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zoom RSS 信念が正しいとは限らない…「裏切りのサーカス Tinker Tailor Soldier Spy」

<<   作成日時 : 2016/10/12 12:34   >>

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最後にゲイリー・オールドマンの面白いインタビュー動画を追記しています。大変に濃い内容のディスカッションになっているので、ぜひご覧になってくださいね。

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名古屋における「裏切りのサーカス Tinker Tailor Soldier Spy」の劇場公開は、2012年7月下旬からやっと始まったかと思いきや、たった2週間の上映でとっとと公開が終わってしまうという、言いたかないけど非常に雑な扱いでした。

とてもじゃありませんが、アカデミー賞二部門(脚色賞と主演男優賞)にノミネートされた優れた作品への敬意といったものなど、感じられませんでしたね。この作品を上映してくれた映画館に文句を言いたくはないけれど、扱う作品への愛情と敬意がなければ、今日び映画館経営は不可能だと思う。
日本経済の良し悪しなんて、映画の興行成績には本来関係ありません。だってそうでしょう?景気が悪かろうが良かろうが、いつだって私たちには娯楽が必要なんですから。数ある娯楽の中でも、映画はかなり手っ取り早く満足感が得られる格好のツール。そのお手軽な娯楽が賑わわないということは、それを提供する側に問題があると考えたくもなる。
昨今、アートシアターやミニシアターという単館でがんばってきた映画館がどんどん潰れていく傾向にあります。それもこれも、質の高い映画を見抜き、楽しめる力を持った観客を育て、映画に興味のない人たちに映画の面白さを啓蒙していくような、情報発信の場が奪われてしまっているから。それをしないことには、映画を良く観る世代より下の世代から映画を愛する観客は生まれない。

…話がそれましたが、とにかく、映画を紹介するレギュラーのテレビ番組やラジオ番組が必要だよということが言いたいわけです。しかも早急に。そして、日本に映画のロケをもっともっと誘致できるよう、今の日本の政治を牛耳っている連中を駆除してください。手遅れにならないうちに。日本という国家への信頼度は、数字に表せば今マイナスです。しかもどんどん下がり続けている。くれぐれも、日本が滅亡する前に政治家を一掃し、国際感覚をちゃんと身につけた、少なくとも常識を持った神経のまともな方々に政治を任せないとね。

結局私は、この作品を映画館で通して2回観賞しました。英国情報部の中に入り込んだ二重スパイ“もぐら”を追い詰めていく、ジョージ・スマイリーの静かなる戦いを追う上質のサスペンスに飲みこまれるのですが、それ以上に、メインストーリーの中で語られることのなかった“もう一つの物語”のあまりの痛ましさが浮き彫りになり、思わず涙してしまいましたね。


今思い出しても切ねぇっ。・゜・(ノД`)・゜・。
何なんだよ、哀しいじゃねぇかっ。・゜・(ノД`)・゜・。
スパイ・サスペンス映画なのに、何故にこんなに切ねぇのかっ。・゜・(ノД`)・゜・。
何故こんなに悲しくて人間臭いドラマができるのっ。・゜・(ノД`)・゜・。
誰かおせーてっ。・゜・(ノД`)・゜・。


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基調は、70年代初期のスパイ映画を忠実に踏襲した静謐なイメージです。でも、作品の背骨にピンと張り詰められた細い細い糸が、時折吹いてくる突風に危うく揺れながら、いよいよ切れてしまう時を息を詰めて見守っているような、冷厳な緊張感が終始漂っていました。

時は60年代後半から70年代初期、第二次世界大戦は米ソの“冷戦”に引き継がれ、世界中がこの二つの大国の動向に翻弄された難しい時代でした。この時期、世界中でスパイが暗躍していたといわれますが、原作である「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」を書いたジョン・ル・カレも、元はMI5、MI6で働いた経験を持つ人でした。その彼自身が身をもって体験したスパイの非情な世界を、きわめてリアルに精緻に描いたのが、およそ“スパイ”というイメージからは遠いキャラクターのジョージ・スマイリーが活躍する作品群であったわけです。

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ル・カレが莫大な情報と豊富な経験を元に描くスパイの世界は、決してマシンガン片手に走り回り、美女の尻を追っかけまわすような軽薄なものではありません。得られた情報を元に分析し、推理し、それに関わる人間達―時には自分自身でさえも―を厳しく観察し、洞察する能力こそが、スパイに求められる資質なのであります。奇しくも元工作部員であったジム・プリドーが、彼に懐いてきた孤独な少年を“優秀な観察者”と呼び、その能力は“孤独な者特有の資質だ”と表現しますが、まさにその通りですね。情報をかき集め、分析し、推理し、敵より先に真実を探り当て、出し抜くこと。場合によっては味方を欺くことも断行せねばならない、狐と狸の化かし合い。腹に一物も二物も持つ連中による、果てしない腹の探り合いたる心理戦こそが、スパイの世界の真骨頂なのです。そんなスパイには、誰も信じることができないゆえの孤独はつきものであります。

しかしその中で展開されるのは、賢くて愚かで愛おしい人間たちが織り成す、紛れもない人間ドラマでもあります。時代や体制、信念に翻弄された人間たちが不器用に交錯するドラマが、この傑作サスペンス小説を原作に持つ傑作サスペンス映画の大きな大きなテーマなのです。それはあまりに哀しく、物語を牽引する老スパイ、ジョージ・スマイリーの哀しげなまなざしに万華鏡のように映し出されていく様々な情景(サイドストーリー)の一つ一つが、観る者の心に抜けない棘を残します。だからこそ、この作品はとても特別なスパイ映画になったのでしょうね。

ロングショットを多用した多分に建築的で構造的な映像、いかにも70年代らしい風俗を見事に活写した小道具、衣装、ヘアスタイル、セピア色やくすんだ灰色にゆったりと沈んでゆくヨーロッパの風景…等々も素晴らしく、観客を陶然とした境地へ誘います。しかし中でも特筆すべきは、最小限に抑えられた音楽の適材適所の使われ方でしょう。今作は、かなり唐突に回想シーンに飛んだり、かと思えばふいっと現在のシーンに戻ってきたり、まさに万華鏡のようにくるくると時間軸を移動していきますが、それを滑らかに違和感無く観客に提示するために、クッションのような役目を果たすのが音楽だといえるかもしれません。説明的な台詞は最小限に抑えられていますし、映像の背後にわざとらしい音楽を大音量で流すような不粋な失敗は犯さぬ今作、この神経質なまでに堅持される静謐さは、一つにはスマイリーのキャラクターでもある“寡黙さ”に端を発すると思われます。そんな中で、ここ一番というときに効果的な音楽がスクリーンに降り注ぎ、言葉では説明できない状況や登場人物の心情を代弁するというわけなのですね。

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この音楽と効果音(飛行機の離着陸時の騒音やハエ、ハチの羽音など)を最大限に活用してサスペンスを盛り上げる演出の妙は、特に冒頭のジム・プリドーによるハンガリーでの工作シーンで顕著に現れます。ぐっとカメラを引いての全景ショット、主要キャラクターの表情筋の動き一つ一つまでも微細に映し出すクローズアップショット、人物の心理状況を雄弁に物語る不気味な周囲の風景…と、せわしなく切り替わっていくカメラの効果は、ここで一度最高潮に達しているといってもいいと思いますね。冒頭のシーンを見た瞬間、私はこの作品が素晴らしいものだと確信できました。

もう一つ、良い映画に欠かせない要素である“編集”も、台詞を最小限に絞った代わりに挿入される、心象風景とフラッシュバックを見事につないだ妙技をもっと評価する声があってもいいと思います。長い長い原作小説の重要なエッセンスのみを抽出し、映像表現に適した形に再構築した脚本同様、今作を“映画ならではの最良の作品になった”(ル・カレ談)事実に大きく貢献しているでしょう。

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今作を通して観て、最初に持った感慨は“哀切な”というものでした。その次に観たときに唸ったのは、“映画全体に仕掛けられた巧妙さ”です。それでいて、作り手側の“どうだ!”といわんばかりの不粋な鼻息は、そよとも感じられない控えめな佇まい。英国情報部トップに潜むソ連の“もぐら(二重スパイ)”を燻りだす任務についたスマイリーは、我慢強く、地道に、黙々と頭脳・心理戦を戦います。しかし、当初は少し離れた場所からそんなスマイリーを見つめていた観客もまた、映像の端々に示唆される様々なヒント、スマイリーが分析する情報、微妙に空気の流れを変えていく周囲の状況を敏感に察知するうち、いつのまにかスマイリーと共に“もぐらは誰だ?”というミステリーの真相を求め、スクリーンを凝視しているのですね。

いやはや、久しぶりに己の頭脳をフル回転させてくれる映画に出会いました。大好きなサスペンス映画ジャンルの中でも、群を抜いて知的な仕上がりでありました。それでいて、何度咀嚼し返しても、どこまでも美しく、他の追随を許さぬ孤高のアーティスト魂を強烈に感じさせる。そして、最後に残る余韻は哀しいエモーションだというね。巧妙に正体を隠していた“もぐら”の実像が暴かれ、なぜその人物が二重スパイになったのかを考えた時、観客は嫌でも思い知らされるのです。“自分の信念が必ずしも正しいとは限らない”という、砂を噛むごときの現実の苦々しさを。

ここ数年間に見た映画の中で、間違いなく、個人的に最も愛する作品になったのは確かです。

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「裏切りのサーカス Tinker Tailor Soldier Spy」(2011年)
監督:トーマス・アルフレッドソン Tomas Alfredson
製作:ティム・ビーヴァン&エリック・フェルナー&ロビン・スロヴォ
製作総指揮:ジョン・ル・カレ&ピーター・モーガン他。
原作:ジョン・ル・カレ John le Carre 『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』
脚本:ブリジット・オコナー&ピーター・ストローハン
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
プロダクションデザイン:マリア・ジャーコヴィク
衣装デザイン:ジャクリーン・デュラン
編集:ディノ・ヨンサーテル
音楽:アルベルト・イグレシアス
出演:ゲイリー・オールドマン(ジョージ・スマイリー)
コリン・ファース(ビル・ヘイドン)
トム・ハーディ(リッキー・ター)
トビー・ジョーンズ(パーシー・アレリン)
マーク・ストロング(ジム・プリドー)
ベネディクト・カンバーバッチ(ピーター・ギラム)
シアラン・ハインズ(ロイ・ブランド)
キャシー・バーク(コニー・サックス)
デヴィッド・デンシック(トビー・エスタヘイス)
スティーヴン・グレアム(ジェリー・ウェスタービー)
ジョン・ハート(コントロール)
サイモン・マクバーニー(オリヴァー・レイコン)
スヴェトラーナ・コドチェンコワ(イリーナ)
ジョン・ル・カレ



最後に、この作品の宣伝の一環で主演のゲイリー・オールドマンが受けたインタビュー動画の中でも見応えのある面白いものを共有しておきます。

まずは、当館ではおなじみの30分一本勝負インタビューDP/30から。途中、電話の呼び出し音が鳴るアクシデントにもめげず(笑)、映画の話から、彼を敬愛する多くの若手俳優たち(ファスの名前も出てくるよ)に至るまで、幅広い話題についてゲイリーが大いに語っています。

DP/30: Tinker Tailor Solider Spy, actor Gary Oldman


次は長いインタビュー動画です。1時間超えますので、飲み物の準備をしてからご覧ください。ニューヨーク映画祭を主催しているFilm Society of Lincoln Center恒例のロング・ディスカッションですね。司会のリチャード・ペーニャと共に、主に「裏切りのサーカス」について話しますが、それ以外にも、駆け出しの頃の苦労や他の出演作品についても大いに語っているので、ゲイリー・ファンの方々は必見だと思いますよ。

A Conversation with Gary Oldman


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ショーンに、こんな映画に出て欲しいんだよなあ…(ため息)。マーク・ストロングが演じたジム・プリドーのような役をショーンが演じてくれたら、ワシ、もう死んでもいいかも。思い残すこたぁないわ。

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