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zoom RSS 青い鳥を探して。−「URSUS」(short film animated)

<<   作成日時 : 2014/12/06 15:14   >>

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サーカスで、僕は大切なものと出会った。

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“URSUS”

URSUS from Atom Art on Vimeo.



「URSUS」(2011年制作)
Directed, Script & Art directed: Reinis Pētersons
Produced by Atom Art
Original Music: Jēkabs Nīmanis
Phonography: Maksims Šenteļevs
Sound Mix: Ģirts Bišs
Chief Animator: Mārtiņš Dūmiņš
Animation Assistants: Indra Kadaka, Elīna Zunde
Background Photographer: Jānis Nīgals
Editing: Dāvis Sīmanis Jr.
Digital Compositing: Dāvis Rudzāts
Creative Producer: Edmunds Jansons
Producer: Sabīne Andersone

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その熊は孤独だった。

本来なら森の中で野生動物として生きるべきなのだろうが、彼はまるで人間のように衣服を着、人間と同じ食べ物を食し、大きな体を申し訳なさそうに縮め、人間社会の中で生きてきた。人間たちを怖がらせぬよう、努めて人間そっくりに振る舞い、コミュニティの隅っこで息を潜めていても、熊は所詮熊である。自ら進んで熊と友達になろうという人間はいない。だから、彼はいつも一人ぼっちだった。

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熊はサーカスの団員として長年働いてきた。全速力で走るバイクで、燃え盛る火の輪をくぐるという危険な曲乗り芸で、今やサーカスになくてはならぬ花形スターとなった。

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サーカスのテント小屋のすぐ隣にあつらえられた小さな部屋。これが彼の住まいだ。バイクを自在に乗りこなす、表向きの勇ましいペルソナとは対照的に、彼自身はおとなしくて几帳面で綺麗好きだ。部屋もきちんと整頓されているし、客の前に出るときは野生の熊を演じるため、普段はきっちり着込んでいるスーツも脱いでしまうが、その脱ぎ捨てた衣服ですら、いつも椅子の上に綺麗に畳まれている程だ。だから、ステージに出る前は必ず鏡の中の自分の顔を睨みつけ、同じことを繰り返す毎日と孤独に倦み疲れた表情に渇を入れ、無理矢理恐ろしげなものに変えるのだ。

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サーカス小屋は、彼を一目見ようと集まった観客でいっぱいだ。彼は、彼を獰猛な野生の熊だと思い込んでいる観客の目の前で、観客の期待通りの恐ろしい熊を演じる。

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その熊が人間のようにバイクに跨り、所狭しと走り回るのだから観客の驚きはいかばかりか。だが、長年サーカスで働いてきた熊にとっては、実はさほど困難なことではない。

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お気楽な人間たちは、風変わりでスリリングな出し物にやんやの喝采を贈る。

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しかし彼らは知るまい。熊が毎回どんな思いで、この火の輪をくぐっているのかを。

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荒くれ者(熊だが)で、一歩間違えば命取りにもなりかねない危険な曲芸を見せる、大胆不敵な野生動物を懸命に演じている彼の心中を知るものはいない。

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サーカス小屋に通いつめ、大好きな熊の一挙手一投足を食い入るように見つめている、この少女を除いては。

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サーカスの開幕前は、熊は自分の長年の相棒であるバイクの手入れをして過ごす。バイクの調整を怠れば、曲乗りの失敗にもつながるからだ。

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ふと背後に気配を感じた熊が振り返ると、バイクに可愛らしい花束がそっと置かれていた。

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手折られた野の花からは自然の匂いが漂い、花の蜜を吸っていたのか葉を食んでいたのか、隠れていた羽虫が飛び出してきた。

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これらは、熊が今までひた隠しに隠してきた心の中の最もデリケートな襞に触れた。彼は思わず贈り主を探して辺りを見回したが、いつもこっそり彼を見つめている少女は姿を現さなかった。

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サーカス稼業は移動の連続だ。熊も、自室には必要最小限のものしか置いていない。その、眠りに帰るだけの殺風景な部屋の中で明かりを灯すと、近頃頻繁に見るようになっていた幻影が壁に映る。

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生まれてこの方、一度として行ったことのない“森”の中の光景だ。サーカスでは野生の熊を演じているくせに、彼自身は野生の森を知らないのだから、皮肉である。
誰だかわからないファンから贈られた花束の中には、羽虫がいた。森の中にはもっともっとたくさんの羽虫が飛び、他に名前も知らないような虫たちだっているはずだ。自分以外の野生動物も、もちろんたくさん住んでいるに違いない。

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長年人間社会の中で人間の振りをして生きてきた熊は、それでも決して人間たちが自分を受け入れることはないと知っていた。彼は人間社会の中では完全な異物なのだ。人間でもなければ、かといって動物だとも言えない。実に中途半端な存在。しかし彼の内なる声は、本来いるべき場所に帰れと彼に囁き続けている。サーカス団の売れっ子としての生活は安楽かもしれないが、それは彼の真の姿ではない。

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熊はついに決意した。バイクに飛び乗り、なかば衝動的に町を出る。

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夜の闇に沈んだ森の中は、明かりを落とした彼の部屋よりもっと真っ暗だった。

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これから自然の中で野生の熊として生きようというのに、彼はやっぱり脱いだ衣服をきちんと畳んでしまう。長年身に染み付いた習慣はそうたやすく変えられない。

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最初は緊張して二足歩行していた熊だったが、本来の生態に反する二足歩行はもうしなくてもよいのだ。

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初めて4本の足を地に着けて、恐る恐る森の中を歩く熊。

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羽虫が彼を迎えに来た。

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羽虫は、やはりたくさん飛んでいた。月明かりに照らされてぼんやりと光る虫たちは、熊の周囲を妖精のように飛び回り、彼の目が闇に慣れるまでの間道案内をしてくれた。

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月の輝きまでが、町のそれとは全く違う。町の中で見ていたまん丸のお月様は、熊にあの恐ろしい火の輪くぐりを想起させ、いっそうの憂鬱を彼に与えるだけだった。

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不思議なことだ。丸い月をじっと見つめていても、彼はもう判で押したようなサーカスでの暮らしと、火の輪くぐりへの本能的な恐怖を思い出すことはなかった。

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人間社会の中で排除されないよう、細心の注意を払って生きてきた熊は、ようやく安堵の深い息を吐く。大きな身体を拘束するような人間仕様の服もなし、自分とはかけ離れたペルソナを演じる必要もなし、もちろん燃え盛る火の輪をくぐりぬける、命がけのショーもない。今日は夢を見ずにぐっすり眠れるかもしれない。

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泥のように眠りこけていた熊は、突然響いた鋭い銃声で目を覚ました。

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とっさに、野鳥を狙った猟師かと思ったがさにあらず。銃口は熊に向けられていた。

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曲がりなりにも、サーカス団の花形スターとして暮らしていた熊は、面と向かって人間に命を狙われた経験など皆無だ。耳のすぐそばを弾が通過したことで、彼はようやく事態の深刻さを痛感し、泡をくって逃げ出した。最初は四足で走っていたが、もっと早く走るために、いつものように二本足で立ち上がらざるをえなかった。森の入り口に綺麗に畳んでおいた服を着るのもそこそこに、彼は振り返りもせずにバイクに飛び乗り、森を飛び出したのである。

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今日もサーカスに熊を見に行くつもりの少女は、また花束を渡そうと懸命に花を摘んでいた。

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とても甘い香りだ。これなら熊も喜んでくれるだろう。だって彼も、昨日プレゼントしたお花の香りをかいでいたから。

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少女が腰を伸ばしたとき、森の外れでうなだれている熊を見つけた。

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これは珍しいことだ。少女が知る限り、彼はいつも愛用のバイクをいじって過ごしていたから。何かあったのだろうか。熊はとても悲しそうに見えた。

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サーカスのテント小屋以外のところで熊を見かけることはなかったから、少女はちょっと緊張し、そろそろと彼に近づいた。

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そして思い切って、熊の顔の前に摘んだばかりの花束を差し出してみた。

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いきなり野花が視界を覆い尽くしたことに驚いた熊が顔を上げると、甘い香りの花束の向こう側に、もっと甘く優しい微笑をたたえた少女がいた。

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…そうか、花束をくれたのは彼女だったのか。熊は彼女が見ている前で、彼女の花束の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。とても優しい香り。ささくれだち、打ちひしがれる心がそっと凪いでゆくようだ。森の中では、こんな香りはついぞ感じなかった。自然の懐に抱かれていても、自分の知らない匂いと、聴いたことのない音と、見たことのない風景に取り囲まれているだけだった。結局森の中にも、自分の居場所はなかったのか。…森にあったのは、人間社会で感じるよそよそしさとはまた別の意味での疎外感だったのだろう。

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自分と同じように自然から切り離された花束が、こんなにも自分の心を慰めるのは、それをプレゼントしてくれた少女のまごころがこもっているためだ。そう、自分の居場所は自分を愛してくれる人の傍らにある。突然それを理解した熊は久しぶりに憂鬱を忘れ、少女に笑いかけることができた。


滋味深き木炭画のアニメーション作品です。昨今流行の、華やかで緻密なCGアニメのリアリティとは対極にある、ゆったりと流れていく時間の中に位置する作品でしょう。牧歌的で詩的で示唆と暗喩に富んだ、まさしく“行間を読む”楽しみに満ちた作品だと思いますよ。繰り返し観ても、主人公である熊の繊細な心情の変化を追った丁寧な表現と、編集の巧みさに感心しますね。真に優れた作品にとって、上映時間の長さは関係ないことが分かります。

このショート・アニメ映画は、2012年にフランスのクレルモン=フェラン市で開催された第34回国際ショートフィルム・フェスティバルでプレミア上映され、その後各国の映画祭に招待されました。以下が、映画祭で受賞した賞のリストです。昨年広島で開催された国際アニメーション映画祭でも特別賞が贈られていますので、ご覧になった方もおられるでしょう。

●受賞一覧 Awarded
The Best Debut Film of the year at National Film Festival “Lielais Kristaps”, Latvia, 2012
Special International Jury Prize at the 14th International Animation Festival in Hiroshima, Japan, 2012
The Best First Film Zlatko Grgić Award at Animafest Zagreb, Croatia, 2012
The Best Short Film Award at Fredrikstad Animation Festival, Norway, 2012
The Best Short Animation Film at Ozu Film Festival, Italy, 2012
The Best Animation Award in 14th Patras International Panorama Film Festival, Patra, Greece, 2012
FIPRESCI International Film Critics Award at National Film Festival “Lielais Kristaps”, Latvia, 2012
Jury’s Special Mention I at Animation Film Festival Animated Dreams, Estonia, 2012


“Ursus(ウルスス)”とは、クマ属の意味で、文字通り熊全般を指す言葉です。この作品は、人間のように生きている本物の熊が、サーカス団のスターとして君臨しながらそのルーチンワークに飽き、また、コミュニティの中にあっても決してコミュニティから受け入れられることのない孤独を味わっているという、ほろ苦いテイストのお話です。つまりこの熊は、今現在、社会の中で仮面をかぶって自分の真の姿を押し隠し、一定の役割を果たしながらもそれに倦み、群衆の中にいながら孤独をかみ締め、ここではなくもっと別の世界に自分の居場所があるはずだと夢見る、多くの人間の象徴だといえますね。

“幸せの青い鳥”を探し求めて旅に出たけれど、結局それは自分の家の中にいたという童話の教訓通り、“自分の本当の居場所”を求めてさすらっていた熊も、自分を愛し、受け入れてくれる存在の傍らに、安らぎと居場所を見出します。熊が自分探しを始めるきっかけとなった、少女からの花束の贈り物。これは、自然に属するものでありながら、手折られた時点で既に自然からは切り離されたという、ある意味中途半端な存在だといえるでしょう。しかし、“どこにも属さない”というどっちつかずな存在だからこそ、その姿は他に例えようもなく美しく屹立し、少女の熊への愛情と優しさを明確に伝え得たのではないかと思いました。その意味では、熊もまた花束同様、自然と人間社会という両異世界のよさを知る、唯一無二の存在だと自負していいのではないでしょうかね。そんな矜持にこそ、彼の存在意義と居場所があるような気がします。

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そうそう。このショートフィルムもモノクロだったから余計そう感じたのかもしれませんが、映画「オズ はじまりの戦い」を観た際に、特に冒頭のサーカスの描写(ここだけモノクロ)に強く惹かれたことを思い出しました。やはり“サーカス”独特の空気には、いつも千々に乱れる思いを掻き立てられます。きっと、そこが非現実と現実の境界が曖昧に混じり合っている場所だからでしょうね。この「URSUS」でも、その様子が上手く表現できていました。こんなディテールの一つ一つに惹かれる作品でありますね。


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キーラ:花束、ヴィゴ:熊、師匠:少女と例えれば、この作品をいっそう身近に感じられるかも…無理か。つまり花束とは、少女と熊の間の交流を媒介する役割を担っていたのですねえ。

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