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zoom RSS “12 Years A Slave”はオスカー戦線の劇薬か?…テルライド映画祭2013

<<   作成日時 : 2013/09/01 18:11   >>

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映画祭のシーズンに入りました。当館でも、オスカーをゴールに設定し、各地で開催される映画祭や様々な映画賞関連の記事が増えていくと思いますが、よろしくお願いしますね。さて、現在リド島では、毎年恒例のヴェネチア国際映画祭が行われています。

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現在開催中のヴェネチア国際映画祭では、英国の名匠スティーヴン・フリアーズ監督の新作「あなたを抱きしめる日まで Philomena」(ジュディ・デンチ、スティーヴ・クーガン主演)に、観客からの大きな喝采が贈られたようです。

BBCの特派員だったマーティン・シックススミスの手記「The Lost Child Of Philomena Lee」の映像化となる今作は、10代で妊娠したアイルランド人少女フィロミーナの物語です。彼女は修道院に入れられた末に、4歳になった息子を手放してアメリカ人夫婦に養子に出すことを強要されてしまいます。もちろん、手放した我が子の行方を後々追ったりしないという誓約書にもサインさせられました。そのため、彼女は涙を飲んで我が子と離れ離れになったわけですが、新しい家庭と生活環境を得た後、やはり生き別れになった息子の消息を追うことを決意。そのニュースを知って協力を申し出たBBC特派員シックススミスと共に、ロンドンから彼女の生まれ故郷アイルランド、さらにはアメリカのワシントンまで、世界を横断する“我が子探して三千里”の旅が始まるというわけですね。

今作ではシックススミス役を好演し、デイム・デンチと共に息の合ったコンビっぷりで高く評価されているスティーヴ・クーガン自身が、ジェフ・ポープと共同で脚色も行い、さらには製作も担当したそうです。つい最近英国で大きな成功を収めたクーガンの作品「Alan Partridge: Alpha Papa」とは180度イメージの異なる超堅物なジャーナリストと、「スカイフォール」「マリゴールド・ホテルで会いましょう」と、これまた180度イメージの異なるキャラクターを連続して好演したばかりのデイム・デンチの可愛らしさと健気さ、奔放さが生かされたフィロミーナは、スクリーンの上でも素晴らしいケミストリーを引き起こしたようですね。彼らの演技だけではなく本編の方も、笑いあり涙ありの心温まる作品に仕上がったと、かなり良い評価を得たそうです。今作が次にお目見えするのは9月5日から始まるトロント国際映画祭ですが、ヴェネチアに引き続きトロントでも“フィロミーナ旋風”を起こすことができるでしょうか。今作はトロントの後、10月9日から20日まで開催される第57回BFIロンドン映画祭でガラ上映される予定です。フリアーズ監督の「クィーン」でオスカーを射止めたデイム・ヘレン・ミレンのように、デイム・デンチもオスカー像にキスすることができるでしょうかね。オスカー・レースに彼女がどう絡んでくるか、大変楽しみです。


次は、アメリカはコロラド州南西部のサンファン山脈を臨む渓谷にある、とても静かで美しい小さな町テルライドに飛んでみましょう。

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テルライド映画祭公式サイトはこちら

毎年、トロント映画祭の直前に開催されるテルライド映画祭では、主に北米マーケット向けのプレミア上映を控えた優良な作品が招待されます。北米では最大規模の映画祭であるトロントの陰に隠れてしまってあまり知られていないのですが、テルライドに招待される映画は、オスカーに照準を合わせたものが多いため、結果的に良質な作品を提供する映画祭になっているようです。
俳優、監督、プロデューサー、映画好きの観客の他にも、その年のオスカー戦線の傾向を掴みたい映画批評家も多く足を運びます。開催期間は4日間と、他の有名どころの映画祭に比べてちょっと短め。しかし、このテルライド直後のトロント映画祭にも参加する予定の作品が上映されたりするので、もっと注目されるべき映画祭だと思いますよ。第40回目を迎えた記念すべき2013年度のテルライド映画祭には、著名な映画人が訪れています。

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8月29日初日には、俳優復帰作品も控えるロバート・レッドフォードが、レイフ・ファインズからトリビュート賞を手渡されるシーンも見られました。

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フランシス・フォード・コッポラ監督とレッドフォード監督が談笑する姿もあったりして、なにかもう、“ザ・ハリウッド”なゴージャスな感が漂いますよね(笑)。

さて、本題に入りましょう。

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(shared from Britt Benson's twitter account)
実は8月30日、スティーヴ・マックィーン監督の新作にして早くも問題作扱いされかかっている(笑)「12 Years A Slave」が、事前のアナウンスなしにサプライズ上映されました。また、監督と主なキャスト陣が集まったQ&Aトークセッションも行われ、現地にいた映画ファンたちをいたく喜ばせたそうです。なんと羨ましい。私もその場に居合わせたかった(笑)。おそらく、北米の観客の作品への反応を見るための、試験的な上映だとお察しします。作品そのものが、真実の話(アメリカ北部の街から浚われ、12年間もの間、南部の農場で奴隷として強制労働に従事させられたソロモン・ノーサップの手記)を基に、アメリカ史の恥部である“奴隷制度”を真っ向から描く内容ですから、オスカーを狙うためにはアメリカの観客と批評家の反応が気になるところでしょうね。

実は、テルライドで実際に本編を鑑賞し、キャスト陣とのトークセッションなどにも参加した一般の方が書いた記事がTumblrに流れてきましてね。それを読む限り、「Hunger」や「Shame」など、マックィーン監督の全ての作品を貫いている情け容赦ない描写…暴力的なシーン然り、性的なシーン然り…が、やはり一般の観客層には厳しすぎたのではないかなあと危惧していたのですよ。いくらリアリティを追求するといっても、そこはそれ、あくまでも映画のお話ですから、観客を怖がらせないよう、表現を緩和したり曖昧にしたりといった配慮は、まあ大抵の映画でなされているはず。しかし、現代アートの芸術家というバックボーンを持つマックィーン監督は、目に見えているものの真意をゆがめず、そのまま描く表現を貫いているかのようですね。

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(レイフ・ファインズと談笑するマイケル・ファスベンダー)

だって、マイケル・ファスベンダーが実在のアイルランド共和主義者ボビー・サンズを演じた監督処女作「Hunger」にしてからが凄かったですもん。抗議のハンガーストライキによって獄中で餓死したサンズの魂を、文字通り骨と皮だけになったファスベンダーの姿をきっちり映しだすことで、観客の精神に刻み付けました。私はこの作品を観て、“飢える”とはどういうことなのかが実感できた気すらします。ボビーの訴えが何だったのか、それを踏まえたうえで作品として何をテーマにしたかったのかということを考える以前に、とにかく、食わない→痩せる→食わない→痩せ細る→でも頑として食わない→限界を超えて飢えていく…という死への工程が、観る側に恐怖に近い感情を掻き立てるのですよ。

今回の「12 Years A Slave」では、奴隷として人間性を頭から否定されたまま、12年間呻吟した男の話です。その男ソロモンと対立する、卑劣で冷酷な南部の農場主然り、ソロモンを売り飛ばす奴隷商人然り、劇中には、丸腰の人間に容赦なく理不尽な暴力を振るう人間が登場します。…おそらく、目を背けたくなるようなハードな描写も連続することでしょう。電子版Los Angels Timesに掲載された批評のように、むしろ生理的嫌悪感を真っ先に呼び覚ましてしまいそうな、へヴィーな描写は堪えるけれども、それでもこの作品から目を背けたり、無視したりすることは不可能だと、きちんと評価してくれる人が増えてくれればよいのですが…。

この作品が抱える、人種差別や行過ぎた他人種排斥、暴力による支配等、“人間の犯した過ち”への怒りはすさまじく、観る者全ての目と魂をマグマのように焼き尽くすかもしれません。「Hunger」「Shame」と作品を重ねてきて、映画監督としてのスキルを格段に上げたと評価されるマックィーン監督入魂の一作。これがオスカー戦線に絡めるのかどうか、あるいは、オスカーという古い体質をひきずる映画賞にどのような影響を与えることができるのか、今の段階ではなんともいえません。「12 Years A Slave」は10月18日からの一般劇場公開を前に、9月5日から始まるトロント国際映画祭、9月27日に開幕する第51回ニューヨーク映画祭にお目見えします。私達も、本編到来を心して待った方がよいでしょうね。


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