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zoom RSS 「てん The Dot」―世界は“てん”から始まるのだ!

<<   作成日時 : 2015/12/06 19:16   >>

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“中1の時の数学の先生、ミスター・マトソンに捧げる。先生は私に「じぶんのしるし」をつける勇気を与えてくれた” ―作者あとがきより

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てん
あすなろ書房
ピーター レイノルズ

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「てん The Dot」
ピーター・レイノルズ Peter H Reynolds:文と絵 谷川俊太郎:訳
(あすなろ書房)

ワシテはいつにもまして不機嫌だ。
なぜなら、とっくに学校のお絵かきの時間が終わったというのに、いまだ彼女の机に置かれた画用紙は真っ白けのままだから。彼女は絵を描くのが大嫌いなのだ。

先生は、ワシテが手をつけようとしない画用紙を覗き込んだ。「ふぶきの中のホッキョクグマを描いたのね」ワシテには、そんな先生の気遣いすらもうとましい。
だが先生も後には引かない。にっこり笑い、なにか“しるし”を紙につけてみて、と食い下がる。ワシテはムッとしたままマーカーをひっつかむと、紙に力いっぱいドンと押し付けた。先生は、たった1つの点が打たれただけの画用紙を取り上げ、熱心に見入る。そして、その紙を恭しくワシテの前に置くと、静かに言った。「さあ、これにサインして」
怒られるかと身構えていたワシテは、いささか不意を打たれた。ちょっと思案すると、まるで本物の画家のように自分の名前をその点の紙に書いた。なに、絵は描けなくたって、サインはちゃんとできるもの。

次の週、お絵かきの教室に入ると、驚くべき光景があった。ワシテの描いたちっぽけな点の絵が、なんとも不釣合いな立派な金色の額縁に収められ、先生の机の上に飾られていたのだ!先生は、こんなちっぽけな絵とすら呼べないものを、いたく気に入ったらしい。ほほぅ。ワシテはしかめつらで腕組みし、再び思案した。「もっとすごい点だって、私描けるんだから!」
ワシテは、今まで開いたこともなかった水彩画のセット一式を、初めて広げた。それからというもの、ワシテは描いて描いて描きまくった。黄色の点、緑色の点、赤色の点、青色の点。やがて単色に飽きたワシテは、どきどきしながら色を混ぜてみる。青色と赤色、黄色と青色…。ワシテはあらゆる色の小さな点を描き続けた。
ワシテの実験はさらに範囲を広げていく。小さな点が描けるなら、大きな点だって描けるはず。ワシテは、自分の身体より大きな画用紙を持ってきて、大きな絵筆で大きな点をいろんな色で描いていく。ついには、点の周りに色を施し、点を浮かび上がらせることまでやってのけた。

何週間かあと、学校の展覧会が開かれた。ワシテが描いた様々な点の絵は、壁一面に飾られていた。小さな点、大きな点、小さな点と大きな点が合体したもの、いろんな色が混ざり合った点…。ワシテの絵は大評判を呼んだ。
小さな男の子が、ワシテを尊敬のまなざしで見上げている。自分もワシテのようにすごい絵を描きたいと。ワシテは自分のことを考え、答えた。「描けるわよ!」しかしその男の子は、定規を使っても真っ直ぐな線が描けないのだと悲しそうに言う。そんなこと!大丈夫。ワシテはにっこりした。そして、かつて絵の先生が自分にしてくれたように白い画用紙を彼に渡すと、描いてみるよう促した。男の子は手をぷるぷる震わせながら、真剣に紙に向かった。果たしてできあがったものは、ミミズのようにくねくねしたただの線。しかしワシテは、そのなんということもない線を見つめ、言った。
「ね、お願い……ここにサインして!」


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ピーター・レイノルズ Peter H Reynolds

1961年生まれ
カナダ トロント出身

幼い頃から、絵や漫画を描くのが大好きだったレイノルズ少年は、長じて教育関係のコンピューター会社で働く。やがて独立し、双子の兄弟ポールと共にマサチューセッツ州ボストンでアニメーション制作会社“FableVision”を創立した。一貫して、子供向けのテレビ番組や教育関連ビデオを制作している。また同じくマサチューセッツ州内で、家族と共に“The Blue Bunny”という本屋を経営している。現在はマサチューセッツ州を拠点として、地元の教育活動に深くかかわりながらイラストレーター、絵本作家として活動している。

Make Your Mark!And see where it takes you.

ピーター・レイノルズの公式サイトはこちら。ここには、レイノルズの描いた様々なイラスト、アニメ、彼自身の手になる絵本や、他の絵本作家のためにつけたイラストなどが豊富に収められています。
彼の絵の特徴は、クェンティン・ブレイクのように、細いペンで軽く一筆描きされたような軽やかなタッチにあります。今回ご紹介した「てん」でも、登場人物が今にも動きだすのではないかと錯覚するような、スピーディーかつ瑞々しいイラストが、なんとも愛らしいですね。それに加え、彼は色彩には独特のこだわりを持っていて、「てん」では水彩絵の具と紅茶(!) を用いて色をつけています。絵心のない私には、イラストのどこに紅茶が使われているのか皆目わかりませんが、ワシテの心理の変化に応じて、彼女の周囲に広がる色が絶妙に変化していく様は繊細だと感じられました。
例えば、冒頭、絵が描けないでふさぎこんでいるワシテの周りには、暗い青色と灰色がどんよりとぼやけています。なのに、彼女の前に置かれた画用紙だけは、目に痛いほど真っ白。彼女の憂鬱がよく伝わってきますね。先生に促され、腹立ち紛れにマーカーを紙に押し付けるシーンでは、ワシテの周囲に紅蓮の炎のような(笑)真っ赤な色がしたたっています。先生によって、ただのちっぽけな“点”が、無限の可能性を秘めた“点”に変化していく段では、ワシテの周囲にオレンジ、黄色、緑色…といったカラフルな色が丸く広がります。ついにワシテが自分の手で新しい“点”を生み出し始めると、彼女の周囲にはさらに複雑な色合いの丸が現れ始めます。黄色と緑色、赤色と紫色、黄色と青色と緑色!色たちは、ワシテが進化を重ねていくに呼応して、どんどん複雑で味わい深いものに変わっていくようです。またそれら色たちは、まだ見ぬ可能性を夢中で探すワシテを見守るように、彼女の周りを丸く取り囲みます。レイノルズは色の変化によって、ワシテの変化を語っているわけで、これは絵本が本来持っている魅力でもあります。また、多くを言葉にせずとも、彼の子供たちに注ぐ優しいまなざしが感じられますよね。
先生は、ワシテの心の奥に眠っていた素晴らしい可能性を芽吹かせました。では、ワシテはそれをどうしたでしょう。お話の最後では、ワシテの可能性の芽が、さらに別の男の子に受け継がれたことが示唆されます。ワシテの世界がちっぽけな点から大きく花開いたように、今度は、真っ直ぐな線を引くことができない男の子の世界が、1本のぐにゃぐにゃ線から広がっていくのでしょう。
そして、ワシテが初めて自分の手で描くものが“点”なのは、ある意味象徴的ですよね。点が集まって線になり、線が集まって平面を成し、平面の連なりが立体を構成することを思えば、点というのは全ての世界の始まりであるとも言えます。

絵本の最後に記されているマトソン先生への謝辞から、物語の主人公ワシテがレイノルズその人であったことがわかりますね。
私たちは皆、子供の頃に得た経験が、その後の人生設計にいかに大きな影響を与えるかを理解しています。子供の中に眠る可能性の芽を摘み取ってはいけない、子供それぞれの個性を大事にしなければいけない、十把ひとからげの教育方針はよくない…等々、大人の間で繰りかえし叫ばれるのは、私たちがその重要性を嫌というほど思い知らされているからに他なりません。

しかしながら現実はどうでしょうか。例えば私ですが、実際に親の立場になってみると、時として子供の姿が全く見えていないことすらあるのですよね。一事が万事“親の都合”を子供に強い、子供がそれに従わない場合は腹を立てて。落ち着いて考えれば、これが子供にとってどれだけ理不尽かわかろうというものです(涙)。勉強にしろ遊びにしろ、ある程度親が道筋をつけてやるのは必要ですが、そこから先は子供たち自身で発展させていくべきです。ところが気がつけば、親は“常識”という名の世間一般の既成概念を子供に押し付けているんですよね…。これはこういう風にすべきだ!あれはああいう風にしなければならない!って。方法なんていくらでも考えられるのに、大人は往々にして、子供の奇想天外な発想を鼻で笑って却下してしまうもの。

この「てん」は、子供のアイデンティティ再確認の旅を描き、規範からちょっぴりズレてしまった子供たちに力強く勇気を与える物語であります。と同時に、ともすれば、大人が定めた規範の中に子供を押し込めてしまいがちな私たちへも、なにがしかのメッセージをもたらしてくれますね。もう一度童心に戻って、ワシテのように大きな大きな画用紙にでっかいオレンジ色の点を描いてみよう。そうすれば、日々の子供との付き合い方も見えてくるかもしれない…。この作品は、爽やかな余韻を子供にも大人にも残してくれる一遍ですね。


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