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zoom RSS 真実の“無敵艦隊”―「アルマダの戦い スペイン無敵艦隊の悲劇」

<<   作成日時 : 2017/04/28 15:00   >>

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先日記事を書いた「エリザベス:ゴールデン・エイジ Elizabeth: The Golden Age」ですが、いろいろな方の感想を伺っていると、面白いことがわかりました。

配給会社による映画の“売り”は、この作品が歴史超大作であるということと、アルマダの海戦 Battle of Armadaのスペクタクル・シーン、エリザベス1世を演じるケイト・ブランシェット Cate Blanchettの魅力、目にも鮮やかな衣装や宝飾品、調度品のゴージャスさといったところでしょう。

ところがいざ蓋を開けてみると、合戦シーンは期待したほどではなく、重厚な演出の割には当時の複雑な歴史にコミットした緊迫した筋立てではなく、あくまでもエリザベスを1人の“女性”として描いている解釈の仕方に、違和感を覚えた方が多かったようです。作品自体も、全体的に“よくできた歴史娯楽作”といった雰囲気にそつなくまとめられていたので、前作を知っていた方も、いきおい辛めの点数をつけざるを得ないというような。この時代は、メアリ・スチュアート Mary I女王の処刑やアルマダの海戦など、映像にうってつけのドラマティックな出来事が連続するにもかかわらず、それらはあくまでもエリザベスの主観から捉えられ、サイド・ストーリー的扱いであるのも、観る者のもどかしさを募らせる要因だったと思われます。また、多くの方の感想の中で必ずと言っていいほど取り上げられる、当時のファッションやきらびやかな装飾品を忠実に再現した衣装。やれショパールだスワロフスキー(でしたっけ・笑)だと言われても(映画に協力した宝石ブランド)、宝石の類にあまり興味のない向きには、登場人物のあでやかな装いだけで120分の上映時間を乗り切るには、いかにも心もとないでしょうね。

観客が史劇にどういった要素を求めているかということも、この手の映画では評価の分かれ目になります。ですから、上記した批判はある程度仕方がない部分もあるのですが、面白いのは、特に男性の観客にこういった傾向が強いことです。歴史の大きなうねりの中で、個性的な国王が登場したテューダー朝時代のお話ですから、みなさん無意識のうちに血沸き肉踊る(笑)激しいビジュアルを待っておられたことがわかりますね。

さて、一貫してエリザベスの心の動きを凝視するような、静謐な流れの映画の中でも、アルマダの海戦は彼女の治世の転換期だと位置づけられていました。男性諸氏は鬱憤を晴らすかのような一大スペクタクル・シーンを期待されたかもしれませんが、映像そのものは、海戦の“イメージ”をピンポイントで抽出するに留まったものでした。ただ、海上で嵐が起こり、その荒れ狂う風の向きをいち早く読み取って敵の先手を取ることが、勝利の大きなポイントであったことはわかりました。

先の記事でも書いたのですが、この海戦で大活躍したのは、実はウォルター・ローリー Sir Walter Raleighではありませんでした。無敵艦隊を打ち破り、英国に奇跡的な勝利をもたらした後、脆弱であった英国海軍の基礎を組織的に整えた人物は、フランシス・ドレーク Sir Francis Drakeという実質海賊上がりの航海士だったのです。


アルマダの戦い―スペイン無敵艦隊の悲劇
新評論
マイケル ルイス

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「アルマダの戦いースペイン無敵の悲劇 Spanish Armada (British Battles)」
マイケル・ルイス Michael Lewis:著 幸田礼雅:翻訳
(新評論社)

アルマダの海戦について書かれた書籍の中で、最も公平かつ総括的な立場から記されたと思われる歴史書です。スペインの政治的思惑と英国のそれが複雑に絡み合った状況下で避けられなくなった海戦が、なぜ起こり、そしてどのような筋書きを辿っていったのか。また、この戦いのもたらした結果が、当事国及びヨーロッパ国際社会に及ぼした影響はどのようなものであったのか。新たに発見された史料も鑑み、海戦当時のスペインと英国の艦隊それぞれの実情と戦いの経過から、英国の勝利の理由を探っていきます。

その中で明らかになるのは、やはりドレークの先見の明と、天啓とも称賛したいほどの判断力の鋭さですね。私は元々この海賊上がりの豪放な海男が大好きでして、彼に関する逸話も多く読みましたが、この本ほど明快に海戦での彼の役割を解説してくれたものは他にありません。もし、「エリザベス:ゴールデン・エイジ」でのドレークの扱いに憤懣やるかたない方がおられたら(笑)、ぜひ手に取られることをお勧めします。
本書内でも詳しい説明がありますが、アルマダの海戦とは、海上での戦闘がガレー船による戦いから帆船に大砲を搭載しての戦いに切り替わる、まさに過渡期にあった時期の海戦であったそうです。スペイン艦隊は、古来通りのガレー船による戦法をとり(そのための奴隷も多数乗船していました)、映画でも再三会話に登場した陸軍式“陣形”を組んで戦に臨みました。対して英国艦隊は、帆船に射程距離の長い大砲を積んで、直接敵艦にダメージを与えるという新しい戦法を選択しました。しかし実際の戦場では、双方共に思うような戦況を作り出せず仕舞い。ガレー船団は折からの暴風で陣形を崩してしまうし、一方帆船の方も肝心の大砲の威力が足らない。双方に決定打を繰り出せない膠着した状況の中、ドレークは長年海上で過ごした経験と勘で、風の向きと潮の流れを読みきりました。火を放った大型焼き討ち船を、陣形の崩れたスペイン艦隊の中に突入させたという伝説は映画でも再現されていましたね。そして、英国ポーツマス沖にあるワイト島攻略を海戦のポイントといち早く判断したことが、英国艦隊に最終的な勝利を呼び込んだわけです。
アルマダの海戦は、海の覇権がスペインから英国に移った記念すべき戦いであると同時に、海戦の様式が近代的になった最初の戦いでもあったのですね。また、この本は、アルマダの海戦前後の混乱したヨーロッパ社会の構造を知ることが出来る、格好のテキストです。映画を観ただけでは今ひとつはっきりしないこの戦いの背景を、補ってくれるものではないでしょうか。


画像

“エル・ドラコ El Draque”とあだ名され、恐れられた英国海軍中将フランシス・ドレーク Sir Francis Drake。

無敵艦隊を打ち破った後も、依然としてスペインは英国にとって脅威であった。ネーデルランドの支配権を巡る争いは終結を見なかったし、制海権における立場もまだ逆転したとは言いがたかったからだ。
そのためドレークは、1594年から西インド諸島(スペイン領)襲撃を引き続き行うが、スペイン軍の堅い守りの前に敗退を余儀なくされる。2年後の1596年には赤痢に罹患し、志半ばのまま死去した。しかし最後まで戦地に赴く意識を失わず、病の床で甲冑を身につけようとさえした逸話は有名である。死の直前まで武人であり続けた。


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