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zoom RSS 「The Fifth Estate」はアサンジの呪いに打ち勝てるか?

<<   作成日時 : 2013/09/06 17:41   >>

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正直な気持ち、今現在この映画「The Fifth Estate」に対してヒステリックに反応されている方々が多くて、“史実は史実、映画は伝記映画と名乗っていても所詮フィクションに過ぎないので全くの別物なんですよ”と書く気力さえ萎えてしまいます…。下手にこの映画について書いたりしたら、私殺されるんですかね?怖いわ。別立ての記事でも書いていますが、今現在バリバリの健在である人物の伝記映画を作るのは本当に難しいんです。それに、描く対象がアサンジじゃあなあ…。相手が悪すぎるとしか言い様がないわ…。

でも、この作品で懸命に仕事をしている監督、スタッフはじめ、ベネディクト・カンバーバッチさんやダニエル・ブリュールさん達キャスト陣の作品への献身、貢献まで、一緒くたにして批判するのはお門違いでしょう。映画が公開されてもいないのにそのような行為は、どう考えてもフェアじゃないと私は思うんですけどね。


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1998年に製作され、ビル・コンドン監督にアカデミー脚本賞をもたらした「ゴッド and モンスター」1作で、私はこの映画作家のことを生涯忘れまいと思ったものです。

コンドン監督は、ドリームワークスを後ろ盾に、ウィキリークスという集団を率いてパンドラの箱の中身を社会にブチまけた男、ジュリアン・アサンジの肖像をスクリーンに描くことになりました。実は、ジェニファー・ハドソンがブレイクするきっかけとなったミュージカル「ドリームガールズ」が予想外にヒットしてしまったせいで、コンドン監督は彼本来の個性、持ち味からかけ離れた方向に、キャリアの軌道を大きく反らされたのではないかと心配していたのです。世間様はきっと、彼のことをメインストリームの王道ドラマを撮る映画監督だと誤解したに相違ありません。…そして彼が「トワイライト」シリーズ最終作のメガホンをとった時には、これが今生の別れになるやもしれんと途方に暮れたもんです(笑)。

しかし、今年コンドン監督は、第38回トロント国際映画祭のオープニング上映作品を引っ提げて、シーンに戻ってまいりました。コンピューター、情報社会、サイバー・ジャーナリズムの申し子にして秘密暴露屋でもある危険な男、ジュリアン・アサンジの肖像という、監督にとってはある意味原点回帰だともいえる作品を作り上げました。この作品への一般的な評価は果たしてどうなるのでしょうか?

プレミア上映後、いろいろな媒体から出される批評をみるに、要は、世間一般のアサンジへの理解が今一つであるが故の戸惑いといったものが、プロの映画批評家の審美眼を若干狂わせているのではないかと感じますね。どの批評を見ても、どっちつかずというのか、あやふやというのか。アサンジという人間を、情報社会の寵児、いわばヒーローと捉えるか、もしくは、命の危険を冒してまで重大な秘密をリークしようとする告発者の保護など二の次で、自分自身が手柄を立てることに夢中なエゴイストとみるかによって、この作品のアサンジ像への評価が大きく変わってしまうようですね。また、アサンジの実像といわれても、ウィキリークスという団体の存在からして謎の部分が多過ぎる。つまりは、観る者にとっては分からないことが多過ぎて、批評家も困惑しているというのが本当のところでは?一つの映画としてどの部分をどうやって評価したらよいのか、分かりにくい作品なのかもしれません。

上映からある程度時間が経過し、様々な立場の方々がこの作品に対し、それぞれの考えに則っていろんな感想や理屈を開陳してらっしゃるようです。それらを眺めていると、結局は、映画がベースにした元アサンジの同僚ダニエル・ドムシャイト=ベルク(ダニエル・ブリュール)の私的手記「ウィキリークスの内幕」をどういう風に解釈するか、またアサンジという人間が好きか嫌いかによって、映画そのものへの評価も容易に変わってしまう傾向にありますな。私はあくまで中立を保ちつつこの作品の行く末を見守ろうと思いましたよ…。ああ、「愛についてのキンゼイ・レポート」以来の論争を巻き起こしそうな予感が…(胃痛)。

作品の良し悪しを決める要素の一つであるストーリー展開については、本編を観てみないことには、私にも何とも言えません。ただ、コンドン監督は今回、70年代に優れた作品が多く作られた政治サスペンス映画の空気をかなり忠実に再現しているそうで、70年代レトロチックな映像の中に、緩急心得たサスペンス描写を織り込む演出法は、やはり流石の手練れではないかと推察します。
また、アサンジ達が真実を暴露するための戦いを繰り広げたのが、“ネット”という目には見えない空間であることが、スクリーンに“サスペンス”を描く上で大きな障害になったのではないかと思っています。ネット上で繰り広げられる攻防戦など、現実には、小さな四角いディスプレイ画面でのみ視覚化されるもの。それを映画のダイナミズムに繋げ、大きなスクリーンを動かすためには、何らかの工夫が必要ですよね。
今作では、画面に現れる映像や文字列を、画面を見つめるアサンジの顔に映し出したり、大勢の聴衆を前に講演するアサンジの背後に巨大スクリーンを出して、そこに彼らの最大の武器たる“情報”を写したりして、目に見えない情報がいかに社会を激変させうるか、その重要性を可視化する努力がなされています。テレビカメラを通じて画面に映るアサンジの顔、パソコンを挟んで相棒と対峙するアサンジの顔、情勢の変化に一喜一憂するアサンジの顔。顔、顔、顔。カメラは、二重三重にも透明の壁を隔てたこちら側から、アサンジの顔を、その表情の変化を追い続けます。情報社会のダイナミズムは、人間が実際にあちこち移動することではなく、パソコンの液晶画面を見つめる人間の顔に表れるのだと言わんばかりですね。

目に見えないサイバー空間での攻防に一喜一憂するアサンジたちを、熱に浮かされたような狂騒感で描く反面、映画全体がアサンジという人間に向ける視線は非常に冷ややかで懐疑的であることに、若干の違和感を持つ批評家もいるのは確かです。アサンジご本人は、今作が正式にお披露目される直前、エクアドル大使館内で“映画はクソだがカンバーバッチの演技は良い”といった内容の声明を発表し(苦笑)、また映画で自身を演じた俳優ベネディクト・カンバーバッチにも抗議のメールを送りつけるなど、コンドン監督の冷ややかな視点を否定するための作戦を展開していたようですが…。果たして観客は、この作品とアサンジという人間をどのように判断するのでありましょうか。

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―(画像はプレス・カンファレンスの模様)

情報の透明化こそが世界の正義だと信じる一種の妄想と、現実世界の間を危うく綱渡りするアサンジというキャラクターは、本来、コンドン監督が最も興味を抱く対象だと思います。そんな人物の持つ脆さと毒と抗い難いカリスマ性を、コンドン監督の演出と主演のベネディクト・カンバーバッチの演技がどのようにトレースしていくのか、興味は尽きませんね。

当館内の「The Fifth Estate」記事はこちら

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ベネディクト・カンバーバッチと、アサンジの右腕を好演したダニエル・ブリュール、その他のキャスト陣も全員素晴らしい演技であったと、各媒体で漏れなく絶賛されています。

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特に、今回のトロントで合計3本の出演作が上映されるカンバーバッチ氏と、「The Fifth Estate」ではアサンジの実像を見つめ続けた相棒を、ロン・ハワード監督の新作ドラマ「RUSH」では往年の名F1ドライバー 、ニキ・ラウダを好演しているダニエル・ブリュールは、共に大きな役柄で複数の作品を支配する“今年の映画祭の顔”だと認識されていますね。カンバーバッチ氏の華やかな人気に隠れがちですが、「コッホ先生と僕らの革命」の爽やかな感動も記憶に新しいブリュール君も、「The Fifth Estate」「RUSH」2作の演技のどちらで賞レースに参戦するのか、早くも話題になっているようです。ブリュール君のブレイクにも期待したいものですね!


The Fifth Estate- Winning an Information War

映画内でのアサンジのキャラクターをクローズアップした動画です。

The Fifth Estate - Featurette

映画撮影の舞台裏と、出演陣、監督への短いインタビュー集。

THE FIFTH ESTATE Press Conference | Festival 2013

トロント国際映画祭におけるプレス・カンファレンスです。

DP/30 Sneak Peek @ TIFF '13: The Fifth Estate, actor Daniel Bruhl

映画祭に登場した映画人に、密度の濃いインタビューを行うDP/30から、トロントにやってきた映画人インタビュー動画が出ています。これは、「The Fifth Estate」と「RUSH」に出演したダニエル・ブリュールへのインタビュー。2分少々と短い時間ですがどうぞ。


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