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zoom RSS 死ぬまで食え―「Next Floor」(short film)

<<   作成日時 : 2013/10/08 23:20   >>

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あなたの本能と本性を解き放て。最果てまで。あるいは、奈落の底まで。きっとあなたはあなたの死の瞬間を目撃するだろう。

“Next Floor”

Next Floor from PHI Centre on Vimeo.



「Next Floor」(2009年)
監督:Denis Villeneuve
製作総指揮:Penny Mancuso
製作:Karen Murphy
原案:Phoebe Greenberg
脚本:Jacques Davidts
撮影:Nicolas Bolduc
アート・ディレクション:Jean-Marc Renaud
音楽:Warren Slim Williams

この作品は、200以上もの映画祭に招待されました。そして、フランスのテレビ局Canal+が主催する映画祭で最優秀短編映画賞を獲得し、2008年度のカンヌ国際映画祭の短編映画部門でも審査員賞を受け、2009年度のジニー賞(カナダ版アカデミー賞)やJutra Awardsでも最優秀短編実写映画賞に選出され、そのほか60近い映画賞を授与される栄誉に浴しています。それもむべなるかな。これほどシンプルで強烈でエッジの効いた、ショートムービーのお手本のような作品には、そうそうお目にかかれませんもの。

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完璧な食事を客に提供することを絶対的な使命とする給仕頭にとって、客の精神状態であるとか体調などといったものは、正直あまり関係ない要素だった。…そう、彼が振舞う最高の食事―完璧な料理、それをサポートする完璧なマナー、食事のムードを盛り上げる完璧な演出全て―を、客が倦むことなく楽しんでいる間は。

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そして、彼がもてなす客人たちが彼の差配に文句をつけることもありえなかった。なぜなら、彼のもてなしは、まさしく全てにおいて最上級だったからだ。

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広いダイニングの中央にしつらえられたテーブルには、世界中から取り寄せた食材を惜しげもなく使った珍味、美味が所狭しと並べられている。テーブルについて料理を口に運ぶ客は、皆無駄口ひとつ叩かず、給仕が次々にサーブする料理を黙々と食べている。

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老若男女、同伴者があったり一人での参加であったり、客の顔ぶれは様々だ。ひょっとしたら、皆ここに集まってくるまでは見識すらなかったかもしれない。

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それなのに、今は使われていないのだろう巨大な建物の一フロアの真ん中で、こうして雁首をそろえて豪華な料理を貪り食う様子は、冷静に考えれば充分異様な光景だ。皆、1秒の時間も惜しむごとく、咀嚼するスピードを益々あげて食い尽くしていく。…もはや彼らには、自分が何を口にしているか分からなくなっているのかも知れない。

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格式ある屋敷に招かれた客なら、ゆったりと歓談しながら優雅に食事するものだ。しかし、この“屋敷”にあるじの姿は見えず、眼光鋭い給仕頭が、客の食いっぷりと他の給仕たちの働き振りを睨んでいるだけだ。客達は頭から埃を被ったままの状態でそれを綺麗に払う間もなく、食べ物を機械的に詰め込めんでいくだけ。

事実、このすさまじく異様な晩餐に招かれた客達には、あまり時間が残されていなかった。

なぜなら…

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大量の食事を腹に詰め込んでいる客達は、既に全員重量オーバーであった。加えて、この廃ビルは古く、床は脆い板敷きにすぎない。テーブルと客達の重さに耐え切れなくなれば、ちょっとした振動でテーブルと客ごと床が抜けてしまうのだ。

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給仕頭は経験上、今日の客達が既に何階分“落下”に耐えたのか、数えるのをやめている。しかしなにものも見逃さない声で、彼は階下の部屋の準備を命じた。

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さあ、それからが大変だ。客達はテーブルごとドスンと階下に落下するだけだが、給仕を含むスタッフは全員各々の仕事道具を抱えて慌てて階段を駆け下りていく。

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もうもうと埃を撒き散らしながら階下に落下した客達は、頭からつま先まで真っ白けだ。当然、テーブルの上も埃まみれ。

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だが…

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既にこんなにも“落下”してしまっている。あとどれだけこの建物の床が持ちこたえられるのか、客達には分からない。

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残り少ない時間を予感し、焦りを通り越してもはや自棄の心境に達した客達は、埃の積もった皿でもお構いなしに目の前にある料理に手を伸ばし、手づかみで貪り始める。しかし、最後の“落下”の後に控える恐怖を間近に感じた彼女は、生きた心地もせず、舌もとろけんばかりの美味ものどを通らない。

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彼女は縋るような面持ちで給仕頭を見るが、一度この食卓についた者は何人であれ、“彼”に逆らって途中で席を立つことは許されない。

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客達が今まさに新たに運ばれてきた料理に手を伸ばそうとした瞬間、床が悲鳴を上げた。

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客の後を追いかけ、急いで階下にやってきた給仕頭は、辛うじてこのフロアに留まっているテーブルと客の様子を見て、このフロアの床も長くはもつまいと判断し、給仕たちを先に階下へ行かせた。

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客のいない階下のフロアに先にやって来ていた給仕頭たちは、てきぱきとサーブの準備を進めながら“上”から客が落ちてくるのを待つ。

給仕頭の読みは当たり、テーブルと客達はもうもうと真っ白な埃を巻き上げながら“落ちて”きた。

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贅沢この上ない晩餐も、そろそろ終焉に近づいている。自分達がへばりついているテーブルの落下の衝撃に、床が持ちこたえられなくなっている。このまま、この建物の中を留まることなく落下し始めれば、彼らの宴は完全に終了だ。

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そうなる前に…

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皆、最後の一かけらまで料理を食い続ける覚悟だ。

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もはや、自分の命以外失うものなどないのだから。

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迫り来る死の恐怖に怯えるあまり、厳格なる給仕頭に命乞いをしようと思いつめていたこの女性も、覚悟を決めたようだ。

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一度、理性を投げ捨てた人間が堕ちていくのはたやすいこと。彼女も他の客同様、給仕のサーブの遅さに痺れを切らし、他の客の皿から料理を奪って貪り始めた。

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招待客の全員がもれなく餓鬼道に堕ちた瞬間を見計らったように、ついに床が抜けてテーブルと客達は落下し始めた。

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…本日の給仕頭の仕事はこれで終了だ。

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彼が最高のもてなしを提供する客達は、二度と戻ってこない。

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若い給仕たち、楽師たちは、さすがに目の前の信じがたい光景に愕然としている。それはそうだろう。いつかはこうなると分かっていたとはいえ、今までサービスしていた客が、目の前で断末魔の悲鳴を残して消えたのだから。

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だが給仕頭といえば、次に招待する客のリストを既に頭の中で作り始めていた。なぜなら、完璧な食事を客に提供することこそが、彼の絶対的な使命なのだから。


“In contradiction and paradox, you can find truth. 矛盾と逆説にこそ真実が隠されている。”

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ドゥニ・ヴィルヌーヴ Denis Villeneuve
1967年10月3日生まれ
カナダ、ケベック州Trois-Rivières出身

Université du Québec à Montréalで映画製作を学ぶ。グラフィック・アーティストの弟がいる。カナダのフランス語圏でテレビのドキュメンタリー番組などを手がけ、映像作家、監督として独り立ちした。自身の脚本で短編を数本撮り、ラジオ・カナダの映画コンペ“La Course Europe-Asie”で受賞した経験もある。1998年の『Un 32 août sur terre』(フランス語映画)で商業用長編映画監督としてデビューを飾り、カナダ映画業界から大いに注目を集めた。
2年後には初の英語による長編映画「渦」を製作し、ジニー賞監督賞を獲得した。作品を、描きたいモチーフやテーマに向かって正しく導いていく演出手腕が高く評価された。その後約9年の間、監督としては、2本の短編映画を撮った以外は目立った活動はなく、2009年にようやく3本目の長編映画『Polytechnique』を完成させる。この作品もまたヴィルヌーヴ監督に、ジニー賞監督賞の栄誉をもたらした。翌年、やはり自身で手がけた脚本を基に「灼熱の魂」を製作。この作品は、第83回アカデミー賞の外国語映画賞部門にカナダ代表として出品され、ジニー賞は3たびヴィルヌーヴ監督に監督賞を授与した。
そして今年、ジェイク・ギレンホール、ヒュー・ジャックマンというハリウッド・スター達をキャスティングした、監督にとって初のメジャー作品となる『Prisoners』が、コンペに出品した各映画祭で軒並み話題となり、アカデミー賞をゴールとする賞レースにも何らかの形で絡んでくるものと思われる。

●フィルモグラフィー

1988年『La course destination monde』(TVシリーズ・ドキュメンタリー)
1994年『REW-FFWD』(ドキュメンタリー短編)兼脚本
1996年『Cosmos 』(短編)「Technétium, Le」の章のみ、兼脚本
1998年『Un 32 août sur terre』兼脚本
2000年「渦 Maelström」兼脚本
2006年『120 Seconds to Get Elected』(短編)兼脚本
2008年『Next Floor』(短編)兼脚本
2009年『Polytechnique』兼脚本
2010年「灼熱の魂 Incendies」兼脚本
2011年『Etude empirique sur l'influence du son sur la pertinence rétinienne』(短編)兼脚本
2013年『Prisoners』
2013年『An Enemy』

今年も混戦することが予想されるアカデミー賞。その候補の一角に挙げられそうな作品の中に、ヒュー・ジャックマンとジェイク・ギレンホールが共演した「Prisoners」というサスペンス・ドラマがあります。その作品でメガホンを取ったのが、本日ご紹介した短編「Next Floor」の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴです。カナダのフランス語圏ケベックの出身。そのせいか、ヴィルヌーヴ監督はフランスの映画サイトでも注目されており、しばしば紹介されているようです。クリエイターとしてのキャリアはむしろ晩成型。監督作品も少なく、彼が本領を発揮するのはおそらくこれからのことでしょう。

しかしながら、人生の酸いも甘いも噛み締めた後にゆっくりと登場したクリエイターは、人間の本質を鋭く、そして容赦なく突いた映画を作るようです。この「Next Floor」も何度か観たのですが、素晴らしいです。バッド・エンディングの王道みたいな内容ですが(笑)、結末が分かっていても尚、一切無駄のないシーンをリズム良く積み重ねてサスペンスを加速してゆく手際に感心します。また、登場人物に一言も台詞をしゃべらせることなく、その表情の変化や細かい動作を丁寧に拾っていくことで、彼らが何を考え、何をしようとしているのかを観客にビビッドに伝える手法もツボにはまって実に見事。台詞無しでキャラクターの描き分けが完璧になされています。

いやあ、こりゃ新作「Prisoners」に俄然興味が湧いてきますよねえ。ギレンホールとジャックマンの演技合戦にも期待がかかるってなもんです。

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以前、映画「趣味の問題」を観た時にも思ったのですが、いわゆる“美食”が映画に登場する場合、何故に料理はこうもグロテスクに映ってしまうのでしょうね。

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ホラー映画も真っ青のグロっぷりです。却って食欲減退する逆説。

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お話の内容のせいだといってしまえばそれまでですがね。古くは「カリギュラ」といい、この作品といい、食にしても何にしても度を超えて追求してしまうと、もはやそれは本来の用途や目的から遠く離れ、全く正反対の性格を帯びてしまうのかもしれません。あるいは、“豪華で美味な料理を遠慮なく贅沢に味わう”ということに対し、私達がどうしても抱いてしまう自己嫌悪が、映画の中の豪勢な料理を恐ろしく見せてしまうのか。ともあれ、美と醜は表裏一体のものだということが、この作品でもよく分かりますよね。ヴィルヌーヴ監督の言葉通り、“矛盾と逆説”の中にこそ、そのものの本質が現れることの実例といっていいでしょうか。

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…しかし、このクセモノ給仕頭、悪魔の化身か何かかなあと思ったりします。彼が主催する美食の宴に引き寄せられてきた連中は、いつかは奈落の底に堕ちることが分かっていながら“食欲”の誘惑に勝てない人間たち。悪魔に自らの魂を貪り食われるのと引き換えに、その犬畜生にも劣るあさましさ、業の深さ、脆弱さの全てを極限まで曝け出します。“まだ落ちないから大丈夫”と、何の根拠もない目先の安心だけを頼みに、己の本能のまま食い続ける美食家達。なんだか、理性を手放しつつある我々現代人の象徴みたいな奇がいたしますまいか。


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