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zoom RSS 「シチズンフォー|スノーデンの暴露 Citizenfour」とガラスの世界。

<<   作成日時 : 2016/08/03 17:59   >>

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この、全ての個人情報が丸裸にされ、監視された上に記録される今の世界で、まず私たちが為さねばならないことは、アメリカと英国の情報機関に向かって最高の笑顔で挨拶の言葉を述べることではなかろうかと最近痛切に思う。冗談ではなく、本気で。


(^ o ^)/'''''ハーイ、親愛なるアメリカの情報機関の皆さん、お元気ですか?(^ o ^)/'''''
(^ o ^)/'''''ハロー、親愛なる英国の情報機関の皆さん、お元気ですか?(^ o ^)/'''''


どうせ何をしようが、私たちがこの情報スケスケ世界で行っている日常的な行動は、全て彼らに筒抜けなのだ。ならば、監視されていることを前提として、予め彼らと友好関係を結んでおく方がよっぽど気楽だ。…結局私には、国家権力を敵に回して闘うほどの度胸もスキルも信念もないのだ。


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「シチズンフォー|スノーデンの暴露 Citizenfour」(2014年)
監督:ローラ・ポイトラス Laura Poitras
製作総指揮:スティーヴン・ソダーバーグ Steven Soderbergh
製作:ローラ・ポイトラス Laura Poitras &マチルダ・ボネフォイ Mathilde Bonnefoy &ダーク・ウィルツキー Dirk Wilutzky
撮影:ローラ・ポイトラス Laura Poitras &カーステン・ジョンソン Kirsten Johnson他。
編集:マチルダ・ボネフォイ Mathilde Bonnefoy
出演:エドワード・スノーデン Edward Snowden
グレン・グリーンウォルド Glenn Greenwald
ウィリアム・ビニー William Binney
ユーウェン・マカスキル Ewen Macaskill
ジェイコブ・アッペルバウム Jacob Appelbaum他。

…しかしエドワード・スノーデン青年には、その実年齢にはそぐわぬほどの落ち着いた態度、柔らかな物腰からは想像しがたい大胆不敵さと、10手先まで見通した冷静沈着な判断力、行動力、自らの信念を曲げない意志の力が備わっていた。もちろん、サイバー・セキュリティーのエキスパートとしての知識も抜群だ。そんな人物だったからこそ可能となった、“世界を揺るがした告発”だったのだろう。

スノーデンはCIAやNSAで訓練を受け、2006年からCIA職員として、また2009年からはNSAの上級職員として情報管理業務に従事してきた。2013年6月、スノーデンは綿密な計画に基づき、アメリカ国家が世界規模の個人情報の収集・管理を平然と行っている戦慄すべき真実を告発した。当初はテロ撲滅のためという大義があったが、個人情報の収集範囲を広げていくうちに大義の意味は薄れ、プライバシーの侵害が違法行為に当たるという意識すらなくなり、個人情報収集は世界規模にまで広がっていった。そして、ドローンに搭載したカメラを通じてランダムに集められた監視映像が、NSA局内のテレビ画面に流されるという状況。政府が正義の名のもとに、テロとも犯罪とも一切縁がない一般市民の電話の会話、やり取りしたメールの内容、どこで何を買ったか、パソコンや携帯で何を検索したかといったことに至るまで、全ての通信データを掌握していたのだ。
この恐るべき実情を組織内部から見つめていたスノーデンは、国家権力の濫用を世界に警告するため、最も効果的な方法を熟考。そして、大量の機密データを秘密裏に持ち出し、気骨あるジャーナリストたちの手を借りて暴露、後に自らも、内部告発者であることを名乗りでる計画を立てたのである。

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映画作家ローラ・ポイトラス Laura Poitrasは、9.11以降のアメリカの真の姿を活写するドキュメンタリー3部作として、『My Country My Country』(2006年、イラク戦争の意義に焦点を当てた)や、グアンタナモ収容所の実態についてのドキュメンタリー映画『The oath』(2010年)を製作した。この2作品は世界中で高い評価を得る一方で、監督自身が当局から危険人物としてマークされる羽目にも陥っていた。

そんな彼女のもとに、2013年の初めから、“シチズンフォー Citizenfour”と名乗る人物から暗号化されたメールが届くようになった。シチズンフォーは、NSAが米国民の全ての通信データを秘密裏に収集、管理していると告発していた。それを世界に向けて公表したいので手を借りたいと。もしそれが事実ならば、世界中の人々にとてつもない衝撃を与えることになる。ポイトラス監督は、先にシチズンフォーからメールを受け取っていた旧知のジャーナリスト、グレン・グリーンウォルド Glenn Greenwaldと話し合い、シチズンフォーの求めに応じることにした。グリーンウォルドは、シチズンフォーからのメールの内容をすぐには信用できず、この件を先延ばしにしていた。ついに痺れを切らしたシチズンが、ポイトラス監督にコンタクトをとり始めたという事情があったのだ。この、情報源と報道者の会合が、後に「シチズンフォー スノーデンの暴露 Citizenfour」という作品として完成し、ポイトラス監督の“9.11以降のアメリカ”3部作の最後を飾ることになった。

シチズンフォーの、実名で名乗り出る決意を聞いたポイトラス監督は、自分を含めた報道者と直接顔を合わせた上で、ニュース映像の中ではなく、彼女のドキュメンタリー映画のために彼を撮らせてほしいと頼み込む。当初彼は、自分が顔を晒すことで、最重要問題である“政府による一般市民の不当な監視”から人々の注意力がそれてしまい、リークした彼自身のポートレイトに注目が集まってしまうのではないかと危惧していた。そしてもちろん、情報源と報道者が顔を合わせることにも、大きな危険が伴う。当局がその“場所”を嗅ぎ付けるのは時間の問題だったからだ。その場に踏み込まれでもすれば、命を懸けた計画もおじゃんになるばかりか、関わったすべての人間に危険が及ぶ。

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シチズンフォーは、告発に及んだ動機を自らの口で語る重要性を理解し、ポイトラス監督とグリーンウォルドに香港に飛ぶよう指示した。2013年6月3日、奇しくも米中首脳会談が行われる直前のこと。指示されたホテルで彼らを待っていたのは、優し気な面差しの青年エドワード・スノーデン Edward Snowdenであった。彼は、グリーンウォルドとガーディアン紙国防情報担当特派員であるユーウェン・マカスキル Ewen Macaskillの前で、インタビューに答えながら告発を行った。ポイトラス監督は、その様子を目の当たりにしつつカメラに収めていった。彼女は、グリーンウォルドらがスノーデンの告発をスクープ記事にして世界に発信していた頃、当局に身柄を拘束される直前にスノーデンが香港から脱出した瞬間までカメラを回し続けた。

つまりこのドキュメンタリー映画は、綿密に練られた世紀の内部告発計画を実行に移し、その行動がどのような事態を引き起こしたかを、告発の張本人の側に密着した場所からリアルタイムで記録したという、極めて稀な(貴重な)“生の証言”をありのままに伝えるものなのだ。これほど重い“事実の証言”を、少なくとも私は初めて見たし、今後も見ることはないだろうと思う。

香港のホテルに滞在していた1週間の間に、これまでフィクションの世界でしか存在しなかった、“情報収集・操作を通じての政府による民衆支配”が、今現実に密かに行われているという事実が、NSAの機密データを基に疑いようのないほど明確に示されていく。ジョージ・オーウェル George Orwellの仮想デストピア小説「1984」が、他ならぬ“ノンフィクション”小説であったと判明したのだ。劇中、グリーンウォルドとマカスキルも呆然としていたが、観客である私たちもまた、開いた口が塞がらない状態になってしまう。

また、スノーデン自身が自らの命を危険にさらして行動したことは明らかだが、それを世界に伝える重責を担うことになったグリーンウォルドや彼に同行したマカスキル、米国のワシントン・ポスト紙でスノーデンの告発を報道した記者バートン・ゲルマン Barton Gellmanら、記者たちの苦悩と苦労も、この作品できちんと描かれる。むしろ、この作品のテーマの大半は、報道者が情報源とどのように協力し、どのように駆け引きし、またどのように情報を報道していったのか、そしてその報道の結果、どのような事態が起こったのかを描いたことだと思う。

ここまで大規模なリーク事件をうまく遂行するには、情報源の力だけでは無理なのだ。情報源の情報をきちんと伝えるジャーナリストたち―グリーンウォルドらとポイトラス監督―の危険を顧みない協力がなければ。スノーデンの極秘ファイルを託されたグリーンウォルドは、現に、パートナーが突如空港で拘束されるなどの被害に遭っていた。
ポイトラス監督のこの映画における役割は複雑だ。スノーデンの告発映像をニュースとして報道する傍ら、一方では、スノーデンとジャーナリストたちとの間で繰り広げられる緊迫した心理合戦―“事実をどのように公表するか”をめぐる意見の交換など―を映画の1シーンとして捉え、同時にドキュメンタリー作品として記録するという、二重の視点を持つことが必要だったからだ。彼女もまた、前2作品製作後から顕著になっていた当局からの圧力、追跡から逃れるため、ベルリンに拠点を置かざるをえなくなった。

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そして、“裏切者か、それとも愛国者か?”―後に様々な憶測を呼んだこの“スノーデン事件”の主人公エドワード・スノーデンは、なぜ自らの組織を裏切り、また彼だけでなくハワイで同居していた恋人、彼の家族までも危険に巻き込むような行動に踏み切ったのか。この事件の中で最も大きな謎とされ、誰もが知りたがっていた彼の“動機”。この“動機”を彼自身に説明させたことが、「シチズンフォー スノーデンの暴露 Citizenfour」の中の最重要ポイントだった。彼曰く、いかな政府といえども、一般市民全員のプライバシーを侵害すれば犯罪だという考えに基づき、市民の行動全てが監視されている危険を市民に知らせたかった。また、戦場におけるドローン攻撃の不当性を訴えたかった。ドローン計画が縮小されることを望んでいたのに、オバマ政権になってから計画は却って大規模になったからだ。そんな“卑劣な手段”に頼りきっているアメリカの現状に絶望したと。
彼がコードネームとして“シチズンフォー Citizenfour”を名乗った理由は、この手の内部告発を行うのは自分が初めてではない―今作にも頻繁に登場する前NSA職員ウィリアム・ビニーは、当局による国民監視体制強化を憂え、組織内で間違いを是正しようと努力したが辞職に追い込まれた。彼も含め、すでに3名の元NSA職員が現状に警鐘を鳴らしていた。―し、また自分が最後になることもないと確信していたからだ。このような大胆な計画をたてたのは、自分の前に告発に踏み切った勇敢な3名の失敗例を見ていたから。ありきたりのやり方ではだめだったのだ。

香港のホテルにおけるスノーデンとグリーンウォルド、マカスキルのやり取りには上映時間中、約1時間の時間が割かれている。カメラを回しているポイトラス監督に至るまで、それぞれ全員が命懸けのリスクを負っているため、尋常ならざる緊張感がこのシーンを支配している。NSAの極秘データを前にしてディスカッションしている最中、不意に警報装置が鳴り響くと、固唾をのんで画面を見守っていた私も椅子から飛び上がる程驚いた(笑)。何か裏があるんじゃないかと、思わず身構えたぐらいだ(笑)。観客が混乱しないように、このシーンは時系列に沿っているが、密室の中で3人の男が顔を突き合わせて話し合うだけの構図なのに、言葉は悪いが、下手なサスペンス映画より何倍も不気味で切羽詰まったスリルが漂う。敵の力は強大だ。告発を報道するタイミングと、スノーデン自身に当局からの追手が迫る時間を逆算し、絶対に間違いが起こらないよう、ホテルの中にいる4人は時間との競争に追い込まれる。報道で世界中が大騒ぎになる中、ホテルのシーンの最後は、香港の人権団体職員と弁護士がスノーデンを迎えに来て、彼を地下に潜伏させようとする様子。彼らを待つ間、不安と疲労に苛まれたスノーデンの横顔が映るのが印象的だった。本編は、目には見えないが確実に迫りくる危険の存在を雄弁に観客に伝えている。これは編集マチルダ・ボネフォイ Mathilde Bonnefoyの手腕のお陰であるのだが、インパクトも構成も素晴らしいポイトラス監督のカメラワークも貢献しているだろう。

この作品を見る限りでは、スノーデンという人は、強い信念に基づいて冷静に行動する気骨ある人物だと思われる。思慮深く、落ち着いていてユーモアのセンスもあり、何より勇敢だ。彼と彼の行動を酷評する人達の気持ちも分からないではないが、“誰かが行動を起こさなければ、社会は最悪の方向に向かっていく”という危機感は、私たち観客も実感できた。

さて、スノーデンの告発は、アメリカのみならず全世界の秩序を保っていた“プライバシー神話”に爆弾を落としただけではない。今作では“香港のホテルでの運命の会合”以後に起こった出来事も網羅されている。

スノーデン自身は、ウィキリークス代表のジュリアン・アサンジ氏の手を借り、ロシアに政治亡命を果たした。彼の恋人リンゼイは、後になってスノーデンの行動の全容を知り、後に彼を追ってロシアまでやってきた。彼らは今ロシアで亡命生活を送っている。

彼の告発は、“政府による犯罪”をその後も芋づる式に暴いていくことになった。アメリカ政府がサイバー攻撃を行ったこと、不当に集められた市民の通信情報を米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドという複数の国家が“共有”していたこと、2009年4月ロンドンで開催されたG20首脳会議の期間中、各国代表の情報を盗聴していたこと、NSAがドイツのメルケル首相の携帯電話を盗聴していたこと(実はNSAは日本の首相の電話も盗聴していた)、等々。なお、NSAによるメルケル首相の電話盗聴については、ポイトラス監督自身の友人でもあるドイツのジャーナリスト、ジェイコブ・アッペルバウム Jacob Appelbaumがデア・シュピーゲル紙に告発記事を寄稿した。

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そして何より大きな出来事は、スノーデンに続く“シチズンファイブ”“シチズンシックス”が登場した事実だ。グリーンウォルドは、スノーデンの告発報道が終了すると、今度はドローン計画の真実を告発する人々(どうやら複数)とコンタクトをとり、スノーデンのケース以上に大胆不敵な方法でその驚くべき実態を明かしたという。本編の最後に、世界を股に掛け、複数の国家が携わるドローン計画という大きな大きなピラミッド・システムの頂点に、某国政権のトップらしき人物が鎮座ましましていることが暗示される。…おそらく、スノーデンのいうとおり、間違いを正すべく真実を訴える市民、“シチズン”は今後も絶えることなく出現し続けるのだろう。

第52回NY映画祭における“Citizenfour”ポイトラス監督とのQ&Aの様子 NYFF52: "CITIZENFOUR" Q&A | Laura Poitras (Full)
shared from Film Society of Lincoln Center

「シチズンフォー|スノーデンの暴露 Citizenfour」は世界中で40以上もの映画賞に輝き、国際ドキュメンタリー協会戦火の勇気賞も受賞。そして2015年2月22日には、第87回アカデミー賞 The 87th Academy Awardsにて最優秀長編ドキュメンタリー賞を授与された。

“私たちすべてに影響する重要な決定が秘密裏に行われるということは、私たちを支配する権力を抑制する能力を失うことになります。
When the most important decision being made affecting all of us are made in secret, we lose our ability to check the powers that control....”
―ローラ・ポイトラス監督によるアカデミー賞受賞スピーチから抜粋

本作がこれほど世界中で高く評価された理由は、スノーデンの告発内容の衝撃度の大きさだけでは説明できない。長編映画が2本も3本も撮れそうなほどの、とんでもない量の情報を分かりやすく整理し、大きなテーマからぶれないように必要最小限度まで刈り込んでいった取捨選択の確かさ、また、時に時系列を前後しても観客が迷うことなく、観客の集中力をも途切れさせることなく映像をなめらかに繋げてみせた編集も、見事の一言に尽きる。それでいて、作品が複数の情報の散漫な寄せ集めに終始しないよう、要所要所でポイトラス監督自身のナレーションが入ったり、スノーデンからの暗号メールが画面を流れて行ったりと、工夫を凝らした映像のコラージュも面白かった。

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ドキュメンタリー映画としての志も高い作品だが、一つの映画作品として非常に良く構成された、質の高い作品でもあったということなのだ。この作品は間違いなく、ドキュメンタリー映画史に長く記憶されるものになる。また、気骨あるドキュメンタリー映画作家であるポイトラス監督の名前も長く記憶されるだろう。

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