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zoom RSS 「ワニになにがおこったか What Happened to the Crocodile?」

<<   作成日時 : 2016/06/24 19:20   >>

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“みんな違って、みんないい”って金子みすゞが言ったじゃないか。


ワニになにがおこったか
偕成社
マリーナ マスクビナー

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「ワニになにがおこったか What Happened to the Crocodile?」
マリーナ・マスクビナー Marina Moskvina /作、ヴァレンチン・オリシヴァング Valentin Ol'shvang /絵
田中 潔/訳 (偕成社刊行)

暑い暑いアフリカの川辺。昼下がりになると、アフリカワニたちは三々五々、川辺の砂浜に埋めた卵のもとへと集まってきます。彼らは皆、もうすぐ生まれてくる はずの子供の話に夢中なのですね。
「うちの子はぼうやなの」
「ワニで大事なのはなんといっても大きな口と丈夫な歯よ」
「いやいや、ワニの美しさはシッポの立派さで決まるのさ」
いよいよ卵が孵化します。どのワニの子供達も元気一杯大騒ぎをしています。ところが、ガーパの卵だけはいつまでたっても孵りません。ガーパのおばあさんもやってきて心配していると、なんとその卵から出てきたのは鳥の雛!その場に凍りつくガーパをよそに、雛はよちよちとガーパに向かってきます。雛はガーパを親だと思い込んでいるのですね。
おばあさんは、今のうちに雛を食べて、なにもなかったことにするよう諭します。でなければ、ガーパはこれから川じゅうの笑い者になってしまうからです。でも、雛が柔らかい羽毛をガーパの足にすりつけたとき、彼はつくづく思いました。「どんな姿であろうとこいつはオレの雛。食べるなんてとてもできない」と。
川のワニたちは、ガーパとひよこを取り囲み笑い者にしました。ガーパはひよこを守りながら言い返します。
「もし誰かがちょいと変わった様子で生まれてきたら、さんざ笑い者にしていっそのこと飲み込んでしまえ!というのか。オレはそれがどんな辛い気分かわかったし、こいつに手出しをする奴は容赦しないからな!」

ガーパはひよこにリーパという名前をつけました。そしてその日から、ガーパはかいがいしくリーパの世話を焼き始めたのです。リーパのために葦で小さな家を作ってもやりました。リーパが虫を食べることを知ると、仲間達の嘲笑にもめげず、毎日苦労してハエやアブやミミズを捕まえてやりました。でもある日、川で子ワニ達が初めて魚を取る光景を目にすると、ガーパの胸には無性に寂しさが募るのでした。本当ならガーパだって、あんなふうに子供と一緒に川を自在に泳げたはずですものね。
リーパの元に戻ったガーパは、リーパが苦手な川の中に自ら飛び込んだことを知ります。リーパは子ワニ達の真似をしようとしたのですね。危うく溺れるところだったのをおばあさんに助けられ、泣き続けています。ガーパは仲間をうらやんだ自分を反省しました。そしてリーパの身体を温めてやりながら、いつかその美しい羽根で広い空を泳げるよう、特訓してやろうと決意しました。
次の日から、ガーパは毎日リーパに空の飛び方を教えるようになりました。もちろん、飛び方なんてワニであるガーパにわかるわけがありません。でも、自分がなんとかしてやらねば、リーパはワニにも鳥にもなれないでしょう。ガーパは全速力で駆け、両手を思い切り振り回しながら飛び上がります。一瞬後には頭から砂に突っ込み、砂だらけになっても、何度もリーパに手本を示します。ワニだけでなくジャングルの動物達にまで笑われながらも、ガーパは飛ぶ訓練をやめようとしません。
ガーパの世話と特訓のおかげで、リーパはたくましく空を飛ぶようになりました。しかしガーパは心配で仕方ありません。リーパが空高く舞い上がるたびに、ヤシの木にまでよじ登って見届けようとする始末。仲間のワニ達はそんなガーパをさんざバカにします。どうせワニはワニ、鳥は鳥。鳥はやがて飛んでいってしまって、それで終わりであるのに…と。
ワニ達の冷ややかな視線をものともせず、ガーパは今日もリーパの後をドタドタと追いかけます。ガーパは本気で自分も飛び方を知りたいと願うようになりました。そうすれば、空の上でもリーパを守ってやれるでしょうから。おばあさんもワニ達も、リーパを大事にするあまり、ガーパはついにおかしくなってしまったと嘆きます。しかしリーパはガーパの耳元に舞い降りると、内緒話を始めました。ガーパとリーパは他の誰にも聞こえない小さな声で秘密の言葉を交わすと、2人して砂地を蹴って走り出したのです。周囲の嘲笑と驚きの声にも耳を貸さずに…。

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少し古い話になります。

英国ガーディアン紙に、2005年英国に亡命したイラン人のレズビアン女性が、祖国に強制送還される可能性が出てきたというニュースが掲載されました。

この女性は、同性愛であることに加え、理不尽な祖国の法律制度を批判するコメントを公にしたため、強制送還されれば即死刑に処されてしまうのだそうです。彼の国では、同性愛だとわかっただけで鞭打ち100回の刑であるとか。しかもこの女性が国外に脱出した後、彼女の父親がイラン当局に逮捕されて拷問を受けたというのですから、文化の違い、考え方の違いの間に横たわる大きな溝に暗澹たる気持ちに陥ります。イランは、1979年のイラン・イスラム革命以降、イスラム教シーア派が絶対的勢力を持つようになりました。性的に厳しい規律を求める宗教の影響で、実に4000人以上とも言われる同性愛者が処刑されたそうです。
そういった事情から、この女性には英国内のLGBT権利団体の支援がつきました。また、イタリア政府が英国政府に対し、彼女を強制送還処置にしないよう異例の嘆願を出したりするなど(2007年8月24日のこと)、ヨーロッパでは、同性愛の人々への著しい人権侵害の問題にスポットライトが当てられるきっかけとなったのです。

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何故わざわざこんな話を持ち出したかといいますと、つまるところ、こういった差別、人権侵害は、“相手が自分と異なる”“異なるものを排除する”という意識に起因するわけです。これは、相手が自分と異なる人種であったり、異なる宗教を信仰していたりするといった場合も同様ですね。見た目であれ文化背景であれ、“自分と異なるもの”あるいは“自分の知らないもの”への本能的な恐怖が、大衆をして“異物排除”に走らしめるのです。

「ワニになにがおこったか」で描かれる状況も、まさしくそれなのですね。立派なアフリカワニ、ガーパの卵から鳥が生まれてきたという珍事は、まさしくガーパの人生を一変させました。コミュニティ内の仲間達は当然のように、ガーパをとんだ不幸に見舞われた哀れなワニだとみなします。ところが、こういった同じワニからの差別は、ガーパの意識に思いもよらぬ革命を起こしたのです。どんなに嘲笑されようが、ガーパは、本来ワニのえさになるべき鳥リーパを懸命に育てます。なぜなら、どんなに姿かたちが異なろうとも、リーパがこの世で最初に親だと認めた者が他ならぬガーパであったから。
“親であるという意識” は、ガーパをして“種の違い”を容易に超えさせ、ただ1つの願い―リーパを立派な鳥にしてやりたい―に到達せしめます。ガーパがリーパに飛行訓練を施す場面は、きっと小さなお子さんをお持ちの親御さんなら、涙なしでは見られないことでしょう。ワニはもちろん飛べません。しかし、不器用ながらもガーパの執念はリーパに通じ、やがて立派に羽ばたかせるのですね。リーパは鳥として巣立ちの時を迎えます。
…もし、絵本がここで終わっていたら、おそらくこの作品はごく一般的なおとぎ話だとみなされていたでしょう。この作品の注目すべき点は、実はラストシーンにあるのです。
ガーパはここで、親ならばいずれは経験するジレンマに襲われます。手塩にかけたかわいい子供が新世界へ巣立っていくのを見送り、共に親離れ、子離れを済ませるという儀式ですね。リーパが普通のワニであったなら、それは滞りなく行われたことでしょう。
ですが、リーパはガーパとは違う種族として生きる者です。当然これからは、全く異なる環境で永遠に別れ別れになって暮らさねばならないのです。ガーパにとって、それは耐えられない苦しみでした。なぜなら、ガーパは既にワニのコミュニティからは逸脱した存在となっていたからです。異なる種族の生き物を我が子として育てるということは、ガーパの住む社会では禁忌を破ることに等しい。それを犯したガーパは、今更元の社会に戻れるはずもないのですね。社会の中で孤立し、今やリーパだけが生きる支えであるガーパは、リーパ愛しさのあまり、この“種族の垣根”すら越えようとしました。
ガーパは確かに種の違いをも乗り越え、愛する我が子と永遠に一緒になります。それを“奇跡”と名づけても差し支えないでしょう。この絵本を読んだ子供達は、ハッピーエンドと捉えるはずです。でも親たる私たちは?考えようによっては、ガーパの最後の行為は、厳しい現実問題―生きている限り、社会から孤立し続けねばならぬこと―からの逃避とも受け取れるのです。空飛ぶワニは、彼が捨てた社会で伝説となり、以降誰の前にも姿を現しませんでした。つまりガーパとリーパは、彼らを排斥する社会と永遠に別れを告げる道を選択したわけです。彼らが共に生きられる場所は、社会の中にはなかったということですよね。個人的な感想ですが、ガーパは自分の信念が起こした奇跡に守られながら、リーパと共に天国に行ったのではないでしょうか。もしそうだとしたら、あまりに哀しすぎる結末です。

結局、どんなに深い愛情をもってしても、“種の違い”を超越することはできない。“愛さえあれば障害なんてどうとでもなる”というのは、所詮は理想論にすぎない。しかし、どうしても越え難い“違い”に直面したとき、人と人はどうするべきなのか。無駄になると分かっていながらも、その間に横たわる溝を埋めるべく、虚しい努力を続けるべきなのか。
この物語は、そんな悲しい現実を示唆すると共に、その絶望から救われるためのヒントに一条の光を当てています。訳者である田中潔さんは、偕成社のサイトで、ストーリーの解釈を巡って出版社内でも論争があったと述べておられます。確かに、幾重にも解釈の可能性を含む複雑さと、極めて現代的なテーマを取り上げている野心作であるでしょうね。この作品の持つ奥深さを理解するためには、時間が必要だと言わねばなりません。ひょっとすると、永遠に結論が出ないかもしれませんしね。まあそれこそが、名作たりうる作品の条件であるのですが。

そしてなにより驚くのは、このエネルギッシュで熱い、生々しい物語が、あの寒い寒い国ロシアの作家によって書かれたことでしょうね。
原作を手がけたマリーナ・マスクビナーは、モスクワ大学でジャーナリズムを学んだ後、雑誌の編集や自身の名前を冠したラジオ番組のパーソナリティーを務めたりしました。現代芸術大学で創作技法についての講義を行ったり、世界的にも評価の高いロシア・アニメの脚本執筆、ドキュメント番組の制作、アジア地方の紀行文執筆など、その活動は多岐に渡ります。また、児童文学も数多く上梓し、“世界の児童文学アンソロジー”に作品が選出されるほどの評価を勝ち得ています。まさに、現代ロシアを代表する作家の1人でしょう。
また、土の匂いが漂ってきそうな、なんとも素朴なタッチの作画で目を引くヴァレンチン・オリシヴァングは、エカチェリンブルグ芸術学校とモスクワ国立映画大学で学んだ才人です。アニメ制作の知識を生かし、スヴェルドロフスク・アニメスタジオで制作された、子供向け番組のオープニング・タイトルのイラストを、あのユーリ・ノルシュテイン(邦訳絵本に「きりのなかのはりねずみ」)と共作したことで名を知られます。ノルシュテインのアニメ作品「外套」の制作スタッフを務めた後は、絵本の挿絵を描いたり、自身の監督によるアニメ作品を制作したりしていますね。邦訳の出ている絵本に、同じ偕成社から出版された「ハリネズミと金貨」があります。

ハリネズミと金貨―ロシアのお話 (世界のお話傑作選)
偕成社
ウラジーミル オルロフ

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「ワニになにがおこったか」と同様、田中潔さんが訳を担当されました。原作はウラジミール・オルロフ。何の因果か金貨を拾ってしまった老ハリネズミと、仲間達の繰り広げる珍騒動です。


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