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zoom RSS 第31回スピリット賞 The 31st Spirit AwardsノミネートとTangerine!

<<   作成日時 : 2015/11/30 16:31   >>

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【速報!】第25回ゴッサム・インディペンデント映画賞 The 25th annual Gotham Independent Film Awardsの授賞式が、アメリカはニューヨーク時間で昨日11月30日の夜に行われました。受賞作品及び受賞者リストはまた後程見てみるとして、『Tangerine』の頼れる親友アレクサンドラ役でブレイクしたミア・テイラー Mya Tailorが、

“将来有望な新人俳優賞 Breakthrough Actor
”を受賞しました!おめでとうミア!既にあちこちのメディアで取り上げられていますが、同作品でシンディーを演じたキキ然り、このミア然り、トランスジェンダー女優として素晴らしい作品で披露した素晴らしい演技がきちんと評価されている事実そのものが、重要だと思いますよ。彼女たち、古くて保守的な体質のオスカーを根底から揺るがす存在になるかも知れませんぜ。いや、そうなって欲しいな。兎に角ホンマにおめでとう、ミア。そして、観客賞 Audience Award (voted for online by IFP members)を獲得した『Tangerine』!


あらゆるインディペンデント映画の製作と製作者を支援する組織フィルム・インディペンデントInc Film Independentが毎年選出する、優れたインディペンデント映画のための映画賞スピリット賞 The Spirit Awardsも、今年で早31回目を数えることになりました。今年のノミネート作品がアナウンスされたので、ちょっと遅くなりましたが一覧を記録しておきます。

フィルム・インディペンデントInc代表のジョン・ウォルシュ John Walsh氏は、年を追うごとに映画界での重要性を増してゆくインディペンデント映画市場を踏まえ、今年も例年以上に“多様性”と“独自性”を選考基準の柱にすることを明言。映画界が、遊園地アトラクション型エンターテイメント大作と、小規模低予算製作ながらドラマ性やユニークさ、斬新なアイデアで勝負するインディペンデント型作品の真っ二つに二極化されている現状を、暗に認めるような格好になりました。


第31回スピリット賞ノミネート一覧 The 31st Spirit Awards nominees


作品賞 Best Feature

'Anomalisa'
'Beasts of No Nation'
'Carol'
'Spotlight'
'Tangerine'


監督賞 Best Director

ショーン・ベイカー Sean Baker, 'Tangerine'
ケイリー・ジョージ・フクナガ Cary Joji Fukunaga, 'Beasts of No Nation'
トッド・ヘインズ Todd Haynes, 'Carol'
チャーリー・カウフマン&デューク・ジョンソン Charlie Kaufman & Duke Johnson, 'Anomalisa'
トム・マッカーシー Tom McCarthy, 'Spotlight'
デヴィッド・ロバート・ミッチェル David Robert Mitchell, 'It Follows'


脚本賞 Best Screenplay

チャーリー・カウフマン Charlie Kaufman, 'Anomalisa'
ドナルド・マルグリズ Donald Margulies, 'The End of the Tour'
フィリス・ネイジー Phyllis Nagy, 'Carol'
トム・マッカーシー&ジョッシュ・シンガー Tom McCarthy & Josh Singer, 'Spotlight'
S・クレイグ・ザラー S. Craig Zahler, 'Bone Tomahawk'


処女作品賞 Best First Feature

'The Diary of a Teenage Girl'
'James White'
'Manos Sucias'
'Mediterranea'
'Songs My Brothers Taught Me'


処女脚本賞 Best First Screenplay

ジェス・アンドリュース Jesse Andrews, 'Me and Earl and the Dying Girl'
ジョナス・カーピナーノ Jonas Carpignano, 'Mediterranea'
エマ・ドナヒュー Emma Donoghue, 'Room'
マリエル・ヘラー Marielle Heller, 'The Diary of a Teenage Girl'
ジョン・マガリー&ラッセル・ハーボー&ミナ・ジョゼフ John Magary, Russell Harbaugh, Myna Joseph, 'The Mend'


主演男優賞 Best Male Lead

クリストファー・アボット Christopher Abbott, 'James White'
エイブラハム・アター Abraham Attah, 'Beasts of No Nation'
ベン・メンデルスゾーン Ben Mendelsohn, 'Mississippi Grind'
ジェイソン・シーゲル Jason Segel, 'The End of the Tour'
Koudous Seihon, 'Mediterranea'


主演女優賞 Best Female Lead

ケイト・ブランシェット Cate Blanchett, 'Carol'
ブリー・ラーソン Brie Larson, 'Room'
ルーニー・マーラ Rooney Mara, 'Carol'
ベル・ポーリー Bel Powley, 'The Diary of A Teenage Girl'
キタナ・キキ・ロドリゲス Kitana Kiki Rodriguez, 'Tangerine'


助演男優賞 Best Supporting Male

ケヴィン・コリガン Kevin Corrigan, 'Results'
ポール・ダノ Paul Dano, 'Love & Mercy'
イドリス・エルバ Idris Elba, 'Beasts of No Nation'
リチャード・ジェンキンス Richard Jenkins, 'Bone Tomahawk'
マイケル・シャノン Michael Shannon, '99 Homes'


助演女優賞 Best Supporting Female

ロビン・バーレット Robin Bartlett, 'H.'
マリン・アイルランド Marin Ireland, 'Glass Chin'
ジェニファー・ジェイソン・リー Jennifer Jason Leigh, 'Anomalisa'
シンシア・ニクソン Cynthia Nixon, 'James White'
ミア・テイラー Mya Taylor, 'Tangerine'


ドキュメンタリー映画賞 Best Documentary

'(T)error'
'Best of Enemies'
'Heart of a Dog'
'The Look of Silence'
'Meru'
'The Russian Woodpecker'


外国語映画賞 Best International Film

'A Pigeon Sat on a Branch Reflecting on Existence'
'Embrace of the Serpent'
'Girlhood'
'Mustang'
'Son of Saul'


撮影賞 Best Cinematography

'Beasts of No Nation'
'Carol'
'It Follows'
'Meadlowland'
'Songs My Brothers Taught Me'


編集賞 Best Editing

'Heaven Knows What'
'It Follows'
'Manos Sucias'
'Room'
'Spotlight'


ジョン・カサヴェテス賞 John Cassavetes Award (Best Feature Under $500,000)

'Advantageous'
'Christmas, Again'
'Heaven Knows What'
'Krisha'
'Out of My Hand'


ロバート・アルトマン賞(最優秀アンサンブル賞) Robert Altman Award (Best Ensemble)

'Spotlight'


キール・プレゼンツ監督賞 Kiehl’s Someone to Watch Award

クロエ・ザオ Chloe Zhao
フェリックス・トンプソン Felix Thompson
ロバート・マコイアン&ロドリゴ・オィエダ-ベック Robert Machoian & Rodrigo Ojeda-Beck


ピアジェ・プレゼンツ製作者賞 Piaget Producers Award

ダーレン・ディーン Darren Dean
メル・エスリン Mel Eslyn
レベッカ・グリーン&ローラ・D・スミス Rebecca Green and Laura D. Smith


今年のスピリット賞の発表及び授賞式は、例によってオスカーの直前(笑)、2月27日に行われる予定です。昨年の授賞式は、サンタモニカのビーチにテントをしつらえて開催されましたが、今年の会場は少しばかり北に移動する予定だとか。

さて、作品賞及び監督賞といった主要部門にノミネートされている『Anomalisa』『Beasts of No Nation』『Carol』『Spotlight』といった作品群については、このブログでもこれまでに取り上げてきた作品ばかり。つまり、カンヌ国際映画祭やトロント国際映画祭、あるいはNY映画祭などに招待されてきて、尚かつ映画賞レースにて本命とされる作品ばかりだということですね。結局、映画祭招待作品や映画賞ノミネート作品の名前を見ただけでは、一体どれがメジャー作品でどれがインディペンデント作品なのか、まるで区別がつかないわけです(笑)。映画賞を狙うのに、メジャーだろうがインディだろうが、映画の出自などこの際関係ないわ、という時代になっていることを改めて実感しますね。

しかし、映画賞レース時期になると毎年痛感することで、このブログでも繰り返し書いてきたことですが、映画祭や映画賞にノミネートされた作品が発表されるたびに、『オスカーの行方や如何に?!』と大騒ぎするような、オスカー視点のみの狭い見方は、もうちょっと控えめにしませんか、皆さん(疲笑)。そりゃまあ、プロの映画ライターさんたちは、話題性のあるオスカーの予想をして盛り上げるのがお仕事の一つでしょうから、それはそれでいいですよ。しかし、オスカーの行方のみに注目し、目を血走らせてソーシャル・メディアで大騒ぎしている人たちをよく見かけますが、それはちょっぴり行き過ぎではないかなあ。
30年以上映画を見続けてきて、オスカーをはじめ、各地の映画祭や映画賞の歴史の流れもつぶさに見つめてきて、その上で敢えて声を大にして言いたい。オスカー絡みでしか映画の価値を判断できないなんて、了見の狭い、しかも実にもったいない映画の見方をしているよと。

映画賞最大の関心事がオスカーであるのは充分承知していますし、今でもやっぱりオスカー・ウィナーになれるかどうかというのは、映画界の業界人ならずとも常に気にかかることではあるでしょう。ファンの人たちにとっては、応援しているスターがオスカー候補に挙げられれば、オスカーが終わるまで胃痛の日々が続くでしょうしね。

でも、なにも映画界はオスカーだけで成り立っているわけじゃありません。これも毎年毎年、しつこく且つ根気強く(苦笑)繰り返していることですが、様々なタイプの映画、様々なカテゴリーに属する映画、もちろん良質の面白い映画がたくさん集まってはじめて、映画界は活況を呈するのです。無名の人間が作った映画であっても、低予算の映画であっても、地味な内容で今ひとつ注目を集められないような映画であっても、面白い作品であれば、必ず観客の目に留まります。なんぞかんぞ言っても、やっぱり観客は面白い映画を求めているし、また探してもいるのですから。面白い映画がたくさん世に出れば、観客は自然と集まってきます。たとえそれが興行成績にすぐに反映しなくとも、面白い映画の周囲には、必ず観客がやってくるのですよ。


さてさて。愚痴が長くなって申し訳ありません。今日は、これまで私自身が見過ごしてきてしまっていた、ある注目作品についてお話します。


Tangerine Official Trailer (2015)


『Tangerine』(2015年)
監督:ショーン・ベイカー Sean Baker
脚本:ショーン・ベイカー Sean Baker&Chris Bergoch
製作:Sean Baker&Chris Bergoch&Radium Cheung
撮影:Sean Baker&Radium Cheung
音楽:Matthew Smith
編集:Sean Baker
出演:Kitana Kiki Rodriguez(Sin-Dee)
Mya Taylor(Alexandra)
Karren Karagulian(Razmik)
Mickey O'Hagan(Dinah)
James Ransone(Chester)他。

ハリウッド、虚飾の町。この街一番のヤバい女、トランスジェンダーのシン・デ・レラことシンディー(Kitana Kiki Rodriguez)は、再びこの街に帰ってきた。彼女の不実な恋人チェスター(James Ransone)は、一緒にいた28日の間、彼女に隠れて浮気し続けていたのだ。それも本物のBitch(女)と。傷心のまま涙ながらに金ぴかの街に戻ったシンディーを激励するため、同じくトランスジェンダーでシンディーの大親友、売春婦を生業とするセクシーなアレクサンドラ(Mya Taylor)は、けしからぬ噂の真相を一緒に徹底調査することを提案。かくして、口は達者な彼女達による、哀れな浮気男と彼を寝取ったビッチを捜す、騒々しい冒険の旅が始まった。時は折りしもクリスマス・イブ。彼女達の冒険は、ロサンジェルスのあちこちに存在する様々なサブ・カルチャー世界を彼女達に垣間見せ、家族内で起こった背信行為の影響に苦しむある典型的なアメリカ郊外の家族の肖像までも目撃せしめる。シンディーとアレクサンドラがクリスマス・イブにロスのストリート上で目の当たりにした、実に様々な人たちが織り成す人生模様は、彼女達にとって、ある意味異世界にも等しい世界ではあった。しかしそれらは、徐々に彼女達の考え方を変えてゆく。

今作を配給したマグノリア・ピクチャーズ Magnolia Pictures公式サイト内の、‘Tangerine’公式ページ Official Page (上記のあらすじ紹介は、こちらのページのSynopsisを参考にさせていただきました)

今年1月に開催されたサンダンス映画祭 Sundance Film Festivalで、観客に驚きをもって迎えられ、また批評家筋にも絶賛された超低予算ドラメディ作品『Tangerine』。この作品はいくつかの点で“ぶっ飛んで”おり、従来の常識を超越した、実に自由な発想の下で誕生した映画です。

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まず監督、脚本、撮影、編集と1人で何役もの仕事をこなしたショーン・ベイカー Sean Baker監督は、これが処女作品というわけではなく、2000年にインディペンデント作品ながら35ミリフィルムで撮影した『Four Letter Words』で監督デビューを果たしています。テレビ・シリーズ『Greg the Bunny』(2002年〜)でキャラクター創造や脚本を手がけ、満を持してのはずだった長編映画第2作目『Take Out』は、ごくごく平凡な装備のデジタルカメラを用いての低予算製作となってしまいました。カメラのクオリティーはイコール映像クオリティーであるという持論を持つベイカー監督にとって、撮影機材は大変重要なポイントであるわけですが、そこはそれ、メジャーで予算を湯水のように使える監督ではありませんからねえ。『Take Out』の共同監督であり、『Tangerine』でも製作、裏方、端役出演と八面六臂の活躍振りであったベイカー監督の古い友人Shih-Ching Tsou氏は、『Take Out』撮影当時、安い機材しか使えなくなった境遇を呪うベイカー監督の愚痴に散々付き合わされ、心底ウンザリしていたそうですよ(笑)。

しかしながら、あのラース・フォン・トリアー監督が仲間と提唱した“ドグマ95 Dogme 95”(家庭用の安い標準装備のデジカメで、しかも自然光の下で撮影を敢行する、ローテク&低予算での映画製作を行おうとする運動。要は、映像技術に頼らない、内容勝負の映画を作ろうと呼びかけた運動だった)の概念が、ベイカー監督の“仁義なきインディペンデント低予算との戦い”に転機をもたらす結果になりました。2008年の『Prince of Broadway』(インディペンデント長編映画)、2010年のテレビ・シリーズ『Warren the Ape』で脚本、監督を務めた後、2012年に製作した長編映画『Starlet』では、ベイカー監督はソニー製のデジカメにワイド・スクリーン・レンズを装着し、ごく普通のデジカメでも、まるで70年代のカリフォルニアのような、照りつける太陽で乾いた景色を撮影できるコツを習得。ノミニー常連だったスピリット賞 The Spirit Awardsで、ロバート・アルトマン賞(最優秀アンサンブル賞) Robert Altman Award (Best Ensemble)を見事受賞しました。

その後、2012年に発表されたスパイク・リー Spike Lee監督の、iPadで撮られたという映画『Red Hook Summer』を見て天啓を受けたベイカー監督は、リー監督の、2015年度ハイ・クオリティ・バージョン・ドグマ95とでも呼べる撮影方法を更に推し進め、iPhoneで1本の長編映画を撮影するアイデアを暖めはじめました。このブログでも時々作品を紹介しているVimeo(アマチュアのフィルム・メーカーたちが短編作品を投稿する動画サイト)や、iPhoneで撮影された短編作品に特化している動画サイト等で研究を重ね、より映画的な映像処理を行えるiPhoneレンズ用アダプターを開発・販売している会社Moondog Labsの存在を知ります。このMoondog LabsがiPhoneフィルム・メーカー達のために行ったキックスターター・キャンペーン Kickstarterに参加し、またMoondog Labsから長編映画撮影に耐えうるアダプターの試作品を提供されたベイカー監督は、いよいよ『Tangerine』の製作に乗り出しました。
低予算だった『Starlet』の更に半額ほどの超低予算と、Moondogから提供された3台のiPhone5S、幾種類かのレンズ用アダプター(もちろん安価)、それらを上手く使いこなす創意工夫(時には、ベイカー監督自ら1台のiPhoneを持って自転車で疾走しつつ撮影し、もう1台を撮影監督のRadium Cheungが受け持って異なるアングルの撮影を行ったことも)、ホーム・メイドな映画製作に理解を示してくれる優しいスタッフと慈悲深いキャスト達(彼らの獲得には時間がかかった)からなる少数精鋭の撮影部隊が力を合わせ、ベイカー監督のホームグラウンドでもある、安っぽいハリウッド界隈の情景からヒントを得た、新しい時代ならではの一風変わった都会のクリスマス・ストーリーが完成します。

ロサンジェルスという大きな街には、実に多彩な人々が多彩な生活を営んでいる、多彩な世界が存在します。幾層にも分かれたこれら異世界の住人は、私が思うに、皆さんそれぞれ自分自身が何らかの意味で“マイノリティー”に属していると認識しているのではないでしょうか。彼らの対極に位置する場所に、郊外に家を持ち、お父さんとお母さんと子供達と犬が一緒に住んでいる、いわゆるごく普通の標準的なアメリカ人的家庭生活が存在しているのだ、と。自分達が住むマイノリティー世界(どんな意味合いであれ)と、郊外世界が体現する“典型的アメリカ人の一般的な家庭生活”世界は、水と油と同じで相容れないんだ、と。

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サンダンス映画祭で今作を見て衝撃を受けた人たちや、ローリング・ストーン誌のピーター・トラヴァース氏など、著名な批評家の賞賛に後押しされ、今作を映画館で見た人たち(マグノリア・ピクチャーズによって、全米では7月10から劇場公開された)の多くもまた、“マイノリティー”として“マジョリティー”世界から弾き出されている主人公の女の子が抱える孤独に共感を寄せているようでした。つまり、映画を見ている観客自身の多くも、シンディーやアレクサンドラと同様、自分自身のアイデンティティーの拠って立つ場所に不安を覚えており、言い換えれば、彼女たちの“アイデンティティー再発見の旅”だともいえるこのクリスマス・イブの冒険譚に、自己の人生の断片を投影していたのでしょうね。
だからこそ、ロサンジェルス・サブカルチャー世界探索の旅の水先案内人である、ケバいファッションと派手なメーク、マシンガン・トークで武装したトランスジェンダーの女の子、シンディーとアレクサンドラの、水を得た魚がついでに陸に上がって大暴れする如きエネルギー、時に挑発的でエモーショナルで、ふとした隙に見せる繊細な感情表現を得て、この作品はこれまでに誰も見たことがなかったような、観客の心の最も深い部分にリンクするドラマになりました。

ただ、興味深いのは、この作品で言及されるたくさんの人たち、あるいは、映画を見てその感情を共有した観客の多くが、皆それぞれに“自分はいわゆるマイノリティーである”と信じているのに対し、実際には、皆それぞれが己の属するコミュニティーに戻れば、それは同じぐらい大きな規模のコミュニティーを形成しているということですね。それぞれが大きなコミュニティー(マジョリティー)に属しているにも拘らず、その中の1人1人の人間は、それぞれに不安と寂しさと疎外感を抱え、自分は一人ぼっちだと信じているという、矛盾した事実。ひょっとしたら、たくさんの観客がこの作品に共鳴した本当の理由は、ここにあるのかもしれません。

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今作を見た人たちの感想の中で印象的だったのは、観客の心に寄り添いつつも、新しい映像スタイルを提唱するこのオリジナリティ溢れる映画が、いまやほとんどの人間が持っているといっても過言ではないiPhoneによって作られたことに、大きな意義を見出していることですね。“僕が映画を見たり、また自分で映画を作ったりする理由がこれなんだよ!”あるいは、“私もこれからすぐ自分のiPhoneで映画を撮り始めようと思う。この映画を見た人は、おそらくほとんど皆、同じことを考えるだろう”などなど。この、“自分も、自分の力で、自分だけの新しい映画を作ることが出来るかもしれない”という可能性の裾野を、ごくごく身近なレベルにまで広げた意義は、予想以上に大きいのではないかと私も考えます。iPhoneで撮影された長編映画は、この『Tangerine』が初めてではありませんが、その面白さ、良質なドラマ性でもってメジャーな映画界にまで影響を及ぼそうとしている作品は、『Tangerine』が初めてではないでしょうか。

…映画は、オスカーをとる作品ばかりが能じゃないのよ。新しくて面白い作品を探し、発見し、大勢の観客と分かち合う喜びもまた、映画の大きな楽しみの一つなのよねえ。また、この作品で一躍名前を知られるようになった、トランスジェンダーの星、Kitana ‘Kiki’ Rodriguez(愛称キキ、シンディー役)とMya Taylor(ミア、アレクサンドラ役)両名は、これからも一層良い作品に出演し、大スターになって欲しいものです。本当に魅力的な女優さんたちですものね。


DP/30: Tangerine, Sean Baker, Kitana Kiki Rodriguez, Mya Taylor

最後に、うちのブログにもリンクを貼らせてもらっておりますところの、30分間一本勝負インタビュー番組、DP/30から、トロント国際映画祭 Toronto International Film Festivalに『Tangerine』が招待された際の、ショーン・ベイカー監督とキキとミアのインタビュー動画を共有させていただきますね。めっちゃおもろい。


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