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ロジェ・ワーグナー 1914年1月16日生まれ 1992 年9月17日没 フランス、ル・ピュイ出身 ル・ピュイのディジョン大聖堂でオルガニストとして活躍していた父親の影響で、幼い頃から少年聖歌隊に所属していた。ロジェ7歳の時、一家は渡米してロサンジェルスに居を構えた。父親は、ロスのセント・アンブローズ教会付きのオルガニストの職を得、ロジェも12歳で父親率いる聖歌隊のリーダーとなる。変声期を経てボーイ・ソプラノからバリトンになると、1932年にフランスに戻り、ノートルダム大聖堂のオルガニストとして著名なマルセル・デュプレに師事する傍ら、モンモランシー大学で宗教音楽を学んだ。1937年に再びアメリカの地を踏むと、MGMスタジオのスタッフとして働いた後、セント・ジョーゼフ教会の音楽監督に就任した。ここでは主に合唱指導、及び指揮を精力的に行っていた。 1940年代半ばから、合唱指導の傍ら企画した合唱演奏会が評判を呼び、1946年にロサンジェルス市主催の青年合唱団の監督を任される。そのときのメンバーを中心に正式な合唱団結成の気運が高まり、12声の混声合唱団として“ロジェ・ワーグナー合唱団”が発足した。合唱団は、全米のみならずヨーロッパ、アジア各国でステージ活動を行い、美しいハーモニーで世界中の聴衆の耳を楽しませている。日本では1965年に初来日して以降、何度も来日公演を行っている。ロジェ・ワーグナー自身は1992年に逝去したが、合唱団は彼の意志を受け継いだ娘ジャニーヌが引き続き指揮をとっている。 彼らのコーラスをはじめて聴いたのは、夫が所有していた“世界の民謡アルバム”という企画もののCDでのこと。それまでロジェ・ワーグナー合唱団という名前さえ知らなかった私は、その清廉な美しさを振りまくハーモニーにいたく感銘を受けました。12声からなる重厚な声のあや織りは、宗教音楽においては荘厳に響き、黒人霊歌においては聴く者の魂を震わせ、アメリカを代表する作曲家スティーヴ・コリンズ・フォスターのレパートリーにおいては、哀切なる郷愁を掻きたてます。また、世界中の著名な民謡を歌う際には、聴く者の心を遠くかの地に運び、その情景を脳裏に鮮やかに再現せしめます。ときに強く、ときに繊細に、およそ人の声の緩急を極めたコーラスは、一度耳にすれば、ささくれた気持ちを慰撫するかのような安らぎを与えてくれます。 今やアメリカの誇りとまで称されるロジェ・ワーグナー合唱団。合唱団が結成されたのは1946年ですから、かれこれ半世紀以上にもわたって長く活動を続けているのですね。彼らがこんなにも愛されているのは、彼らのかもし出す品位、幅広いレパートリーをカバーする実力、心の琴線に触れる優美さ、そして聴く者にくつろぎを与えてくれる暖かさの所以。一向に衰えを見せないそれらの魅力は、やはり日頃の鍛錬の賜物でしょうね。写真だけ見ると、ワーグナー氏の風貌はなんとも柔和で、“田舎の優しいおじいちゃん”そのものなのですが、実際には彼の合唱指導は非常に厳しかったそうです。ただ美しく歌うだけではなく、楽曲の持つ力をさらなる高みに引き上げるためには、1人1人の歌手の声の可能性を最大限に伸ばすと同時に、様々な特質を伴う彼らの声をうまく調和させる必要があります。そのためには、たゆまぬ鍛錬と向上心が必要不可欠だというわけですよね。 彼らは長年キャピトル・レコードに在籍し、何枚もの名盤を残してきましたが、現在はEMIからそれらの名唱を聴くことができます。ワーグナーの幅広いバックグラウンドを投影し、宗教音楽や黒人霊歌、民謡にもその冴え渡るコーラスの妙技が見られますが、なんといってもフォスターの楽曲群におけるハーモニーの優美さ、完成度は他の追随を許しません。手始めに彼らの最高の歌声を聴きたい向きには、こちらをお勧めします。 ●曲目 1. なつかしきケンタッキーのわが家(フォスター) 2. アニー・ローリー(スコットランド民謡) 3. 夢路より(フォスター) 4. 故郷の空(ライ麦畑を通り抜け)(スコットランド民謡) 5. 峠のわが家(アメリカ民謡) 6. 草競馬(フォスター) 7. 愛の喜び(マルティーニ) 8. ローレライ(ジルヒャー) 9. ジェリコの戦い(黒人霊歌) 10. 故郷の人々(フォスター) 11. 菩提樹(シューベルト) 12. 金髪のジェニー(フォスター) 13. ダニー・ボーイ(ロンドンデリーの歌)(アイルランド民謡) 14. おお,スザンナ(フォスター) 15. やさしき愛の歌(モロイ) 16. 春の日の花と輝く(イングランド民謡) 17. 蛍の光(昔の友)(スコットランド民謡) 18. 希望のささやき(ホーソン) 19. 懐かしきヴァージニア(ブランド) 20. リパブリック讃歌(ステッフェ) 21. 谷間の灯ともし頃(ライオンズ,ハート&バガボンズ) 22. オールド・ブラック・ジョー(フォスター) 23. オーラ・リー(プールトン) いずれも、どこかで聴いた記憶があるという有名な曲ばかりですよね。でもタイトルが思い浮かばないという(笑)。私もこのアルバムを聴いて初めて、メロディーとタイトルが一致したという曲もありました。 ここでは、彼らのハーモニーによって、世界中で歌い継がれてきた土着の民謡が新たな力を吹き込まれて蘇ります。曲によってはバリトンやテノールの独唱部分もあり、コーラスから突出した歌手のクリアな声も楽しめます。耳に馴染みの深い楽曲ばかりですので、“クラシック”やら“ヒーリング”やらに抵抗感がある方でも、気楽に楽しめると思いますよ。 そして、個人的にこれぞロジェ・ワーグナー合唱団の十八番だと思っているコーラス集がこれ。 ●曲目 1. 夢見る人 2. バンジョーをかき鳴らせ 3. やさしいアニー 4. 口ひげさえ(口ひげさえあれば) 5. 恋人よ窓を開け 6. 赤いバラよ,いついつまでも 7. カイロへ行って 8. おお,レミュエル 9. 懐かしきケンタッキーのわが家 10. 老犬トレイ 11. ドルシー・ジョーンズ 12. 君はわが歌の女王 13. グレンディ・バーク号 14. きびしい時代はもうやってこない 15. 故郷の人々 16. ある人 17. おおスザンナ 18. やさしいリーナ・クレア 19. ネリー・ブライ 20. 金髪のジェニー 21. ローラ・リー 22. 草競馬 23. おやすみいとしい人 24. オールド・ブラック・ジョー ステージで何度も名唱を披露しているという、フォスター作曲の楽曲ばかりを集めた一枚ですね。こうやってタイトルを並べると、聞き覚えのあるものが多いことがわかります。アメリカで産声をあげた彼らが、誇りをもって歌う“アメリカの歌”たち。彼らのコーラスに一際大きな力が込められるのも無理のない話しですよね。そしてそれを聴くにつけ、なだらかな丘や一面の麦畑、風に揺れる青の草原など、見たはずのない光景が脳裏に広がり、普段はどこかに置き忘れてしまっている望郷の念が沸き起こるのです。 そうそう、ロジェ・ワーグナーは、自身の合唱団の他にも、ハリウッド・ボールやロサンジェルス・フィルハーモニーの合唱指導も行っていたそうです。ロスという土地柄のせいか、テレビや映画にも合唱団の一員として出演した経験もあります。ジェームズ・キャグニー主演の「太平洋紅に染まる時/山本元帥対ハルゼイ提督」(1960年)や、ハンフリー・ボガード主演のコメディとして有名な「俺たちは天使じゃない」(1955年)にも顔を見せているとか。 秋の風が吹くようになる季節、お茶を傍らにゆったりと彼らの歌声に身をゆだねるのは、心地よい贅沢だといえるでしょう。 |
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