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zoom RSS 「オットー戦火をくぐったテディ・ベア Otto」―トミー・アンゲラーTomi Ungerer

<<   作成日時 : 2017/04/07 19:00   >>

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ひょっとしたら、ボクがたどった数奇な運命というのは、大いなる力によって人と人の間に結ばれた、目に見えない一本の糸だったのかもしれない。それを人は“絆”と呼ぶのだろう…。


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たとえば、ボクらの仲間は世界中に無数に散らばっている。その顔も表情も製法も、そして作られた国も、何もかも千差万別だ。

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そしてボクらの仲間の中には、骨董的な価値といった意味で天文学的な値段がつけられたものから、アクセサリーのように小さく作られたものや、観賞用に目も眩むような宝石で飾り立てられたもの、子供へのプレゼントとしてささやかに手作りされたものだっている。それこそ、ハンカチやタオルといった日常品の中に織り込まれた変り種まで含めると、ボクらの仲間は数え切れないほどになるだろう。

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でも、ボクらの使命っていうのは皆同じ。子供たちの最初の友達となり、彼らに抱っこされ、彼らの心を共有することにあると思うんだ。でも、ボクらと子供たちの間に生まれる穏やかで何の不安もない満たされた愛情は、いずれ子供達が成長して大人になっていくのと同様、形を変えていかざるを得ないものでもある。ボクらは子供たちをいつまでも愛しているが、いい年をした大人がいつまでもボクらを抱っこするわけにもいかないだろう?遅かれ早かれ、別れの時はやってくる。寂しいことだが、これが現実だ。

だけど、例外もあるんだ。これから話すボク自身の身に起こったことを、ボクは“奇跡”と名付けたいと思う。

オットー―戦火をくぐったテディベア (児童図書館・絵本の部屋)
評論社
トミー ウンゲラー

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「オットー―戦火をくぐったテディ・ベア Otto」
文と絵:トミー・アンゲラー(ウンゲラー) Tomi Ungerer
訳:鏡哲生 (評論社刊行)

ボクが生まれたのはドイツの工場。職人の手によって、一針一針縫い上げられる手作りのテディベア。それがボクだ。ボクを仕上げた女性の後ろの棚には、ボクとそっくりのぬいぐるみたちが座っていた。ボクを含め、皆、どこかの子供達の元に届けられるのを待っているんだ。ボクも紙に包まれて箱に詰められ、デヴィッドという少年の家に送られた。ボクは彼の誕生日プレゼントだった。

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デヴィッドには同じマンションに住むオスカーという親友がいた。年のころは同じで、ボクはデヴィッドとオスカーと一緒に3人で毎日一緒に遊んだものだ。彼らはボクに“オットー”という素敵な名前もつけてくれた。僕の片目にインクの染みがついてしまったのも、3人でデヴィッドのお父さんのペンで文字を書こうとイタズラしたからだ。

ある日デヴィッドは、“ユダヤ人”と書かれた黄色い星を胸につけることになった。恐ろしい時代がやってきていた。厳しい漆黒の軍服に身を包んだ男達が、デヴィッドとオスカーの住むマンションに大挙してくると、デヴィッドはボクをオスカーに託した。デヴィッドと彼のご両親は、他の黄色い星の人達と共にトラックに乗せられ、どこへともなく連れ去られてしまった…。ボクとオスカーは、ただただ息を潜めてその様子を物陰から見つめるしかなかった。

ボクもオスカーも、毎日デヴィッドのことを話し合っては寂しさを紛らわせていた。でも戦争はオスカーの家にも忍び込んできていたんだ。オスカーのお父さんは、とうとう軍隊に招集されてしまった。駅には他にも、涙ながらに家族と別れを告げる兵隊さんたちでいっぱいだった。オスカーの住む町も毎日のように空襲に晒された。オスカーはそのたびにボクをしっかり抱きかかえて防空壕に逃げ込んだ。でも、街は爆弾でめちゃくちゃに破壊されていて、瓦礫の山になっていた。あるときボクの間近で起こった爆発で、ボクはそのまま気を失ってしまった。

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瓦礫の山の上でのびていたボクは、すぐ近くで始まった銃撃戦と戦車の砲弾の音で目を覚ました。ボクは、戦いにくたびれ果てた黒人兵士に踏みつけられそうになった。彼はボクに気づき、僕の体を抱き上げたんだ。その瞬間、兵士はボクもろとも狙撃された。彼の胸からは真っ赤な地がどくどくとあふれ出ていたが、彼はボクを手放そうとはしなかった。銃弾はボクの身体をも貫通していたんだ。

その兵士チャーリーは病院で手当てを受けた。ボクを抱きかかえていたおかげで、彼自身の傷は深くはなかったんだ。チャーリーはボクを命の恩人と言ってくれ、胸に開いた穴を丁寧にかがってくれた。前線で負傷したチャーリーには軍隊から勲章が贈られ、彼はそれをボクの胸につけてくれた。そのときの写真は新聞にも載ったんだ。戦争が終わると、ボクはチャーリーと共にアメリカに渡った。

ボクの新しい友人は、彼の娘のジャスミンだ。ジャスミンは、狭い家の中でボクのために寝床まで作ってくれ、ボクはまた、つましいながらも温かい家庭を手に入れることができたわけだ。でも、ジャスミンたちが住む街は悪ガキがたくさんいるところだった。かつて、デヴィッドとオスカーと一緒にやっていたイタズラとは比較にならないほどの悪いことをやらかす少年たちでいっぱいだ。ボクはジャスミンとの散歩の途中で、悪ガキ連中に捕まり、バットで殴られ、身体のあちこちを引きちぎられ、放り投げられ、ゴミ箱の中に捨てられてしまった。

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ボクはゴミ箱をあさっていたおばあさんに拾われ、すぐさま近所の骨董屋に売りつけられた。ボロボロになったボクの姿を見た骨董屋の主は、さすがに眉をしかめたものの、ボクが昔ながらの手作業で作られた本物のテディベアだとわかると、身体をきれいに洗い、傷を繕った。そうしてボクは、その後長い長い間、骨董屋のショーウィンドウに飾られることになったんだ。

それから何年経ったのかわからない。ある晩のこと、1人の年老いた観光客がショーウィンドウの前で立ち止まった。彼は驚愕のあまり目を大きく開いたまま、ボクを見つめてこうつぶやいたんだ。「オットーじゃないか!」
彼はすぐさま骨董屋に駆け込み、片言の英語でもどかしげに事情を説明すると、慌しくボクを買い取った。彼こそが老いたオスカーだったのだ。
オスカーは、ボクとデヴィッドとの物語を新聞に載せたようだ。すぐさま彼の泊まっているホテルの電話が鳴り、あの懐かしいデヴィッドがオスカーに連絡してきた。デヴィッドは生きていた!こうしてボクら3人は、ようやく再会することができたんだ。

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デヴィッドの両親は強制収容所で亡くなり、オスカーのお父さんは戦場で、お母さんは空襲で命を落としていた。皆何年も何年も、それは酷い悲しみを経験してきた。でも、もう何人たりともボクらを引き離すことはできない。ボクらは3人で一緒に暮らすことにした。ささやかだけれど平和で親愛に満ちた暮らし。戦争でズタズタにされたボクらの幸せは、ボクの継ぎはぎだらけの身体のように、今丁寧に縫い合わされているところなんだ。

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さっきも言ったけれど、どんなに親しい関係でも、永遠に続くものはない。でも、ボクがデヴィッドとオスカーと共に築き上げた絆は、死がボクらを別つまで続くものだ。ボクは所詮おもちゃだし、人の手からまた別の人の手に渡されていく運命にあるし、こんなハッピーエンドを確信してたわけじゃない。でも、デヴィッドとオスカーという2人の人間の味わった辛酸をボク自身のものとして経験し、また戦争という無慈悲な愚行が彼らにもたらした悲しみを、我がことのように理解することは出来た。

ボクがデヴィッドの家にもらわれていったこと、そして3人で輝くような子供時代の思い出を共有したこと、戦争が何年もの間ボクらをばらばらに引き裂いても、待ち続けたボクの元にデヴィッドとオスカーが帰ってきてくれたこと…。デヴィッドとオスカーの人生を彩っている幸福も哀しみも、全てボクの身体の綿毛の中に沁み込んでいるといってもいい。つまりボクの人生(ぬいぐるみだけど)は、そっくりそのままデヴィッドとオスカーの波乱万丈の人生に置き換えることが出来るわけだ。

ボクは、デヴィッドを強制収容所に連れて行った戦争が憎い。オスカーのご両親を死なせてしまった戦争が憎い。戦争に家族を奪われた後の彼らの苦労を思うと、ガラス玉の目に涙が滲むようだ。でもボクの使命は、ボクの唯一にしてかけがえのない友人である2人の残りの人生に、安寧と慰めを贈ることだけだ。戦争によって失われた時間を埋めるために、彼らの傍に寄り添い、彼らの言葉に耳を傾けるだけだ。ボクは、彼らの人生の最期の一瞬までをこの目で見届けるつもりだ。それこそが、ボクという存在に“生きる”意義を与えてくれたデヴィッドとオスカーへの、せめてもの恩返しになると信じている。


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