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zoom RSS 折れた翼を広げて―「Broken Wing」(short film animated)

<<   作成日時 : 2016/05/18 13:18   >>

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これからは、僕が君の翼となろう。

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“Broken Wing” (short film animated)

Broken Wing [Film] from amossussigan on Vimeo.



誰にでも、あんまり思い出したくない過去ってのがあるだろう。

僕にとっては子供の頃の自分自身かな。チビで太っていて不器用で頭が悪くて運動も苦手な少年にとって、子供の世界はあまり楽しいものではない。でも幸いなことに、僕の子供時代の思い出は、全てが灰色に沈み込んでいるようなこの街並みの憂鬱を一掃する程、暖かい色合いに包まれている。

僕には親友がいた。背がすらっと高くて手も脚も優雅に長く、頭の回転も速い上に手先も器用で心底朗らかな親友が。僕とは正反対の…いや正直な話、僕にはもったいないほどよく出来た親友。でも僕たちはなぜかうまが合い、いつも一緒だった。

僕は幼い頃、どうせ出来もしないのに流行のルービック・キューブを手に入れた。でも結局面一つをそろえるのも上手くいかずに、べそをかいていたものだ。そんな時も、彼はいつのまにか僕の傍にやってきて、僕が癇癪を起こして放り出したルービック・キューブをそっと手に取った。彼は、鮮やかな手際であっという間に面をそろえると、僕の手の中にそれを返してくれたんだ。最後の一押しでキューブの全ての面が揃うと、思わず頬が緩んだ。他人の手を借りたとはいえ、自分の手の中で全てのものがあるべき位置に規則正しく整列するのを見るのは、良い気分だった。どんくさくて甘えん坊の友人の機嫌が直ったのを見るや、彼は僕の手を引っ張って家の外に駆け出した。

彼は外を駆け回るのが大好きだった。僕たちは走ったり、野原で蝶を追いかけたりしていつまでも遊んだ。僕が子供の頃、まだ野原には太陽の日差しが踊っており、蝶の群れが舞い、その羽に光がキラキラと反射していたものだ。僕はその眩しいほどの輝きをどうしても手に入れたくて、蝶を捕まえてガラスの入れ物に閉じ込めようとした。でもうっかり肝心の羽を傷つけ、蝶を飛べなくしてしまったんだ。自分のヘマに顔色をなくした僕を見て、彼はとても注意深く蝶を手で掬い上げると、そぅっと空に放った。すると、魔法にでもかかったかのように、片方の羽を僕に破られた蝶は再び空に舞い上がった。目を閉じると、僕は今でもその光景を瞼の裏にありありと思い描くことができる…。彼は、何でも可能にした。本当に、ただ一人の素晴らしい人間だった。

そして今。

子供の頃の思い出が一様に輝きに満ち、甘く芳しいものであるのは、今現在自分が置かれている世界が、暗く悲しく希望のないものだからだ。今の僕も、何層にも積み重なって今にも押し潰されそうな高層ビルの立ち並ぶ、鉛を溶かし込んだような冷たい石造りの街に住んでいる。ここには季節の移り変わりなど無い。子供の頃に買ってもらった思い出のルービックキューブは今や骨董品になっていたが、僕はいつも持ち歩いていて、気づけば手の中で面をもてあそんでいる始末だ。さすがに大人になった今は、見てなくても面を揃えることはできるようになったのだが。

子供の頃、これをいとも鮮やかに操り、野原で羽をもがれた蝶に飛ぶ力を与えた親友の魔法の手は、今は彼の顔の周りを飛ぶ蝶を鬱陶しげに追い払うのみだ。日差しを浴びた蝶の羽の輝きにも劣らぬ光を放っていた彼の大きな瞳は、今ではいつも眠たげに半分閉じたまま。周りのものを一切目の中に入れたくないといわんばかりに。かつて、手の中で蝶の傷ついた羽を癒した彼の手は、いつまでも彼から離れようとしない蝶をついに叩き落としてしまった。蝶は、二度と自力で立ち上がることのない彼の膝の上にハラハラと舞い落ちた。

僕は、車椅子の彼がいつも独りで赴く場所…あちこち瓦礫が転がる、打ち捨てられた港…に向かっていった。ここは、灰色の街の中でも廃墟と化したひときわ侘しい場所なのだ。子供の頃にはカモシカのように伸びやかで闊達だった脚を、事故によって永遠に失って以来、彼はそんな自分をあざ笑うかのように、この廃墟に好んでやって来ていた。僕は、彼が車椅子の上で背中を丸め、ぼんやりと前方を見つめているのをたやすく見つけた。そして、後一押しで全ての面が完璧に揃うルービックキューブを彼に差し出す。子供の頃の僕のように、彼は物憂げな表情のままキューブを機械的に動かした。予定通り全ての面が揃うと、羽を傷つけていた蝶が、再び彼の膝の上から舞い上がっていった。

なあ、これはデジャブじゃないか。君は子供の頃、飛べなくなった蝶に再び羽を与えたんだ、覚えているだろう?これからは、僕が君の羽になる。翼にもなろう。だからあの頃のよう、にもう一度一緒に飛び上がってみよう。

…彼の口元に小さな微笑が浮かんだ。

「Broken Wing」(2012年)
Direction & Special Effects: Amos Sussigan
Production & Animation: Nikitha Mannam
Arti Direction & Layout: Lilit Atshemyan
Character design & Animation: Stephanie Kardjian
Animation: Jeff Nao & Angela Walker
Music: Mark Slater
Produce: Nikitha Mannam (Woodbury University)

公式サイト:Broken Wing :: The Movie
Facebook公式ページ:Broken Wing on Facebook

FESTIVALS AND AWARDS FOR 'BROKEN WING'
・受賞映画賞・映画祭 AWARDS
Best Film (Short Films Long Night, Los Angeles)
Best Animated Movie (Lucerne International Film Festival, Switzerland)
Best Animation Film (New Jersey International Film Festival, New Jersey)
Audience Award (NFFTY, Seattle)
Award of Merit (Lucerne International Film Festival, Switzerland)
Best Animated Short (Shorttakes Student Film Festival, Los Angeles)

・ノミネート映画賞・映画祭 OFFICIAL SELECTIONS
Castellinaria (International Festival of Young Cinema, Switzerland)
Hollywood Film Festival (Los Angeles)
A Qualcuno Piace Corto (Swiss Television Contest, Switzerland)
Newport Beach Film Festival (Los Angeles)
Manhattan Film Festival (New York)
British Animation Film Festival (London)

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こないだ、パトリス・ルコント監督初の長編アニメーション映画「スーサイド・ショップ Le magasin des suicides」を観てきたんですよ。日本での観客からの評価は結構まちまちで、賛否両輪分かれている印象を受けます。本編を観て納得。こりゃ、好き嫌いがはっきりくっきり分かれる作品だわ(笑)。
夢も希望も何にもない近未来のパリ。人々は暗鬱な都会での生活に疲れ果て、次々と自殺していく。自殺率急上昇の現状に直面し、政府は公の場所で自殺した者には高額の罰金を課すことで対応する始末。なにもかもがどんよりと暗く落ち込んでいる中、唯一景気良く繁盛している店があった。それが、トヴァッシュ家が代々家族で切り盛りする、“自殺用品専門店”だった…。というお話なんですわね。
この粗筋からして伺えるように、本編の方は、オープニングからエンディング・クレジットに至るまで、考え付く限りのバラエティーに富んだ“死”の表現で埋め尽くされています。にもかかわらず、全く恐怖や痛みを感じない。むしろ、ファンタジックなまでに美しいトーンで作品全体がまとめられているのですね。大団円では、逆説的に生きることの大切さや喜びをいささか躁気味に謳いあげ、アニメーションならではの現実と妄想の彼岸を遥か彼方に越えた世界観を完成させていました。
ルコント監督は元々、映画製作を学んだ後に漫画やイラストを描いて生計を立てていた時期があり、この二次元の世界とは本来縁の深いクリエイターです。「タンデム」や「仕立て屋の恋」「髪結いの亭主」「タンゴ」など、初期の名作群で披露されていた抜群の映像センスと、どこかちょっぴり現実離れした場所に浮遊するような映像美の本質が、実はこの暗い命題を持つアニメ映画で最大限の魅力を発揮しているように思いました。実写映画では到底不可能なテーマ追求と表現方法も、アニメなら可能になる。芸術的な面においてのアニメーションの可能性を認識させられた作品でもありましたねえ。

閑話休題。

このショートムービーも、アニメでしか成立し得ないような世界観を見せてくれます。語り手の青年が登場する冒頭から、“ここではない何処か”を強烈に感じさせるイメージ、あるいは“近未来”を連想させるような、暗く殺伐とした情景が画面に広がります。高層ビルは、へしゃげた箱を積み重ねたようないびつな形状だし、およそ“色彩”の輝きが存在しない陰鬱な灰色に染められた景色も、それに同化したかのような青年自身の佇まいも、今目にしている状況が決して楽しいものではないことを言外に物語っています。

それに対し、青年が物憂げに回想する子供の頃の思い出は、これまたアニメーションならではの幻想的なタッチで表現されています。この世で私達の手足に枷をするしがらみもあっという間に飛び越え、全てがセピア色に美しく輝いていた桃源郷へと誘うかのようです。もちろん、過去の思い出の全てが心疼かせるほど美しいわけではありますまい。しかし、誰にとってもそれが“再現不可能な、この世のものならぬ情景”である限り、子供の頃の思い出は神聖なまま祭壇に飾られることになるのです。

この作品を観ていて感心した点の一つは、現在の出来事…例えば、青年が手の中で持て遊ぶルービック・キューブや、今も過去も空を舞っている蝶が、青年と彼の親友を結ぶ大切な思い出と分かち難く結びついていることをきちんと表現していることですね。ありがちと言ってしまえばそれまでなのですが、現在の時間軸と回想の(過去の)時間軸をスムーズに移動できているのは、物語を動かす鍵である、ルービック・キューブ、蝶というシンボルが明確であるためです。
そして、その二つのシンボルにまつわる出来事が、一見するとよく似たシーンのリフレインであるように見えながら、過去と現在ではその意味合いがまるで異なってしまっていることも、映像の比較から自然と察することができますね。くどいナレーションで一から十まで説明しなくても、現在と過去のシーンが意味合いを違えて入れ替わることで、登場人物が置かれている状況が、昔とは逆転したのだと暗示する語り口の鮮やかさ。色合いの使い分けの細やかさと、やはり見事な編集に支えられた演出手腕が冴えていると思いますよ。
灰色の重苦しい現在と、色鮮やかだけどどこか現実離れした儚げな過去の対比は、いっそ残酷なまでに観る者自身の記憶をも刺激します。その二つの次元を結んでいるのが、カラフルなルービック・キューブと輝きを失わない蝶の羽だというわけですね。私達にも、遠い記憶になってしまった子供の頃と、今現在の自分を繋げる鍵になるものは必ずあると思います。自分以外の人たちにとっては何の意味も持たないものであっても、自分にとっては非常に大切だというものがあるはずです。この作品の主人公にとっては、ルービック・キューブと蝶の羽を触媒として今も生き続けている、親友とのかけがえのない友情こそがそうでしょう。

駆け出しの新人クリエイターのAmos Sussigan(以下、エイモス)にとって、この「Broken Wing」は記念すべき処女作品となりました。厳しい状況に陥っても変わることのない友情を、昔懐かしいおもちゃであるルービック・キューブ、蝶の群れといったノスタルジックなツールを用いて象徴的に謳いあげた今作は、数々の映画祭に招かれ、たくさんの賞を獲得しました。
実は今作のストーリーは、エイモス自身の実体験に基づいて出来たものだそうです。以下に、この物語が誕生するきっかけとなった逸話を、「Broken Wing」の公式サイト等から抜粋しておきますね。

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正確には2010年の7月のこと。エイモスの親友アンドレはスイスの山間の道路で、買ったばかりのバイクの試し乗りをしていた。エイモスとはその日落ち合う約束をしており、先程エイモスと電話で話したばかりだ。彼が自宅までエイモスを迎えに行くことになっていた。エイモスの方は、ビールを持参する旨を親友に伝えるのをうっかり忘れていて、もう一度彼に電話しようと何度も呼び出し音を鳴らしているのだが、相手は一向に電話に出てこない。エイモスは、どうせアンドレのことだ、新しいバイクのメンテナンスにでも夢中になっているのだろうと、さほど気にも留めなかった。ところがその頃、アンドレはバイクで大事故を起こしていて電話に出られる状況ではなかったのだった。
エイモスが親友の身に起こった不運を知ることになるのは、事故から救出されたアンドレが病院に担ぎ込まれた後のこと。エイモスは、電話で親友の事故のことを伝えられたが、容易に信じることはできなかった。最初は、冗談好きの親友にかつがれていると思ったぐらいだ。しかし、あれほど活発でスポーツ万能だったアンドレが、二度と自力で歩行できないと医者に宣告された身体をベッドに横たえている姿を目にしたとき、エイモスはやはり激しい後悔の念に襲われた。おそらくエイモスは、親友以上に親友の身に起こった出来事を受け入れられず、ショックを受けたのだろう。
その後、アンドレの脚が回復する見込みはなくなったが、動けなくなった代わりにというべきか、彼は別のことに熱中するようになった。「Broken Wing」にも象徴的に登場したルービック・キューブだ。最近では様々なバリエーションのものが発売されているキューブだが、アンドレは一通りのパズルを解いてしまうと、もっと複雑なものを欲するようになった。以前は主に足を動かしていたアンドレが、今では脳細胞をフル回転させているというわけだ。エイモスは、しばらくの間打ちひしがれていた親友が、手慰みに始めたパズルに夢中になり、より複雑なパズルに挑戦していくことで、障害を持って生きる運命を前向きに受け入れようと努めていることを知った。そしてそれは、障害を克服することに限らず、様々な要因で傷ついてしまった人々の心を癒すために、“アート”が大きな役割を果たしている実例ではないかと考えた。エイモスはこの体験から、自身初となるショート・アニメーション作品「Broken Wing」の着想を得たのだった。
エイモスは作品のコンセプトを友人やアニメーターに説明し、このプロジェクトに魅了されたスタッフ達によって、企画はたちまち世界を股にかけた規模に膨らんだ。プロデューサーのNikitha Mannamは、エイモスがスイスでビジュアルリサーチを行っていた間、インドで作品のプリ・プロダクションに入り、同時にカリフォルニアで4人の学生を動かしてアニメーション制作にも取り掛かった。「Broken Wing」は、アニメでなければ表現不可能な幻想的なイメージと、傷ついた者の心を癒すためにはどうすればよいかという、とてもリアルなテーマが豊かに結びついた作品だ。暗さと光が渾然一体となった映像は、1万枚を超えるセル画と30ものデジタル画像から形作られ、そしてなにより、英国の作曲家マーク・スレイターの手になる美しいスコアによってより高い次元で完成した。

アンドレの人生に新たな希望を与えたものが、こうしてフィルムメーカーとしてのエイモスのキャリアをスタートさせ、そして精神の世界を深く探求する旅にいざなうこととなった。エイモス自身の親友を深く愛する気持ちと、アンドレがエイモスの友情に応える気持ちの双方が、お互いの魂を暗い地の底から引き上げ、そしておそらくは、この作品を観ている私達すべての魂をも自由な空へと解き放ってくれるのだろう。


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