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zoom RSS 「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件 Mr. Holmes」ビル・コンドン監督

<<   作成日時 : 2016/06/18 01:03   >>

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名探偵ホームズ最後の事件は、“彼自身"を解き明かすこと。

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「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件 Mr.Holmes」(2015年)
監督:ビル・コンドン
脚本:ビル・コンドン&ジェフリー・ハッチャー
原作:ミッチ・カリン「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件 A Slight Trick of the Mind」
製作:アン・キャリー&イアン・キャニング&エミリー・シャーマン
撮影:トビアス・A・シュリッスラー
音楽:カーター・バーウェル
編集:ヴァージニア・カッツ
出演:イアン・マッケラン(シャーロック・ホームズ)
ミロ・パーカー(ロジャー・マンロー)
ローラ・リニー(マンロー夫人)
ハティ・モラハン(アン・ケルモット)
真田広之(梅崎)
パトリック・ケネディ(トーマス・ケルモット)
フランシス・デ・ラ・トゥーア(マダム・シルマー)
ニコラス・ロウ(シャーロック・ホームズを演じる俳優)
コリン・スターキー(ジョン・H・ワトスン)他。

93歳になっていたシャーロック・ホームズは、日本への長旅からようやく帰国した。日本で手に入れたものを大事そうに小脇に抱え、現在の住まいであるサセックスの人里離れた海辺の家に戻った彼は、庭で飼育しているミツバチの様子を見に行く。約30年前に探偵業からは引退し、現在は住み込みのマンロー夫人と彼女の息子ロジャー少年と、ミツバチと共に暮らす穏やかな毎日だ。しかし彼の心には、最後に残された未解決事件の謎が重くのしかかっていた。
その事件は30年前に起こった。助手にして良き友人だったワトソン医師がそばにいた時には、彼が事件の概要を脚色をからめて手記にまとめていた。それらが語る“虚像のホームズ”像が世に出回り、浸透していたのだ。そのおかげで、彼がハドスン夫人から間借りしていたベーカー街のアパートには、物見高い観光客が押し寄せるようになってしまった。そのワトソン医師が結婚してホームズの元を離れたその日に、彼にとって最後の事件となった捜査依頼が舞い込んできた。…しかし、この最後のケースは探偵人生最大の失態を彼に犯させ、結局未解決のまま、彼もまた探偵業廃業に追い込まれてしまったのだ。
ワトソン医師は既にこの世を去っており、記録係はもういない。ホームズは自らの手で記憶を手繰り寄せ、この最後の事件の謎を解き、正しい事件簿を残さねばならないという使命感に突き動かされていた。とはいうものの、老齢のホームズの脳は老人性痴ほう症に蝕まれつつあり、過去を思い出すことも、現在の出来事を記憶することも困難になっていた。だが、ロジャー少年が自分の留守中に自室にこっそり忍び込み、その書きかけの手記を読んだことを見破ったホームズは、ロジャーの優れた観察眼と分析力を見込んで、最後の事件の再捜査の手伝いをしてくれるよう願う。死ぬ前に間違いを正したいというホームズの熱意に打たれたロジャーは、老探偵の新しい助手となった。

ことの発端は、トーマス・ケルモットという男からの依頼だった。彼の妻アンが、二度の流産を経て重いうつ症状に陥ったため、気晴らしになるかと、彼女にアルモニカという特殊な楽器を習いに行かせた。ところが、そのアルモニカの指導者であるマダム・シルマーによからぬ考えを吹き込まれ、楽器演奏を通じて亡くなった子供たちと“交信”することにのめり込むようになったというのだ。彼女の意識は、目に見えない子供たちの霊を求めてどこかへ彷徨い出、アンはすっかり人が変わってしまったらしい。ケルモットは全てマダム・シルマーがアンに黒魔術を施したせいだと信じ込んでおり、アンをシルマーの手から取り戻すよう、ホームズに依頼したのだ。

ロジャー少年との約束を忘れてしまったり、そもそもロジャーの名前すらも思い出せなかったり、日常生活の細々としたことも記憶から抜け落ちるようになったホームズに、医師は入院を勧めるが、ホームズはアンの事件を“解決”するまではサセックスの家を離れないとがんばる。日本から持ち帰った、記憶力の向上に効果があるという山椒を煎じ、それを毎日食べながら、アンを尾行した日の出来事を思い返す。アンはその日、夫の筆跡を真似て偽造した小切手で金を下ろし、その足で猛毒性の薬を購入し、法律事務所で夫の遺産相続人が自分であることを確認した。次には駅のホームで見知らぬ男に札束の入った封筒を渡し、さも親し気なそぶりで彼の腕に手をかけた。これら一連の行動から導き出される結論は、火を見るより明らか、“夫を殺害して遺産を奪う”である。公園のベンチに腰かけているアンに、通りすがりを装って話しかけたホームズは、子供を喪った悲しみから自暴自棄に走らぬよう彼女を諭した。ところがアンは、ホームズがケルモットに渡した名刺を見せ、ホームズの尾行もすべて承知していたことを明かす。アンは怒りに眦を吊り上げた。…そしてその直後、彼女は列車に飛び込んで自殺してしまったのだ。なぜ?謎の核心の部分がどうしても分からない。焦りを隠せぬホームズ。

ホームズが山椒を手に入れるためにわざわざ日本に赴いたのは、実は彼の地から、ホームズの熱狂的なファンだという梅崎という人物から直々に手紙をもらい、広島に招待されたためだった。原爆によって廃墟と化した広島の町。その中で、石を周りに並べ、亡くなった人々の魂に嘆きの祈りを捧げる老人。山椒の株は手に入ったが、梅崎が山椒の専門家でもなんでもなかったこと、ホームズの小説のファンですらなかったことをホームズは看破した。なぜ自分を騙したのか。語気荒く追及された梅崎は悪びれもせず、嘘を認めた。実は彼の父親マスオ・ウメザキが、かつて英国に赴任中に母とまだ幼かった彼を捨て、そのまま日本に戻ってこなかった事情があったのだ。ところが、その原因がホームズ自身だと責められても、ホームズにはそのことを思い出すことすらできなかった。梅崎は落胆し、もう手紙も出さないと言葉少なに去っていった。

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ホームズがアンの事件の顛末を記録に残そうと思い立ったのは、兄マイクロフトが亡くなったとき、彼の遺品の中からワトソンが書き残したアンの事件に関する手記を見つけたからだ。後年、それを基に映画が製作されたが、映画はホームズが覚えている事実とは全く異なった脚色を施された内容で、結末も違う。第一、事件は解決していないし、アンは亡くなってしまったのだから。
山椒もホームズの記憶の復活には効果がなく、彼は昔の習慣でそれを皮下注射しようと試みたが、その途中で昏倒してしまった。為すすべもなくベッドに横たわるホームズを見て、マンロー夫人は別の働き口を探す決意をする。ロジャーはホームズの代わりにミツバチの世話も懸命に行っていたが、ミツバチが大量死していることをホームズに急ぎ知らせた。ホームズに拡大鏡を持ってくるよう命じられたロジャーは、ワトソンが遺した書棚の引き出しが二重底になっていることに気付く。その底に、まるで隠してあったかのように厳重に保管されていた女性用の手袋。これこそが、アンが遺した手袋だった。アンが自殺し、自らのミスと彼女を救えなかった無力感にさいなまれていたホームズを心配したワトソンが、悲しい記憶につながる手袋を隠してしまったのだ。そして、事実とは180度異なるお粗末なオチではあったが、ホームズが直面した悲劇は伏せ、ワトソンはあえて明るいラストに変えたストーリーを書き残したのだ。ホームズが辛い記憶を思い出さずに済むように。それらは全てワトソンなりのホームズへの思いやり故の行動だった。

アンの手袋は、ホームズの錆び付いた記憶の底から、重大な真実を導くカギを甦らせた。ホームズはようやく、最後の記憶の欠落を取り戻す。だがその時、ホームズにとって最高の助手に成長していたロジャーの身に危険が降りかかっていた。ホームズはロジャーを救うことができるのか。

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シャーロック・ホームズが活躍する小説の中で、アーサー・コナン・ドイル自身の手になる作品(“正典(あるいは聖典と呼ぶべきかも知れないが)”と呼ばれ、別格扱い)の数は、実際にはそんなに多くはありません。しかし、誕生から1世紀以上経過した今も様々な形で映像化される程、シャーロック・ホームズというキャラクターには複雑で謎めいた魅力があるのです。
正典の数そのものは多くないのですが、後年、多くの作家によって数え切れないほどのパロディやパスティーシュの類が創られました。中には大変優れたものもあり、この「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件 Mr.Holmes」は、死を目前にした老齢のホームズが、アルツハイマーの症状と戦いながら最後の推理に挑むという異色設定の小説「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件 A Slight Trick of the Mind」(ミッチ・カリン著)を原作にした作品です。

今作が日本で公開されたとき、私も劇場まで足を運んだのですが、場内はなかなかの盛況でありましたよ。サー・イアン主演ということで、映画好き、そして演劇好きな年齢層高めの(笑)方々がたくさん見に来られていたと記憶しています。

実は私自身はシャーロキアン Sherlockianでもホームジアン Holmesianでもありませんので、正典との比較、あるいは正典の世界観の引用と応用の質といったことに関しては論じる言葉を持ちません。しかしながら、この作品を見ている間中、シャーロック・ホームズという架空のキャラクターが、まるで実在した人物であるかのような錯覚にずっと陥っておりましたので、今作における正典の世界観の応用は成功だったのではないかと思いますよ。正典をアレンジした作品ではなく、正典の世界観を借りて生み出された新しい作品だといえるでしょうね。

原作小説を書いたミッチ・カリンは、背景に日本、特に原爆で荒廃した広島を登場させるにあたり、日本に旅行して下見を行ったそうです。今作では、老シャーロックの人生のたそがれ時に現れる梅崎という男を真田広之さんが演じておられるので、奇妙な“エキゾチック日本人”キャラクターを見せられて居心地の悪い思いをしなくて済みました。レストランの舞台背景がちょっと4次元の世界に入りかけていましたが、日本はこの物語では大きな要素を占めるわけではないので、まあご愛敬ってことでいいでしょう。

今作を見た方々のコメントをちょっと読んでみましたが、絶対無二の明晰な頭脳と強靭な肉体双方を伴った、“文武両道”のイメージを持ってしまいがちなシャーロックが、死を直前にして痴呆症に苦しみ、心身ともに弱っている状態であるという設定を、受け入れられない方もいたようでした。私自身は、総勢数百人にも及ぶ数多くの俳優が演じてきたシャーロック・ホームズのお話は、グラナダテレビ ITV Granada版の「シャーロック・ホームズの冒険 Sherlock Holmes」(1984-1994)と、正典の持つイメージに最も近いと謳われるこの名高いテレビ・シリーズで、複雑で陰影に富むシャーロック・ホームズ像を構築したジェレミー・ブレット Jeremy Brett演じる探偵が大好きです。昔は、ジェレミー版のテレビ・シリーズ全話収録のDVD-BOXセットも持っていましたもん(笑)。
今ならきっと、ベネディクト・カンバーバッチとマーティン・フリーマンのコンビによる「シャーロック」ファンの方が圧倒的に多いと思われます。今回シャーロックを演じたサー・イアンは、ジェレミー・ブレットの雰囲気もベネディクトの雰囲気も持っており、大きな人気を博したシリーズものの熱心なファンの方でも、割とスムーズにこの作品の世界に入っていけるのではないでしょうかね。

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自分も自分の両親も老いてくると、今作のメインテーマの一つでもある“老い”とどのように向き合うかといった問題が切実になってきます。誰しも老いからは逃れられません。そして、人生の終盤に差し掛かった人間は、皆一様に、過ぎ去った人生を振り返ります。懐かしさと後悔の入り混じった複雑な感慨で、過去を掘り起こすのです。しかし、掘り起こした過去が蘇るわけではありません。過去は過去のまま、いずれ記憶の墓場で朽ち果てる運命にあります。しかし、過去に残してきた悔いを成仏させてやることは、今でも十分可能。この作品のホームズの場合は、彼自身の悔いを残したまま彼の人生上を彷徨っている過去の辛い出来事を、自らの手で成仏させようと必死になっているわけですね。
前述した梅崎の父親の人生を、梅崎の家族のことなど一顧だにせず、都合の良いようにあっさり変えさせてしまった傲岸さ。兄マイクロフトや親友ワトソンなど、近しかった人々の訃報によって孤独にさいなまれる哀れさ。最大の悔いはもちろん、最後の依頼人の妻アン。彼女の行動を推理することはできても、彼女を自殺から救えなかった不甲斐なさにシャーロックは苦しみ続けています。これら、普段の生活でなら見ないよう心がける“悔い”と“衰え”がシャーロックの疲れた脳細胞を一層死滅させ、記憶に鍵をかけたのだと思われます。シャーロックの衰えと老い、悔いを残すためにそれらへ無駄な抵抗を試みる姿を、今作は丁寧に描いています。

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どこかで目にした今作に対するコメントですが、事件らしい事件は起きず、シャーロックは全上映時間のうち9割がたは、まだらになった記憶の中で立ち往生している始末で、ミステリー映画としては面白くないと。探偵もの、推理ものとは呼べない映画ではないかということですね。私自身は、シャーロック・ホームズの世界、また推理ものの体裁を借りた上での、人生に残してきた悔いと向き合おうと必死になっている1人の人間の心の軌跡を描いたドラマだと捉えています。それで十分だと思うし、最後にホームズが彼自身を縛り付けていたトラウマから解放されたことが、私には純粋に嬉しかったですね。彼は過去と真摯に向き合い、自身の誤ちを認めて受け入れ、最後には“後悔”という名の鎖からついに解放されるのです。
アンは、彼女自身が抱えていた孤独を夫に理解してもらおうとは思いませんでした。そもそも無理だから。“あなたには家族がついているのだから、それで良いではないか、それ以上を望むな”とは、世界中のほぼ全ての人間が言いそうなお説教ですが(苦笑)、それではどうにもならない問題もあります。アンが陥っていた孤独感は、他の誰にも理解できる類の感覚ではありません。絶対的な孤独を知っている人間は少ない。アンがホームズを見て、彼女の孤独を理解できる唯一の人間だと看破したのは、そんな人間が殆どいないからなのです。しかし、だからといって、あの時ホームズがアンの肩を抱いて慰めの言葉をかけたとしても、恐らくアンの心を救うことはできなかったでしょうね。死が唯一の救済である場合もあるのです。残念ですが。

さて、監督処女作から緩やかに追求されてきた、ビル・コンドン Bill Condon監督作品のテーマ“現実と妄想の曖昧な混濁”は、長い間のキャリアの遠回りを経て、ようやく今作でコンドン監督らしいウェットで繊細な心理劇の中で明確になりました。老いゆえの時間の感覚と記憶の喪失というモチーフは、コンドン監督の作品群のテーマカラーにマッチしています。…いやぁ、しかし。やっとコンドン監督がコンドン監督らしいモチーフでコンドン監督らしいドラマを創ってくれました。ここまで戻ってくるのに、結構な時間が掛かったものですね…。


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