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zoom RSS 権力の限界点―「おおきなもののすきなおうさま」

<<   作成日時 : 2015/09/17 18:47   >>

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“エジプトの王はピラミッドという巨大な墓を作らせたが、巨大な花を咲かせることだけはできなかった”―安野光雅


「おおきなもののすきなおうさま A King Who Loved the Giant Things.」
安野光雅 Mitsumasa Anno:文と絵 (講談社)

昔々あるところに、大きなものが大好きな王様がいらっしゃいました。王様は、屋根よりも高くお屋敷よりも広いベッドでお目覚めになると、プールのような洗面器で顔を洗い、家来が2人がかりで抱えても重い丸太のような歯ブラシで歯を磨かれます。そして、重くて1人では被れないほど大きな王冠を頭に頂かれます。
炊事場に置かれた巨大な時計は、耳をつんざくような大きな音で鳴ります。王様の朝ごはんの仕度に遅れてはなりませんからね。コックは、1000人前の目玉焼きが一度に出来そうな大きなフライパンで、大汗をかきながら料理をします。料理を待ち受ける下男たちは、6人がかりでプールのような大皿を抱えています。
王様のために用意されたごちそうは、家来2人が滑車を使って動かす巨大なナイフとフォークと共に供されます。巨大な調味料入れも、下男が4人がかりで抱えてきます。お食事中の王様を楽しませる宮廷音楽家たちも、部屋に入りきらない巨大なギターを 2人がかりで奏でるのです。でも、王様が召し上がるのはリンゴ1個だけ。
チョコレートが大好きな王様のために、ある日城壁よりも大きなチョコレートが作られました。その大きな事といったら、百年かかっても食べきれないでしょう。王様は、端っこの方をぺろりとひとなめして大変なご機嫌でした。
毎日のようにチョコレートをお召し上がりになった王様は、とうとう虫歯になってしまいました。歯医者が急ぎ駆けつけましたが、小さなくぎ抜きで歯を抜くのを嫌がっていっそうお泣きになります。国中の鍛冶屋が城内に集められ、昼夜を徹して巨大なくぎ抜きが作られました。
さあ、それからが大変です。王様の小さな奥歯を1本抜くのに、12人の男たちが大汗をかきながら慎重に巨大くぎ抜きを動かします。くぎ抜きはあまりに大きくて、大広間でないと動かすこともままなりません。歯医者は王様を台の上に縛りつけ、こちらも汗をかきながら治療を行いました。
虫歯が抜けてご機嫌な王様は、このくぎ抜きを巨大な鳥かごに作りかえるよう、命を下されました。お城の外に立てられたくぎ抜きには、大きな足場が組まれ、やがてとてつもなく大きな鳥かごが出来上がりました。しかし、鳥かごはあまりに大きすぎ、小鳥たちは隙間からみな逃げてしまうのです。王様はがっかりなさってお泣きになりました。ところがある日、大きなワシに追われた小鳥たちが巨大鳥かごの中に逃げ込んできました。しかしワシは隙間から中へ入ることは出来ません。王様はこれを見て大変満足されました。
王様のお考えはとどまるところを知りません。
城の外の庭を掘って大きな池を作り、掘った土で大きな植木鉢を作るよう、命を下されたのです。何十人もの職人たちが、足場と滑車を組んで何日も作業を続けました。
城の見晴台の周囲に大きな池ができました。王様は、丸太でできた巨大な竿を渡し、人1 人分もあろうかという大きな浮きと釣り針をロープの先につけて、くじらのように大きな魚が釣れるのを心待ちにしておられます。これには家来達もうんざりし、普通の大きさの竿に、細い糸と小さな釣り針をつけた仕掛けを王様に示してご説明申し上げましたが、王様は聞く耳をもたれません。仕方なく、家来達は海からくじらを運ばせ、10人がかりでようやく釣り針にひっかけました。これで安心です。
城と同じ大きさにもなった巨大植木鉢はというと、ここには小さな赤いチューリップの球根がひとつだけ植えられました。王様には確信がありました。これほど大きな植木鉢に植えたのだから、きっと大きな大きな、天にも届くチューリップの花が咲くに違いないと思っておられるのです。王様は侍従と共に、毎日はしごを上って球根の様子を見に行かれました。
春。大きな大きな植木鉢に、それはかわいいかわいいチューリップが、ひとつだけ花を咲かせましたとさ。


おおきなもののすきなおうさま
講談社
安野 光雅

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巨大ピラミッドを建造し続けた、古代エジプトの王たちの例を挙げるまでもなく、国を統べる者はすべからく、その強大な権力を形あるものに投影する傾向がありますね。前述した“世界最悪の10大独裁者”の顔ぶれを見ても、彼らの実生活がいかに度を越えて豪奢であるか、ニュースで度々伝えられる通りであります。時代が変わっても、王又の名を独裁者は、権力を握った途端にやはり理性の箍をはずしてしまうものなのでしょう。この絵本に登場する王様も、まさしくそんな独裁者でした。
周囲にあるものをなんでもかんでも大きく作らねば気がすまないというのは、歪んだ自己顕示欲ですよね。それに、大きなものを作るには多大な労力と経済力を必要とします。いってみればこの王様は、貴重な国家の力を無意味なものに浪費してしまえるだけの強大な権力を有していたわけですね。王様は、“大きなものを作る”という行為を通じて、己の権力を実感し、またその大いなる虚栄心を満足させていたわけです。
安野氏の緻密なイラストにより、王様の住むレンガ造りの王宮の壮大さ、外観のみならず内部のひとつひとつの小道具までもが破格に巨大である様が、空間的な広がりをもって雄弁に表現されます。それは確かに壮麗な眺めではあるのですが、滑車を用いなければ動かせないほど巨大なナイフやフォークやくぎ抜き、何人もの男たちが額に汗しなければ持ち運べない巨大な皿や歯ブラシなどを見ていると、その常軌を逸した“大きさ”に失笑を禁じえません。王様が権力によっていかに目を曇らせてしまっているか、あるいは権力に踊らされてどれだけ愚行を犯しているか、その美しくも滑稽な絵から伺えるようになっています。誰かに頭を支えてもらわねば立っていられないほど巨大な王冠を頂き、常にふんぞり返っている(態度が大きいだけではなく、頭も重いに違いない)王様の得意満面な表情と、傅く家来達のうんざりした表情の対比が非常に面白いですね。この作品は昔話の体裁を取ってはいますが、現在でもこのような光景はあちこちで見られるのではないでしょうか。
だからこそ、王様が巨大な花を咲かせようとしても、自然は皆と平等に小さな花を授けただけであったという寓意が、普遍的な戒めをもって読む者に迫ってくるのです。いかな巨大な権力であっても、自然を創造することは不可能。自然の前では、人は皆貴賎の上下を問わず等しい存在であるわけです。また、富や権力といった物質的な価値が、自然の前では全く意味をなさないのだと捉えてもいいでしょう。物質至上社会に生きる私たちは、忙しない日常についつい基本的な価値観というものを忘れてしまいがちですよね。この作品は、毎日の歩みを一時止めて、己の内面と向き合うことを私たちに促してくれます。
また、王様と家来たちが織り成す悲喜こもごもは、安野氏お得意の“発想の転換”によってもたらされた奇抜な物語でもあります。天に聳え立つほどの大きなくぎ抜きが、巨大な鳥かごに変身し、天敵に追われる小鳥達の避難所になったという件など、その機知に富んだアイデアの最たるものでしょう。安野氏はあとがきでこう述べておられます。

“ガスタンクを見て、あんなに大きいコーヒーカップがあったらどうだろうとふと思った。…中略…電柱ほどもある鉛筆、山ほど高いすべり台、身体がすっぽり入ってしまう靴…数え上げればきりがないほど楽しい” ―あとがきより抜粋

作品の核となっているのは、子供と同じ、限界を知らぬ豊かな発想力だということがわかります。しかし、人間が持ちうる権力には自ずから限界点があることも、私たちは肝に銘じておかねばなりませんね。

安野氏の緻密で創意工夫の施された絵世界を堪能するなら、より大きなサイズの絵を見るのが望ましいです。


おおきなもののすきなおうさま (よみきかせ大型絵本)
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安野 光雅

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安野 光雅 Mitsumasa Anno

1926年3月20日生まれ
島根県鹿足郡津和野町出身
東京都小金井市在住

1926年(大正15年)3月20日、島根県津和野町の旅館の跡継ぎとして生まれた。戦時中は徴兵されていたが、戦後無事に帰還した。敗戦後の混乱期のさなか、1946年に山口県徳山市の小学校で教員として働き、旧山口師範学校の研究科を修了した。1949年には美術教員の資格をとって上京し、明星学園などで教壇に立つ。そのかたわら、玉川学園出版部の依頼で本の装丁やイラストを手がけるようになり、日本語指導テキスト「にっぽんご」シリーズの装丁も行った。同時に画業も始め、司馬遼太郎の歴史紀行「街道をゆく」の表紙画、挿絵は彼の手になる。
絵本作家としてデビューしたのは、1968年の処女作「ふしぎなえ」(福音館書店)を発表してから。この作品は、文字がひとつもない、いわゆる“字のない絵本”であり、本人が認めている通りエッシャーのだまし絵に多大な影響を受けた、四次元的空間の不可思議さを描いた作品である。


ふしぎなえ (日本傑作絵本シリーズ)
福音館書店

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上っても上っても下がっていく不思議な階段。逆さまに歩いてしまう横断歩道。天上が床になる屋敷。表と裏がわからなくなる絵本。ここに描かれる世界は不条理きわまりなく、3次元世界と4次元世界が無限に交錯していくかのような果てしない思いに駆られる。言葉などなくとも、何度でも新たな発見を見出すことが出来る作品である。

芸術的感性と、教員としての知識―数学や科学、文学に至るまで―全てを合体させた作品には、常に読者に発想の転換を促す柔軟なアイデアが詰まっている。細かい部分まで描きこまれた緻密な画風でありながら、その絵がどこかふんわりと穏やかな雰囲気を漂わせるのは、淡い色調に統一した水彩画である故だ。


● 主な著作

「ふしぎなえ」
「かぞえてみよう」
「歌の絵本」
「安野光雅の画集」
「ABCの本」
「あいうえおの本」
「旅の絵本」
「さかさま」
「ふしぎなサーカス」
「はじめてであうすうがくの本」
「カットのエスプリ」
「美しい数学」
「空想の絵本」
「わが友 石頭計算機」
「手品師の帽子」
「江戸いろは」
「天動説の絵本」他。


●主な受賞歴

1974年度芸術選奨文部大臣新人賞
講談社出版文化賞(絵本部門)
小学館絵画賞
ケイト・グリナウェイ賞特別賞 (英)
ブルックリン美術館賞(米)
ボストングローブ・ホーンブック賞(米)
最も美しい50冊の本賞(米)
ニューヨーク科学アカデミー児童科学図書優良賞(米)
1977年BIBゴールデンアップル賞(チェコスロバキア)
1978年ボローニャ国際児童書展グラフィック大賞(伊)
1984年国際アンデルセン賞(国際児童図書評議会)
1988年紫綬褒章

内外の多彩な絵画賞を受賞し、日本の絵本作家の名を世界に知らしめた功績を称えて、2001年には故郷津和野町に“安野光雅美術館”が設立されました。安野光雅美術館のサイトはこちら。サイトには、安野氏近影や、今まで発表されてきた作品の挿絵、表紙が一部ご覧いただけます。


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