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zoom RSS “世界一美しい本を作る男 How to make a book with Steidl”との旅。

<<   作成日時 : 2016/01/31 00:14   >>

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“ナンバーワン”ではなく、“オンリーワン”を目指せ。

Kindle等、電子書籍が急速に普及している今、改めて“紙の本”の重要性に気付かされるドキュメンタリーでした。まだ未見の方は、もしどこかの劇場でこの作品を観るチャンスが巡ってきたら、あるいはDVDでもなんでも良い、兎に角見てください。今作のメインテーマである“本はどうやってできるのか”ということに興味がなくても一向に構いません。あなたの職種が何であっても、専業主婦だろうが学生さんであろうが一線から退いた身であろうが、何だろうが構いません。とにかく、一人でも多くの人に観ていただきたいと思います。

世界的な不況を背景に、震災後の日本経済も厳しさを増す一方ですが、だからこそ、日本人が本来最も得意としている“高品質のモノづくり”の基本に立ち返る重要性を、この作品は教えてくれます。

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「世界一美しい本を作る男-シュタイデルとの旅- How to make a book with Steidl」(2010年)
監督:ゲレオン・ヴェツェル(「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」)&ヨルグ・アドルフ
出演:ゲルハルト・シュタイデル
マーティン・パー
ギュンター・グラス
カール・ラガーフェルド
ロバート・フランク
ジェフ・ウォール
エド・ルシェ
ハーリド・ビン・ハマド・ビン・アル=サーニ
ジョエル・スタンフェルド
ロバート・アダムス
ジューン・リーフ他。

公式サイトはこちら

経営者ゲルハルト・シュタイデルは、印刷機から出てくる一枚一枚の写真や原稿をチェックし“本”作りに情熱を注ぐ。今や有名写真家が作品を出版する為に何年も待ち、扱うのはノーベル賞作家の新作からシャネルのカタログまでと幅広く、世界中にコレクターがいるシュタイデル社の“本”。自らアーティスト達と綿密な打合せを繰り返し、収録作品、使用する紙、インクの選定まで徹底的にこだわり"本"自体を作品へと昇華させていく。彼の妥協なき本作りの姿勢は、効率重視の出版業界においてユニークなビジネスモデルとしても注目されている。“本”と“芸術”、そして“仕事”への愛情に満ちたシュタイデルの世界へようこそ。

ニューヨーク、ロサンゼルス、パリ、カタール・・・。60歳を過ぎてもなおシュタイデルは精力的にアーティストたちのアトリエへ自ら足を運ぶ。「旅は好きじゃないが、会って打合せをするのが一番。2、3ヶ月かかる仕事が4日間で終わる」と写真家ロバート・アダムスのキッチンで打合せの合間に語る。そして保険総額が78万ドルにのぼるヴィンテージプリントを抱えると、ジェフ・ウォールが待つバンクーバーへと飛び立つ。中東カタールの砂漠の豪華トレーラーで石や土の色を活かした自然な装丁を提案し、パリではショー直前のカール・ラガーフェルドと次の印刷について話し合う・・・。シュタイデルの旅はクリエイティブな発見と驚き、そして普遍的な人とのつながりの大切さを教えてくれる。さぁ旅に出よう。
 ―公式サイトから抜粋


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ゲルハルト・シュタイデル Gerhard Steidl

1950年ドイツのゲッティンゲンで誕生。デザイナー、出版者としてのキャリアを目指していたが、1968年にケルンで開催されたアンディ・ウォーホルの展覧会で、興奮のあまりその高い印刷技術への感動をウォーホルに直接伝える程、ウォーホルの鮮烈な色使いに魅了された。同年、地元のゲッティンゲンでシュタイデル社と印刷所を創設。芸術家のヨーゼフ・ボイス、クラウス・シュテークの版画やポスター制作を経て、1972年に初となるアートブック「Befragung der Documenta」を手掛ける。また1974年には政治に関する文書の制作も業務に加え、1980年代初めから文学と厳選されたアート・ブックや写真の作品集出版も増えていく。 1996年から、シュタイデル社はドイツ国外の英語圏に向けた写真集の出版に特に力をいれるように。書籍の編集から、ディレクション、レイアウト、印刷、製本、出版までを一貫して自社で行う「総合的」なアプローチは他社では見られない。文学作品では作家のギュンター・グラス、同じくノーベル賞受賞者であるアイスランドのハルドル・ラクスネス作品のほか、社会思想家オスカー・ネークトの著作など、英語とドイツ語の作品に力を入れている。 シュタイデル社の近年のクライアントは、一流の写真家や主要な美術館である。
 ―公式サイトから抜粋

昨今の出版業界の事情や、このドキュメンタリーの主人公であるシュタイデル氏について、私は不勉強で何も知りませんので、公式サイトからそのまま抜粋させていただきました。申し訳ありません。

さて。

紙の本と電子書籍のどちらが好きか?と問われたら、なんと答えたらよいでしょうか。収集家でもなんでもない私にとっては、これは悩ましい問題です。というのも、これまでに何度も引っ越しを経験してきて一番厄介だったのが、すぐに増殖して家の中の貴重な空間を占拠してしまう紙の本と、大量のそれを他所に移動させることの難しさだったからです(笑)。なぜ紙の本はすぐに増えてしまうのか(笑)。そりゃまあ、私が雑誌を買い過ぎるせいでしょうけども(笑)。
そんなわけで、日常生活の快適さを優先させるのだとしたら、近い将来、電子書籍が今現在出回っている紙の本全てを網羅することを前提として、“文字”を“電子”に置き換えた方が良いでしょう。しかし“本”のページは、やはり、“画面をスクロール”するのではなくて“紙”でできたそれをめくりたいと思ってしまうのも人情でして。紙のページを何度もめくっているうちに、そのページがへたってくるのも、読書の味わいの一つではないかと思っています。

昨今では、Kindleはじめ電子書籍がかなりのスピードで普及し始めており、どうしてもかさばってしまう紙の本に取って代わり、その市場を占めようと虎視眈々と狙っている有様。今は過渡期にある状態ですが、近い将来には本も“スクロールする”時代になりそうですね。
しかしここに、“紙”という素材を心から愛し、どうしても“紙の本”を出版することに拘る生粋の職人がおります。ここ十年間の出版業界で最も重要な人物と認識されるシュタイデル社のゲルハルト・シュタイデル氏ですね。彼がここ数年間、特に力を入れている分野は、一冊ん十万円もするようなアートブック、著名な、あるいは今は“知る人ぞ知る”的な存在かもしれないが、いずれも才能豊かな素晴らしい写真家たちの写真集。確かにこれらの書籍の持つ芸術的価値は計り知れず、貴重なものばかりではありましょう。しかし、現在の出版業界の経済状況に照らし合わせれば、素人の私でも、これらの値の張る書籍だけを扱っていては出版社は利益をあげられないことぐらい、容易に理解できます。では、シュタイデル社はなぜそれで経営を成り立たせているのか。ここから、このドキュメンタリー作品が焦点を合わせているテーマの一つ、“シュタイデル社独自のビジネスモデル”の開陳となります。

“本で利益を稼ぐことは難しいんだ。ベストセラーでも出さない限りはね”

シュタイデル社を出版のパートナーとするクライアントの中に、ノーベル文学賞を受賞した世界的大作家ギュンター・グラス氏が名を連ねています。彼の「ブリキの太鼓」は映画化もされ、映画ともどもクラシックとなっている稀有な傑作でありますが、そんな大作家の作品を出版することによって得られる利益もかなりのもの。シュタイデル社は、彼のようなベストセラー作家の作品や、カール・ラガーフェルドのシャネルのような有名ブランドのカタログなどを手がけることによって得られる利益を、いわば実入りの少ない、しかし作られる芸術的意義の高いアート・ブック、写真集制作に充てているのであります。

また、年間200冊もの出版物を世に送り出しているシュタイデル社は、本を完成させるまでの全ての生産工程を小さな小さな本社に備えています。いろいろ調べていくうちに、シュタイデル社のように、本の制作工程全て―編集、デザイン、印刷、製本、出版、流通に至るまで―を自社でコントロールする出版社など、他に見当たらないということがわかりました。これは、何より本の品質を落とさぬための方便ではあったのですが、逆にこのことが、本を単なる商品から一つの芸術作品にまで研磨する結果につながり、それこそがシュタイデル社を“ワン・アンド・オンリー”の存在ならしめる要因となったのですね。これは、高い技術力を誇り、独創的な伝統を支えに、高品質を目指すために妥協なき進化を続ける日本人の特質を、鼓舞する事実ではないかと思いましたね。

私達は本来、西洋人には思いつかない独自の発想と、完璧の上にも完璧を目指す努力で、知らぬ間にユニークなビジネスモデルを構築していたのですし。薄利多売、大量生産型のビジネス体系に勝てないからという理由で、結局、唯一無二の存在になることに尻込みした結果が、こんにちの日本経済の停滞を招いたのではないでしょうか。仮に東日本大震災がなかったとしても、アイデア欠如の薄利多売経済に徐々に移行しつつあった日本は、遅かれ早かれ行き詰っていたように思いますね。

では、日本人のDNAに刻まれているといっても過言ではない“高品質のモノ作り”精神を思い出すためには、どうすればよいのか。それには、シュタイデル氏の“本作り”にかける並々ならぬ愛情と、自身が愛して止まぬ“本作り”をビジネスとして成り立たせるための工夫と努力、なにより、シュタイデル氏自身の、苦労を苦労と厭わないチャーミングでパワフルな人柄を知る必要があるでしょう。

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“特に重要なのは、この印刷所での仕事だ。ここではすべてを見ることができる。数週間、私に同行してもいい。向かう先は、ロンドン、パリ、ニューヨークに…それも重要だ。そうすれば、私がどんなふうに仕事をしているのかがわかる。1日10件の約束が次から次へとだ。必要なものが揃うまではここに滞在して、撮影したいものを探してもらってもかまわない。それは自分たちで考えてくれ。私には君たちの狙いがわからないからね”

何であれ、何かを産み出そうとする際に必要な技術、経験というのは、誰でも努力次第で会得できる可能性はあります。しかし、単なる大量生産品ではない、一味違った魅力と個性を備えた作品を作るためには、やはり実際に才能ある人たちと仕事をして“本物”見抜く眼力を養わないといけないでしょうね。シュタイデル氏の場合は、シュタイデル社から初の書籍を出版した記念すべき1972年から14年間、ドイツを代表する現代美術家ヨーゼフ・ボイスに関わる印刷物のほぼ全てを手がけた経験が、彼に唯一無二の眼力を与えました。ボイスとの製作作業を通じて、アーティストの頭の中にあるぼんやりしたアイデアに明確な形を与え、それを実際の印刷技術にうまく沿わせる方法を学んだ結果、シュタイデル氏はそういった印刷、出版作業工程それ自体を芸術の域に高めることに成功したわけですね。そして、これはなにも印刷業界だけに留まらず、どのような分野の製作現場でも共通していえることだと思いますよ。

シュタイデル氏に一年間密着して彼の仕事を取材した、この映画の監督ゲレオン・ヴェツェル(「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」)とヨルグ・アドルフは、数日の間に彼が世界中に在住するクライアント達―ジョエル・スタンフェルド(NY)やロバート・フランクとジューン・リーフ夫妻(NY、カナダのノバスコシア)、カタール在住のカメラマン、ハーリド・ビン・ハマド・ビン・アル=サーニ、ロバート・アダムス(ニュージャージー州)、ジェフ・ウォール(カナダのバンクーバー)、エド・ルシェ(カリフォルニア)、カール・ラガーフェルド(パリ)、ギュンター・グラス―らの自宅を飛び回るように訪問し、時には撮影スタジオで、また時には彼らの家のキッチンで、対象を美しく捉えた写真を実際に紙に写しだす技能について議論し、果ては目も眩むようなファッション・ショーのパーティー会場で、ファッション界の帝王に写真集の見本を見せ、さらにはノーベル文学賞作家にポスターの題字を何度も手書きさせる様をつぶさに観察しました。

彼らは、それぞれに異なる哲学と個性を持つ芸術家たちであり、佇まいも人となりも背負っている背景もみな違います。そんな人達と、短期間のうちに同時進行で打ち合わせる現場を観察するというのは、まるで、タイムトンネルで異なる時代を次々と訪れているかのような新鮮な経験でありましょう。それが証拠に、リズミカルな編集によってこの映画に綴れ織られた各アーティストのエピソードは、観る者の好奇心を刺激する躍動感、今まで知らなかった世界への驚きと、そのドラマ性に溢れることになりました。
全編通して、シュタイデル氏とのコラボレーション作業の全貌が観察されるのは、iPhoneのカメラのみでドゥバイの街を撮影した写真集を出そうとしているジョエル・スタンフェルドです。NYの彼の自宅での大まかな打ち合わせから始まって、出来上がった本のサイズ、写真の配置とサイズ、写真の枚数はどうするのか、また、写真をページにどうレイアウトするか、実際に印刷した際の写真の発色具合はどうか、といった細かい詰めの作業が、スタンフェルド氏自ら最後はシュタイデル社に缶詰になって進められていく様子が見られます。ひとつの写真集が完成する全過程を具体的に学ぶことが出来、大変興味深く示唆に富んだ内容ですね。

同時進行で企画作業を進める複数の写真家や美術家、ファッション・デザイナーそれぞれの個性や性格、嗜好、生活習慣に至るまでを充分に把握し、それに合わせてアプローチ方法を微妙に変えているシュタイデル氏の柔軟性にも感銘を受けます。その様子を見ていて感じたのは、クライアントそれぞれに最適の製作環境を提供する傍ら、自身が妥協できない部分、またクライアントも妥協すべきではない部分に対し、意見を曲げない強さも必要だということ。アイデアを実際に形にするまでには、クライアントとシュタイデル氏との間で意見の食い違いも当然出ますが、それらは、長年に渡るクライアントとの緊密なコミュニケーションによって築かれた信頼関係で、カバーされているのですね。
現に、前述したスタンフェルド氏の写真集“iDubai”完成までに、氏が細かいことで悩み、一度は決まった作業工程を後になって覆してみたりとグズグズ逡巡するのを、痺れを切らしたシュタイデル氏が諌めるシーンもありました(笑)。これも、長年の信頼関係がなければ出来ないことですし、アイデアを明確にする技術、製作現場で時にはアーティスト側を指導したり、新しい才能を発掘するほどの豊富な経験に裏打ちされた自信がシュタイデル氏にあるからこそ、可能なことなのです。

同時に、創作の原点は確かにアーティスト個人による孤独な作業でありますが、それを現実に目の前に再現するには、第三者の眼差しと存在、彼らの助力無くしては不可能だということも痛感しました。世界中にシュタイデル社製の書籍のコレクターがいるように、アーティストの生み出したアートが実際に世に出て人々に愛されるためには、シュタイデル氏のような優秀なパートナーが必要不可欠。自分一人の世界の中だけで完結するようなアートは、普遍性を持てないただの独り善がりに過ぎず、もはやアートとも呼べないのですよね…。

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“キャンバスとその木枠を買った次点で間違いは始まっている”―ヨーゼフ・ボイスのマニフェスト

…つまり、“創作がしたいならすぐに行動せよ”の意味。

シュタイデル氏はキャリアも知識も経験も未来への勝算もゼロの状態から印刷所を作り、わずか10代の頃から見よう見真似で“習うより慣れろ”と、印刷、出版の全てについて仕事をしながら貪欲に学んできました。準備、根回しがどうとか悩んでいる暇があったら、とっとと行動に移れということですな(笑)。政治も経済もカオス状態の今だからこそ、新しい分野への一歩を踏み出すには、逆に最適な時期なのでしょうね。宝くじだって、外れるリスクを負いたくないからと買わなければ、当たる幸運にも絶対に恵まれません(笑)。まず買ってみなければ。それと同じように、何かを始めたいなら、とにかくまずそれを始めなければ何も始まらないのです。ボイスを師と仰ぐシュタイデル氏は、会社の一角の壁にこのボイスのマニフェストを大きく書き出しています。映画を観た私達も、この言葉を胸にしっかりと刻んでおいた方がいいと思いますよ。

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何より大事なのは、紙の香りやインクの発色の微妙なる違い、手でページを触ったときの感触の違いまでにも細かい注意を払う、上質の紙とインクを愛して止まないシュタイデル氏の紙の本への深い愛情と、素晴らしい本作りへのすさまじい情熱。知識だ、時代を嗅ぎ分ける能力だ、技術だ、云々する前に、創ろうとするモノへの愛情と情熱がなければ、“モノ作り”はビジネスとして成り立ちません。映画の世界もそうですが、カネが動く以上、利益を得られなければ、高い理想も机上の空論で終わってしまいます。対象への愛情と情熱がなければ創作活動は不可能であり、またそれこそが、創作を新しいビジネスの形に変換していくというのも、やはり真実なのですね。


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『考える人』編集部/テレビマンユニオン 編

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