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zoom RSS 第54回ニューヨーク映画祭 54th New York Film Festival Part 2

<<   作成日時 : 2016/08/13 22:18   >>

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第54回ニューヨーク映画祭メインスレート作品のご紹介。


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"Moonlight" dir. Barry Jenkins 2016年製作
アメリカ USA

トロント国際映画祭にも招待されている注目作品の一つです。アフリカ系アメリカ人の主人公は、ゲイとしてのアイデンティティと長い間葛藤してきました。ドラッグ禍のマイアミでサヴァイヴするだけでも大変なのに、セクシュアリティの葛藤を抱える彼の人生には苦悩が尽きません。そんな彼の人生を、子供時代、青年時代、大人になってからの時代の3つのパートに分けて描いた作品です。恋に落ちる歓喜と痛みは、誰にとっても普遍的な感情。この作品の主人公はゲイであり、それが今作の主題であるのですが、思わぬ場所で思わぬ出会いを経て生涯のパートナーを得ることで、自分自身の内面も変わっていくというストーリーは、誰にとっても共鳴し得る者だと思います。私自身は、そんなところから、“他の大勢と違うこと”を理由に生まれる差別意識が少しでも薄れることを願っています。もちろん今作の美点は、テーマの普遍化だけではなく、3つのパートを彩る色彩感覚、独特の映像美にもあり、優れた演技陣によるアンサンブル演技のすばらしさにも見出すことができます。今作の監督、バリー・ジェンキンス Barry Jenkinsの名前はよく覚えておきましょう。


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"Neruda" dir. Pablo Larrain 2016年製作
チリ、アルゼンチン、フランス、スペイン Chile/Argentina/France/Spain

実は、カンヌやトロントにも出品されていた作品で、個人的に大いに気になっていたものです。私のお気に入りの俳優ガエル・ガルシア=ベルナル君が、チリの偉大な詩人パブロ・ネルーダの若き頃を演じるという作品。ただし厳密には、昨今大流行の“伝記もの biopic”ではないのだそうです。1948年にチリ政府から弾劾されて国外追放された時期のネルーダの肖像を、史実に沿いつつもケレン味たっぷりに描写。実在の人物の史実を再構築して新しいストーリーを作り出したとでも呼ぶべき、新感覚の伝記映画ですね。これはこれですごく面白そうですわ。


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"Paterson" dir. Jim Jarmusch 2016年製作
アメリカ USA

さてさて、観客を選ぶ映画作家ジム・ジャームッシュの新作がニューヨークにお目見えします。この作品も、カンヌでお披露目され、トロントときて、さらにニューヨークへ。観客を選ぶくせに、映画愛好家には愛されるジャームッシュ監督の作品ですが、このたびの彼の作品はさらに評価を二分するかもしれません。ニュージャージーの町Patersonで、バス運転手として暮らすPatersonが、毎日の生活の一コマの中から感じ取った様々な感情を編んで詩にしていきます。それこそ、朝起きてからバスを運転している最中にも、エネルギッシュなガールフレンドと一緒にいるときも、眠る前にも、日常生活の中の何かの瞬間に心に浮かんだものを言葉にしていくのです。
説明するのが難しいのですが、私自身、毎日の生活の中でふとした瞬間にキャッチするエネルギーのようなものを、瞬時に頭の中で言葉に変換しています。それをどこかに書いて残すかどうかはその時の気分次第ですが、きっと皆さんも、無意識のうちにやっていることではないでしょうかね。ジャームッシュ監督は、その私たちの無意識の行為を、アートに昇華するべく、詩を読み上げるリズムで映像にしたわけです。映画を見た人の中には、難解だと感じてしまった人もいたかもしれませんね。
しかし個人的には、映像の繰り出す“リズム”に完全に身を委ねることが素晴らしい体験になると分かっているので(以前にも似たような経験をしたことがあるので)、是非ともジャームッシュ・ポエトリー・リズムを体感してみたい。ちなみに、“Paterson”というのは、ジャームッシュ監督に啓示を与えた詩人ウィリアム・カルロス・ウィリアムズの作品のタイトルでもあるそうです。


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"Personal Shopper" dir. Olivier Assayas 2016年製作
フランス France

カンヌでお披露目された際には、作品の出来については評価が割れたオリヴィエ・アサイヤス監督(「アクトレス〜女たちの舞台〜 Clouds of Sils Maria」(2014年))の新作です。前作「アクトレス〜女たちの舞台〜 Clouds of Sils Maria」は、圧倒的な自然美を背景に、中年の黄昏時を迎えた大女優の葛藤の物語が描かれていました。ジュリエット・ビノシュの重い演技を陰から支えた功労者、アシスタント・マネージャー役の助演クリステン・スチュアートが、セザール賞の助演女優賞に輝いたのは記憶に新しいところ。今だから白状しますが、彼女がロバート・パティンソン君と一緒に吸血鬼ラブ・ロマンス映画3部作でアイドルになっていた頃には、よもや彼女がこんな個性的な演技者になるとは予想できませんでした。不倫バッシングを乗り越えて成長し、役者としても一皮むけた感のあるクリステンは、カンヌ国際映画祭でも花形女優として脚光を浴びていました。
そんな彼女を今度は主演に起用したアサイヤス監督は、双子の弟を亡くしたファッション・アシスタント(またもやアシスタント役!)が、“あの世”からメッセージを送ろうとする弟の魂を感じ取り、得体のしれない不安定な感情に囚われていく様子をただならぬ緊張感の中で描きました。作品そのものへの評価は割れましたが、カンヌでは、アサイヤス監督に対し監督賞が贈られています。メッセージのやり取りも全ては“通信データ”を経る昨今のデジタル時代を反映した、新感覚の超自然心理スリラー作品ですね。


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"The Rehearsal" dir. Alison Maclean 2016年製作
ニュージーランド New Zealand

アリソン・マックリーン監督はカナダ、オタワ生まれのミュージック・ビデオ、コマーシャル、短編及び長編映画等を製作している映像作家です。両親がニュージーランド出身であったために10代の頃ニュージーランドに移住。オークランドで映画製作や彫刻を学び、シュールなタッチで郊外生活の悪夢を描いた初の短編映画“Kitchen Sink”で、 8つの映画賞を獲得。1992年に活動の拠点をニューヨークに移しました。1992年に初の長編映画“Crush”を、1999年にはアメリカのカルト作家デニス・ジョンソンの短編小説集を基にして、ビリー・クラダップとサマンサ・モートンを主演に迎えた“Jesus' Son”を完成。そして今年、彼女のルーツであるニュージーランドに戻って製作した新作『The Rehearsal』が、ニューヨーク映画祭に招待されました。
この作品は、舞台で演じようとする役柄の真実を探し求める若い俳優のお話で、役柄を探求すればするほど実生活においてモラルの軋轢を生じるというジレンマに陥るわけです。舞台の大半は、彼が所属するドラマ・スクール。そこには、生徒たちの才能の原石を磨こうと策を弄する演技指導の教師がおり、俳優の卵たちと壮絶な駆け引きを繰り広げるのですね。これも、エレノア・カットン Eleanor Cattonの小説を基にしています。派手な演出こそありませんが、鋭い人間性への観察眼によって可能となった、異なる人間がぶつかり合う闘いの如き心理描写が冴えを見せているそうですよ。新しい女流映画作家誕生となりますでしょうか。


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"Sieranevada" dir. Cristi Puiu 2016年製作
ルーマニア Romania

新しい才能も登場しているルーマニア映画界の隆盛は、ここ10年余りの間にすっかり世界的に定着しましたね。そのルーマニア・ニューウェイヴ・ムーブメントの先陣を「ラザレスク氏の最期 The Death of Mr. Lazarescu」(2005年)で切ったクリスティ・プイウ監督の新作が、カンヌに引き続き、ニューヨークにも招待されました。
2015年1月10日、シャルリー・エブド社をテロリストが襲撃した最悪の日の3日後、医師ラリーの父親が亡くなった40日後、父親のアパートにラリーを含めた家族が集められたのですが、事は思い通りには運びません。突発的な出来事が起こり、ラリーは、父親の秘められた過去と対峙させられ、改めて彼と家族について再考を強いられるのです。
今回のお話は、ブカレストにある迷宮のごとき古く入り組んだアパートの中で展開する密室劇。ドアが勝手に開いたり閉じたり、カメラはホラー映画よろしく部屋の床や廊下を這うように進んだり。過去の共産主義の亡霊と現在のテロリズムの恐怖が渾然一体となり、そこに一個人として生きる不安と社会全体の不安がうまく対比されているようです。

何らかの意味で“社会派”映画としての側面を持つのがルーマニア映画の特徴の一つですが、今作は一家族の個人的な葛藤を通じて、社会問題の根っこを探ろうとしているようにみえます。社会全体の大きな問題が、一度家族単位、個々人単位にまで分解され、その寄せ集めから全体の大きな問題像を明らかにしようとする狙いか。こうしてみると、“家族は社会の最小単位”と言われる理由が分かる気がします。


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"The Son of Joseph / Le fils de Joseph" dir. Eugene Green 2016年製作
フランス、ベルギー France/Belgium

アメリカ生まれ、生粋のアメリカ人ながら、パリを拠点に活動する珍しいタイプの映画作家ウージェーヌ・グリーン Eugene Green(ユージン・グリーン)。監督した作品数も少なく、決して知名度が高いわけではないのですが、リアルなテーマを扱いながらも超自然的映像美に溢れた、“映像詩人”とでも呼ばれるべき才能なのだそうです。ヨーロッパの馥郁とした文化と芸術に魅入られ、30年来パリに住みつき、バロック演劇の専門家となった経歴の持ち主です。短編も含め、数本の映画を撮り、舞台の演出も手掛ける才人。ベルリン国際映画祭で紹介された新作"The Son of Joseph / Le fils de Joseph"は、長編劇映画としては6作目にあたるものです。

これまでの作品群に比べてかなり楽天的なストーリーだそうですが、テーマはずばり、聖母マリアの処女懐胎―マリアとジョセフの間に生まれたキリストの“聖家族 Holy Family”にちなむもの。不機嫌で憂鬱な、つまりどこにでもいる15歳の少年ヴァンサンは、シングルマザーの母マリアとパリで暮らしていました。しかし、年頃になって誰が父親なのか知りたくなった彼は、父親を探しはじめます。ヴァンサンは当初、出版業者のオスカルが自分の父親ではないかと考えるのですが、彼はそうではありませんでした。パリの美しい日常の光景を随所に織り込み、カラヴァッジオ等名高い美術作品のイメージを絡ませ、ヴァンサンの冒険をイマジネーション豊かに映像化した作品…と聞くと、そりゃもう好奇心が刺激されるのは当然でしょう。


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"Staying Vertical / Rester vertical" dir. Alain Guiraudie 2016年製作
フランス France

アラン・ギロディ監督の名前を一躍有名にしたのは、なんといっても2013年の「湖の見知らぬ男 L'inconnu du lac / Stranger by the Lake」でしょう。第66回カンヌ国際映画祭のある視点部門に出品され、監督賞とクィア・パルムを受賞し、セザール賞でも作品賞など主要部門8部門にノミネートされ、フランスのみならず世界中の映画祭で高く評価されました。サスペンスフルな語り口と同性同士の切迫した感情のせめぎあい。殺人という非常事態と背中合わせになりつつも、危険を承知の上で相手に惹かれずにいられないマグマのような感情が噴出するテンションの高さ。フランスのルラルにある、美しく閑静な湖畔で繰り広げられる切迫したストーリーは観客と批評家を括目させました。

新作“Staying Vertical”は、フランスの田舎で新作のための脚本を書こうと苦闘する映画監督の、精神的な冒険を描いたものです。彼はまた一方では、もうすぐ生まれる赤ん坊を迎える準備もしなくてはならず、彼の精神状態は次第に追い詰められていきます。そのストーリーの中で、ギロディ監督は人間の誕生から死までのサイクルを、彼独自の美意識と解釈を交えて象徴的に映像化しようと試みたようです。結局のところ、人間が現在地上で生きとし生けるものの頂点に立つ存在であることの意味を、私たちは深く考えざるを得ないわけですね。


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"Things to Come / L’Avenir" dir. Mia Hansen-Love 2016年製作
フランス、ドイツ France/Germany

まだ35歳、若きフランスの女流監督ミア・ハンセン=ラブ Mia Hansen-Loveの新作です。オリヴィエ・アサイヤス監督の「8月の終わり、9月の初め」で女優として映画デビューを果たし、2007年の「すべてが許される Tout est pardonne」で長編劇映画を初監督。以降は、「あの夏の子供たち Le pere de mes enfants」(2009年)兼脚本、「グッバイ・ファーストラブ Un amour de jeunesse」(2011年)兼脚本、「EDEN エデン Eden」(2014年)兼共同脚本と、映画監督として順調にキャリアを積んでいます。今年公開された新作“Things to Come / L’Avenir”は、大女優イザベル・ユペールを主演に迎え、パリで大学教授として順風漫歩な人生を歩んでいた女性ナタリーが、突如その存在意義が根底から崩れる出来事に直面します。最愛の母が亡くなり、夫の浮気が発覚し、教授の仕事も失う羽目に。しかし、初孫が誕生し、元教え子が都会の生活を捨てて自然の中でナチュラル・ライフを送っていることに感化され、ナタリー自身の人生観も変わり始めるのですね。
ナタリーを演じたイザベル・ユペールは今年、ポール・ヴァーホーヴェン監督の“Elle”という主演作もあり、対照的な2つの映画で全くもって対照的な2つの役柄を魅力的に演じました。ミア・ハンセン=ラブ Mia Hansen-Love監督は、今作では、人生の岐路に立った初老の女性の内面の変化を鮮やかに描き、第66回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を獲得しました。前作「EDEN エデン Eden」も良かったのですが、今回彼女が取り組んだ題材ひとつをとっても、若き才人監督の一層の成長ぶりが窺える結果になったようですね。ニューヨークでの今作への反応が楽しみです。


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"Toni Erdmann" dir. Maren Ade 2016年製作
ドイツ Germany

さてさて、前述したミア・ハンセン=ラブ監督とほぼ同世代の若き女流監督の作品が、カンヌを大いに賑わせましたね。マーリン・アーデ Maren Ade監督の挑戦的なコメディ映画“Toni Erdmann”です。

アーデ監督は、1998年からミュンヘンのUniversity of Television and Film (HFF)で映画製作全般について学んだあと、2001年にHFFの同窓生でもあるJanine Jackowskiと共にKomplizen Filmという映画製作会社を立ち上げます。 HFFの卒業記念作品として作った初の長編映画“The Forest for the Trees”(2003年)が、2年後のサンダンス映画祭 Sundance Film Festivalでなんとグランプリ Special Jury Awardを獲得、この作品はただちに世界中で上映されるようになりました。

自身の製作会社で他の映画監督の作品のプロデュースにも手広く関わりながら、2本目の長編映画“Everyone Else”を完成させました。今作は、2009年のベルリン国際映画祭The Berlin International Film Festivalで銀熊賞に輝き、主演女優のBirgit Minichmayrにも最高賞をもたらしました。この勢いをかって、“Everyone Else”はその後、世界18ヶ国で上映されています。国内外で高まる名声に伴い、アーデ監督のプロデュース業の方も随分忙しくなりましたが、彼女は2012年に、“Toni Erdmann”と呼ばれるある男の話をコミカルに描く作品を製作すると発表しました。それが、今回カンヌ国際映画祭で高い評価を受けた新作ですな。

石頭で生真面目すぎる娘と親子断絶してしまった男、トニー・エルドマン。彼は一計を案じ、再び娘と心を通い合わせられるよう、なんと自らアホを演じることを決意しました(笑)。“アホの坂田”ならぬ“アホのトニー”という感じか(笑)。とにかく、見ようによってはかなりアグレッシブなお笑いを追求していると評判のこの作品、2016年度カンヌ国際映画祭 The 2016 Cannes Film Festivalではパルム・ドール候補となるコンペ部門に出品されましたが、惜しくも受賞を逃しました。まあでも、おそらく2016年度のアカデミー賞外国語部門では、ドイツ代表作品に出品されるでしょうね。

私自身は、30代の女性から見た、父親と娘の絆の断絶とその再生物語に大変興味をそそられています。そもそもこのアーデ監督、初監督作品がいきなりサンダンス映画祭で受賞したことからうかがえるように、高い演出力を誇る映画作家なんですね。ストーリーの語り口が上手いのですよ。そんな彼女が、女性の立場から“父親像”を徹底解析しているのですから、見て損はないと思いますよ。


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"The Unknown Girl" dir. Jean-Pierre and Luc Dardenne
ベルギー Belgium


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"Yourself and Yours" dir. Hong Sangsoo 2016年製作
韓国 South Korea



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