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zoom RSS 家族を心から愛し続けた“結婚しない女”―ジル・クレイバーグ

<<   作成日時 : 2018/01/17 15:00   >>

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派手ではなかったけれど、その控えめでクールな美貌は晩年も衰えを知らず、女優として息の長いキャリアを築いていた方だったと思います。ポール・マザースキー監督の名作「結婚しない女」で、“男から自立する女”の肖像を生き生きと体現した女優ジル・クレイバーグが11月5日、長年闘ってきた白血病に倒れました。享年66歳。ご冥福をお祈りします。


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ジル・クレイバーグ Jill Clayburgh (向かって右隣は、実娘で女優のリリー・レーヴ)

1944年4月30日生まれ
2010年11月5日(コネティカット州レークビルで没)
アメリカ、ニューヨーク出身

サラ・ローレンス大学在学中に俳優という職業に魅せられ、ボストンの劇団に籍を置いたクレイバーグは、1968年にブロードウェイのミュージカルで舞台デビューを飾った。60年代は主に演劇界で活躍したが、1973年に出演した「面影」で往年の名女優キャロル・ロンバードに扮し、注目を浴びた。ブロンドの知的なクール・ビューティーとして売り出し、映画やテレビに活躍の場を広げていく。
いまひとつ決定打に欠いていた彼女のキャリアが転換期を迎えたのは、70年代後半のこと。彼女と同じユダヤ系アメリカ人映画監督ポール・マザースキーによる名作「結婚しない女」に主演するチャンスを得たのだ。この作品は、自らの力で生きる道を選択する女性を、女性の視点からリアリティを込めて描く映画のはしりとなった。今作以降、映画の中でも、男性からの支配を脱するのみならず、男性と肩を並べるパワフルな女性像が求められるようになったといっていいだろう。今作では、クレイバーグは持ち前のさわやかな美貌に加えて、自由闊達でコミカルなセンスと、成熟した女性ならではの官能性を匂わせた演技を披露。カンヌ国際映画祭では見事女優賞を獲得し、オスカーの主演女優賞にもノミネートされた。イタリアに招かれて主演した、翌年のベルナルド・ベルトルッチ監督作品「ルナ」では、一転して実の息子と近親相姦関係に陥っていく退廃的な母親を演じ、多彩な演技力を示している。再びアメリカに戻った作品「結婚ゲーム」でもオスカーにノミネートされ、この勢いのまま女優としてのキャリアを邁進するかと思われたが、クレイバーグは1979年に結婚した脚本家のデヴィッド・レーヴとの家庭生活を最優先した。「結婚しない女」では、結婚制度への隷属を拒否し、自由を選択する女性像を体現して喝采を浴びたクレイバーグだったが、実生活では、レーヴと彼の間にもうけた娘リリーを含めた家族を大切にする、良き家庭人であったようだ。
30年の長きに渡った結婚生活は破綻することなく安泰で、リリーも母と同じ女優の道を歩み始め(母娘は同じ舞台で共演もしている)、1人の女性として公私のバランスの取れた理想的な人生を築き上げてきた彼女は、しかし一方では、21年もの間、慢性リンパ性白血病という難病と闘い続けたファイターでもあった。病名は公にはされていなかったが、発病後もその影響は露とも見せず、映画やテレビ、もちろん舞台にもコンスタントに出演するバイタリティーを発揮。晩年はテレビ・シリーズへのゲスト出演も積極的に行い、エミー賞にも輝いている。また、シリーズは既に打ち切られたが、ドナルド・サザーランドやウィリアム・ボールドウィンらと共演した挑発的なテレビ・ドラマ「ダーティ・セクシー・マネー」では、大富豪のダーリング家の女家長レティシアに扮して話題を振りまいた。
しかし2010年11月5日、クレイバーグはついに病との闘いに敗れ、コネティカット州の自宅で家族に見守られながら永眠した。最後の出演映画は、ジェイク・ジレンホールらと共演した『Love and Other Drugs』。

「病気だったからこそ、彼女は一瞬一瞬を大切にして自分の人生を輝かせることができたと思う。周囲の人々、その人たちとの時間を本当に大切にしていたから、誰もが彼女のことを大好きになったんだ。(その後、彼女の病気について知って)だから、彼女はあんなに素敵な人だったんだ、と分かった」―ジェイク・ジレンホール談


●フィルモグラフィー Filmography

2008年〜2009年「ダーティ・セクシー・マネー(シーズン2)」(TVシリーズ)
2007年「ダーティ・セクシー・マネー(シーズン1)」(TVシリーズ)
2006年「ハサミを持って突っ走る」(未)
2004年「NIP/TUCK マイアミ整形外科医(シーズン2)」(TVシリーズ)
2003年〜2004年「ザ・プラクティス/ボストン弁護士ファイル(シーズン8)」(TVシリーズ)
2003年「フェノミナン2」(TVムービー)
2000年〜2001年「アリー・myラブ(シーズン4)」(TVシリーズ) 
1999年〜2000年「アリー・myラブ(シーズン3)」(TVシリーズ)
1997年「欲しがる女」(TVムービー)
1997年「妬む女」(TVムービー)
1997年「インディアナポリスの夏/青春の傷痕」
1996年「愛さずにはいられない」
1993年「流血の絆」
1992年「暗闇のささやき」(未)
1992年「リッチ・イン・ラブ」(未)
1987年「或る人々」(未)
1982年「暗闇からの脱出」(未)
1979年「結婚ゲーム」
1979年「ルナ Luna」
1978年「結婚しない女 An Unmarried Woman」
1977年「タッチダウン」
1976年「恋人たちの絆」(TVムービー)
1976年「大陸横断超特急」
1975年「疑惑の柩」(TVムービー)
1974年「電子頭脳人間」
1973年「おかしなおかしな大泥棒」
1973年「面影」役名:キャロル・ロンバード
1969年「御婚礼/ザ・ウェディング・パーティー」(未)


私にとってジル・クレイバーグという女優さんは、1978年の代表作「結婚しない女」エリカと、それとは対照的な翌1979年の作品「ルナ」におけるカトリーナという、正反対のキャラクターでもって認識されています。


私は“男”を必要としない女。


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「結婚しない女 An Unmarried Woman」(1978年)

監督:ポール・マザースキー Paul Mazursky
製作:ポール・マザースキー&トニー・レイ
脚本:ポール・マザースキー
撮影:アーサー・オーニッツ
音楽:ビル・コンティ
出演:ジル・クレイバーグ Jill Clayburgh(エリカ)
アラン・ベイツ Alan Bates(ソール)
マイケル・マーフィー Michael Murphy(マーティン)他。

アメリカのどこにでもいる専業主婦として、平凡だが穏やかな生活を送っていたエリカ。だがその平和も、夫からの突然の三行半によって一挙に崩壊してしまう。いきなり1人きりで社会の中に放り出されたエリカは、様々な葛藤を経て、今までの家族との関係や人生全体を考え直す。そして、離婚の痛手を乗り越えて、新しい人生に飛び込んでいくのだった。

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映画版も製作されて好評だったテレビシリーズ「セックス・アンド・ザ・シティ」の雛形っていう感じでしょうかね。オンナという生き物の本音と建前、また社会通念における“女性”への固定観念を打ち破らんとする、本当の意味での“女性映画”でした。ただ、女性の社会進出を声高にシュプレヒコールするような映画ではなく、1人の女性が離婚によって精神的に自立するまでの姿を、時にほろ苦く、また時にユーモアたっぷりに素描していくもの。その色彩のトーンはあくまでも自然で柔らかく、ジル・クレイバーグという女優さんのイメージそのものの清潔感が漂います。淡々としたタッチではありますが、オンナのドロドロした内面も含め、かなりリアルな描写も差し挟まれていますので、今の感覚で観直しても結構面白い作品ではないかと思いますね。
この作品は、後年量産されるようになった女性映画の先駆けとなったばかりではなく、世界中の“自立する女”のロールモデルとなり、彼女達の心の支えともなりました。前述したジェイク・ジレンホールのお母様である脚本家ナオミ・フォーナーも、夫(ジレンホール姉弟の父親)と離婚した際、今作を観て前進する勇気を与えてもらったんだそうです。そんな、真に自立する女のシンボル、エリカを演じたクレイバーグも、年齢相応の落ち着きとエレガンス、恋人が出来ても決して一時の激情に流されないしなやかな力強さを伸びやかな肢体いっぱいにみなぎらせ、忘れがたい印象を観客に残してくれました。


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「ルナ La Luna(1979年)

監督:ベルナルド・ベルトルッチ Bernard Bertolucci
製作:ジョヴァンニ・ベルトルッチ
脚本:ジュゼッペ・ベルトルッチ&クレア・ペプロー&ベルナルド・ベルトルッチ
撮影:ヴィットリオ・ストラーロ
音楽:ジュゼッペ・ヴェルディ
出演:ジル・クレイバーグ(カトリーナ)
マシュー・バリー(カトリーナの息子ジョー)
ヴェロニカ・ラザール(マリーナ)他。

世界的オペラ歌手のカトリーナには、その莫大な名声をもってしても癒されない悩みがあった。家に不在がちな彼女の面影を求め、“月”に異常な執着を見せる息子ジョーのことだ。ジョーは、銀色の月が放つ妖しいイメージにとり憑かれたように、非行を繰り返す。空虚な心の安寧を求めて麻薬に走るジョーを、カトリーナは自分が演じてきたヴェルディのオペラの物語のように、異常な母性愛で窒息させようとする。母親当人による呪縛から逃れようと、非行やクスリをやめられないジョーを、母親の立場を超えた歪んだ愛情で繋ぎとめるのだ。やがて、母と息子は男女の本能のまま、激情に衝き動かされていく。

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月の満ち欠けは、実際人間の精神状態に多大な影響を及ぼすのだそうです。犯罪史をひもとけば、月の満ち欠けの暦通りに猟奇犯罪発生率が増減するのだそうですよ。今作では、“月”に魅入られた少年が、その歪んだ感情をますます崩壊せしめていく過程が描かれています。その狂気を加速させてしまうのが、彼の実の母親…母性愛は人一倍あるのに、それを実子にどのように示せばいいのかわからない…であるという悲劇が、今作における屈折した魅力だといえますかね。
カトリーナとジョー親子の愛情が次第に倒錯の色合いを強くする過程は、名カメラマン、ヴィットリオ・ストラーロの幻惑的な月の映像や、平行して描かれるヴェルディ・オペラの絢爛たる舞台との対比によって、ある種の昂揚状態に導かれていきます。実の母親と息子の近親相姦という禍々しい禁忌が、ドラマティックな音楽とセンシュアルな映像の相乗効果で、えもいわれぬ後ろ暗い美を纏うのですね。アメリカ映画では、まずハイリスクに過ぎるこの主旋律に乗って、クレイバーグの自然な演技が無理なく花開いている様には感嘆します。
しかしながら、親子の関係性を語るのに欠かせない“父親”の存在がきれいさっぱり無視されている点こそ、この作品の致命的な疵でありましょう。従って、この作品を観直してみると、今作でもクレイバーグは、“結婚しない女”…つまりは“何者からも自立し、男(父性)をも必要としない女”の一側面を体現しているのではないかとも思えますね。結婚という名の女性の隷属制度からは脱却したけれど、血を分けた実の子供からは全然自立できない…。いわば今作のカトリーナは、「結婚しない女」のエリカのコインの裏面だともいえそうですね。どちらも、“男を必要としない”点では共通しますが、これから先歩んでいくであろう人生の明暗ははっきり分かれてしまっています。そんなオンナの特異で複雑な一面を、家庭想いの女性ジル・クレイバーグが見事に演じて見せたのですから、演技とはまた何とシニカルなアイロニーを生み出すものなのでしょうね。

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