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zoom RSS 「ジェイソン・ベッカー NOT DEAD YET〜不死身の天才ギタリスト〜 」

<<   作成日時 : 2015/03/04 00:13   >>

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実は昨年、不世出の天才ギタリストでありながら20代前半でALSを発症し、それから20年以上経った今も尚、病と闘いながら明晰な頭脳を駆使して作曲活動を続けるあるミュージシャンの半生を記録した、本当に素晴らしいドキュメンタリー映画(「ジェイソン・ベッカー NOT DEAD YET〜不死身の天才ギタリスト〜 Jason Becker: Not Dead Yet」)を観ました。この映画自体は2013年に製作されたものですが、彼がまだ現役バリバリのヘヴィメタル・ギタリストであった頃、日本で特に人気のあった彼のドキュメンタリーは、2014年に入ってようやく日本でも公開されました。その後テレビでも放映され大きな反響を呼んでいます。

「ジェイソン・ベッカー NOT DEAD YET〜不死身の天才ギタリスト〜 Jason Becker: Not Dead Yet」公式サイトはこちら

この映画を観て以降、こちらは伝記映画の体裁ですが、「博士と彼女のセオリー The Theory of Everything」に対する考え方ががらっと変わったのですよ。思えば昨年、ALSアイス・バケツ・チャレンジ ALS Ice Bucket Challengesと銘打たれた、ALS研究と患者の家族を支援する寄付を募るためのパフォーマンスが一時的に話題になりましたね。世界中のセレブもこの動きに参加し、氷水を被ってきゃーきゃー騒ぐ動画が様々なSNSに投稿されていました。この流行にシニカルな人たちもいましたし、ポジティヴに捉える人もいたことは確かです。しかし、あの氷水パフォーマンスの後、ALS研究と患者の家族支援がどれほど緊急を要する非常事態であるか、考えた人は果たしてどれだけいたでしょうかね。ほとんどの方はALSのことすら忘れてしまったと思います。私自身も、他人のことをとやかく言えた義理じゃありませんでしたもの。

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そこへきて、「ジェイソン・ベッカー NOT DEAD YET〜不死身の天才ギタリスト〜 Jason Becker: Not Dead Yet」が私の街でもついに封切られたわけです。映画館ではじめて観たときのショックは想像以上でした。ジェイソンの場合は、発症後あれよあれよという間に症状が進行したため、本人も家族も病と向き合う心の準備が整わないまま、壮絶な闘病生活に放り込まれたそうです。

家族と彼の元婚約者を含む看護人が総出で24時間付きっきりの看護が、その後何年も何年も続きました。もちろん今でも現在進行形で、ジェイソンと彼の家族とALSとの闘いは続いています。肉体を支える筋肉のほとんど全てが死に絶え、その感覚が失われてもなお頭脳だけははっきりと覚醒したままだという残酷で恐ろしい病ALSが、具体的にどのように進行し、周囲の人達に一体どれだけの負担と絶望を与えるのか。このドキュメンタリー作品は、ジェイソンのご両親が様々な形でジェイソンの病状の進行を記録したビデオ映像や写真を紹介しながら、ALSを巡る治療と看護と闘病生活の実態を私達に明瞭に伝えてくれます。

ジェイソンが幸運だったのは、ご両親が一日でも長く息子を生かそうと、彼ら自身の人生の全てを投げ打って息子のためだけに尽くしてくれていること、元婚約者で今はパートナーシップは解消したものの、看護人として変わらず彼の傍に付き添い続ける女性の存在があることでした。また、ジェイソン自身の天賦の音楽の才能とユーモアのセンスが、力強く、そしてたくさんの愛情に包まれた奇跡のように美しい人生を彼に与えることになったのです。

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ジェイソンが唯一自分で動かせる目でもって、家族や友人と意思の疎通を図る方法は映画「潜水服は蝶の夢を見る Le scaphandre et le papillon」で披露された方法と同じ。でも、実際にその方法でジェイソンがご両親とコミュニケーションをとっている様子を見せられると、これはもうテレパスとか透視などの、人智を超えた力が働いているような錯覚にすら陥りますね。
ボードの決められた場所に置かれたアルファベットの方向に視線を向けることで、ジェイソンは単語を伝え、文章を伝え、そして友人のミュージシャン達、プロデューサー達の力を借りて、音符を伝えます。一音、一音、もどかしいようですが一つ一つ、ジェイソンの頭の中で毎日奏でられている音たちが彼の目から空中に飛び出し、コンピューターに記録されていく。それが更にアレンジを施されて一つの楽曲になっていく様子は、何かの奇跡を目の当たりにしているようですね。その作業をジェイソンが神に召される瞬間まで続けられるように、そのためだけに、周囲の人たちは様々な方法で彼をバックアップするわけです。

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ジェイソン自身は動けなくなってしまったけれど、その代わり、周りの人達が彼のためにできることを考えて最良の方法で行動し、各々がアイデアを持ち寄ってさらに新しいチャレンジへと進んでいきます。本編の最後には、ジェイソンの実力を認める著名なミュージシャンたちが多数参加した、ジェイソンとALSのためのチャリティー・ギグの模様も紹介されていました。

ちなみに、このギグに参加したTOTOのギタリスト、スティーヴ・ルカサーは、元バンドメンバーのベーシスト、マイク・ポーカロ Michael Joseph Porcaro(バンド側は今も尚“正式メンバー”として彼の名前を留めている)がやはり同じALSと闘っている事情もあり(2007年に発症、現在59歳)、ジェイソンとはこの時初対面だったにも拘らず参加を決めたとか。TOTOもマイクの闘病を支えるために一時的に再結成し、世界ツアーを行いましたもんね、そういえばね(滂沱)。
また、ジェイソンに憧れて彼のようになろうとギターを学ぶ未来のギタリスト達や、ジェイソンを尊敬するあまりアートまで制作してしまった子供達も登場。そんな彼らが、毎日のようにジェイソンに会いにやってくるわけです。憧れの人に会える喜びと興奮で、目にお星様をいっぱいためた子供達がね(感涙)。ジェイソンの存在は、一部のミュージシャン達や友人達だけではなく、これまで知る由もなかった多くの人たちにまで影響を与え、彼らの人生を思わぬ形で新しい未来に結びつけているように思えましたね。

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今やジェイソンを巡る世界は、彼が横たわるベッドを中心にして、音楽への純粋なリスペクトと情熱、彼自身が受け取るものより何倍にも膨らんだ多くの人達の愛情をエネルギーにして、更に広がり続けています。ジェイソン自身は自分は特別な存在でも何でもなくて、ただ単に音楽を作り続けたいと願う、とてもラッキーな男なだけだと謙遜しますが、この現状を称し、看護人の方が“ジェイソンは大企業の社長で、彼の周りの人間が彼のために最高の仕事をするのを監督しているようだ”とジョークを飛ばしていました。うん、確かにそんな風に見える(笑)。ジェイソンを懸命に支える人たちは、実はジェイソンを媒介として、彼ら自身も気付かないうちに驚くほど善き人生を切り開いているのかもね。だから、彼らはジェイソンと一緒に生き、彼と一緒に更なる高みを目指しているのですよ。

このドキュメンタリーのタイトルは“Not Dead Yet”(まだまだ死んじゃいないぜ)ですが、“まだ死んでない”どころか、誰にも足を踏み入れられなかった世界を求めて、誰よりも生き生きと生き続けるジェイソン。彼がここに到達するまでに強いられた努力と苦労と忍耐は、言葉に出来ないほどの痛みを伴ったでしょうし、そんな彼の心の内を思うと胸が潰れそうです。しかしそれ以上に、彼の周囲の人たち―特にご両親―が彼に捧げてきた絶え間ない努力、見返りを一切求めない愛情の尊さと力強さには、私達も大いなる勇気を与えられますね。皆で力を合わせて最善の人生を精一杯進む者達を、神も慈悲を以って見守ることでしょう。

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ALSが具体的にどのような病気であるのか、また、なぜこの病気の解明と患者の家族を支援することが早急に必要なのか。「ジェイソン・ベッカー 不死身の天才ギタリスト Jason Becker: Not Dead Yet」は、ALSについての知識と現状が大変分かりやすく解説された医療ドキュメンタリーとしても優秀ですが、1人のミュージシャンが壮絶な挫折を経て一層素晴らしいミュージシャンとして甦るまでを追ったドラマとしても、また彼が頭角を現したHR/HM音楽業界の歴史を紐解く音楽ドキュメンタリーとしても、また、病と闘う患者とその家族の絆を描くドラマとしても、素晴らしい感動を与えてくれます。これを観ますとね、なんかもう、小さいことで悩むのがアホらしくなりますわ。五体満足で生きていることに感謝しつつ、私も頑張らなあきませんね。


「ジェイソン・ベッカー NOT DEAD YET〜不死身の天才ギタリスト〜 Jason Becker: Not Dead Yet」(2012年製作)
監督&脚本:ジェシー・ヴィレ Jesse Ville
出演:ジェイソン・ベッカー他。


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