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zoom RSS あなたが失くしたものは何ですか?―「The Lost & Found Shop」

<<   作成日時 : 2015/06/23 18:07   >>

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もし、失ったものを取り戻せるとしたら、あなたはどうしますか?…若きフィルムメーカーCaleb Slain、弱冠19歳でものにした珠玉の短編映画。

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「The Lost & Found Shop」

The Lost & Found Shop from Caleb Slain on Vimeo.



たったの二日半で撮りあげ、制作費はわずか1200ドル。出演者は全員素人。でも学生の卒業制作映画じゃない。この映画「The Lost & Found Shop」は、プロのフィルムメーカーになることを意識して、19歳のときに撮った作品だ。そしてここには、“なくしたモノ”に対する人間の思い入れが描かれている。―90年代の申し子、Caleb Slainより

監督:Caleb Slain
Vimeo: https://vimeo.com/calebslain
Twitter: https://twitter.com/calebslain
Favebook: https://www.facebook.com/CalebSlain?fref=ts&pnref=story

'The Lost & Found Shop' 公式サイト: https://www.facebook.com/TheLostandFoundShop

●受賞リスト
NATIONAL FILM FEST FOR TALENTED YOUTH (NFFTY) 2011
Best Short Film
Audience Award Opening Night
Most Promising Storyteller Scholarship
CINEYOUTH FF 2011
Best Short Film
DETROIT INDEPENDENT FF 2010
Best Director
Best Supporting Actress
BLUE WATER FF 2010
Best Director
Best Screenplay
Best Cinematography

●この作品を取り上げた映画祭リスト
Chicago Int'l FF 2011
West Chester FF - 2011
East Lansing FF 2010
Grand Rapids FF 2010
Waterfront FF 2010
Detroit Windsor International FF 2010
The Doorpost Film Project 2010 (Top 20 Finalist)


片田舎の外れにひっそりと建つ店「The Lost & Found Shop」は、その古めかしい外観にそぐわず、今日も訪れる客で大混雑だ。シャツをなくした者、手袋の片方だけをなくした者、夢をなくした者、etcetc。そう、この店は、奇妙な店名の通り、“失くしたもの”を持ち主に代わって探し出してくれる店なのだ。
しかし人間とは勝手なもので、自分でちょっと探せばすぐ見つかるようなものでも、探す手間惜しさに来店する者や、どう考えても探しようのない漠然としたものまで依頼してくる人間が引きも切らない。店主はわがまま勝手な注文ばかりつけてくる客達に、ほとほとうんざりしていた。だから彼の顔はいつも怒っている。店の裏には、様々な人間が失くしたものが保管してある広大な倉庫があるのだが、くだらない依頼をしてくる客には、倉庫をあたる手間も省いてまともな応対もしないようになった。

今日も今日とて“失せモノ見つけ屋”店主は、骨董屋と勘違いしてやってきたまぬけな客や、素っ頓狂な“失せモノ”を探せと命令するおかしな客相手に、青筋立てて怒鳴りつけていた。そこへ、列を無視してスルスルと店主の前にやってきた赤いコートの少女が一人。当然、順番を守れない子供に怒りを露にする客と店主だったが、聞けば、彼女は遠いところにある家からバスを乗り継いでわざわざやってきたという。しかも、店主の前にでんっと札束を置いた。
「これで、私の“思い出”を探して欲しいの」
店主は、札束の威力に負けて少女の注文を聞いたが、小さな子供の途方もないお願いに再度眩暈を覚えた。一体何についての“思い出”なのかも分からないという。一体全体、忘れてしまった記憶をどうやって探せと?店主は依頼を断るが、いたいけな子供の頼みに、他の客が助け舟を出した。“家族にまつわる思い出”らしいことまでわかり、その漠然としたキーワードを頼りに仕方なく倉庫を探すが、見つかるわけがない。店主は諦めて少女を帰そうとするが、彼女は自分で倉庫にもぐりこんでいった。怒り心頭の店主。無理なものは無理だ。いくら可愛い子供の頼みでも、できることとできないことがある。そして自分には、むしろできないことの方が圧倒的に多いのだ。
だが、このとき少女は埋もれていた記憶のかけらを思い出した。
「ママよ!探しているのは、ママの思い出なの!」
クリスマス…私のおうち…最愛のママ。店主と少女は、ついに目的の失せモノを探し当てた。

“記憶再生装置”をレジ横に持ってきた店主は、少女と他の客と一緒に彼女が失くしていた“ママの思い出”を画面に再生し始めた。

クリスマス。画面には、広い居間に飾られたクリスマスツリーの根元にたくさんのプレゼントが置いてあるのが見える。これは少女の目から見た“記憶”の再現なのだから、当然クリスマスの楽しい華やいだ雰囲気であって然るべきだが、それにしては画面の様子が変だ。階段の下には何かが散乱し、ガラスの割れる音が聞こえ、続いて女性の金切り声が辺りに響いた。少女は急いでテーブルの下に隠れる。息を潜める少女と一緒になって食い入るように画面に見やる客達。声は階段の上から聞こえてくる。女性は、もう我慢ならない、この家を出て行く!と叫び散らしている。男性―おそらく少女の父親だろう―は、うろたえつつも必死に妻をなだめようとしている。しかし妻―少女の母親―は、追いすがる夫の手を振り切るようにして、足音も荒く玄関から出て行った。少女は慌てて玄関のドアに走り寄る。一瞬、ドアのガラス越しに母親が娘の顔を見つめた。悲しみのせいか、その顔は酷く歪んでいた。…その直後、母親の姿は消えた…。

思い出再生が終了しても、お通夜にでも出席したかのように、皆が重く口を閉ざしていた。“穏やかさ”を失くしたとわめいていた変人ですら、しおらしく黙りこくっている。その沈痛な空気を破り、少女は嬉しそうに店主にお礼を述べた。
「ほんとにありがとう!探していたのはこれなの!ありがとう!これ、お礼ね」
少女が差し出した札束を、しかし店主は受け取らなかった。バスが到着していた。それに乗り遅れてしまったら、彼女は家に帰れなくなる。謝礼を受け取ろうとしない店主をいぶかしそうに見つめていた少女だが、他の客に促され、もう一度元気いっぱいにありがとうと叫ぶと、店を飛び出していった。
なおも呆然とドアを見送る店主の前に、袋いっぱいに詰め込んだ小銭をぶちまけて、にこにこしながらお金の数を数え始めた青年が現れた。彼の注文も、また途方もなく現実味を欠き、他の人間にとってはどうでもいいような、愚にもつかぬことなのだろう。いつもなら、とっとと店から叩き出す類の客だ。しかし店主は、彼を邪険にすることなく、うっすらと笑顔さえ浮かべるのだった。わかった、オーケイ、俺が探してやるよ。
あんな辛いばかりの酷い思い出でも、少女にとっては失くしてはいけない大事な大事な宝物だったのだ。ここは、単に失くした“モノ”を探しにくる人間のためではなく、失くした“宝物”を取り戻すためにやってくる人間のための店だ。客達は、失くしてしまったものを忘れられず、それを失ったままでいることに耐え切れず、この店にやってくるのだから。

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処女作「The Lost & Found Shop」で、19歳とは思えぬ滋味深いストーリーテラー振りを見せ付けてくれたフィルムメーカー、Caleb Slain。作品の演出に際し、“画面上に何を見せ、何を省くべきなのか”を直感的に理解しているタイプの映画作家のようです。登場するキャラクターを観客に理解してもらうために、何をどんな風に描けば良いのか、誰に教わらずとも分かっている人なのかもしれません。連綿と続く映画の歴史の中では、このような天才肌のフィルムメーカーが稀に現れることがあります。

そして、“鄙びた田舎の片隅にひっそりと佇む店は、失ってしまったものを見つけ出してくれる不思議な場所だった”という、ちょっぴり現実離れしたストーリーを通じて導き出されるのは、古今東西を問わず普遍的な感情です。いわく、今はもう手元にない“思い出”の大切さ。例えそれが、他人からすれば埒もないちっぽけなものであったとしても、それを取り戻すことによって、立ち往生していた人生が再び前進し始めることもあるのです。くだんの女の子にしても、どんなに悲しい思い出であろうが、母親にまつわるせめてもの記憶を、これからの厳しい人生の支えにするのでしょう。
過去の彼方に風化させなかったために、却って今現在の自分を苦しめたり、時に悩ませたりすることも起こるかもしれませんが、それでもやっぱり自分自身を形作る大切な要素である…。それが、この“失くした思い出”であるのです。

『The Lost & Found Shop』は世界中の映画祭で驚きをもって迎え入れられ、その後ドキュメンタリー・ショート・フィルムの秀作『Juggle & Cut』、自らの戯曲を映像に仕立てた、死に関するシュールかつブラックなショート・コメディ『Free Pie』、また、インドの山奥にある“文明から忘れられた村”の女性と子供たちの厳しい生活の現状と、その村で子供たちのために働く非営利団体リーダーなどを彼自身が案内人となって取材したドキュメンタリー・ショート・フィルム『Welcome to the End of the World』、コマーシャルやゲームなどなど、独自の映像作品をマイペースで作り続けているケイレブ。ドキュメンタリー作品でもオリジナルの劇映画作品でも、彼は本当に自分の個性を見失わず、それでいて元々優れていたカメラワーク、編集やストーリーテリング、音楽の使い方など、持てる資質を作品ごとに着実に進化させてきました。きっとこれからまだまだ成長していくのだろうと思わせる、本当に素晴らしい映画作家です。

メインストリームで“Caleb Slain ケイレブ・スレイン”の名が大々的に語られるのも時間の問題でしょうし、彼は賞賛に値する大きな才能の持ち主だと思います。しかし一方では、ハリウッドに青田刈りされて、成長する前の若芽が摘み取られてしまうのも嫌だという気持ちもあり(苦笑)。インディーとメジャーの差が全くなくなってしまった今なら尚更ね。とにかく、彼の今後の活躍を見守ることにいたしましょうか。


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