House of M

アクセスカウンタ

zoom RSS 「すてきな三にんぐみ The Three Robbers 」―トミー・アンゲラー(ウンゲラー)

<<   作成日時 : 2014/05/02 23:04   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 8 / トラックバック 0 / コメント 0

「すてきな三にんぐみ The Three Robbers」
トミー・アンゲラー Tomi Ungerer:文と絵 いまえよしとも:訳
(偕成社刊行)

墨を流したような漆黒の夜陰にまぎれ、現れ出たのはこの3人組。黒マントに黒い山高帽、眼だけをぎろりとのぞかせた、それはそれは恐ろしい盗賊様だ。
彼らの武器は3つ。ラッパの口を付けた銃、目潰し用の胡椒吹きかけ器、闇の中でもくっきりと浮かび上がる真っ赤な大まさかり。
3人は、夜になったら山を降り、今宵の獲物を探して徘徊する。辺りは月の光以外に明かりはなく、見つめているのはふくろうだけ。ホーホーホー…。
3人組に出会ったら、高貴なご婦人はたちまち気を失い、いい大人の男も一目散に逃げ出してしまう。番犬なんか尻尾を巻いて退散だ。
闇の中から飛び出した彼らは、まず胡椒吹きかけ器を馬に浴びせ、馬車をぴたりと止めてしまう。お次は大まさかりで馬車の車輪を真っ二つ。仕上げに紳士淑女にラッパ銃を突きつけて、さあおとなしく手を挙げろ!今夜も首尾よくお宝を奪い、山の天辺のほら穴に運び込む。ここは誰の手も届かない、3人組の秘密の隠れ家なのだ。溜め込んだお宝は、金銀宝石、金貨に指輪に首飾り。汲めども尽きぬ財宝の泉である。
さてある晩のこと、3人組はいつもの通り馬車を止めた。しかし中にいたのは、みなし子のティファニーちゃんただ1人。彼女はこれから意地悪なおばあさんの家に預けられる運命なのだ。そんなところに行くぐらいなら、この3人のおじちゃんたちと一緒にいる方が楽しそう。彼女は大喜びで3人組について行った。馬車の中には他に財宝はなかったので、3人組はティファニーちゃんを大事に抱えて隠れ家へ。隠れ家のベッドはふかふかで気持ちいい。ティファニーちゃんはすぐに眠りに就いた。
次の朝、ティファニーちゃんは宝の山を見て驚いた。一体これをどうするつもり?3人組ははたと顔を見合わせると、ひそひそ内緒話を始めた。どうやら、集めるだけ集めた宝の山の使い道を、なんにも考えていなかったらしい。
そこで3人組は、街中から寂しく悲しい思いで暮らしている捨て子やみなし子たちを引き取ってきた。そして丘の上に大きなお城を買ったのだ。みんなで一緒に暮らすために。みなし子たちは、おそろいの赤いマントに赤い山高帽を身につけて、わいわいがやがやとお城に引っ越した。お城の扉には、3つの山高帽をかたどった木の表札がかかっている。
みなし子たちのお城の噂は、あっという間に国中に広まった。そのせいで、お城の扉の前には毎日のように子供が捨てられている。お城の子供は増える一方。子供たちはすくすくと成長し、やがてお城を巣立っていった。彼らはお城の周りに家を建て、結婚して家族を作った。最初はほんの小さな集落だった村は、どんどん大きくなり立派な街になった。街の住人は、皆申し合わせたように赤いマントに赤い山高帽を身につけている。数年後、彼らは街の入り口に山高帽そっくりの高い高い3つの塔を建てた。みんなの素敵な3人組を忘れないために。

すてきな三にんぐみ
偕成社
トミー=アンゲラー

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る


この絵本の背景は、常に黒色と濃い藍色にくっきり二分割されています。そして黒の背景の中からのっそりと登場するのは、3人の恐ろしげな盗賊達。黒のマントを羽織り、黒の山高帽を目深に被る彼らの表情は、こちらからは全く伺えません。ただわかるのは、3人が3人とも闇の中で異様にぎらつく目を持ち、その3つの武器が、闇の中で一際不気味に赤や黄や緑の色を浮かび上がらせていることだけ。殆ど全てのページが、黒色と藍色で塗りつぶされているという手法は、子供向けの本としてはかなり異色です。しかも主役は気味の悪い盗賊達。彼らがねぐらにしている山のほら穴といい、シンプルな版画調のイラストが、物語の設定を余計に恐ろしげに演出しています。これから一体どんな怖いお話が始まるのかと、読んでいる側としては気が気ではありませんね。
しかし彼らがその鋭い眼光でつけ狙うのは、実は金持ちのみ。3人はそれぞれの役割を正確にかつ迅速に果たし、盗人稼業を次々と成功に導いていたのです。ある日襲った馬車に乗っていた女の子、ティファニーちゃんに出会うまでは。

孤児となったティファニーちゃんの境遇に、なにか相通ずるものがあったのでしょう。盗賊3 人組は、金銀財宝の代わりに1人の女の子を大切に持ち帰りました。そして彼女の発した何気ない一言で、3人組の運命も大きく変わることになるのです。ティファニーちゃんは天涯孤独の身の上でした。特に説明はありませんが、3人組もおそらくそうでしょう。彼らは、同じように社会からはじき出されてしまった人間だったのですね。孤独という共通項で結ばれた少女と3人組は、無意識のうちにその孤独を互いに癒す術を求めていたのかもしれません。金持ち、つまり搾取する側の人間から奪った財宝を、たくさんの孤児たち、つまりは社会の底辺に位置する人間の救済に使うことになったのですね。図らずもたくさんの孤児たちの父親となった犯罪者3人組は、社会から見捨てられた者を救うという、国のお偉方でもできない大きな善行を成し得たことになります。

画像

現在でも世界中に孤児は増え続けています。国家の内紛や経済破綻などが原因で国内が荒廃し、結果として親を亡くしてしまう子供達が後を絶たないのですね。あるいは生活苦のために、自ら子供を手放してしまう親もいることでしょう。そういう悲惨な状況に対してなんらかのケアを施そうと、世界中の様々なNPO団体が活動しているわけですが、本来それを行うべき政府が役立たずであるという皮肉は、洋の東西を問わずどこでも同じであるようです。

社会の鼻つまみ者が、社会を救うヒーローとなる。アンゲラーの作品では繰りかえし取り上げられるモチーフです。その最たる代表作がこの「すてきな三にんぐみ」なのですね。目先の利益を追うあまり、社会の末端を容赦なく切り捨てていく政治体制。そんな政治に支配された競争社会に、弱き者が生きる場所はありません。親の庇護を失った孤児たちはストリートチルドレンとなり、さらに社会の最下増へと追いやられていきます。ただ踏みつけにされるだけのマイノリティの一生を救った盗賊3人組の寓話は、意思を持たない非寛容なマジョリティーへの痛烈な批判でもあるでしょう。マイノリティーがやがて大きなコミュニティーを作り、ひとつの社会を形成するラストの痛快さは、とりもなおさず、アンゲラーのマイノリティーに寄せる愛情と共感を示しています。人間の欺瞞を毒舌と共に暴き、その業にまで深く切り込んでいく皮肉屋の、“まごころ”と呼んでも差し支えないでしょう。

そして、アンゲラーのお膝元フランスに住んでいたとき、「すてきな3にんぐみ」のアニメDVDを見つけました。それならば、日本でもおそらく発売されているのではないかと踏みまして、ちょいと検索。

世界絵本箱DVDセレクション(2) すてきな三にんぐみ[全4話]
ヤマハ・ミュージック・アンド・ビジュアルズ
2008-12-03

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る

ありました。ナレーションは日本語版と英語版の両方が収められているそうですよ。興味のある方はどうぞ。



フランケンシュタイン (ベスト・ヒット・コレクション 第9弾) 【初回生産限定】 [DVD]
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
2007-08-09

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る

ところで、この絵本を読んでふと思いついた映画があります。ジェームズ・ホェール監督が手がけた1931年作の「フランケンシュタイン Frankenstein」です。ご存知、メアリー・シェリーの怪奇ロマンが原作の作品ですね。3人組の容姿やかもし出す雰囲気が、なんとなくボリス・カーロフ演ずるところの哀れな人造人間に似ているのですよ。もっともフランケンシュタインの方は、無垢な少女と心を通い合わせるものの、結局彼女を死なせてしまうのですが。

この古典的ホラー作品には、シンプルなストーリーを補って余りある映画的美があり、恐怖が哀しみと背中合わせであることにも気づかされます。望まぬ命を与えられ、赤子と同じ無知のまま社会に放り出されて唾棄されて、殺人を犯す人造人間を通じ、罪と罰の真意という人間の根源に肉薄する問題が、テーマとして浮かび上がってくるのです。
「すてきな三にんぐみ」でも、本来ならば忌むべき社会の悪である盗賊たちが、逆に社会の弊害を正すという矛盾が描かれています。彼らに果たして罪はあるのか。もしあるとすれば、それを罰するのは誰なのか。真に断罪されるべき対象はなにか。この一見シンプルな物語には、途方もなく壮大なテーマが内包されているのです。

画像



ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 8
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス ナイス ナイス
面白い 面白い
「すてきな三にんぐみ The Three Robbers 」―トミー・アンゲラー(ウンゲラー) House of M/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる