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zoom RSS クリスマスの小さな奇跡―「メリークリスマスおおかみさん」

<<   作成日時 : 2014/01/09 15:56   >>

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もう6年にもなるんですねえ。現在に落語の精神を伝える絵本作家、宮西達也氏の愛すべき小品「メリークリスマスおおかみさん」を、クリスマスの時期に買ったことがあります。


「メリークリスマスおおかみさん」
文と絵:みやにしたつや  女子パウロ会刊行

明日はクリスマス。一つ屋根の下に暮らす12匹のこぶたの兄弟たちも、クリスマスの準備に余念がありません。家の外にツリーを飾り、玄関のドアにはリースを飾って…。そんな楽しげな様子を木の陰からこっそり覗き見ていたのは、1匹のはらぺこおおかみ。おおかみは、うまそうなこぶたちを1匹残らず食べてしまおうと考えました。
がおがおがおーっ!
おもむろにこぶたたちの前に飛び出したおおかみは、彼らを追いかけながらせっかくのリースやツリーをめちゃめちゃに壊していきます。「なんだ、こんなもの!こうしてやる!」おおかみはあっというまにこぶたたちを捕まえ、まとめて小脇に抱えて走り出しました。そのときです。…「うわーっ!」おおかみは自分がツリーのひとつにつまづいて、思い切り倒れてしまいました。抱えていたこぶたたちは柔らかい草の上に落ちて無事でしたが、おおかみはぴくりとも動くことが出来ません。
目が覚めると、おおかみは大きなベッドの上に寝かされていました。こぶたたちが心配そうに覗き込んでいます。おおかみの口にも腕にもお腹にも、包帯がぐるぐる巻きにされていました。こぶたたちが手当てをしたのです。おおかみはベッドの周りに集まるこぶたたちを見て、「お前達を食ってやるーっ!」と叫びましたが、包帯のせいで「うううううーっ!」としか聞こえません。こぶたたちは口々に勝手なことを言い始めます。
「ぼくたちに“ごめんね”って言ってるのかもね。大丈夫、お薬ぬったからすぐ良くなるよ」
「ううううううーっ!(怪我がなおったらお前らみんな食ってやるー!)」
「おおかみさん、今度は“ありがとう”って言ってるのかなあ」
「うううううううーっ!(そんなこと言ってなーいっ!)」
おおかみはぶるぶる震え、あまつさえ目に悔し涙さえ浮かべながら叫んでいました。でもやっぱりこぶたちには「うう、うう」と呻いているようにしか聞こえません。おおかみの目に涙が滲んでいるのを見たこぶたたちは、「すごく痛いんだね、おおかみさん。大丈夫、すぐよくなるからね。泣かないで」と慰めながら、涙をぬぐってあげました。
「うーー……」
おおかみはひとつため息をつくと、静かに目を閉じました。
その夜のこと。こぶたたちは、おおかみの枕元にそっとクリスマスプレゼントを置きました。「メリークリスマス、おおかみさん。早く良くなってね」
次の日、クリスマスの朝。こぶたたちが目を覚ますと、おおかみは姿を消していました。そして、めちゃめちゃになっていたリースが綺麗に修理されてドアの上に飾られており、外にはなんと12本ものツリーが立っていました。森の中に、こぶたたちの歌う声がこだまします。
♪うれしいうれしいクリスマス、すてきなすてきなクリスマス♪
おおかみは足を引きずりながら、そっと口の包帯をはずして言いました。
「メリークリスマス…」

メリークリスマスおおかみさん
女子パウロ会
みやにし たつや

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画像

映画「ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート」で、毎年イベントごとに目の覚めるようなウィンドウ・ディスプレイを手がけているデヴィッド・ホーイが嘆いておりました。

“マスコミは、僕らのような百貨店のせいで、年を追うごとにクリスマスが早まっていくとバカにするけれど、僕たちのディスプレイの完成が一日でも遅れると、大騒ぎするんだ。勝手なもんさ”

まあ確かに、10月末のハロウィーンが終わった直後から、せっかちなお店ならクリスマス・モードに変身するようになってしまいましたねえ。聳え立つクリスマスツリーには膨大な数の電飾、上を見上げればキンキラお飾りつき巨大クリスマスリースが垂れ下がり…。いかな不況といえど、正月やらクリスマスやらバレンタインやら、こと“イベント”に関しては国内外を問わず節操なく我流で楽しんでしまうのが、日本人の面白い気質であります。

こんな具合に、ここ日本では昨今、クリスマスというのは国中で大騒ぎするためのお祭り口実に成り下がっておりますが、本来の意味合いは異なります。人と人の繋がりを実感することが益々難しくなる今日、このキリストが生まれたという一日だけは、人間の善意を信じ、無償の愛情なるものを信じてもいいのではないか。奇跡を他力本願するわけではないが、一年のうちせめてこの日だけは、自分にも他人にも“赦し”を与えてみようではないか。それが愛情という形に結実することこそが、この日の最も大切な意義であるのだと私は思っています。もちろん、近しい人たちと共に楽しく穏やかに過ごす日であることには違いないのですけどね。

この作品に限らず、おおかみという生き物は、絵本世界ではことさら忌み嫌われる存在です。彼らは、たまたま肉を食らう獣であったがために、世界中の罪を体現するかのようなレッテルを貼られてしまっているのです。そのためかどうか、絵本世界に登場するおおかみの末路は大概が哀れなもの。勧善懲悪の大義の下に(笑)、成敗される運命であります。その代表的な例としては、「赤ずきんちゃん」や「三匹のこぶた」などが挙げられるでしょう。善なるものと悪なるものとは相容れないために、不幸にして悪のイメージを植えつけられたおおかみたちは、社会の情緒的バランスを保つ犠牲となるのです。彼らが絵本の中でいつも腹をすかしているのも、ひょっとしたら、社会に居場所がない孤独感が強いる飢えなのかもしれません。
今作に登場するおおかみも、のっけから腹ペコ状態です。クリスマスを明日に控えて浮かれるこぶたの兄弟たちを食おうと目を血走らせているのですねえ。ちなみに作者のみやにしたつや氏の作品群には、このちょっぴりお間抜けなおおかみが活躍(?)するシリーズがあります。


おおかみペコペコ
学習研究社
宮西 達也

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いつも腹をすかせたおおかみのペコペコは、空腹に耐えかねて大根畑にやってきた。でっぷり太ったぶたや美味しいにわとりなどにかぶりつきたいところだが、彼が実際に噛み付いたのは丸々と太った大根。大根を2本…3本とかじるうち、ペコペコの脳内には幻の太っちょネズミやにわとりの姿が浮んでくる。その味を思い出してはヨダレを我慢しつつ、大根をかじり続ける哀れなペコペコ。ところが、彼の目の前に様々な動物たちが現れる。幻影ではなく本物の獲物が。果たしてペコペコは狩りを成功させることができるのだろうか…。


ことほど左様に、みやにし氏のおおかみたちは皆揃いも揃って大間抜け。みやにし氏独特の、落語のごとき洒脱な笑いとオチに惑わされがちですが、実は彼らは本当に気の毒な存在でもあるのです。他の獣を襲う恐ろしい生き物というよりは、はぐれ者で嫌われ者で究めつけのドジな奴。そんなおおかみが、クリスマスの楽しげな気分にへそを曲げ、こぶたの兄弟たちをがむしゃらに襲ってしまうのも、なんだかわかるような気になってまいります(笑)。で、案の定けつまづいて、せっかくの獲物を取り逃がしたばかりか、怪我まで負ってしまうわけですね。

今作が面白いのは、哀れなおおかみを、その当の被害者であるこぶたたちが介抱してあげる点でしょう。包帯でぐるぐる巻きのおおかみと彼を見守るこぶたたちの呑気なやり取りは、まんま落語の世界です。食うか食われるかといった非情な関係は、両者の間に厳然としてあるにせよ、そんなものを凌駕するほど大きな善意によって跡形もなく消えてしまいます。こぶたたちの勘違いの賜物とも言えるのですが、多分に“明日がクリスマス”であるせいでしょう。こぶたたちは自分たちを食おうとしたおおかみを赦し、結果的にそのおおかみの心に他者を思いやる気持ちを呼び覚ますのですね。ちょっとした“愛の奇跡”というやつです。ほんのりと良い気分に浸らせてくれるラストは大好き。これまた、落語の“人情もの”に相通ずる感慨があります。

対立する相手と対峙する場合でも、ほんの少しの慈しみで思わぬ成果を得られることもあります。この世知辛い世の中でも、寛容の精神は、巡り巡って最後にはささやかな幸せを届けてくれるものなのですね。願わくば、私もあなたも、クリスマスに限らず年中こうありたいと思います。


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