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zoom RSS トロント国際映画祭TIFF 2015 Must-See List作品。

<<   作成日時 : 2015/09/02 12:16   >>

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とにかく上映される作品の数がハンパなく、カンヌ国際映画祭 Cannes Film Festivalとはまた違う意味で映画のカオス状態になるトロント国際映画祭 Toronto International Film Festival。1976年に設立され、北米で最大、最多のプレミア数を誇り、世界中から配給会社、製作会社、監督、俳優、女優が大勢駆けつけ、レッド・カーペットに登場します。今年は2015年9月10日から9月20日まで開催されますよ。

トロント国際映画祭(Toronto International Film Festival以後TIFFと表記)はカンヌやヴェネチア、ベルリンその他諸々の代表的な映画祭とは異なり、コンペティション形式ではないことが最大の特徴です。観客とは別個に審査員がいて、観客の正直な反応などとは無関係に、審査員達の思惑で賞が決められてしまうというストレスはありません。TIFF唯一の“賞”と名の付くものは、観客からの投票によって決められる“観客賞”のみ。ただし今年からは、映画祭誕生40周年を記念して新しく設立された部門プラットフォーム Platformにて、次世代を担う新進気鋭の監督の新作をピックアップし、ベテラン映画監督たちがそれらを審査して最高賞を決定するというコンペティションが行われるようになりました。
しかし、TIFFは基本的に、カンヌなどに代表されるような、映画を売り込みたい人達と“掘り出し物”を鵜の目鷹の目で狙っている人達が跋扈するビジネス色は希薄です。今年から始まるコンペ部門にしても、作品の売買ではなく、新しい才能を発掘しようという明確な目的に基づいているもの。今後もTIFFは映画好きのための映画のお祭りとして、観客を楽しませてくれると思いますよ。

さて、ローリング・ストーン誌 Rolling Stoneが8月25日付けの記事で、今年のTIFFは非常に強力なラインナップを揃えていると書いていました。25 Must-See Movies at Toronto Film Festival 2015こちらが元記事です。ローリング・ストーン誌は、膨大な数に上るTIFF招待作品ラインナップから、“これだけは絶対見逃すな、要注目映画25作品”を選び出していますね。彼らのアンテナに引っかかった作品ばかりですから、もちろん我々観客の“Must-See List”に加えても良い作品であるでしょう。

英国のThe Guardian紙も以前、“今年の映画賞レースに登場するのではないか”と予測した今年度要注目作品を列挙しておりましたね。当館でもその記事を基にして2016年度の映画賞(オスカーって誰よ?)レース予想。...Who's Oscar? Part 12016年度の映画賞(オスカーって誰よ?)レース予想。...Who's Oscar? Part 22016年度の映画賞(オスカーって誰よ?)レース予想。...Who's Oscar? Part 3で取り上げてみたことがありました。9月から始まる世界中の映画祭の招待作品ラインナップをためすすがめつして、前述したローリング・ストーン誌の記事も参考にしつつ、これまでの当館内の記事で書ききれなかった“わたしゃこの作品も見たいんじゃー!”補完ラインナップを、TIFF 2015の作品から再度選んでみたいと思います。


豆酢館長的これだけは絶対日本でも劇場公開してくれよリスト(名称変更・笑) Must-See Line Up

わたくしめもローリング・ストーン誌のライターも注目している作品のうち、既に以前の記事で触れた作品については、重複を避けるため該当記事へのリンクを貼っております。一部、ローリング・ストーン誌には選ばれなかった作品も含まれていますよ。まあ、下に列挙する作品群は、四の五の言わずとりあえずMust-See Listに突っ込んどけ、要注目作品だというわけです。


・ガラ・プレゼンテーション作品 Gala Presentationsから

『Legend』 directed by Brian Helgeland (UK)
『オデッセイ The Martian』 directed by Ridley Scott (USA)
『Miss You Already』 directed by Catherine Hardwicke (UK)
『The Program』 directed by Stephen Frears (UK)

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『Stonewall』 directed by Roland Emmerich (USA)

監督:ローランド・エメリッヒ Roland Emmerich

「スターゲイト Stargate」(1994年)、「インデペンデンス・デイ Independence Day」(1996年)、「デイ・アフター・トゥモロー The Day After Tomorrow」(2004年)、「2012」(2009年)…etc(多分まだ続く・笑)。地球をぶっ壊し続けて20ン年。ドイツはシュトットガルトからやってきた“地球ぶっ壊し野郎”ことローランド・エメリッヒは、思い切りよく開き直り、地球を如何に派手にぶっ壊すかに命を賭けたような娯楽世紀末映画をこしらえて荒稼ぎする一方で、カミングアウト済みの映画人として、資金面と知名度の双方を活用してLGBTQ運動や関連事業への寄付を惜しまぬ太っ腹ぶりも有名なんですよ。

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しかしながら、例えばハリウッドの真ん中で「私はローランド・エメリッヒ Roland Emmerichとウォルフガング・ペーターゼン Wolfgang Petersenが実は好きなんだあー!!」と叫んだとすると、80%ないし90%の確立で大笑いされるのが関の山だと思います(苦笑)。キアヌ・リーヴズのパターンと同じで、彼らのキャリアを禄に調べもせず、過去にどんなに優れた作品を作っていてもそれらを見ようともせず、他人からの受け売りで彼らを嘲笑するような人達にバカにされる運命にあるのでしょうよ。

例えばペーターゼン監督のフィルモグラフィーには、潜水艦映画の決定版ともいえる「U・ボート Das Boot」(1981年)、私の大好きなSF映画の佳作「第5惑星 Enemy Mine」(1986年)がありますし、エメリッヒ監督の方には「もうひとりのシェイクスピア Anonymous」(2011年)という、シェイクスピアに関する大胆な仮説に基づいたエモーショナルな歴史劇の佳作があります。地球ぶっ壊し野郎の別人格が撮ったのでしょうか(笑)、奥深いドラマ作品に仕上がっていました。「もうひとりのシェイクスピア Anonymous」に関しては、私自身は一般的な評価が低すぎるという不満を常日頃から持っていますので、興味がある方は、リンクを貼った当館内の感想記事を読んでやってください。

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つまり、エメリッヒ監督は決して地球をぶっ壊しているだけの輩ではないということなのですよ。くだんの「もうひとりのシェイクスピア Anonymous」はドイツ以外の公開国では興行的にも批評面でも苦戦を強いられましたから、そのすぐ後に、チャニング・テイタムの肉体美を目の保養にしつつやっつけたとしか思えない「ホワイトハウス・ダウン White House Down」(2013年)なんてぇのを撮ってやがるローランド(呼び捨て・笑)。彼奴はそれで誤魔化したつもりかもしれませんが、私の目は誤魔化せねぇわよ。エメリッヒ監督はおそらく何年も前から、シリアスな映画監督への転向を望んでいたでしょう。そして、ゲイという彼自身のアイデンティティも、その裏側にある葛藤も複雑な事情も全て、映画を通じて表現したいと願っていたのではないかとお察しします。

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そんなわけで、1969年、グリニッジ・ヴィレッジのゲイバー、ストーンウォール・イン Stonewall Inn に端を発した大規模な暴動事件の顛末をマクロ視点で描くこの一種の歴史劇は、私自身はエメリッヒ監督に似合う作品ではないかと思うのですよ。様々な事情と細々とした事件が絡まり合い、大きな暴動に繋がった経緯は、簡単には説明できない部分もあるでしょう。でも、これだけの規模に膨れ上がった歴史絵巻を描くには、その歴史を構成するエピソードの細切れを集めつつ、絵巻物の全体像を常に横目で睨んでいることができる広い視野(客観的な視野)も必要です。デリケートな問題を孕む事情が混沌としている、この事件の場合は特に。
それに、このストーンウォールの暴動は、アメリカにおけるLGBTQ人権運動の基礎となった出来事です。これらの運動はもちろん今も世界的規模で連綿と続いているわけで、過去の出来事と今現在をこれまた大きなスケールで繋ぐ使命をも、エメリッヒ監督はきちんと担ったわけでしてね。日本公開を楽しみにしている1作なんですよ。

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画像向かって左側が「ペニー・ドレッドフル Penny Dreadful」に出演しているジョニー・ボーケール(…という発音で正しいですか?どなたが教えていただけると助かります)君。メイクした画像では、「ロッキー・ホラー・ショー The Rocky Horror Picture Show」のティム・カリー Tim Curryをもっともっと細くした感じの、もんげー色気のある子ですわ。この子は要チェックだわ。

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ジョナサン・リース・マイヤーズ。お懐かしや。相変わらず綺麗ですなあ。

ストーンウォール・インにたむろっていた若く美しく危険な若者達が中心となるお話だけに、出演陣の顔ぶれがフレッシュ。ジェレミー・アーヴァイン Jeremy Irvine、ジョニー・ボーケール Jonny Beauchamp 、ケイレヴ・ランドリー・ジョーンズ Caleb Landry Jones、ジョナサン・リース・マイヤーズ Jonathan Rhys Meyers、ロン・パールマン Ron Perlman…とまあ、いいですねえ。見目麗しゅうてね(笑)。その昔はグラムロック風味の中性的な美貌でブイブイいわしていたジョナサンも、今では38歳。そろそろおっさん臭さが滲み出始める、デンジャラスなお年頃ではありますが(笑)、官能的な色気は熟成されてきつつありますな。ただ、約一名、美の基準を大きく逸脱した豪快な美中年(大笑)がおりますが、彼は、当時のストーンウォール・インを牛耳っていたマフィアみたいな役柄で登場するのではないかと予想しているので、無問題。……いえいえ、私としては、ロンが現役バリバリの役でも別に……ま、やめときます(笑)。

だいぶ前に既にニュースになっていましたが、今作の出演者の大半が白人で、黒人のキャラの子が1人しかいないというキャスティングの人種的偏りに、大きな批判が集まりました。この作品をボイコットすべきだと呼びかける方々もいまして、確かに、この人種偏り問題には私も胸を痛めておる次第です。さすがにこれを“人種差別”とまでは解釈しませんが、キャスティングする時点でもうちょっと配慮があればよかったのになあと、残念には感じます。
ただ、こうした問題と作品の出来上がり自体はそんなに関係のないことだと思うので、本編が公開されて作品の内容がしっかり理解されることを祈るばかりです。作品のテーマもさることながら、当時の世相を忠実に再現したセットデザインや衣装、小道具、そしてご機嫌な音楽。そしてなんといっても、「もうひとりのシェイクスピア Anonymous」の時にも印象的だった、映像全体隅々に至るまで計算された色味の美しさと深さ。地球をぶっ壊している時には、それどころじゃありませんから(笑)ほとんど誰にも気付かれないのですが、おそらくこの『Stonewall』では、それらエメリッヒ監督の知られざる美への拘りが明らかになると思います。


・スペシャル・プレゼンテーション作品 Special Presentationから


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『45 Years』

監督:アンドリュー・ヘイ Andrew Haigh

俳優ジョン・ハート(現在彼は癌闘病中だそうです。どうか無事快復されますように)が、御自身のSNSアカウントでこの作品について言及されていました。いわく、心から感銘を受けたと。ぜひ多くの人に見てほしいと絶賛されていました。TIFF公式サイトの解説文(TIFFアーティスティック・ディレクターのキャメロン・ベイリー氏が書かれています)によると、45年という長きに渡って共に人生を歩んできた一組の老夫婦ジェフとケイトの絆が、突然降りかかった予想外の事件によってあっという間に綻んでいくというストーリーだそうです。…正直、これは精神的に辛いお話ですわ。人と人の間の絆って、一体何なのでしょうね。長い時間をかけて育まれ、磐石の一枚岩になったとどちらもが信じて疑わなかった絆です。いかな青天の霹靂たる事態が起こったとはいえ、そんな絆が簡単に壊れてしまうものでしょうか。

半世紀も前、彼らが夫婦になる以前にジェフが熱烈な恋に落ちていた女性が、スイス・アルプスの山中で消息を絶ちました。その後、なんと50年も経過してから、彼女は以前の若い姿を保ったまま氷漬けの遺体として発見された、というわけです。相手は死人だとはいえ、かつて身も心も捧げていた恋人が若い頃の姿のまま自分の元に戻ってきたとあれば、ジェフの動揺と混乱と逡巡が如何程であったかは、想像に難くありません。昔とは全く違う人生を選んで歩み、もうすぐそれを終えようというその時に、まるで死を迎える前に問題を解決しろといわんばかりに、遠い過去に置いてきた未練が再び眼前に現れたのですから。“過去はまるで外国のようであり、そこでは人は全く異なる風に行動していた The past is a foreign country: they do things differently there.”のであり、ジェフにも他の誰にも、今更過去を変えることは出来ないのに。

また、夫の心が自分の目の前で過去に時間を遡っていき、自分と一緒にいる今の世界から消えてしまう様子を感じとった妻が、嫉妬に苦しむ気持ちも痛いほど理解できます。過去はもう二度と戻らないからこそ、美しいまま思い出の中に保たれます。翻って、“今”という時間は砂が零れ落ちるようにどんどん過ぎてゆき、我が身にはこれまでの分も含め、休みなく積み重ねられていく時間の抜け殻が残されるのみ。つまり、今を生きる自分には“過去の美しい思い出”に、どうあがいても太刀打ちできないものなんですね。ケイトはだからこそ、夫ジェフを責める以前に、自分自身が過去のある一点において、根本的に人生の選択を誤ったのだと思い詰めてしまいます。ジェフと結婚したこと自体が間違いだったとすれば、それ以後の彼女の人生は全て無に帰するでしょう。45年間の結婚生活が幻のように消えてしまうのです。

確かに、ごく普通の人生を送っている人間に、こんな事態はそうしょっちゅう起こるわけではありませんが、いつも一緒にいるからこそ、いつのまにか絆が脆くなっていたことに気付かず、何かの拍子に夫婦の関係が壊れてしまうことはあり得ると思いますね。余計な台詞も奇をてらった映像もなし、ただカメラは2人の登場人物が深い意識の下で葛藤する様子を凝視するのみ。ジェフとケイトの顔を顕微鏡で観察するように仔細に見つめ、彼らを取り巻く環境…他に何もない寂れた田舎町、刺激のない単調な暮らしぶりを見つめ、彼らが否が応でも向き合わざるを得ない過去と現在の乖離を見つめる。今作は、識閾下で2人の人間が繰り広げる激しい心理合戦を、婉曲的に観客に“感じさせる”ことに成功しているそうです。実は、このような映像情報を極力排除した映画を、今の状況で製作することはかなり難しいと思われます。しかし、まだ経験の浅い映画監督が、その困難に果敢にチャレンジしていることが分かっただけでも、私には喜ばしいと感じられますね。

何もかもが過剰になる一方の今の映画の多くは、私にとっては、逃げ場を完全に閉ざされた袋小路のように感じられます。最近は、モノクロの映画であったり、台詞が極限まで削られた映画であったり、音楽すらも廃した映画であったり、とにかく空間に隙間がたくさんある映画を好んで見るようになりました。無声・モノクロから始まった映画の歴史に逆行し、過去に遡っていくような感じですかね。ですから、私にとって映画館で映画を観る行為は特別な意味を持ちます。母親の子宮の中のように安全に守られた場所で映画を見る間は、その時だけは、いくらでも過去に思いを馳せたり、未来に向かって目を凝らしたりすることが許されるのです。現実世界から思い切り乖離することができるのです。でも、映画が終わって館内に光が戻れば、私達もまた現実に戻らねばなりません。…この作品の結末がどうなるかは分かりませんが、願わくば、ジェフが過去と完全に決別して今彼が生きている時間に再び光を灯して欲しいと願わずにはいられませんねえ。

解説文を書かれたベイリー氏は、“長い時間をかけて築かれた人生を、様々な映像技術を用いて短時間で振り返り、今では忘れてしまった感情や思い出などを映像で甦らせることができる映画の力を実感できるのではないか”と書かれていますが、まさにその通りですね。シンプルなストーリーですが、だからこそ、映画表現の多彩さを理解できるでしょう。トム・コートネイとシャーロット・ランプリングという泣く子も黙る名優たちを前に落ち着いた演出を行ったのは、「ブラックホーク・ダウン」等でエディターとしてキャリアをスタートさせ、HBOのテレビ・シリーズ『Looking』で2014年からショーランナーを務める傍ら、『Greek Pete』と『Weekend』という2本のインディー映画を監督したアンドリュー・ヘイ Andrew Haigh。映画作家としてのキャリアはこれからの方でしょうが、次の監督作品が楽しみだわ。

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今作はトロントに先立ち、第65回ベルリン国際映画祭 The 65th Berlin International Film Festivalのコンペ部門に出品され、ケイトを演じたシャーロット・ランプリング Charlotte Ramplingとジェフを演じたトム・コートネイ Tom Courtenayの演技に絶賛が贈られました。両者共に、文句なしの最優秀女優賞Silver Bear for Best Actressと最優秀男優賞Silver Bear for Best Actorを受賞。私が今期待しているのは、大好きな女優の1人であるシャーロット・ランプリングが、ミヒャエル・ハネケ監督 Michael Hanekeの名作「愛、アムール Amour」でのエマニュエル・リヴァ Emmanuelle Rivaの大活躍に続いてくれるんじゃないかということです。


『Anomalisa』 directed by Charlie Kaufman, Duke Johnson (USA)(カナダ向けプレミア上映)

監督:チャーリー・カウフマン Charlie Kaufman、デューク・ジョンソン Duke Johnson

Q:ハリウッドというか、映画界広しといえども誰も思いつかないだろう素っ頓狂なアイデアを思いついてしまう、今現在の全映画界一の変人(褒め言葉)とは誰ですか?

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A:チャーリー・カウフマン Charlie Kaufman
1958年11月1日生まれ、アメリカはニューヨーク州ニューヨーク出身(現在はカリフォルニア州のパサディナ在住)

●フィルモグラフィー Works

1999年:「マルコヴィッチの穴 Being John Malkovich」製作総指揮、脚本
2001年:「ヒューマン・ネイチュア Human Nature」製作、脚本
2002年:「アダプテーション Adaptation.」製作総指揮、脚本
2002年:「コンフェッション Confessions of a Dangerous Mind」脚本
2004年:「エターナル・サンシャイン Eternal Sunshine of the Spotless Mind」製作総指揮、原案、脚本
2008年:「脳内ニューヨーク Synecdoche, New York」監督、脚本
2015年:『Anomalisa』監督、脚本、原作戯曲

ニューヨークにてユダヤ系ドイツ人の両親の元に生まれる。ボストン大学に進むも、途中でニューヨークに戻り、ニューヨーク大学で映画製作を学び直した。大学卒業後は新聞社に勤めていたが、テレビのコメディ番組用の脚本を書くようになる。1999年の「マルコヴィッチの穴 Being John Malkovich」で注目を集めた後は、誰にも真似できない奇想天外なストーリーで、個性的な映画製作を続けている。「エターナル・サンシャイン Eternal Sunshine of the Spotless Mind」で監督のミシェル・ゴンドリーと共にアカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。これで押しも押されぬ天才変人脚本家として世界中に認知された。故フィリップ・シーモア・ホフマン Philip Seymour Hoffmanが主演した「脳内ニューヨーク Synecdoche, New York」では、映画監督としてデビューを果たした。

TIFF作品紹介ページで解説文を書いていらっしゃるキャメロン・ベイリー氏も、おそらく今作を具体的に説明するのに相当困ったのではないかと思います(笑)。その苦心の跡がよくうかがえる文章でした(笑)。なにしろカウフマンの脚本というのは、私ら常人の予想の遥か斜め上を疾走する勢いで展開するストーリーであり、そのストーリーの行き着く果てが誰にも見えないという、レビュアー泣かせのものなんですよね。しかし不思議なことに、彼のどの作品を見ても、喜びや悲しみや苦痛といった人間のあらゆる感情が軋轢を起こし、こんがらがってカオス状態になった末に、最後には無事昇天していく様子を目撃できるのです。なんとも表現し難い多幸感といいましょうか。

そんな天才変人の最新作は、なんとストップ・モーション・アニメ映画であります。

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世界中のファンの人達と交流する、“しゃべる人形”マイケル・ストーンは、大勢のファンに愛されて成功したキャリアを築いていました。しかしながら、内面では絶対的な孤独に蝕まれ、自分の人(形)生はこのまま無意味に過ぎていってしまうのではないかと不安におびえてもいました。そんなある日、全米各地を周るトークショーの途中で寄ったシンシナティで、マイケルはリサという名前の人形と出会います。彼女は一風変わった気質の持ち主で、2人のお互いへの第一印象も最悪。およそ友好的とは思えぬ刺々しい会話を交わすようになりました。しかし彼らは会話を通じて心を通わせるようになり、やがて友情が愛情に変化することに。彼らの“普通じゃない”恋愛は、無事に成就できるのでしょうか。

要はこの作品は、フェルトで出来た2体の人形のラブ・ストーリーでありましてね。ラブ・ストーリーというからには、もちろんラブシーンもございます。キャメロンさんいわく、“おそらく映画史上最も独創的で美しく、親密でエロティックなのに観る者の胸をかきむしるが如くの哀しさに満ちたラブ・シーン”だそうです。…すごい。これは超必見映画かもしれん。今作製作資金は、一部がKick Starterによってまかなわれましたので、Kick Starter内に『Anomalisa』専用ページがありました。リンクを貼っておきますね。Charlie Kaufman's Anomalisa in Kick Starter. Anomalisa Facebook Official Page. Anomalisa Twitter Official Account.

声の出演は、マイケル役にデヴィッド・シューリス David Thewlis、リサ役にジェニファー・ジェイソン・リー Jennifer Jason Leigh、他にトム・ヌーナンも声で出演しております。音楽担当は、カーター・バーウェル Carter Burwell!チャーリー・カウフマンの作ったラブ・ストーリー、ストップ・モーション・アニメ作品、音楽が私の大好きなカーター・バーウェル、この三大要素が揃いましたので、今作は私の中では必見映画のリストの中に入れられることになりましたとさ。

『Beasts of No Nation』 directed by Cary Fukunaga (USA)
『Black Mass』 directed by Scott Cooper (USA)
『Brooklyn』 directed by John Crowley (UK / Ireland / Canada)
『The Danish Girl』 directed by Tom Hooper (UK)
『Dheepan』 directed by Jacques Audiard (France)
『Equals』 directed by Drake Doremus (USA)
『I Saw the Light』 directed by marc Abraham (USA)
『The Lobster』 directed by Yorgos Lanthimos (Ireland / UK / Greece / France / Netherlands)
『London Fields』 directed by Matthew Cullen (UK)
『Maggie's Plan』 directed by Rebecca Miller (USA)
『Mountains May Depart』 directed by Jia Zhang-ke (China / France / Japan)
『Son of Saul』 directed by Laszlo Nemes (Hungary)

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『Spotlight』 directed by Tom McCarthy (USA)

監督:トム・マッカーシー Tom McCarthy

「扉をたたく人 The Visitor」(2007年)や「WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々 Win Win」(2011年)、現在日本でも公開中の「靴職人と魔法のミシン The Cobbler」等の脚本家兼監督として、また俳優としても活躍する才人トム・マッカーシー監督。彼の最新監督作は、アメリカで実際に起こった痛ましい事件と、それを粘り強い捜査で明らかにし、闇に葬られようとしていた真実を新聞紙上で訴えたボストン・グローブ紙の記者たちの物語です。

マサチューセッツに本拠地を置く日刊紙ボストン・グローブ紙 The Boston Globeは、アメリカで最も古い歴史を持ち最も活発に活動している、新聞記者による事件捜査班“スポットライト Spotlight”チームを抱えている。2001年当時チームを率いていたのはウォルター・“ロビー”・ロビンソン(マイケル・キートン)で、他のメンバーはマイケル・レゼンデス(マーク・ラファロ)、サシャ・プファイファー(レイチェル・マクアダムズ)、マット・キャロル(ブライアン・ダーシー・ジェームズ)らから成る少数精鋭の捜査ユニットだった。
彼らはそのとき、マサチューセッツ州内のカソリック教会の司祭が、教会の保護下にある子供達に性的虐待行為を頻繁に行っているという訴えが出ているという情報を掴み、その事件について捜査していた。確たる証拠はなかったものの、司祭による児童虐待は繰り返されていたようで、被害者からの訴えも十年以上の長きに渡って相次いでいた。にもかかわらず、スポットライト・チームによる捜査は難航する。教会側は、訴えが出された司祭について、その罪を明らかにした上であがなわせる努力を怠り、彼を他の教区に移動させてスキャンダルを隠蔽してきたからだ。スポットライト・チームは、長年にわたるカソリック司祭の児童虐待の実態と、教会側が何年にも渡って組織的に行ってきた隠蔽工作を一つ一つ洗い出し、裏づけをとっていくという気の遠くなるような作業を行うことになる。それは数ヶ月を要し、チーム全員の精神を限界まで追い詰めていった。

スポットライト・チームは最終的に、教会の権威を笠にきた聖職者による許しがたい犯罪と、教会というアンタッチャブルな組織による犯罪の双方を暴き、ボストン・グローブ紙上で彼らの罪を糾弾することに成功しました。そして、教会からの妨害にも屈せず、真のジャーナリスト精神に則って真実を暴き、泣き寝入りを強いられていた多くの被害者の名誉のために戦った彼らの努力は、2003年度のピューリッツァー賞 The 2003 Pulitzer Prize for Public Serviceを受賞することで報われたのです。

この事件(Massachusetts Catholic sex abuse scandal)のことは私もよく覚えています。なんといっても一番ショックだったのは、迷える子羊たちを導き、救う手助けをせなあかん聖職者たる者が、澄ました顔の裏側ではとんでもない“性食者”になっていたこと以上に、教会という組織が組織ぐるみで身内の犯罪行為を隠そうと必死になっていた(おそらく今も)という事実ですね。

ザ・隠蔽体質。

このやっかいな体質は、今あるどんな組織にも多かれ少なかれ存在するとは思いますし、ある程度はそれも致し方ないでしょう。しかしね、一般市民の我慢にも限度がある。今は、どんなに大きな組織でも、内部でどんなことが行われているか分かるように透明性を保たねばならない時代です。世界的にそういう空気になっているのだから、「ウチは昔っから隠蔽工作をしてきたし、それが伝統だから」とかほざいている場合じゃないですよ、ほんまに。伝統、保守性=隠蔽体質ではないんですよ。

トム・マッカーシー監督が、こんなにハイリスクな題材に取り組んだとは、正直ちょっと意外な気もしましたね。これまでの彼の監督作品はどれも、ハートウォーミングな人情ドラマでしたから。しかしまあ考えてみたら、マッカーシー監督の視線というのは常に弱き者に対して向けられており、彼らに無上の優しさといたわりを注いでいたわけです。この痛ましい事件で最も大きなダメージを受けていたのは当然、被害に遭った子供達であり、彼らの気持ちを出来る限り傷つけないようにいたわりつつ、この難しい題材を映像にするには、現実に対してどこまでも冷厳なリアリズムではなく、マッカーシー監督の持つ優しさと忍耐強さが必要だったのかもしれません。

『Trumbo』 directed by Jay Roach (USA)
『Where to Invade Next』 directed by Michael Moore (USA)


・TIFFドキュメンタリー映画部門 TIFF Docsから

『Amazing Grace』 directed by Sydney Pollack, Alan Elliott (USA)
『Heart of a Dog』 directed by Laurie Anderson (USA)
『Janis: Little Girl Blue』 directed by Amy Berg (USA)
『Miss Sharon Jones!』 directed by Barbara Kopple (USA)
『The Reflektor Tapes』 directed by Kahlil Joseph (UK)

この部門に関しては一言だけ。さすがはローリング・ストーン誌だけあって、チョイスしている作品が全部音楽絡みですね(笑)。個人的には、NY映画祭 NY Film Festivalで触れたローリー・アンダーソンの自伝的ドキュメンタリー『Heart of a Dog』と、故シドニー・ポラック監督が生前に撮っていたものの未公開だったドキュメンタリー映画『Amazing Grace』を見てみたいですね。

・Vanguard部門から

『Love』 directed by Gaspar Noe (France)


・“ザ・英国映画”特集 City to City Londonから

『Kill Your Friends』 directed by Owen Harris (UK)


・Platform部門から

『High-Rise』 directed by Ben Wheatley (UK)


・Midnight Madness部門から

『Green Room』 directed by Jeremy Saulnier (USA)


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