観察”します。そして、“何も変わっていない。異状なし。”と、自分自身に言い聞かせているのです。セルヒオ自身は、決して革命に賛同しているわけではありません。しかしながら、革命に対して何らかの行動を起こす気力もなく、ただただ身を縮こませて嵐が過ぎ去ってくれるのを待つだけの、とんだ意気地なしなのですねえ。
革命前と同じく、ヨーロッパ至上主義を隠そうともせず、ブルジョワ趣味を鼻にかけたセルヒオは、キューバの一般市民と庶民の社会を“低開発”だと見下したまま、街を散策し、めぼしい女に声をかけます。女優志願だという美しい娘エレーナに目をつけ、セルヒオは、彼女にヨーロッパのエレガンスを身に着けさせようと高級レストランや美術館に連れ回すも失敗。結局エレーナもキューバの庶民階級出身の“低開発”の女であったとわかり、おもちゃに飽きた子供のように、セルヒオは彼女を放り出してしまいます。その一方で、ブルジョワ階級の友人たちにも違和感を抱き始めるセルヒオは、精神的矛盾を抱えることになります。望遠鏡の精度を上げずとも、ハバナの街の様子が重苦しく変わり始めているのは明白。かつて友人の持ち物だった豪邸や、自分が通った私立学校などが国有化され、街の店からは物資が急速に減っていき、街中に、戦争に備えるよう扇動するスローガンが掲げられ…。セルヒオは迫りくる“決定的瞬間”に怯え、精神的に崩壊していきます。
1962年の10月、ついに運命の時を迎えました。当時のアメリカ大統領ケネディは、“キューバへ向かう船舶の臨検を行う”ことを宣言し、一方でカストロが“祖国か死か”と口角泡飛ばして演説します。追い詰められたセルヒオは、それでも、オロオロとマンションの部屋中を歩き回るだけ。もはや望遠鏡をのぞいても、静まり返ったホテルのプールサイドに人影を見つけることはできず、人っ子1人いないマレコン通りには戦車隊のみが粛々と列をなしていました。

…社会情勢が悪い方に傾いていくことを嫌悪しつつ、それに対して何の行動も起こさない、事なかれ主義のブルジョア、セルヒオ。しかし彼は、プライドだけは人一倍高いという、実に厄介な鼻つまみ者です。同族のブルジョア階級を嫌いつつも、“低開発”な一般庶民の社会に迎合する気もさらさらない利己的な排他主義。国家の社会主義化、独裁政治化という最悪の歴史の変化にただ震えるだけで、いずれはその大波に哀れにも呑み込まれていくのだろうと予想できますね。
…とまあ、ここまで書き連ねて思ったのは、セルヒオに象徴されるような、多くの“見て見ぬ振り”主義者の偽善的生き方を含め、今の我が国の情勢をそのまんまトレースしたかのような描写が連続しているということです。正直なところ、恐怖すら覚えます。社会情勢なんぞ、50年前だろうが今だろうが、結局大した違いはないと痛感させられますねえ。ニューヨークの観客の方々は、この予言的映画をどんなふうに捉えるのでしょうか。World Cinema Projectによる配給。


「片目のジャック One-Eyed Jacks」 (1961年)
監督:マーロン・ブランド Marlon Brando

名優マーロン・ブランド Marlon Brandoが生涯ただ1本だけ遺した監督作品が、この「片目のジャック One-Eyed Jacks」です。いろいろ問題を抱えた作品でして、紆余曲折あって現在はパブリックドメイン扱いになっているそうです。作品そのものは、ビリー・ザ・キッドの生涯にインスパイアされたチャールズ・ネイダーの小説『The Authentic Death of Hendry Jones』を基にしていますが、いわゆるオーソドックスな意味での西部劇とは明らかに趣を異にしたもの。監督やスタッフの言うことをきかず、勝手気ままな我流演技スタイルを貫くブランドその人そのもののような(笑)、自由奔放な演出が却って新鮮に見えるのですから不思議(笑)。
今作が本来持っていた鮮やかな画面を再現するため、マーティン・スコセッシ監督とスティーヴン・スピルバーグ監督のアドバイスの下、ユニバーサル・スタジオ Universal Studiosとフィルム・ファウンデーション The Film Foundationが共同でレストア作業にあたりました。


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「パニック Panique」 (1947年)
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ Julien Duvivier

当ブログでは、ジャン・ギャバンが主演を務めたメロドラマ風ノワール映画の名作「望郷 Pepe le Moko」をご紹介しているのみですが、実はデュヴィヴィエ監督は生前70本もの映画を製作した鉄人映画監督でもありました。作品ごとに評価は割れる場合もあり、遺された作品たちが、必ずしも全て拍手でもって迎えられているわけではありません。しかし、製作された当時は批評家や観客に理解されなくとも、後世になって正しい評価を受けるケースも実際に存在します。今年のニューヨーク映画祭で、北米で初めてお披露目されるデュヴィヴィエの隠れた傑作「パニック Panique」も、その1つ。

ジョルジュ・シムノン原作小説「イール氏の婚約 Les Fiançailles de M. Hire」(1930年)を映像化したものですが、第二次世界大戦中はアメリカに逃れていたデュヴィヴィエ監督は、その間に5本の作品を撮りあげ、戦後すぐフランスに帰国してこの作品の製作に取り掛かりました。第二次世界大戦前のフランスにおける栄光の日々を取り戻すのに、監督は大変苦労したといいます。シムノンの原作は、とにかく絶望的に始まり絶望的な展開を経て絶望的な結末を迎える、殺人事件の絡んだサスペンス含みの救いの無いラブストーリー。後年パトリス・ルコント Patrice Leconte監督によってリメイクされ(「仕立て屋の恋 Monsieur Hire」(1989年))、現代的な解釈を新たに付け加えたこちらの作品の仕上がりも、本当に素晴らしいものでした。

リトアニア系ユダヤ人であるがゆえに、パリ下町のコミュニティからつまはじきにされ、絶対的な孤独のうちに生きていたイール氏。近所で若い女性が殺され、警察はすぐさまイール氏を犯人扱いします。もちろんイール氏自身は殺人事件には無関係でしたが、彼が孤独な人生の中で唯一心の慰めにしていた秘密が、その事件の真犯人をイール氏に教えてしまいます。イール氏は毎夜ごと、向かいのアパルトマンに1人で暮らす若い女性アリスを窓越しに覗き見していました。事件があった夜、イール氏がいつものようにアリスの部屋を覗き見ていると、彼女の恋人エミールが、血塗れの女性もののコートとバッグを抱えて現れました。真犯人はアリスの恋人エミールだったわけです。窓越しに“覗き見る/覗き見られる”歪な関係ではありましたが、アリスに恋していたイール氏は、警察への通報をやめます。そこから、アリスとイール氏の破滅に向かう関係が始まるわけですね。

今作製作当時は、イール氏のアリスに向ける捻じ曲がった暗い情念、人間の弱さを極限まで突き詰めたような業の深い欲望が理解されず、酷評されたものでした。しかし、半世紀以上を経た2015年度のカンヌ国際映画祭 Festival de Cannesで、レストアされたバージョンが初めて上映されてから、シムノン原作小説の映画化作品の中でも最良の部類に入るのではないかという高い評価を勝ち得ています。今年のニューヨークでの反響が気になるところですね。Rialto Picturesの配給。



「幼馴染み タイペイ・ストーリー 《青梅竹馬》 Taipei Story」 (1985年)
監督:エドワード・ヤン Edward Yang

ガンのため59歳の若さで急逝した台湾出身の優れたフィルム・メーカー、エドワード・ヤン監督。ヤン監督の2作目の長編劇映画がこの「幼馴染み タイペイ・ストーリー 《青梅竹馬》 Taipei Story」です。瑞々しく繊細なタッチの心理描写と、相反するかのような非情なドラマ展開が魅力的な映画作家でした。真に尊敬すべき素晴らしい人間ほど、早くこの世を去ってしまうもの。そして、救い難く腹黒い悪人ほど絶望的に長生きするのです。

…私は、できれば早く死にたいものですな(笑)。

事業に失敗した建築家と、会社を解雇されたばかりのキャリアウーマン。幼なじみの彼らは、全てを失って何も残っていない台北を捨て、新天地アメリカに移住する計画を立てます。しかし、そう簡単には問屋が降ろさず、2人の前には新たな問題が噴出します。2人の希望を乗せた夢が、淡い夢のまま終わってしまう、あまりに悲しく苦い人生譚。ホウ・シャオシエン監督が俳優として出演しています。World Cinema Project配給。


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「雨月物語 Ugetsu Monogatari」 (1953年)
監督:溝口健二 Kenji Mizoguchi

溝口健二監督による、幽玄の美と官能的な暗喩に満ちた幽霊譚については、別立てでレビュー記事を書きたいので、今回は簡単にご紹介。上田秋成が江戸時代後期に著わした読本「雨月物語」の中の“浅茅が宿”と“蛇性の婬”の2つの怪異譚に、モーパッサンの短編“勲章 Decore !”を加えてアレンジを施した脚本を、溝口監督が深い陰影の際立つモノクロ映像美に昇華しました。第13回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を授与されました。
劣化の激しかったオリジナル・フィルムの修復作業は、マーティン・スコセッシ Martin Scorsese監督の監修の下、外国人記者協会 Hollywood Foreign Press Associationとフィルム・ファウンデーション Film Foundation、株式会社角川 KADOKAWA Corporationが共同で作業にあたったそうです。


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