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zoom RSS 幸せは泡となる―「ムード・インディゴうたかたの日々 L'Ecume des jour」

<<   作成日時 : 2016/10/15 23:41   >>

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ジャズと映画。この2つは、映画の黎明期から切っても切れない深い関係にあります。ボリス・ヴィアンの近未来デストピア風SF悲恋小説を映画化した、ミシェル・ゴンドリー監督の新作「ムード・インディゴ うたかたの日々 L'Écume des jours」(ディレクターズ・カット版)では、ジャズ界の巨人デューク・エリントンの音楽がフィーチャーされておりました。


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「ムード・インディゴ うたかたの日々 L'Écume des jour」
監督:ミシェル・ゴンドリー Michel Gondry
脚本:リュック・ボッシ
原作:ボリス・ヴィアン Boris Vian『日々の泡 L'Ecume des jour』(別タイトル『うたかたの日々』)
製作:リュック・ボッシ
製作総指揮:ザヴィエ・カスターニョ
音楽:エティエンヌ・シャリー
撮影:クリストフ・ボーカルヌ
編集:マリー・シャルロッテ・モロー
出演:ロマン・デュリス(コラン)
オドレイ・トトゥ(クロエ)
オマール・シー(二コラ)
シャルロット・ルボン(イジス)
アイサ・マイガ(アリーズ)
ガッド・エルマレ(シック)
フィリップ・トレトン(ジャン・ソール=パルトル)
名医(ミシェル・ゴンドリー)他。

仕事をしなくても生きていけるだけの財産を相続した若者コラン。カクテルを作るピアノを発明したり、おもちゃ箱をひっくり返したような家の中で好きなことだけをして気ままに暮らしていた。哲学者ジャン・ソール=パルトル狂いの親友シックと、本当の職業は弁護士なのに天才的な料理人の腕を持ち、コランの家で料理人として奉公するニコラ、そして、コランの家にずっと居候しているネズミ。彼らがコランの家族だ。

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ある日、シックが、パルトルの講演会で出会ったアリーズ(実はニコラの姪っ子)という娘といい仲になる。親友が羨ましくなったコランも恋愛を求め、友人イジスの主催するパーティーに出席した。キューピッドは、純真で心優しいクロエのハートに矢を射ると、人付き合いもろくにせず、口下手なコランとカップルにしてくれた。2人は雲に乗ってデートし、暗いトンネルの中で鳥の羽毛にまみれながら愛を誓った。

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半年後、すったもんだの末にコランはクロエにプロポーズする。その際コランは、シックにも支度金を持たせてアリーズと結婚するよう念押しした。早速パルトルの書籍を買いに走るシックにあきれつつ、コランとクロエは最新式透明ボディーのリムジンで新婚旅行に出かけた。クロエの肺の中に睡蓮の花が根付いてしまったことに気づくことなく、2人は幸せの絶頂にいた。

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クロエが突然胸の痛みを訴え、予定を早めて新婚旅行からパリに戻ってきた。パルトルの声しか聴いていないシックは別にして、アリーズ、イジスはクロエの容態を心配する。

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胸の痛みはクロエを昏倒させるほど酷くなり、咳も悪化していく。コランは治療費に糸目をつけずパリ一番の名医にクロエを診察させた。結果は最悪で、睡蓮の花がクロエの肺の中で大きくなっているという奇病だった。花が移動するとクロエは激痛に苛まれ、呼吸で肺に空気が入ると花びらがそよいで咳を誘う。治療法は、常に身体の周囲に新鮮な花を置き、その力で肺の中の睡蓮を枯れさせ、肺の中から花を取り出すというもので、治療費はコランの想像以上に莫大だった。結婚の際に大金を使ったコランの財産は大幅に目減りしており、治療費を稼ぐため売れるものは売り、コランも生まれて初めて働くために外に出る。

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パルトルの講演会には政府に不満を持つ人々が集結する。警察の特殊部隊は、市民の中に不満分子が紛れ込んでいないか常に監視していた。ニコラも外の世界の不穏な空気に触れ、労働して金を稼ぐことの難しさを嫌というほど思い知らされた。どの職場でもすぐクビになる。クロエの衰弱に精気を吸い取られたように、コランの家が急速に朽ちてゆき、頑健だったニコラまでも数日のうちに10歳も老け込んでしまう。シックはパルトル中毒をこじらせるし、コラン自身も生活水準が下がってやつれていく。クロエを中心に、皆の人生の歯車が悪い方へ狂ってしまうのだが…。


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まず初めに警告を。ミシェル・ゴンドリー監督の熱烈なファンだという方々は別にして、例えばこの作品を、ちょっぴりほろ苦い悲恋映画で、おフランスのオシャレなエスプリの利いたロマンチックなファンタジー映画だと考えている方がもしもいらっしゃったら、ひとまず一度深呼吸することをお勧めします。

私は95分の短縮バージョンを観ていませんので単純な比較はできないのですが、少なくとも自分が見た131分のディレクターズ・カット版の今作は、うつ病患者がクスリでトリップしたときに見る、完全に狂った白昼夢のような暗黒悲恋映画でした。…それでも構わないという方は劇場へ馳せ参じてください。約2時間のトリップ体験ができます。

私自身が一番好きなゴンドリー作品は、「僕らのミライへ逆回転 Be Kind Rewind」(2008年)なんですが、あの作品に顕著に見られるような、手作り感溢れるレトロなガジェットや奇抜なアイデア満載の映像の面白さは、おそらく今作で最大限に発揮されていると思います。おもちゃ箱をひっくり返したようなコランの家の中の様々なガラクタたち、象のような足がにゅきにょき生えた特殊部隊の装甲車、この映画のストーリーを書き続けているタイプライターとタイピストたちが集う、この世界の全ての進行を決定する部屋などなど。想像力がハレーションを起こして暴走しているような映像美は、例えばコランとクロエの結婚式のシーンなどが白眉です。

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まあそんなこんなで、これまでの作品でも見られていた、ちょっと変だけどポップでカラフルでドリーミーなゴンドリー印のシーンはたくさんあって、やはり目に楽しいのですが、しかし今作のディレクターズ・カット版では、現実と妄想が完全に混濁した、どこでもない世界観の不安定さと不快感がより強調されていたように思います。スケートリンクで頭を強打した人間から流れる大量のどす黒い血液。流れ作業で気味の悪い金属部品が製造されていく、灰色の工場。そこで完全にイカレたシックのミスによって、機械に挟まれてミンチにされた作業員の身体のパーツ。片目のない哲学者。

また、音楽畑出身の映像作家の映画だけあり、やはり音楽の使い方は絶妙。映画観賞後、サントラ盤を買い求める人がたくさんいらっしゃるのも頷けます。美しくも詩的、幻想の羊水の中で泳ぐかのような心地良さを小説の中から導き出し、やがてシュール極まる狂気の外世界が襲ってくる恐怖を経て、全てが無に帰し、元の小説の世界に戻っていくという、ある種のカタルシス。その寂しさを唯一救ってくれるのがジャズでした。

やつれ、弱っていく男を演じさせたら、ジェームズ・マカヴォイと一、二を争うかもしれない俳優ロマン・デュリスも、アクの強いあざとさスレスレの“キュートネス”を、妖怪のような強さで演じ切ってしまうオドレイ・トトゥも、セクシーで快活、でも誠実なイメージの権化オマール・シーも、主要キャラクターを演じる俳優さん達は皆個性が際立っていて、今迄で一番面白い演技を披露されているのではないかと推察します。彼らをもってしてもなお、ミシェル・ゴンドリー監督が不屈の闘志で(おそらく)映像化した“壊れていく世界”から逃れられないのですね。

世間知らずのコランとクロエのままごとのような純愛が、クロエの病によって脆くも現実世界の汚濁に呑まれ、坂を転げ落ちるように壊れていく悲劇。その悲恋を、原作者ボリス・ヴィアン自身の近未来悲観論を反映したSF的デストピア感覚と、刹那の快楽と哀しみを歌うジャズのメロディー、原作が出版された当時(1947年)の、戦争直後の暗く重い世相へのきわどい風刺をからめて完成したのが、原作小説「日々の泡」です。このディレクターズ・カット版は、こうした原作小説のエッセンスを大変忠実に映像に置き換えたものだったのだと、映画を観終わった後で気づきました。

“There are only two things: love, all sorts of love, with pretty girls, and the music of New Orleans or Duke Ellington. Everything else ought to go, because everything else is ugly. ” -- Boris Vian

“人生で一番大切なものは綺麗な女の子との恋愛と、ニューオーリンズ・ジャズもしくはデューク・エリントンだけだ。他はいらない。消えてくれ。それらは醜いものばかりだから” -- ボリス・ヴィアン


…確かにそうだろうね。

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この作品に登場するものの中で最後まで朽ち果てないのは、コランとクロエの互いに相手を思いやる純粋な愛情と、デューク・エリントンのジャズだけ。

人の命も世界も、急激に汚れ、壊れ、やがて、碌に供養もされぬまま穴に投げ入れられる死体のように、最後はただ打ち捨てられるのみ…。

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