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zoom RSS 「シュガーマン 奇跡に愛された男 Searching For Sugar Man」

<<   作成日時 : 2017/01/05 01:30   >>

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「アーティストを10人挙げろと言われたら彼を5番以内に入れる。 ボブ・ディランと比べる奴には”違う”と答えた。 彼と比べたらディランのほうがまだ穏やかだ。…だが売れなかった。アメリカ国内で奴のアルバムを買った奴は何人いた?6人ぐらいか?…南アフリカではヒーローだった?俺の知ったことか。アルバムが大ヒット?そうかい、じゃあその金を払えよ」 ―クラレンス・アヴァント(ミュージシャン時代のロドリゲスを知るサセックス・レコーズの元オーナー)

この2週間というもの、突然我が家に降って湧いたトラブルのせいで、地を這うような精神状態でした。正直、ずっと映画を観るような気分ではなかったのですが、今日は暫くぶりに心と時間に余裕ができたので映画館に行ってみることに。
前々から大きな画面で観たかった逸品であったものの、ぐずぐずしている間にもう上映終了になったかもしれないと心配していた「シュガーマン 奇跡に愛された男 Searching For Sugar Man」。ところがどっこい、週が変わって上映時間も変わり、私にとってはちょうど良い時間帯に観られるようになっていました。こりゃもう、ロドリゲスに会ってこいという神の啓示に違いないと信じて、映画館に転がり込みましたよ。

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「シュガーマン 奇跡に愛された男 Searching For Sugar Man」(2012年)スウェーデン・イギリス合作
監督:マリク・ベンジェルール Malik Bendjelloul
製作:サイモン・チン
製作総指揮:ジョン・バトセック
音楽:ロドリゲス Sixto Diaz Rodriguez
撮影:Camilla Skagerström
編集:マリク・ベンジェルール

モータウン発祥の地デトロイト。1970年代初頭の場末のバーで弾き語りをしていたロドリゲスは、一度聴けば耳について離れないベルベット・ヴォイスと、見事なメロディラインを持つ楽曲によって高名なプロデューサーに見出され、歌手デビューを果たす。ボブ・ディランをも凌駕するほどの天性のミュージシャンであり、底知れぬカリスマ性を秘め、必ず音楽史に足跡を残すと思われていたロドリゲスだったが、運は彼に味方しなかった。懸命なプロモーションにもかかわらず、2枚発表されたアルバムはセールス面で大失敗を喫する。彼は人知れず市井に戻り、二度とアメリカ音楽界に姿を現すことはなかった。
ところがその数年後、どういうわけか、彼の残したアルバムの音源がアメリカから遠く離れた南アフリカ共和国に渡り、反アパルトヘイト闘争の真っ最中であった彼の地で、瞬く間に若者たちの心を捕らえた。ロドリゲスの政治色濃い楽曲は、アパルトヘイトに抵抗する人々のシンボルとなり、南アフリカ共和国内に多くのフォロワーをも生み出した。また、ロドリゲスのアルバムは、政府によって厳しい検閲を受けながらも爆発的なヒットを記録し続けているのである。南アフリカがアパルトヘイトから開放され、またロドリゲスのアルバム発表から30年も経過した90年代後半、南アフリカのロドリゲス愛好家と音楽ジャーナリストは、来歴一切が謎に包まれたミュージシャン、ロドリゲスの足跡を追って調査を開始した。南アフリカでは、彼はステージ上で自殺したということになっていたのだ。
そんな都市伝説に納得できなかった2人は、南アフリカで海賊盤を制作していたレコード会社からの妨害や、モータウン時代のロドリゲスを知る、元サセックス・レコーズ社長クラレンス・アヴァントの逆鱗に触れながらも、“シュガーマン”を探し続けた。彼らの執念は、やがて信じがたい奇跡を呼び寄せる。…この作品は、音楽史から消え去ったはずの1人の無名のミュージシャン“シュガーマン”ことロドリゲスの驚きに満ちた人生を記録するドキュメンタリーである。


今、映画を観終わって余韻に浸っているところなのですが、なんというか、胸がいっぱいで言葉が出てこない状態です。拙い表現ですが、エンドマークが出てくるのをこれほど恨んだ映画はありませんね。可能ならば、ロドリゲス独特のベルベット・ヴォイスをずーっと聴いていたい、謙虚そのものの彼の滋味深い言葉にいつまでも耳を傾けていたいと、上映中ただそれだけを願っていましたね。

どんなに優れた映画でも、スクリーンを見つめる間、どこか醒めた目で当の映画を観察している自分を必ず意識しています。ストーリーはどうか、俳優の演技はどうか、演出やカメラワークはどうか…。この「シュガーマン 奇跡に愛された男」でも、冷静になった頭で考えれば、手描きのスケッチによるレトロなイメージのアニメーションと、若き日のロドリゲスを写したセピア色の写真、彼の周囲の人達へのインタビュー映像を、非常に巧みにコラージュした演出が鮮やかで印象的でした。また、私個人の意見として、“いかなるドキュメンタリー映画も、描こうとする対象を観客に分かりやすく伝える義務がある”という絶対譲れない命題があるのですが、今作はそれもきちんとクリア。

南アフリカの海をバックに“Searching For Sugar Man”が流れる鮮明なオープニングから、一転して高いビル群とスモッグに覆われたデトロイトの街並みにカメラがシフトし、ロドリゲスの音楽人生の始まりと挫折、また彼の音楽が辿った数奇な運命について分かりやすく紐解いていく映像は、ロドリゲスの音楽と調和しながらなめらかに進んでいきます。冒頭から一気に惹きこまれていた本編をだいぶ経過し、ついにロドリゲス本人が登場すると、もうそんな分析なんぞ頭からぶっ飛んでしまいましたね(笑)。技術的な面云々なんぞどうでもいい、とにかく、彼自身の大きな大きな人柄にふんわりと包み込まれる至福に満たされていました。

天賦の才に恵まれたのに、ツキにだけは見放されたアーティスト、ロドリゲスの、紆余曲折を経た“奇跡”としか名付けようのない半生は、世界中に埋れているだろう、奇跡を知ることなく死んでいく私やあなたのような人々を癒す力を持っていました。今確かに分かるのは、彼の歌声やその半生を知って、少なくとも私は“私のような人間でも生きていて構わない”と感じたということです。今日だけは、神様や仏様ではなく、このロドリゲスに心から感謝したいと思いましたね。
そして、この映画で描かれたようなことがロドリゲスの身に実際に起こり、またこの映画が大ヒットした後も、70歳(現在)になった彼がギターを持ってステージで歌っている事実を思うと、やはり、彼の持つ底知れないパワーが、彼が本来生きるべき世界であった音楽へと彼を連れ戻したのだと考えざるを得ません。ミュージシャンとしての人生が失敗しても、泰然自若と自身の運命を受け入れ、生まれ育った街の中で居場所を見つけて正直に生きてきた彼に、何か人にあらざる意思が手を差し伸べたのかとすら思います。私自身は、まったく信心深い人間ではないのですけどね(笑)。

ロドリゲスという1人の人間を介し、彼の娘達、彼を探し続けた人達、南アフリカで彼の音楽を愛し、彼を待っていた人達、またデトロイトで彼と関わっていた友人達といった大勢の人間の人生が、緩やかに結ばれ、そこからまた新しい人生が紡がれていきます。そんな信じがたいことを軽やかに成し遂げたのは、ロドリゲスの類まれなる音楽でした。彼の歌声は南アフリカの反アパルトヘイト運動を支えたのみならず、その後の多くの人の人生も、そして彼自身の人生をも支えたことになるのです。



この珠玉のドキュメンタリー映画を“珠玉”たらしめたのは、ロドリゲスの人柄と、彼の人柄が結びつけたいくつもの人生の温もりと、もちろん彼が生み出した楽曲の素晴らしさです。このサウンドトラックは、70年代初期に2枚だけ制作、リリースされた彼のオリジナル・アルバムの中から、特に琴線に触れる名曲を選り抜いたベスト盤の趣がありますね。劇中でも繰り返し映像の背景に流れ、強い印象を放っていた楽曲群です。

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今作を観ていてもう一つ痛感させられたことの中に、いわゆる“海賊盤”の功罪と権利関係にまつわる複雑怪奇な事情がありました。どうか、このサウンドトラックが買われることで、彼にきちんと印税が支払われますように。その才能とたゆまぬ努力と内なる美徳に見合った対価を、彼が堂々と受け取れますように。祈るような気持ちで、私も彼のアルバムを購入するつもりです。

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