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zoom RSS 禍福はあざなえる縄の如し―「Blind Spot」(short movie)

<<   作成日時 : 2016/03/01 12:43   >>

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“blind spot =盲点、(車の運転者の)死角”

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“Blind Spot”

Blind Spot from Matthew K. Nayman on Vimeo.


directed by Matthew Nayman

「Blind Spot」(2011年)カナダ製作
監督、脚本、撮影、製作:Matthew Nayman
製作、特殊効果:Mike Boers
出演:Brandon Brackenbury(スティーヴン・ケアリー)
Jocelyn Geddie(空港のオペレーターガール)

スティーヴンは、今まで生きてきた中でもワースト10に入るだろう、散々な夕暮れを迎えていた。

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俺はただ飛行機のブッキングを変えたいだけなんだ。明日の朝のフライトを今晩のフライトに変えるだけなのに、何でこんなにオペレーター嬢と揉めなきゃいけないんだ。そりゃ確かに、もうすぐ空港に到着するっていうギリギリの時間になってから、予約を変更したいってのは客の我が侭かもしれんが。だがそれはお互い様だろう?仕事はこちらの都合なんぞ聞いちゃくれない。急遽今晩飛行機に乗らなきゃいけない事態が起こったんだよ。そんなことを言い出した客は俺がはじめてか?予約の急な変更なんて、これまでにも何度も扱ってきただろうに。それなのに窓口の受付嬢は、さっきから“できません”の一点張り。

スティーヴンが今晩乗りたいと希望している便は、既に予約の変更が無理な状況にあるらしい。オペレーター嬢は、“そこをなんとか…”とごねるスティーヴンに手を焼き、上司を呼んできた。その上司、スティーヴンが予約を変更するためには、キャンセル料金を含め、びっくりするような額の金を支払わねばならないと厳かに宣言した。金額を聞いたスティーヴンは一瞬黙り込んだ後、おもむろにクレジットカードを取り出してオペレーターに番号を告げた。

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OK。いいだろう。要はカネを払えばいいんだろ。しかし、なんてこった!ここで俺がミスってしまい、電話の向こうのオペレーター嬢は、今度こそ不機嫌さを隠しもせずに通話を終了しようとする。いやいやいやいや、ちょっと待て。それぐらいのカネはちゃんと払えるんだって。ちょっと番号間違ったぐらいで、そんなツンケンすんなよ。

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…なに?俺がその金額を払えませんだと?バカ言っちゃいけない。俺はその飛行機に乗りたいんだ。だから、譲歩してそのアホみたいな金を払うためにカードを…。おいっちょっと待て、なぜいきなり電話を切る?!…「クソッたれ!!」

その後何度か空港に電話したものの、全く繋がらない。いやはや、こりゃ最悪の事態だ。憤懣やるかたないスティーヴンだったが、結局、今夜の便の飛行機を逃してしまったことになる。だが、携帯はおろか、カーラジオをつけてもザーザーという雑音が流れるばかりの状況に、妙な気配を察知したスティーヴンが、ようやく窓の外に目をやった。

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運転席の彼の方からは、ちょうど死角になってしまう左横の光景が彼の視界に飛び込んでくる。それは、天高く聳え立つ空港付近のビル群が、大爆発によって小枝のようにポッキリ折れ、崩れていくという、およそ信じがたいものだった。空港で一体何が起こっているのか。よりによって、その空港のオペレーター嬢とずっと押し問答を続けていたスティーヴンには、もちろん何がなんだか分かるわけがない。ただ彼が確認できたのは、まるで核爆発でも起こったかのような凄まじい光の塊が空港付近を埋め尽くしたことと、その直後に、地響きが彼を車ごと揺らしたことぐらいだ。

非常事態を認識したスティーヴンが車の中から転がり出た頃、ようやく彼の耳に、軍のヘリコプターのエンジン音や救急車が狂ったように鳴らすサイレンの音が入ってきた。

…つまり我らがスティーヴンは、およそ人として生きる上で最悪の部類に入る禍いを辛くも逃れていたのだが、彼がそれに気づくのはもう少し先のことになるだろう。

映画祭出品:
2011年度Austin International Film Festival
2011年度Toronto After Dark Film Festival (Audience Choice Award受賞)
2011年度Leeds International Film Festival
2012年度Miami International Film Festival
2012年度Boston Sci Fi Film Festival
2012年度London Sci Fi Film Festival


この「Blind Spot」、製作は2011年のショートムービー(カナダ)だそうですが、Vimeoの方に改めて投稿され、ショートならではの面白さが評価されました。私もVimeoではじめて観たクチなのですが、一つのアイデアを最大限生かした演出はショートムービーだからこそ成り立つともいえるでしょうね。

この手のストーリーでは、起承転結の“転”に該当する部分をどこでどのタイミングでもってくるかが、演出のカギになると思います。この作品では、車の中にいる男の横顔という、一見すると平坦な配置の中でその“転”調を導入するべく、面白い試みがなされています。カメラの焦点を常に車中の主人公の横顔に合わせている風に装いつつ、実際のところは、遠近法を利用した画面の奥の方で起こっている不鮮明な出来事(主人公からは死角になっている部分)に観客の注意を誘導する方法が取られています。

主人公が電話口で怒鳴る片隅では、高層ビル群から煙がもくもくと立ち上り、空の彼方から飛行機らしき物体が火だるまになりながら落下する様子もぼんやりと見え、ヘリコプターや救急車のサイレンの音がBGMのように遠くから聞こえてくる…。“あれっ?!なんかちょっと様子が変じゃない?!おかしいよ?!何か異常なことが起こってるよ!!”という疑惑と不安と焦燥が、先に観客の側で大きくなっていくわけですね。この部分が“転”。そして、夕陽の輝きと一瞬見まごう程だった爆発の光が、ビルが倒壊していく段階になってようやく非常事態発生を確信させるに至り、遅ればせながら事態に気づいた主人公と共に、観客も存分に愕然とするクライマックスが“結”ですね。ここで、映像の焦点が、実は主人公ではなくその向こう側に存在する世界に結ばれていたことも明らかになります。

一枚の絵画を鑑賞していたら、その絵のある箇所から、ふとした拍子に一筋の煙が立ち上ってくるのが視界に入ってきた。そして、それが絵の表面に黒いしみを広げながら徐々に広がって、しまいには炎が絵全体を舐め尽くしていく様子を、スローモーションで見つめているような感覚でしょうかね。

主人公スティーヴンと空港のチケット窓口のオペレーターガールとの、電話を介してのやり取り(ケンカ腰・笑)のみで展開していくストーリー、そのごくごく日常的な現実の片隅で、突如とてつもなく非現実的な出来事が顔を出す。観客はそれを早い段階で察知するというのに、肝心の我らが主人公は、“死角”に守られているために気がつかないという皮肉。

男が飛行機のチケットの予約を変更するという平々凡々なストーリーと平行して、あの9.11を思わせるような未曾有の大惨事が起こっている光景を見ていると、9.11のときにしろ昨年の3.11にしろ、実際に大惨事が発生したときの多くの一般人が置かれた状況とは、このようにシュールなものだったのだろうと思います。

もちろん、直接的な被害に遭った人たちにとってはそれどころじゃない事態でありますけどね。そんな天と地がひっくり返ったような状況を、為す術もなくただ外から見つめるばかりの人間にとっても、あって当たり前だとどこかで信じ込んでいる“普通”の日常生活とは、決してあらかじめ約束された権利でもなんでもないことが思い知らされます。私たちが飽き飽きしつつ営んでいる、“平凡ながらも普通の日常”なんてものは、万に一つの偶然が積み重なって、辛うじて実現できている奇跡の上に成り立っているもの。私たちは、車に乗り、道路の渋滞にとっつかまり、仕事に出かけ、時には空港のオペレーターガールとケンカするような、そんな平和な日常生活を送れる幸運に、心から感謝しなければいけないのでありますよ。

過酷きわまる非現実は、私たちが住む日常の傍を片時も離れることなく存在しているのですから。

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