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zoom RSS “ストレイト・アウタ・コンプトン Straight Outta Compton”を離れて。

<<   作成日時 : 2016/04/12 17:28   >>

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2015年の映画界というのは、今にして思えば、色々な点において“過渡期”の混乱期にあったのだと思います。その年を象徴するような力強い作品で尚且つ、例えばアカデミー賞の威厳を取り戻させるような品格にも恵まれた作品にはお目にかかれなかったような気もしますね。残念ながら。作品賞候補になった作品を一通り見終えましたが、これだ!!と閃きを感じる作品はなかったかなあ。どれもみな良い作品でしたけどね。

しかし、2015年に封切られた作品の中でも「ストレイト・アウタ・コンプトン Straight Outta Compton」は、かなり特殊な位置を占めるものだと思っています。オスカー云々は抜きにしてですよ。先日行われたMTV映画祭で最優秀作品賞を授与されたこと、また、この作品の主役であるN.W.A.がロックの殿堂入りを果たしたこともあり、もう一度この作品を取り上げます。


言葉でぶっ潰されたのは、世界か、俺たちか。

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「ストレイト・アウタ・コンプトン Straight Outta Compton」(2015年)
監督:F・ゲイリー・グレイ
製作:アイス・キューブ&トミカ・ウッズ=ライト&マット・アルヴァレス&F・ゲイリー・グレイ&スコット・バーンスタイン&ドクター・ドレー
製作総指揮:ウィル・パッカー他。
原案:S・レイ・サヴィッジ&アラン・ウェンカス&アンドレア・バーロフ
脚本:ジョナサン・ハーマン&アンドレア・バーロフ
撮影:マシュー・リバティーク
プロダクションデザイン:シェイン・ヴァレンティノ
編集:ビリー・フォックス
音楽:ジョセフ・トラパニーズ
音楽監修:ジョジョ・ヴィリャヌエヴァ
出演:オシェア・ジャクソン・Jr(アイス・キューブ)
コーリー・ホーキンズ(ドクター・ドレー)
ジェイソン・ミッチェル(イージー・E)
オルディス・ホッジ(MC レン)
ニール・ブラウン・Jr(DJ イェラ)
ポール・ジアマッティ(ジェリー・ヘラー)他。

1986年、アメリカ屈指の危険な街、カリフォルニア州コンプトン。暴力とドラッグがはびこるこの街では、黒人というだけで警察から容赦ない取り締りの対象となってしまう。そんな中、元麻薬の売人のイージー・EはDJのドクター・ドレー、作詞ノートを持ち歩くティーンエイジャー、アイス・キューブらとともにN.W.A.を結成、自分たちの周りで起きている現実をラップにして世の中に訴えた。彼らの才能に目をつけたジェリー・ヘラーがイージー・Eと共同でルースレス・レコードを設立、たちまち大ブレイクするN.W.A.だったが、その過激なリリックで“世界で最も危険なグループ”とレッテルを貼られ、警察との対立も深まっていく。その一方で、グループ内部でもいつしか不協和音が生まれていくのだったが…。 ーallcinemaから抜粋



仮に、2015年の映画界の“決定打不足”を、異なる価値観がぶつかり合い、調和と共存を目指して混沌とする時代を反映した結果だと考えてみましょう。2015年はまさに、映画界にとっても、新たな価値観を伴った新たな時代の幕開けにあたる年であったとみなすことができます。つまり、2015年という年は、“映画界が意識的に多様性に寛容になろうと変革し始めた”記念すべき第一歩だったのではないでしょうか。映画に限らず何事も、全く新しい時代の始まりには多くの混乱を招くもの。世界中を見渡せば、ここ数年で顕著になった“多様性の視覚化”が社会のあり方に変化を要求し、それによって引き起こされた混沌が各地でトラブルに繋がっていますよね。2015年の映画界でも、性の多様性を取り上げた作品であったり、人種の多様性をテーマにした作品、思想や哲学、宗教、その他諸々の多様性を提示する作品が次々に発表され、話題になることが多くなりました。その反面、それら新たな価値観の下に生まれてきた作品たちを一体どのように評価すべきなのか、従来の考え方とどのように共存させればよいのか、それが分からなくて右往左往した人が多かったのも事実でしょうね。

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そんな中、80年代アメリカ社会の底辺部の実情を、音楽でもって世界に知らしめたといっても過言ではない、ミュージシャンたちの伝記映画が登場しました。私もよく覚えている伝説的ラップ・グループN.W.A.の物語です。イージー・E Easy-E、ドクター・ドレ Dr. Dre、アイス・キューブ Ice Cube、MC レン MC Ren、DJ イェラ DJ Yellaが出会ってN.W.A.を結成し、商業的成功からグループが空中分解するまで、激動の、しかし短かった活動期間の裏話、その後、中心人物だったイージー・Eがエイズによって早逝するまでの約10年間の彼らの軌跡を、ロス暴動など彼らの物語の背後で激変していた社会状況を織り込みながら、総括的に語る内容です。

彼らが“ホンマもん”のヤバい雰囲気を纏いつつ、メジャーシーンに登場してきて一世を風靡した時、私は一介の若造でありました。白状しますと、彼らに先んじてミュージック・シーンをにぎやかにしていたアメリカ東部出身のラッパーたちには全く興味がなかった私も、“ギャングスタ”という言葉を定着させた彼らのすさまじきラップには唖然とした覚えがあります。ヤバ過ぎる、激しいにも程がある、性平等なんぞどこ吹く風、セックスや暴力や死を歯に衣着せず叫び倒す彼らのおかげで、ラップそのものにトラウマを抱える羽目になったのでありますよ(涙)。

80年代後半から90年代初旬当時、ギャング撲滅を旗印に掲げていた警察やFBIとシャレやジョークではなくガチンコ勝負し、また一方では、ホンマもんのギャングの方々(方々って・笑)の世界で実際にサバイブしてきた史実は知っていましたが、今回この映画を見て改めてその史実の凄まじさに大きなショックを受けましたね。ただ音楽を作って、ファンの前で演奏して皆で盛り上がろうぜというレベルの話ではないんですよね。レコーディング・スタジオなり、コンサート会場なりから一歩外に出れば、敵対するギャング団から襲撃されて怪我をしたり、ヘタをすると死んでしまうことも珍しくはないという恐ろしい世界でN.W.A.は産声を上げ、翻弄され、早世したイージー・Eのように短い生涯を終えたのですよ。また、N.W.A.そのものの一生は短かったけれども、その周囲では、バラバラになってしまったメンバーそれぞれが自立して大成功を収めたり、再度の挫折を経験したり、また新たな世界に羽ばたいていったりという、彼ら自身の悲喜こもごものドラマがそれぞれ繰り広げられています。これら全てのストーリーを時代順に追っていくだけでも、観客にとっては頭がこんがらがる大仕事になるでしょう。

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複雑に交錯する物語の中心視座をイージー・Eに置いた“主旋律”と、ドクター・ドレ、アイス・キューブの中心キャラそれぞれに視点を分散させ、彼らの目から見た事実を主旋律と併走させて描く“伴奏”部分を、彼らの音楽同様キレッキレの編集でスムーズにまとめあげたF・ゲイリー・グレイ F. Gary Gray監督と編集ビリー・フォックスの功績は大きい。このスムーズな視点の移動がなければ、N.W.A.5人の物語(事実上、そのうちの3人がメインだとしても)は、ガヤガヤとまとまりのない混乱したポリフォニー polyphonyのまま終わってしまったでしょう。また、黒人と白人間の人種闘争など、当時の深刻な社会情勢と切っても切り離せない関係にあるN.W.A.の歴史を描くため、グレイ監督は、今現在の人種闘争問題を想起させることを承知の上で、ロス暴動のシーンも超リアルに再現。これは凄かった。実際の撮影現場を目撃した一般人は震え上がったそうですが、さもありなん。N.W.A.のコンサートの模様を再現したシーンも圧巻。イージー・E役のジェイソン・ミッチェル Jason Mitchellもアイス・キューブその人を父に持つオシェイ・ジャクソン・Jr O'shea Jackson Jr.も、ラップの経験はなかったそうですが上手い上手い。猛特訓の賜物であったことは後に知りましたが、今作を見ていて、私のラップへのトラウマも解消した気がします。奥が深いんですね、ラップの世界も。

私が観賞後に感じたように、現在の音楽界の大きな部分を占めるラップ界の歴史の、これは総括的な意味合いが込められた作品なのでしょう。またグレイ監督は、これまでの多ジャンルに渡る自身の監督作品で培われた演出テクニックと、持って生まれた映像センス、私が彼に注目している大きな理由であるところの“ストーリーに対する抜群のバランス感覚の良さ”を、今作において存分に発揮していました。彼は視点が偏らないんですよ。彼自身、ロスの治安の悪い地域の出身であり、日常的に発砲事件が起こる世界を知っていながら、決して彼の視点は一方向に偏ったりしないんです。その柔軟な発想と考え方に、私は大いに共感します。監督にとっても、今作は彼のキャリアの総決算という意味があったでしょうし、その結果は彼の思い通りに出ていると思いますよ。

また、是非とも強調しておきたいのが、俳優達のリアルな演技。アイス・キューブの実子で、父親を瓜二つの容貌と圧倒的なカリスマで演じたオシェイ・ジャクソン・Jr、志半ばで倒れたイージー・Eの複雑な肖像を大熱演したジェイソン・ミッチェル、切れ長のまなざしが大変印象的だったドクター・ドレ役のコーリー・ホーキンス Corey Hawkins、ユダヤ系白人のマネージャー、ジェリー・ヘラーを怪演したポール・ジアマッティ Paul Giamatti。群像劇の側面も持つ今作において、彼らの個性豊かな個々の演技と、抜群のアンサンブル演技は強烈で、観客の目を惹きつけずにはおかないものでした。

この作品が多面的な面白さを持つ理由は、上に挙げたように、ラップ界の伝説的グループの歴史を紐解くと同時に、アメリカ社会の底辺部にいた5人の若者たちの、悲劇を伴った友情を描く人間ドラマ、黒人と白人の人種間闘争を浮き彫りにした社会派ドラマの側面も持つことです。アメリカ社会の価値観が転換しようとしていた時期の物語を描く「ストレイト・アウタ・コンプトン Straight Outta Compton」が、映画界がまさに“多様性の視覚化”に混乱する2015年に発表されたのも、運命だったのでしょう。


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