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zoom RSS 「ビル・カニンガム&ニューヨーク Bill Cunningham New York」

<<   作成日時 : 2016/06/24 23:34   >>

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【速報】40年以上の長きに渡り、ニューヨークのストリートで“ファッション”の変遷を見つめ、膨大な枚数の写真に記録してきたファッション・ジャーナリスト/ファッション写真家のビル・カニンガム氏が、本日亡くなりました。享年87歳。ニューヨークの名物カメラマンとしてニューヨーカーに愛され、ファッションを通じて、ニューヨークの歴史の変遷をも見つめてきた偉大なジャーナリストの訃報に、多くの人々が哀悼の意を表しています。心からご冥福をお祈り申し上げます。


彼のドキュメンタリー映画の記事を再掲いたします。

美を追い求めるものは、いつか美を手にするだろう。

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「ビル・カニンガム&ニューヨーク Bill Cunningham New York」(2010年製作)
監督:リチャード・プレス
製作:フィリップ・ゲフター
撮影:トニー・セニコラ&リチャード・プレス
編集:ライアン・デンマーク
出演:ビル・カニンガム
アナ・ウィンター
カルメン・デロリフィチェ
トム・ウルフ
エディッタ・シャーマン
パトリック・マクドナルド
デビッド・ロックフェラー

NYタイムズ紙で人気ファッションコラム“On The Street”と、社交コラムを担当している名物男ビル・カニンガム。彼は“ファッションは待っていたって分かりゃしない。ストリートで(見かける一般の人々のファッション)こそ、本当の意味でのトレンドが生まれてるんだ”を信条に、50年以上の長きに渡り、愛用のカメラ片手に自転車を駆ってニューヨークの街中でシャッターを切り続けてきました。彼が追いかけるのは、一般の人たちの自由なファッション。セレブやスーパーモデルたちが華やかなショーやパーティで身に着けている、ブランドからのお仕着せのようなファッションには見向きもしません。
半世紀以上に渡って彼がカメラに収め続けた、ニューヨークの街角に息づく、日常生活に密着したファッション・トレンド。それは、ニューヨークという街の服飾文化の歴史の生き証人となっていたのです。彼は高齢となった現在でも、ファッションショーや各種慈善パーティーでの撮影、昼間はもちろん街角トレンド観察に精力的に動き回っています。ニューヨークの文化人なら誰でも知っている名物男ではあるのですが、その素顔は謎に包まれており、彼の私生活は全く知られていません。
このドキュメンタリー作品は、自分自身の存在が有名になることをよしとしない、純粋にファッションを愛する誠実な業界人カニンガムを、リチャード・プレス監督が何年にも渡って説得し、さらに2年間をかけて彼の仕事や帰宅後の私生活に密着し、完成した、“ビル・カニンガムという生き方”の記録です。

以前から観たいと願っていた作品でしたが、頑として一本気な人生を通してきた一人の男の愛すべき肖像に、心から魅せられた次第です。“本物の美を追求すること”ただこれのみを人生の指針としてきたカニンガムは、それ以外の、私たちが“人生の楽しみ”と捉えるちょっとした贅沢や娯楽、家族を持つこともすっぱりと捨ててしまいました。今でも独身、個人的な恋愛経験はなし、住んでいる家は立ち退きを強制されているカーネギーホールの狭い部屋で、写真のネガを保管したキャビネットに埋め尽くされ、寝るスペースもない状態、ファッションを追いかける仕事だけど、自分が着るものには機能性のみを求めて他は頓着しない、仕事以外に趣味もなし、食べること飲むことにも全く興味なし。いくら仕事を愛しているからといって、そんな厳格な修行僧のような人生を真似できる人間はそうそういないでしょう。少なくとも、誘惑に弱い私には無理(笑)。彼は確かに、神様から“本物の美を見極める目”と、尊い真摯さ、純粋さを与えられたのでしょうが、その代わり、彼が美の神に捧げたものは、時代の流れや誘惑に屈することなく己の信念を貫く強さでした。

“ただ誠実に働きたい。でも(カネが幅を利かせる)ニューヨークじゃ、それはほとんど不可能だ。まるで、風車に立ち向かっていったドン・キホーテのような心境だね”

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…例え孤立無援の状況にあっても、それでも信念を守るために果敢に戦う強さ。自分の信念以外に失うものは何もない、と言い切る強さ。ビル・カニンガムを唯一無二の存在にしているのは、妥協を強いられる私たちが持ちたくとも持てない、この“強さ”に他なりません。

劇中、プレス監督は、“私生活がゼロ”に等しい彼個人の私的な人生の断片を引き出そうと、彼にインタビューを試みます。彼が典型的なアメリカの労働者階級の出身で、若かりし頃、自分でデザインした帽子を売る店を立ち上げ、帽子店の経営が傾いた時期に、今のようなファッション・ジャーナリストとして活動し始めたという表向きの履歴以上に、より踏み込んだ質問も投げかけていました。アメリカ人が最も警戒する2大話題、宗教とのかかわりや性的な嗜好といった類の質問です。まあ、監督としては、“ファッション”を追うために己の人生を犠牲にしたと見えなくもない彼の内面に、光を当ててみたかったのでしょうね。また、ニューヨークの社交界にもファッション業界にも広く広く顔を知られた人徳者ビル・カニンガムといった看板の裏で、孤独や挫折に悩む等身大のビル・カニンガムが潜んでいるのではないか、と推理したのかもしれません。

でもね。

きっと彼は見たまんまの通り、裏も表もない人で、何の屈託もなく、美しいファッションによって社会が文明を保っている姿を愛でていたいだけなのではないかなあと思いますよ。その気持ちに嘘偽りの混ざろうはずがない。そりゃ、これまでの長い人生の中で、超ポジティヴな彼にだって苦悩が全くなかったわけじゃないだろうし、それどころか、“誠実”に仕事に埋没したいという願いを彼が今いる業界で叶えようとすれば、周囲一面に敵を作る覚悟をしなければならないでしょう。現にNYタイムズ社でも、クリエイティヴな面で彼と衝突しなかった人間はいないと明かされていましたしね。
それでも、そんな苦労を彼は苦労とは認識していないんですよ、きっと。一般社会の中で日常的に、本物の美が衣服によって体現されている瞬間を目撃する喜びに比べれば、自分の私生活なんぞどうでもいいし、仕事上のジレンマだってたいした問題でもないのかも。約30年前のカニンガム本人へのインタビュー映像が挿入されていましたが、彼はその中で以下のような趣旨の考えを語っていました。

“僕は、ファッションはただ自分を飾るものではなく、身を守る盾だと考えているんだ。趣向を凝らした美しい衣装は、高度な文明を育み、維持する。だって人が皆服を着ることに頓着しなくなったらどうなる?そんなの高度な文明社会とはいわないだろう”

確かに。SFデストピア映画で繰り返し登場する、“人類が皆同じデザインの簡素な服を着せられている”イメージは、究極に管理された没個性社会を象徴していますよね。とすると、センスを磨いて“美しい服を着る”という行為は“芸術”と同義であり、社会の質を保つことに貢献しているのかもしれませんね。


さて。

このドキュメンタリー作品は、のっけからパワフル&スピーディー。ニューヨークの街中で、急ぎ足のニューヨーカーたちのファッションを瞬時にチェックし、これはと思う被写体を電光石火の早業でカメラに収めるビルの様子を、時に画面がブレる手動カメラで追いかけます。また、一晩にいくつもの慈善パーティーをはしごして取材する彼の後を追いかけ、休む間もなく走り回る様子をみるにつけ、その無尽蔵なスタミナと切れの良いスピードがなぜ衰えないのか、不思議でなりません(笑)。こういっちゃ大変失礼なんですが、彼の実年齢は80の坂をとうに越えているはずで、それを考えますと、カメラを構えたまま走るあの俊敏な動きに、映画用のカメラを構えているトニー・セニコラとリチャード・プレスがついていけてない時もままある(笑)のが、ものすごく印象的でした。この、ご機嫌なジャズにも似たリズムと軽やかな躍動感は、最後までトーンダウンすることなく、映画の推進力になっていましたね。

常に新しい方向を求めて流れ続けている“生きた流行”の、わずかな変化も見逃さぬ鷹のように鋭い眼力。いくら名の通ったデザイナーやオシャレセレブでも、彼が駄目だと判断したファッションは全く受け付けない、妥協を知らぬ厳しい審美眼。ジャーナリストとしては、金目当てではなく自分の見たままをそのまま伝えることに徹し、モットーは公正と謙虚と無私の精神。人種や社会的立場の違い、その他諸々の、人と人とを透明な壁で分け隔ててしまうあらゆる要因を乗り越え、美のセンスを持つ人間には等しく敬意を持って接する、本当の意味での紳士。そしてなにより、人が自分に似合った素敵な服で身を包んでいるのを見るのが大好きだと、子供のように笑う純粋な笑顔。何十年にも渡って業界屈指のジャーナリストであり続けた人物らしく、どんな職種の人間でも思わず座右の銘にしたくなるような名言の宝庫。出会う人全てを幸せな気持ちにしてくれるチャーミングさ。

ビル・カニンガムと一緒に2年間、世界中を走り回ったこの作品は、ビル・カニンガムという無数の引き出しを持つ多角的な人物を捉えることに成功していると思います。

ドキュメンタリー作品は、描こうとする対象に対して真にフェアで客観的でなければならないし、またどんな人が観ても正しく理解できるように、対象を分かりやすく説明できていなければ失敗だという持論を持っています。その意味では、この「ビル・カニンガム&ニューヨーク」という作品は大成功作品でありました。昔から彼を知る著名人が何人か登場し、彼にまつわるエピソードを披露していましたが、そのようなインタビュー映像やアーカイヴ画像などの資料が挿入されるのも、作品のリズムとスピードを損なわない絶妙のタイミングでしたし、観客の対象への理解を深めるという、ドキュメンタリー作品の使命もきちんと全うされていましたしね。

そして、ビル・カニンガムという人物を追っていくうち、今作が、ファッション界に留まらない広い意味でのニューヨークの“社会”、“文化”の変遷を紐解いていることに気がつきます。ご本人はそう思っていないかもしれませんが、彼は、その生き様そのものが、ファッションをはじめとするニューヨーク文化史の偉大な生き字引であったわけですね。


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