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zoom RSS …かくして人は、この世に生まれ出た。―“L'Animateur (The Animator)”

<<   作成日時 : 2013/02/01 12:28   >>

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今日こそは、今日こそは更新を休むぞと誓った日に限って、とんでもない傑作ショートムービーを発見してしまう法則。これは一体何と呼べばいいのでしょうね、マーフィーさん(苦笑)。

レイ・ハリーハウゼンの由緒正しき後継者が、約2年前にVimeoに投稿されたショートムービー作品群の中に埋もれていました。その名をNick Hilligossといいます。


こいつは神の使いか、それとも悪魔の手先か。

“L'Animateur (The Animator)”

L'Animateur (The Animator) from Nick Hilligoss on Vimeo.



「L'Animateur (The Animator)」(2007年)
Produced and Directed : Nick Hilligoss
Puppets, Lighting, Camera and Animation : Nick Hilligoss
Music composed : John Garden
Music Performed : Earthly Delights, and used with permission


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大宇宙の果てしなき向こう側から、光の玉に乗って飛んできた1人の男。えらく古めかしくも仰々しい…そう、中世の道化師のようないでたちである。鷲鼻で目は吊り上がり、口は耳まで裂けているのではないかと思われるほど。いっそ不気味な容貌である。しかもこの男、背中にえらく重そうな木箱を背負っている。一体何をしに、この岩だらけの不毛な星にやって来たのか。

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グロテスクな姿の先住民が、突然の珍客にさしたる関心も示さなくとも、道化師は一向に気に介さず優雅に一礼。木箱を開いて、あっという間に人形劇の舞台を設置した。殺風景な岩場が、暇をもてあました王侯貴族の集う宮殿のサロンに早変わり。そう、彼はこれから特別な人形劇を披露してくれるのだ。

彼が地面から一握りの土を掬い上げ、この小さな舞台の中央に盛ると、奇跡が起こり、そこから人型の木の人形が生まれ出てきた。カタチからしていわゆる“男”のようだ。道化師は、たった今生まれたばかりの男の姿を満足そうに眺め、舞台の中央に据えられた木の枝に、真っ赤に熟したリンゴをたわわに実らせた。その豊穣なる香りの素晴らしきこと、彼は男にリンゴを食べさせたいのだろうか?しかし男の方はリンゴが何かも分からないようで、枝からもいだ実をお手玉にして遊び始める始末。

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思い通りに動かない男に密かに舌打ちした道化師、魔法の手で男の隣にもう一体の木の人形を生み出した。そのカタチはいわゆる“女”であろう。

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男女の姿かたちがこんなにも違うわけ。出会った男女がくっついて一緒に何かしたいと思うように、そう設計されたのだとか。軽やかな舞踏音楽のリズムに合わせ、この人形たちも踊り始めた。観客である星の住民も楽しげに体を揺らす。

皆がご機嫌で踊っている傍らで、道化師は持ってきた杖に魔法をかけ、一匹のヘビを生み出した。ヘビは道化師の命令通り、するすると舞台のリンゴの木に登っていく。

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何をするのかと思いきや、ヘビはリンゴをもぎとると、無邪気に踊り狂う男と女のダンスを中断せしめ、リンゴの実を女の口に押し込んでしまった。道化師のもくろみは、やはりこの人形たちにリンゴを食わせることだったようだ。

そして、何が起こったか。

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生まれて初めて口にするリンゴの実の甘さに釣られ、女はつい二口三口とそれを咀嚼した。すると、彼女の体が堅い木の人形から、血の通う柔らかい肉の体へと変じたではないか。女は道化師に操られるまでもなく、すぐさま隣に立つ男にリンゴを食べさせた。

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男の体も女と同じように肉の塊と化し、彼らは私たち人間と全く同じ姿になった。彼らが自分たちの身の上に起こった奇跡に驚いていると、道化師もその様子を満足げに見つめる。

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木の操り人形であった頃は、素っ裸だろうと何も気にしていなかった男女だが、血肉を得たとたん自我も芽生えたようだ。まずは女が己の身体を覆うものを求め、リンゴの葉っぱを幾重にも重ねて“服”をこしらえる。“女”なるモノが我が身を他のもので飾り立てるようになったのは、この時以来だったのであろうか。

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ともあれ、操り人形たちはそれぞれに自我を獲得した。それを確認した道化師は、“もうこのお芝居はお終い”とばかりに、舞台の底を開いて生まれたての男と女を地上に落っことしてしまった。

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地上に放り出されて呆然とする男女と、お芝居の成り行きにあっけにとられる先住民たち。彼らの凝視をものともせず、道化師は手際よく人形劇の舞台装置を片付けた。そして、何事もなかったかのように木箱を背負うと、再びどこへともなく去っていくのだった。

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来た時とは逆に、今度は別の惑星に飛び立っていく道化師。こいつは神の使いかそれとも悪の手先か、それは誰にも分からない。

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今の私たちにできるのは、この道化師が地球と呼ばれる星にも降り立ち、誰も見ていない人形劇を上演し、一つがいの“男”と“女”を地上に産み落としていったのだろうと推測することぐらいだ。


この作品は元々、“Stopmoshorts ”というストップモーション作品専門のサイトで行われていた企画のために作ったんだ。いくつかのキーワードがお題として与えられ、僕らはそれらをテーマに含めて一つのショートフィルムを仕上げる。僕が挑戦したキーワードは“リンゴ、木、落ちる(fall)”だった。まあ、このキーワードですぐ思いつくモチーフは“ニュートンのリンゴ”だけれど、僕は、リンゴがニュートンの頭の上に落っこちた後のストーリーをひねり出すことができなかったんだよ。で、この作品が生まれたわけ。30秒の試作品をサイトのコンテスト期限までに仕上げ、その後数ヶ月かけてこのアイデアをショートフィルムに仕立て直したんだ。 ―VimeoでのHilligossのコメントから


神の守る豊穣の庭で、汚れ貧苦も知らず何不自由なく暮らしていたアダムとイヴ。庭に紛れ込んだ一匹のヘビの甘言に惑わされた彼らは、禁断のリンゴの実を食べる暗い誘惑に勝てませんでした。リンゴはどこまでも甘く、底なしの罪の味がしたことでしょう。リンゴを食べた瞬間、彼らは“羞恥”と“虚栄”というネガティヴな感情を覚え、裸の身体を厭うようになりました。結局、神との約束を破ったアダムとイヴは天界の楽園を追放され、着のみ着のまま地上に降りてきたというわけ。

アダムとイヴが私ら人間の祖先になったという、有名なお話を別の視点から解釈するとどうなるのか。この「L'Animateur」という作品は、アダムとイヴ神話にユニークな捻りを効かせたシニカルな一遍です。宇宙を股にかけて飛び回る“L'Animateur(道化師)”が、行く先々でアダムとイヴの逸話とそっくり同じ内容の人形劇を上演し、物語の進行に合わせて、舞台上で本物のアダムとイヴを産みだしてしまうという奇想天外なアイデア。最後は舞台の床がぱかりと開き、アダムとイヴを奈落に…つまり地上に…落っことして幕(笑)。この小さな木箱の中で繰り広げられる人形劇そのものが、壮大な人類誕生の神話を語っていたというオチも、意地悪な皮肉が利いていて面白いです。

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しかも、当初は自らの意思を持たない、ただのおとなしい操り人形だったアダムとイヴに、“誘惑”と“堕落”を吹き込むヘビをけしかけたのは、神の立場である道化師本人だというね(苦笑)。アダムとイヴを神聖なる神の子として生み出しておきながら、ほんの暇つぶしに彼らに無理やり悪戯をしかけ、結果的に彼らに悲劇をもたらしてしまうのが、他ならぬ全ての人類の父たる神様ではなかったかという見方。
確かに、人間の運命というものは時として、人ならぬものの意思によって知らぬ間に決定されているように感じることもありますね。その身勝手極まる存在こそ、私たちが神と呼んで崇め奉っているもの。非常にシニカルかつ自虐的な解釈ですが、ある意味、これは真理の一端を突いているのかもしれませんよ。

世界中で無情がはびこる荒廃した現在をみるにつけ、人類の歴史を最悪の結末に向かって歪めている私たちの暴走も悲劇も全て、神によってあらかじめ仕組まれた運命だったかもしれないとすら思います。ちっぽけな一市民がどうあがいたとしても、“最悪のオチ”を避けることはできないのかも。だって、倦むほどの長い時間を生きる神々が、退屈しのぎに人間を創り、全くの暇つぶしに人間の運命を狂わせているんですものね(笑)。所詮私たち人間のささやかな生など、飽きっぽい神々の手のひらで転がされる“遊び”に過ぎないのでしょう。

こうしてみますと、神様って人、間にとって一体全体どういう存在なのだろうと疑問を覚えます。私たちは神に平伏しますが、肝心の神の方は、残念なことに退屈過ぎて面倒くさくなったのか、私たちの声をさっぱり聞いちゃくれませんし。むしろその存在は、私たちにとって“百害あって一利なし”なものになっているのかも。…まるで、宗教が忌み嫌うところの、あの悪魔という奴とおんなじだ。ひょっとするとアレだ、神と悪魔って同一の存在なんじゃないの?毎日退屈でボンヤリしてた神様が、人間に向かってうっかりトンチキな悪戯をしかけてしまった→地上の人間大パニック!疑心暗鬼になってお互いを殺し合いまくり→ここでふと正気に戻った神様、“やっべーわ、これマジでやっべーわ”と冷や汗→人間に向けておもむろに“今のは悪魔が出てきてキミたちに悲劇をもたらした。悪魔を呼び寄せてしまったキミらの未熟さを悔い改めよ”とのたまって、事態を収拾する…とか(笑)。

今作は、長年アニメ制作に携わってきたNick Hilligossによって全てが手作りされた、伝統的なストップモーション・アニメの面白さが凝縮された一遍です。キャラクターの表情の変化や動作の細やかさは、今流行のCGアニメとはまた違うリアリティを感じさせてくれます。
またその一方で、中世風の古風ないでたちをしたキャラクターと、彼が惑星間を旅するというSF的な発想、人類創生という古代神話を背景に持つ、複数の時間軸がごっちゃ混ぜになったミクスチャー感覚が大変今風でもあります。手作りアート世界のストップモーション・アニメという伝統と、時間軸の自在な移動という現代風な感覚が合わさった、独創的な作品だと思いますよ。

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Nick Hilligoss
オーストラリア、メルボルン在住

ニュージーランドでグラフィック・デザインを学び、医療技術者として働く傍ら、演劇用の小道具を作っていた。その後25年間に渡りってオーストラリア放送局で小道具やスタジオなどの背景画、舞台装置を手がけ、ABC内のNatural History Unitでアニメーション映画制作に携わる。ところが、局の制作費大幅カットの煽りを受け、Natural History Unitは2008年に解散に追い込まれてしまう。Hilligossは長年働いたABCを去り、2009年に自身の制作スタジオを設立、以降はそこで独創的なストップモーション・アニメ作品を生み出している。


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