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zoom RSS 映画賞レースは本命不在の大混迷。

<<   作成日時 : 2015/12/10 17:45   >>

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今年の映画賞レースは、本当に本命のいない混迷状態のようですよ(苦笑)。


2015年度ニューヨーク・オンライン映画批評家賞 New York Film Critics Online 2015

女優賞 Best Actress ブリー・ラーソン Brie Larson “Room”
男優賞 Best Actor ポール・ダノ Paul Dano “ラブ&マーシー Love & Mercy”
新人賞 Breakthrough Performance アリシア・ヴィカンダー Alicia Vikander “The Danish Girl” and “Ex Machina”
助演女優賞 Best Supporting Actress ルーニー・マーラ Rooney Mara “キャロル Carol”
助演男優賞 Best Supporting Actor マーク・ライランス Mark Rylance “Bridge of Spies”
外国語映画賞 Best Foreign Language Film “Son of Saul”
アニメーション映画賞 Best Animated Feature “インサイド・ヘッド Inside Out”
ドキュメンタリー映画賞 Best Documentary Feature “Amy”
アンサンブル・キャスト賞 Best Ensemble Cast “Spotlight”
監督賞 Best Director トム・マッカーシー Tom McCarthy “Spotlight”
新人監督賞 Best Debut Director アレックス・ガーランド Alex Garland “Ex Machina”
音楽賞 Best Use of Music “ラブ&マーシー Love & Mercy”
撮影賞 Best Cinematography “マッド・マックス 怒りのデス・ロード Mad Max: Fury Road”
脚本賞 Best Screenplay トム・マッカーシー Tom McCarthy and ジョッシュ・シンガー Josh Singer “Spotlight”
作品賞 Best Picture “Spotlight”

ニューヨークをベースに、主にオンライン上で(サイト上に批評を掲載している)映画レビューを書いている批評家約36名からの投票によって決定される、ニューヨーク・オンライン批評家賞 New York Film Critics Online。近年、彼らが作品賞に選出する作品は、オスカーでも作品賞候補に挙げられることがほとんど。一年間で公開される映画全てに目を通し、吟味している方々ですから、オスカーの選考委員よりよっぽど信頼が置けるかもしれませんよ(笑)。彼らの中の数名は、もっと歴史の古いニューヨーク映画批評家連盟 New York Film Critics Circleのメンバーを兼任しているそうです。ローリング・ストーン誌 Rolling Stone Magazineの名映画批評家ピーター・トラバースさんもそうですね。
今年のニューヨーク・オンライン映画批評家賞 New York Film Critics Onlineの受賞者、受賞作品を見てみると、映画賞レース本命と言われていたいくつかの作品が、興行的な意味で失敗してしまったこともあり、いよいよもって“本命全く不在、大混戦レース”になっている今年の映画賞レースを象徴するような内容ですね。でも、その方が却ってよかったのかなあとも思ったり。映画賞や映画祭は世界中に無数に存在するわけですが、そのそれぞれが、独自の選考基準で選んだ“今年最高の作品”がバラバラなのは、考えてみれば当たり前のことですもん。各映画賞、映画祭ごとに好みの作品は違っていますし、またその方が、各映画賞、映画祭の個性の違いが分かって面白いと思いますよ。

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個人的にとても嬉しかったのは、最優秀男優賞 Best Actorに、 “ラブ&マーシー Love & Mercy”のポール・ダノ Paul Danoが選ばれたことです。日本でも今年の夏に公開されて随分話題になった、元ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンを描いた作品ですね。私も映画館で観ましたが、本当に素晴らしい作品でした。今作については、ちゃんとした感想記事を書こうと思っているのでしばしお待ちいただきたい。才能豊かで、後続のミュージシャンたちに与えた影響力は計り知れないと言われ、間違いなく音楽史に名を残す人物と万人が認めながらも、精神を病んでしまった痛手から立ち直るために何年もの間苦悩したブライアンの個人史にスポットライトを当てた作品です。
なんというか、偉大なミュージシャンの歴史を、ただ単に古い順どおりに並べて背景に音楽を流しましたよ、というタイプの伝記映画ではないんですよ。それが証拠に、ブライアン・ウィルソンの個人史の中でターニング・ポイントとなる2つの異なる時代―ビーチ・ボーイズで一世を風靡した1960年代と、精神崩壊から立ち直ろうと苦闘していた1980年代―を、なんと2人の異なる俳優に演じさせ、ブライアンの精神の中でこの2つの時代の時間が錯綜し、衝突し、混乱し、しかし時間をかけてようやくそれらが1つに溶け合っていく様子をビジュアル化しているのです。
映画で個人の一生を描く際には、大抵1人の俳優がメークの力も借りてほぼ全ての時間軸を演じるものですが、“ラブ&マーシー Love & Mercy”はそのセオリーを無視し、ブライアン・ウィルソンという類稀なる人物の中にある、多くの人々と共有される普遍的側面をあえて際立たせたものと考えられます。ウィルソンを演じた2人の俳優―ポール・ダノ Paul Danoとジョン・キューザック John Cusack―は、双方共にそれぞれの個性を生かした演技で素晴らしかったのですが、ブライアンとしての演奏とボーカルも自身で担当したポール・ダノの演技巧者っぷりは、やはり凄かった。演技のレンジの大きさといい、強烈でした。他の映画賞だかで、彼が“助演男優賞 Best Supporting Actor”部門でノミネートされていたのを見かけた記憶がありますが、彼はぜひとも“主演男優賞 Best Leading Actor”としてノミネートされて欲しいし、可能なら、オスカーにもノミネートされて欲しいよなあ。
それから、この作品が初メガホン作品となったビル・ポーラッド Bill Pohlad監督の演出力はもっと評価されていいと思う。60年代のざらついたセピア色の映像と、クリアで原色に近い80年代の映像の使い分け、2つの時代の時間軸を自由自在に行き来しても、観客が戸惑わないよう導いていくストーリーテリング、共に良いと思いました。鮮やかな編集に迷いがなかったことが成功の理由でしょう。

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アンサンブル・キャスト賞、作品賞、脚本賞、監督賞を独占した“Spotlight”は、作品がトロント国際映画祭などでお披露目された際も大絶賛されていた骨太な人間ドラマ。しかし、映画賞レース中盤では、一気に賞賛される作品へのお定まりの“リバウンド rebound”と言いますか(笑)、“過激な反発作用 backlash”のせいで、しばし叩かれていた時期もありました。ただまあ、本当に良い作品であるならば、やっかみと嫉妬混じりの反発作用 backlashなんざ、作品への評価になんら関係ありませんけどね。ともあれ、マイケル・キートン、マーク・ラファロ、レイチェル・マクアダムズ、リーヴ・シュライバー等々の演技派俳優達が競演するこの実話ベースの作品、ジャーナリズムのモラル低下が著しい昨今の風潮も追い風になり、本当の意味での人間の良心的な行動を希求する観客の意思を反映し、オスカー・レースでも本命作品になるかもしれません。当ブログ内ではこの記事で“Spotlight”をご紹介しています。内容的にリスクの高い題材を扱っているため、これからまだまだ今作への風当たりは強くなるかもしれませんが、多くの人に認知してもらいたい作品です。



2015年度ニューヨーク映画批評家連盟賞 New York Film Critics Circle 2015

作品賞 Best Film “キャロル Carol”
監督賞 Best Directorトッド・ヘインズ Todd Haynes “キャロル Carol”
主演女優賞 Best Actress シアーシャ・ローナン Saoirse Ronan “Brooklyn”
主演男優賞 Best Actor マイケル・キートン Michael Keaton “Spotlight”
助演男優賞 Best Supporting Actor マーク・ライランス Mark Rylance “Bridge of Spies”
助演女優賞 Best Supporting Actress クリステン・スチュアート Kristen Stewart “アクトレス〜女たちの舞台〜 Clouds of Sils Maria”
アニメーション映画 Best Animated Film “インサイド・ヘッド Inside Out”
脚本賞 Best Screenplay フィリス・ネイジー Phyllis Nagy “キャロル Carol”
撮影賞 Best Cinematography エドワード・ラックマン Edward Lachman “キャロル Carol”
ドキュメンタリー映画賞 Best Nonfiction Film “In Jackson Heights”
処女作品賞 Best First Film “Son of Saul”
外国語映画賞 Best Foreign Film “Timbuktu”
特別賞 Special Awards 作曲家エンニオ・モリコーネ Composer Ennio Morricone and posthumous honor for William Becker and Janus Films

ニューヨークをベースに、雑誌、新聞、ウェブサイト等で批評活動を展開する35名の映画批評家たちで構成される連盟が選ぶ今年の映画―ニューヨーク映画批評家連盟賞 New York Film Critics Circle―は、トッド・ヘインズ Todd Haynes監督による、女性同士の恋愛を描いたほろ苦いドラマ“キャロル Carol”が事実上、独り勝ち状態でした。各映画賞で選出される優秀作品がそれぞれ違っている、これで良いんですよ。ニューヨークの映画界は、ロサンジェルスや他の国の映画界とは一味異なる嗜好を持っているのですから。

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2015年度のカンヌ国際映画祭 The 68th Cannes Film Festivalでも、第53回ニューヨーク映画祭 The 53rd New York Film Festivalでもその後のBFIロンドン映画祭 BFI London Film Festivalでも上映され、広く高い評価を得たこの“Carol”は、パトリシア・ハイスミスのデビュー小説を映画化したもの。同性愛を真正面から描く作品としては、あの「アデル、ブルーは熱い色 Blue is the Warmest Color / La vie d'Adele」(2013年)以来、メジャーな意味でも大きな注目を集める作品にもなりました。当ブログ内ではこの記事で“Carol”をご紹介しています。同性愛に対して偏見の厳しかった1950年代のアメリカで、裕福な家庭の専業主婦がデパートの売り子嬢に惚れてしまったというお話。同性愛、女性の社会的地位が低く、モラルという名の抑圧が女性に対して厳しかった時代背景、裕福な家の人間と庶民の間に厳然としてある社会的階級差。禁断の恋に落ちる2人の女性たち―ルーニー・マーラとケイト・ブランシェットが演じます―には、あらかじめこんなにも足枷が課せられていたわけです。この作品の軸は女性同士の恋愛の顛末ですが、その周りには、社会の中で女性が自由を獲得する困難さ、社会の中の階級制度の不平等、夫婦の絆といった様々な問題も、もちろんサブ・テーマとして埋め込まれています。今作に関しては、主演の女優2人の演技がクローズアップされることが多いのですが、複数のテーマを内包した多層的構成の物語、50年代のアメリカを見事に再現した衣装や美術、映像美といった要素も、ニューヨーク映画批評家連盟賞 New York Film Critics Circleは余すところなく賞賛しておりますね。

その代わり、と言ってしまっては元も子もないのですが(笑)、ニューヨーク・オンライン映画批評家賞 New York Film Critics Onlineでは作品賞に輝いていた“Spotlight”が、主要部門賞から弾き出されてしまいました。しかし個人的には、その“Spotlight”からマイケル・キートンが主演男優賞を贈られたことが嬉しかったですねえ。マイケル・キートンに関しては、私は今に至っても尚「バードマン Birdman」でオスカーの主演男優賞をとって欲しかったと悔やみ続けていますのでね(笑)。今年のオスカーに誰がノミネートされるのか全く分かりませんけども、マイケル・キートンにはどこかで演技賞をとらせてあげたいなあと思いますよ。主演賞になるのか、助演賞になるのか、それはどちらでも構いませんから。

主演女優賞 Best Actressに“Brooklyn”の英国若手シアーシャ・ローナン Saoirse Ronan(「つぐない Atonement」(2007年))が選ばれ、助演女優賞 Best Supporting Actressに“アクトレス〜女たちの舞台〜Clouds of Sils Maria”のクリステン・スチュアート Kristen Stewartが選ばれたのは新鮮な驚きであると同時に、『私の思惑通り(うはははは)』(by ローリング・ストーン誌のピーター・トラバース氏)という、実にニューヨークらしい選出だったと思います。
シアーシャは他の映画賞や映画祭でも大きな注目を集めており、彼女はオスカーの主演女優賞部門の有力候補だと私も思います。んが、クリステンちゃんはサプライズでした。とはいえ、日本では既に公開済みの“アクトレス〜女たちの舞台〜Clouds of Sils Maria”を実際に見れば、地味な役回りながら、その場の重心をしっかり支えているクリステンの存在感の大きさに感心させられるはずです。“中年になったかつての花形女優”という、自身を地でいくような役柄を、ジュリエット・ビノシュがいつもの重い演技で大熱演するのは予想の範疇でしたが、そのビノシュの女優を陰で支えるアシスタント役のクリステンが、ともすればシーンの枠から飛び出してしまいそうなビノシュの熱演を、しっかりコントロールしていたことに目を奪われましたね。クリステンがいなかったら、この作品はどうなっていたか分からない。少なくとも私はそう感じました。おそらくセザール賞の選考委員も同じことを考えたのでしょう。クリステンはアメリカ人女優ながら、セザール賞で助演女優賞に輝きました。

2015年度ニューヨーク映画批評家連盟賞 New York Film Critics Circle 2015各部門の賞は、2016年1月4日にもたれるディナー・パーティーで受賞者に手渡される予定だそうです。



第25回ゴッサム・インディペンデント映画賞 The 25th Gotham Independent Film Awards

作品賞 Best Feature
“Carol”
“The Diary of a Teenage Girl”
“Heaven Knows What”
“Spotlight”
“Tangerine”

ドキュメンタリー映画賞 Best Documentary
“Approaching the Elephant”
“Cartel Land”
“Heart of a Dog”
“Listen to Me Marlon”
“ルック・オブ・サイレンス The Look of Silence”

ビンガム・レイ新人監督賞 Bingham Ray Breakthrough Director Award
Desiree Akhavan for “Appropriate Behavior”
ジョナス・カーピアーノ Jonas Carpigano for “Mediterranea”
Marielle Heller for “The Diary of a Teenage Girl”
John Magary for “The Mend”
Josh Mond for “James White”

脚本賞 Best Screenplay
“Carol,” Phyllis Nagy
“The Diary of a Teenage Girl,” Marielle Heller
“Love & Mercy,” Oren Moverman and Michael Alan Lerner
“Spotlight,” トム・マッカーシー Tom McCarthy and ジョッシュ・シンガー Josh Singer
“While We’re Young,” Noah Baumbach

男優賞 Best Actor
クリストファー・アボット Christopher Abbott in “James White”
ケビン・コリガン Kevin Corrigan in “Results”
ポール・ダノ Paul Dano in “ラブ&マーシー Love & Mercy”
ピーター・サースガード Peter Sarsgaard in “Experimenter”
マイケル・シャノン Michael Shannon in “99 Homes”

女優賞 Best Actress
ケート・ブランシェット Cate Blanchett in “Carol”
ブライス・ダナー Blythe Danner in “I’ll See You in My Dreams”
ブリー・ラーソン Brie Larson in “Room”
ベル・ポーリー Bel Powley in “The Diary of a Teenage Girl”
リリー・トムリン Lily Tomlin in “Grandma”
クリステン・ウィグ Kristen Wiig in “Welcome to Me”

新人賞 Breakthrough Actor
Rory Culkin in “Gabriel”
Arielle Holmes in “Heaven Knows What”
Lola Kirke in “Mistress America”
Kitana Kiki Rodriguez in “Tangerine”
ミア・テイラー Mya Taylor in “Tangerine”

ゴッサム審査員賞 Gotham Jury Award
マーク・ラファロ Mark Ruffalo, マイケル・キートン Michael Keaton, レイチェル・マクアダムズ Rachel McAdams, リーヴ・シュライバー Liev Schreiber, ジョン・スラタリー John Slattery, スタンリー・トゥッチ Stanley Tucci and ブライアン・ダーシー・ジェームズ Brian D’Arcy James for “Spotlight”

最優秀TVシリーズ賞 Breakthrough Series (Long Form)
“Jane the Virgin”
“Mr. Robot”
“Transparent”
“Unbreakable Kimmy Schmidt”
“UnREAL”

最優秀TVミニ・シリーズ賞 Breakthrough Series (Short Form)
“Bee and Puppy Cat”
“The Impossibilities”
“Qraftish”
“Shugs and Fats”
“You’re So Talented”


実はこのゴッサム・インディペンデント映画賞 Gotham Independent Film Awards、北米における映画賞レースの先陣を切るものなんです。ニューヨークを拠点にしたインディペンデント映画対象の映画賞ですが、昨今ではメジャー映画もインディ映画もほとんど差がなく、住み分けもされていない状態ですから、オスカーの行方を占う上では無視できませんね。ニューヨークの映画評論家たちが今年気に入った映画は、上記した2つの映画賞で大体の傾向はつかめました。では、ゴッサムはどうでしょう。

ゴッサムは“Spotlight”派だったということですね(笑)。

作品賞 Best Featureから脚本賞 Best Screenplayからゴッサム審査員賞 Gotham Jury Awardから、主要部門は全て“Spotlight”。とすると、ニューヨーク・オンライン映画批評家賞 New York Film Critics Onlineは“Spotlight”派、ニューヨーク映画批評家連盟賞 New York Film Critics Circleは“Carol”派だったということになりますかね。そして、男優賞 Best actor、女優賞 Best actressといった演技部門は、各映画賞で選出する人材がそれぞれ異なる(票が割れる)ような気がします。つまり、作品賞や監督賞といった部門は、その映画賞自体が“Spotlight”派か“Carol”派かによって、選ばれる作品が異なってくるでしょうし、それに比して演技関連の部門は本当に本命が不在で、映画賞ごとにそれぞれ違う人が選ばれる可能性もあります。演技部門は大混戦模様になるだろうってことですな。

さて、そんなことを踏まえると、ゴッサムの男優賞と女優賞が、共に映画賞レース・ウォッチャー(笑)達のレーダーに引っかかていなかった伏兵2名ポール・ダノ Paul Dano(“ラブ&マーシー Love & Mercy”)とベル・ポーリー Bel Powley(“The Diary of a Teenage Girl”)に贈られたというのは、オスカーへのゴッサムなりの意思表示のようにも思われますね。“The Diary of a Teenage Girl”はソニー・ピクチャーズ・クラシックス Sony Pictures Classicsが配給、サンダンス映画祭で評価された、ティーンの女の子の物語です。ローリング・ストーン誌のピーター・トラバース氏が、主演のベル・ポーリー Bel Powleyの演技を絶賛されておりましてね。私も気になっていたんですよ。日本でも作品が公開されるといいですな。いや〜、それにしても。ゴッサムでもポール・ダノ Paul Danoに男優賞が贈られたという事実そのものが、私には嬉しいです。映画もビジネスである以上、興行成績が重要なのは充分承知していますが、本当に素晴らしい作品、素晴らしい演技には、損得勘定抜きでその素晴らしさを評価できる場が必要だとも思いますね。

そして、ジェンダー・フリー gender freeの演技関連部門、新人賞 Breakthrough Actorでは、先日ご紹介した画期的なインディ映画“Tangerine”でヒロイン、シンディーの大親友アレクサンドラ役でブレイクしたミア・テイラー Mya Taylorが見事受賞の栄誉に輝きました。これはいい。本当にいい。野郎だろうが女だろうがトランスだろうがゲイだろうが、もうなんだっていいじゃねぇか。全ての映画賞からジェンダーによる区分―“主演男優”だの“主演女優”だの“助演男優”だの“助演女優”だの―を取っ払って、“今年の映画界で一番演技が上手かった人”賞というのを作りゃいいじゃんか。多様性 diversityという言葉は、現在いろいろな場面で多用されるにも拘らず、きちんと理解されていないのではないかと危惧しますが、本当の意味で多様性を実現するなら、こんな映画賞の名称からも、“〜男優賞”や“〜女優賞”といった区分けをなくすことが必要かもしれませんね。

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今年の映画界は、相変わらずドキュメンタリー映画豊作の年でありまして、ドキュメンタリー映画好きには満足な一年間だったといえます。インドネシアで実際に起こった大量虐殺事件を追及するため、“モキュメンタリー”の手法に近いドキュメント「アクト・オブ・キリング The Act of Killing」を撮ったジョシュア・オッペンハイマー Joshua Oppenheimer監督は、同じ事件を今度は被害者の側から見つめたドキュメントも撮らねばならないと心に誓っておりました。それが、同虐殺事件で亡くなった青年の弟を主人公にした“ルック・オブ・サイレンス The Look of Silence” です。日本では既に劇場公開済みであり、私も劇場で観ました。現在眼鏡屋を営むその青年が、虐殺を指揮した張本人である元将校(現在も英雄としてインドネシアで優雅な生活を送っている)に接近して新しいめがねをあつらえるシーンの緊迫感は尋常ではありません。また、兄の仇を目の前にして怒りや悲しみ、様々な感情に襲われ、圧倒される青年の胸の内を思うと、私たちもまた言葉を失ってしまいます。登場人物の感情に寄り添えるか否かといった点では、もちろん前作の「アクト・オブ・キリング The Act of Killing」より、今回の“ルック・オブ・サイレンス The Look of Silence”の方が、遥かに共感しやすいと思います。そして、日本人として、観客である私たちもまた、声を奪われたままのインドネシア虐殺事件の被害者の無念と怒りをしっかりと記憶に刻みつけねばなりませんね。

今年のカンヌ国際映画祭 Cannes Film Festivalに出品された、ニューヨーク出身の新人監督ジョナス・カーピアーノ Jonas Carpiganoの作品“Mediterranea”は、今世界中で社会問題になっている移民、難民の物語を題材にしています。勿論作品の骨子は、難民が生まれる要因たる問題の提示なのですが、歩いて自由の地へ赴こうとしている青年たちのロード・ムービーという側面も持つ作品のようです。

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