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zoom RSS ひねくれ者の純情―“かいじゅう”たちとモーリス・センダック

<<   作成日時 : 2013/06/11 05:53   >>

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さよなら、モーリス。2012年5月8日、「かいじゅうたちのいるところ」等の作品で名高い絵本作家モーリス・センダック氏が、コネチカット州のダンベリーで死去しました。享年83歳。

氏はきっと、“かいじゅう”達が待つ島に旅立ったのでありましょう。そこで彼は王様となり、かいじゅう達と楽しく暮らすのです。どうか、彼の地でお幸せに。


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モーリス・センダック Maurice Sendak

1928年6月10日生まれ
2012年5月8日死去
アメリカ、ニューヨーク州ブルックリン出身

ポール・マザースキー監督やウッディ・アレン監督と同様、アメリカの名物絵本作家モーリス・センダックにとっても、ユダヤ人であるという自身のルーツと、彼が創造する作品世界とは切っても切れない関係にある。

“センダック”というエキゾチックな苗字から察せられる通り、両親はポーランドから移住してきたユダヤ系移民である。ブルックリンのゲットーで生を受けた彼は、しかしタフな住環境とはそぐわず、幼い頃は病気がちであった。彼が生まれた同じ年にミッキーマウスも誕生しており、以来、彼はミッキーマウスというモチーフの虜となる。そのミッキーが狂言回しとなって登場するディズニーの名作映画「ファンタジア」は、多感なセンダックの心に強烈な印象を与え、後年絵本作家として独自の世界を展開することになる彼の、インスピレーションの源ともなった。
高校を卒業した後、ニューヨーク市内の玩具店でショー・ウィンドウを飾り付ける仕事に就いたが、アート・ステューデンツ・リーグの夜間部に通い、苦学しながら商業デザインも学んだ。19世紀の英国で出版された古い絵本や20世紀に入ってスイスで刊行された絵本など、細密なイラストに彩られた作品に多大な影響を受けたという。また、プロになる前は、ランドルフ・コールデコットの作品の模写を好んで行っており、細部まで緻密に描きこんでゆくヨーロッパの古典的なイラスト手法を身につけた。
23歳で初めて絵本の挿絵を描く仕事を請け負い、イラストレーターとして独り立ちした。1995年に亡くなった兄ジャックが児童文学作家であったことから、自然と絵本制作に関心が移り、以来80冊を超える作品を上梓している。1952年にニューヨーク・タイムズ年間最優秀図書に選出された「あなはほるもの おっこちるとこ」で、絵本作家として名声を確立した。彼の作品の中で最も有名な「かいじゅうたちのいるところ」は、1964年にコールデコット賞を受賞し、世界中でベストセラーになる。しかしながら「かいじゅうたちのいるところ」に関しては、その特異な世界観と、センダック自身のパーソナリティーを投影した主人公の少年のひねくれ具合がモラルに反すると判断され、作品発表当時は子供の親世代から批判を浴びてしまったという。大人のモラルと思想を押し付ける“教育的な”絵本でないのは確かだが、子供のアイデンティティと子供の世界を尊重する自由な発想は、自我の芽生え始めた子供たちの圧倒的な共感を呼んだ。大人の観賞に耐え得る緻密でリアルな暗い色調のイラストと、対照的にディズニー・アニメばりのドリーミーなキャラクターの描き分けが、摩訶不思議なセンダック・ワールドを形作っている。それを真っ先に理解したのは、他ならぬ子供たちだったというわけだ。
1970年には国際アンデルセン賞画家賞を受賞し、1982年には「まどのそとのそのまたむこう」で第33回全米図書賞の児童文学部門を授与された。1983年にはローラ・インガルス・ワイルダー賞を与えられ、名実共にアメリカを代表する絵本作家となる。その後のセンダックは、絵本やイラストのみならず、アニメーション制作やオペラ舞台製作など、活動範囲を広げてゆく。児童文学への長年の功績が認められ、2003年にアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞した。

●絵本

「かいじゅうたちのいるところ」
「まよなかのだいどころ」
「まどのそとのそのまたむこう」
「とおいところにいきたいな」
「きみなんかだいきらいさ」文:ジャニス・メイ・ユードリー
「おふろばをそらいろにぬりたいな」文:ルース・クラウス
「そんなときなんていう」文:セシル・ジョスリン
「ロージーちゃんのひみつ」
「7ひきのいたずらかいじゅう」
「くるみわり人形」文:E・T・A・ホフマン

NYのユダヤ人コミュニティに生まれ育ったものの、常にアウトサイダーとして違和感を抱えながら生きてきたことが、彼の諸作品に大きな影響を与えているといわれます。彼の作品には常に、大人の世界観に疑問を抱いてはいるけれど、かといって普通の子供たちと一緒に群れる習性は持たず、周囲からは浮いた存在の子供達が登場します。確立し始めた自我をもてあまし、母親に精一杯反発しつつも、当の母親から理解を得られないまま孤立することに煩悶する子供…。親に愛されたい、けれど親の言いなりにはなりたくないという、揺れ動く矛盾した感情を抱える子供たちは、とりもなおさず、幼少時のセンダックの姿そのままであったわけですね。それこそ、子供の目にしか見えないであろう幻想的な冒険を経て、逡巡の結果、彼らは元いた家庭に戻っていくという流れが、ストーリーの中に組み込まれています。

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冨山房
モーリス・センダック

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センダックの代表作のひとつ「かいじゅうたちのいるところ」も、イタズラがすぎてお母さんに怒られ、勢いで現実世界を飛び出した主人公が、怪獣のいる島を冒険した後に一回り成長して我が家に帰ってくるというお話です。子供達が、現実と空想の世界の軋轢に苦しみながらもなんとか折り合いをつけていく様が、物語に大きなリアリティを与えていると思いますね。でも、子供が帰ってきたときには、お母さんは食卓にちゃんと暖かい夕食を用意してくれていたというオチがついています。親としては、子供たちが帰るべき家庭のあり方についても、考えさせられる内容でありましょう。

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この作品が、奇才スパイク・ジョーンズ監督によって完全映像化されたのも記憶に新しいところ。怪獣達のビジュアルは、センダックの描いた挿絵そのもので、絵本に馴染んだ人にとっては“動く絵本”の印象も強かったと思われます。しかしながら、ストーリーの方は一筋縄ではいきませんで、原作絵本にはなかった怪獣達の悲しいバックグラウンドが付加されたり、主人公と母親にリアルな相関関係が設定されたりして、“絵本の映画化”という先入観から観客が予想するような、ハートウォーミングな作品とは一線を画しておりました。御伽噺をうたいながら、その実、作品が描こうとするものは子供の抱える苦悩であり、また大人の目には不可解に映る子供の哲学であり、“成長する”ことの痛みであったのですね。子供の生態が生々しく反映されているといった点で、むしろ大人の観客にはいたたまれなさを強いる内容であったと思います。

映画版を観た人の中には、原作絵本が発表されたときと同じように、やはり作品そのものを批判する意見も少なくありません。なにしろ、ビジュアルはリアルすぎてグロテスク一歩手前だし、少年と怪獣達の行動も、子供の論理に基づいているもんだからかなり身勝手。まあ、ぶっちゃけ、可愛げがないんですわ(笑)。ですが、主人公の少年のキャラクターや生活環境にしても、怪獣たちの関係性にしても、ジョーンズ監督とセンダックが共同で何年にも渡って構想を練ってきた結果であり、原作絵本の方も、本来ならばこのようなシニカルな内容になるはずだったのです。いってみれば、映画版「かいじゅうたちのいるところ」は、センダックが理想とする完成形に限りなく近い“子供のための”物語になったということなのですね。まあそもそも、大人の考える“子供の可愛らしさ”なんてぇものは、あくまでも、大人がそうであって欲しいと妄想する子供の姿であるわけで、真実とは異なるはず。子供にしてみれば、勝手な理想像を押し付けてくるのはむしろ大人の方ではないかと、反論したいところでしょう。

映画が完成したとき、製作会社であるワーナー・ブラザース社は、予想以上に悲しく暗いストーリー展開に難色を示し、単純明快なハッピーエンドにするよう撮り直しを要求しました。そのため作品の公開日程は延び延びになり、ジョーンズ監督以上に原作者であるセンダックが怒り心頭に発しました。スクリーニングに参加した子供の親世代の観客から辛口の批評が出た際には、これに真っ向から反論し、“映画がいわんとするメッセージが理解でないヤツは地獄に堕ちろ”と吼える始末(笑)。幼い頃から、“アウトサイダー”として疎外感と戦ってきたセンダックにしてみれば(センダックはまた、ゲイであることをオープンにしている)、子供が持つデリケートで複雑な心理世界を、親の方が率先して理解するよう努めるべきだと主張したいのでしょう。従来の古いモラルに則った、お仕着せの子供像こそ、親と子供の断絶を促進してしまう危険極まりないシロモノだと。

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子供の視点で彼ら子供自身の物語を語ろうとすれば、おそらくは、この映画版「かいじゅうたちのいるところ」のような風変わりで、自由で、でもどこか物悲しい、そんなストーリーになると思います。ですがそのほろ苦さも、悲しさの向こう側にぼんやりと映る母親のぬくもりがあってこそのもの。窮屈で理不尽な社会的モラルに反発するセンダックは、家族への愛情というものを一際純粋に信じている作家なのでしょうね。

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