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zoom RSS 「メキシカン・スーツケース The Mexican Suitcase」に詰めた未来への贈り物。

<<   作成日時 : 2016/01/23 00:01   >>

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ロバート・キャパがスペイン内戦時に撮りためた貴重なネガが、スペイン内戦から第二次世界大戦に続くヨーロッパ激動の時代に揉まれ、所在が分からなくなってしまいました。キャパの弟コーネル・キャパ(ICP創設者)は、手を尽くしてその“失われたネガ”を探し続けていましたが、2007年になってメキシコで発見。4500枚にも及ぶネガは奇跡的に完璧な保存状態であり、キャパ達がカメラで捉えていたスペイン内戦の真実の姿を生々しく後世に伝えるものでした。その、キャパの失われたネガ発見から始まるドラマを記録したのが、アカデミー賞にもノミネートされたドキュメンタリー映画「メキシカン・スーツケース The Mexican Suitcase」(2011年製作)です。チャンスがあれば、一人でも多くの方に観て頂きたい作品です。

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実は、映画の内容は、事前に予想していたような流れではありませんでした。今や神格化されたロバート・キャパというアイコンを、ただ盲目的に礼賛する類の作品であるなら、私はここまで心を動かされなかったでしょう。このドキュメンタリーで焦点になるのは、むしろキャパという偉大な光の影に隠れていた人達―ゲルダ・タローやデヴィッド・シーモア・“シム”、キャパの“暗室助手”として知られていたイメレ・“チーキ”・ヴァイス―の果たした真の役割と、キャパ達がカメラで追い続けた、スペイン内戦を生き抜いた“普通の人々”の物語です。キャパ本人の、カメラマンとしての栄光の人生の幕開けではなく、その幕の内側でひっそりと忘れ去られていたたくさんの人々の物語に光を当てた作品だったのですね。私はこれに、強烈に心を奪われてしまいました。キャパ達が撮り続けた内戦の真実が、75年の歳月を経て明らかにされたことには、多分私たちが考える以上に大きな大きな意味があったのだと思います。

キャパ達の遺したネガの再発見によって、スペイン内戦の本当の様子が明らかになっただけでなく、今までキャパの作品だと思われていた写真の多くが、実際にはタローやシムの手になるものだったことも分かってきました。つまり、案外謎の多かった、スペイン内戦時におけるキャパ、タロー、シムの足跡の詳細も明らかになったわけです。

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しかしそういった、写真史上できわめて重要とされる発見以上に、彼らのネガに写っていた多くの“名もない人々”の、今まで黙殺されてきた苦悩の歴史を知ることの方が遥かに重要だと、この作品は力説します。このネガによって、生き残った市民達(メキシコに亡命した人々も含め)は、長い長い間科されていた心理的抑圧―スペイン内戦の実情は、政治的にあまりに複雑なしがらみを持つので、明らかにすべきではない―からやっと解放され、血みどろの戦場の悲惨さを次の世代に伝えることを許されたのです。

だからこそ、遠い国で起こった過去の出来事に過ぎなかったお話が、その過去に埋れていた人々一人一人の人生を丹念に掘り起こしていくことで、現在を生きる私たち自身へ深い教訓をもたらす物語になり、そしてより良い未来を構築するための“次の世代”への道標ともなる貴重な遺産となりました。私がこのドキュメンタリーを見ていて最も感動したのは、キャパという偉大なカメラマンの遺産が、名もない市民達の生に血肉を与え、再生し、歴史の壁に彼ら全ての名を刻みつけることになったという点でした。そしてそれこそが、報道カメラマンの真の使命ではないかと思うのです。

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日本との関わりも非常に深く、来日した経験もある名カメラマン、ロバート・キャパ。戦場における写真撮影の方法や“戦場カメラマン”という生き方を確立し、“マグナム・フォト”の創設者でもあったキャパの人生は、たった40年の短い時間の中に一般人の数倍の濃度の生き様を溶かし込んだもの。若き日の彼が仲間と共に戦場でシャッターを切り続け、戦争の真の姿を世に問い、世界を変えようと理想に燃えていたスペインでの日々は、“ロバート・キャパ”という名前を伝説にしました。今ようやく明らかになったスペイン内戦の実情と、フランコに敗れた共和制側の人々がその後辿った悲惨な運命、その戦争と共に変わったキャパ達の運命の詳細も明らかになった「メキシカン・スーツケース」は、必見のドキュメンタリー作品です。史的価値が高い作品であると同時に、戦争の無慈悲さを訴えそれに異を唱える、強力な反戦映画にもなっていると思いますね。

映画「メキシカン・スーツケース」公式サイトはこちら

“キャパから未来への贈り物。”


「メキシカン・スーツケース The Mexican Suitcase」(2011年)
監督:トリーシャ・ジフ
脚色:ダイアン・バーディネット、トリーシャ・ジフ
撮影:クラウディオ・ローシャ
編集:ルイス・ロペス
音楽:マイケル・ナイマン、ヘラルド・パストール

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ロバート・キャパの遺稿や未公開の写真などをまとめた自伝。一時期絶版になっていたのですが、このドキュメンタリー映画の効果か、安価な文庫版で再版されていたのでご紹介しておきます。


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